第34回 消費者契約法専門調査会

日時

平成29年3月10日(金)15:00から17:10

場所

消費者委員会会議室

出席者

【委員】
山本敬三座長、後藤巻則座長代理、有山委員、石島委員、磯辺委員、井田委員、大澤委員、沖野委員、河野委員、後藤準委員、永江委員、中村委員、長谷川委員、丸山委員、山本健司委員
【オブザーバー】
消費者委員会委員 河上委員長、鹿野委員
法務省 中辻参事官
国民生活センター 松本理事長
【消費者庁】
小野審議官、加納消費者制度課長、消費者制度課担当者
【事務局】
黒木事務局長、福島審議官、丸山参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 「勧誘」要件の在り方
  3. 不利益事実の不告知
  4. 閉会

配布資料(資料は全てPDF形式となります。)

議事録

≪1.開会≫

○丸山参事官 それでは、定刻になりましたので、会議を始めさせていただきたいと思います。

本日は、皆様、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。ただいまから、消費者委員会第34回「消費者契約法専門調査会」を開催いたします。

本日は所用によりまして増田委員、柳川委員、山本和彦委員が御欠席、大澤委員も追って参られると思います。  まずお手元の資料の確認をさせていただきます。議事次第下部のほうに配布資料一覧を示しております。もし不足がございましたら事務局までお声がけのほうよろしくお願いいたします。

それでは、山本座長、以後の議事進行をよろしくお願いいたします。


≪2.「勧誘」要件の在り方≫

○山本(敬)座長 それでは、始めたいと思います。本日もよろしくお願いいたします。

本日の議事に入ります前に、前回の会議で議論しました条項使用者不利の原則に関連して、大澤委員から参考資料1をいただいています。また、今後の審議スケジュール(案)に関連して、長谷川委員から参考資料2を提出いただいていますので、それぞれの資料の趣旨について簡潔に御紹介いただきたいと思います。

まず、長谷川委員からお願いいたします。

○長谷川委員 読んでいただければ結構なのでございますけれども、スケジュール案に関しまして3点お願いをさせていただきたいと思います。

ヒアリングを行うということで御提案をいただいているわけでございますが、それについて賛成いたします。その上で、今、議論されている論点は幅広い事業活動に影響を与える可能性がありますので、できるだけヒアリングについても幅広く行っていただきたいということでございます。

さらに2ポツでございますけれども、ヒアリングをしていただくに当たってはどういう案についてヒアリングをしたいのか、ヒアリング事項について明確にしていただくことで効率的あるいは効果的なヒアリングが可能になるのではないかということでございます。

3ポツといたしまして、ヒアリングに加えまして前回の改正前の検討でも行われました意見募集を幅広くしていただければと思っております。

以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

事務局からお答えいただけますか。

○丸山参事官 承りました。

○山本(敬)座長 河野委員、どうぞ。

○河野委員 長谷川委員の今の御意見は、事業者・事業者団体にヒアリングを行うことが望ましいということを、長谷川委員のお立場から申し上げているところだと思いますが、消費者側としても、消費者契約法のまだまだ整備し切れていない部分において、消費者契約に対して不安に思っている多くの消費者がいるわけです。事業者側からのヒアリングを行うということであれば、やはり是非消費者、消費者団体からも同等に意見を申し上げる機会をいただきたいと思っております。

もう一点申し上げますと、今回の消費者委員会の検討というのは第2ラウンド、二回り目になっております。前回ほぼ2年をかけて様々な論点に関しまして、私も前回も委員でございましたけれども、それなりに事業者側からの御意見も伺いましたし、消費者側からの意見も述べましたし、あるべき消費者契約の姿、現状の状況を反映した形で最善はどこなのかという形で検討してきました。幾つか改正をいただいたわけですけれども、その改正の際の国会の議論のときに、まだまだ消費者にとってこれで十分な改正なのかというところが附帯決議事項として書かれていると理解しております。

事業者の皆さんの事業活動に影響を及ぼす可能性という視点でヒアリングをお望みですけれども、それと同等に消費者が被っている様々な今の契約状況における不利益の部分に対してもしっかりと把握していただきたいと思っておりますとともに、無駄にヒアリング等を重ねることで結論を長引かせることは私は有効ではないと思っております。是非簡潔な議論、前回の議論の上に私たちの今の議論は乗っているということで御検討いただければと思います。その点、スケジュール感、それから、商環境の大きな変化、スピードに乗った対応を望みたいと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

これも事務局で承ったということでよろしいでしょうか。

続きまして、山本健司委員。

○山本(健)委員 法改正について事業者や事業者団体の意見を踏まえるべきということ自体については全く異論ございません。

しかしながら、ヒアリング・意見募集という方法論には、基本的に消極意見です。

第1に、ヒアリングを実施するならば、反対当事者である消費者団体等の意見も聞かないと不公正・不公平であろうと思います。

第2に、既にヒアリングも意見聴取も実施しています。この第2ステージは従前の議論を継続しているわけであり、何も新しい論点を新たに議論しているわけではないと思います。もし再度のヒアリングや意見聴取を実施するのであれば、新たに意見聴取が必要となった問題点ないし意見聴取範囲を詰めた上で、当該問題点に絞った効率的なものとされる必要があると思います。

第3に、専門調査会の審議スケジュールへの悪影響を何よりも危惧します。専門調査会の外部の意見を聞く手続やその集計のために、専門調査会自体の審議の時間が無くなるとか、審議の対象論点を減らさざるを得ないとか、駆け足での議論にならざるを得ないといった事態になることは本末転倒であろうと思います。 ヒアリングや意見聴取の実施に反対とまでは言いませんけれども、もし実施を検討されるのであれば、今のような諸点を踏まえて内容や方法等を検討していただきたいと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見がありますでしょうか。長谷川委員、どうぞ。

○長谷川委員 誤解があるかもしれないので1点説明と、もう1点は意見を申し上げたいと思います。

1点は説明ということでございまして、1点というか1.5点ぐらいなのですけれども、私の意見は前回のスケジュール案として、事業活動への影響等に関するヒアリングという御提案があったことを踏まえて申し上げたというのが1つと、事業活動等への影響に関するヒアリングをすること自体は何も事業者の利益に関係することばかりではないということです。当たり前ですけれども、事業活動というのは取引の当事者両方の利益になるようなものが基本でございますので、そういった観点からも必要であるということでございます。したがって、私のスケジュールに関する意見は国民的立場に立ったものと御理解いただければと思います。

それから、山本委員からお話がありました、スケジュールがいたずらに延びてしまうといったことについては私も反対でございます。ただ、他方で時間的制約があるのかというと、特にデッドラインは示されておらず、議論を尽くせばいいのではないかと思っているということでございます。

以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見があればと思いますが、よろしいでしょうか。

それでは、ただいまいただきました御意見を踏まえて、今後のスケジュールの方針が次回以降に固まれば、ここで御披露いただいて、また議論できればと思います。ありがとうございました。

続きまして、参考資料1について大澤委員から御説明をお願いいたします。

○大澤委員 すみません、別件が長引いてしまって、遅くなってしまって申し訳ございませんでした。

参考資料1は前回の会議の論点となっておりました、いわゆる条項作成者不利の原則につきましたフランス法の条文でございます。こちらの資料にございますように、フランス民法典はもともと民法典の中に若干ニュアンスは違いますけれども、ほぼ同趣旨の規定がありましたが、その一方で消費者契約に適用される特別法である消費法典にもこのような条文があることを紹介した上で、ただ、この度民法が改正されておりますので、改正後の条文がどのようになっているかということを書いたものでございます。

これで申し上げたかったことは、これは恐らくドイツについてはこの問題はかなり研究もございますし、紹介も様々なところでされていると思うのですが、フランスにつきましては最近のものは余りそういう紹介、研究がないところでございます。かつては幾つもあるのですが、最近のもの、特に消費法典の規定を盛り込んだものはほとんどないという状況でございますので、ドイツのみならずフランスでも普通にこういうものが存在していることを申し上げたかったという趣旨でございます。

もう一つの趣旨は、とりわけ改正後の民法典1190条にございますように、附合契約、要するに約款のようなものですけれども、これに限定した規定が設けられております。前回の会議の中で条項作成者不利の原則をいわゆる定型約款の場合に限定するかどうかという論点がございましたので、その参考になるのではないかと思い、提出させていただきました。ただ、附合契約に限定したことについては、フランスでももちろん疑問の声もあるということも最後に書き加えております。

ただ、フランスはもともと民法典に、これは裏のほうにありますように、これ以外にそもそも契約解釈に関する原則のルールがたくさん存在していて、その上で、つまり本来原則として解釈をどのようにしなければいけないかを示した上で、条項作成者不利の原則のような趣旨の規定があるという点を付け加えさせていただきたいと思います。

以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

御質問等があればと思いますが、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ありがとうございました。 続きまして、本日の議事に入りたいと思いますが、消費者庁から個別論点の検討のための資料として資料1を提出いただいています。本日の進行としましては、まず、「勧誘」要件の在り方について御検討いただき、その後、不利益事実の不告知について御検討いただくことにしたいと思います。

まずは、消費者庁から「勧誘」要件の在り方について御説明をお願いいたします。

○消費者制度課担当者 資料1の1ページ目を御覧ください。まず「勧誘」要件の在り方といたしまして、1.で消費者契約法専門調査会におけるこれまでの検討の経緯を記載しております。この資料にも記載しておりますとおり、中間取りまとめでは、ある特定の取引を誘引する目的をもってした行為については、それが不特定の者を対象としたものであっても、それを受け取った消費者との関係では、個別の契約を締結する意思の形成に向けられたものと評価することができると考えられるといったことなどが取りまとめられております。

また、この中間取りまとめについて集中的な意見受付を実施するとともに、関係団体に対するヒアリングも実施されたところでございます。

そして、この意見受付及びヒアリングにおいて寄せられた様々な御意見を踏まえまして、専門調査会において更に検討がなされ、2ページ目に記載しておりますとおり、消費者契約法専門調査会報告書において取りまとめられたところでございます。

報告書では資料にも記載しておりますとおり、消費者の契約締結の意思の形成過程に瑕疵を生じさせたか否かが重要であり、その手段、方法は必ずしも特定の者に向けられたものでなければならないわけではないと考えられる。他方で不特定の者に向けた働きかけは非常に多様であることなどの取りまとめがなされております。そして、取消しの記述の適用対象となる行為の範囲について、引き続き検討を行うべきであるとされております。

そうした中、「勧誘」の解釈について判示した最高裁判決が出されたところでございます。3ページ目に行きまして、この「勧誘」の解釈に関しては平成29年1月24日の最高裁判決がございます。2.で事案の概要や訴訟経緯等を記載しております。

まずこの事案の概要でございますけれども、適格消費者団体が原告ですが、この適格消費者団体が健康食品の小売販売業等を営む事業者に対して、事業者の商品の原料の効用等を記載した新聞折込チラシを配布することについて差止めを求めた事案でございます。この差止めを求めた根拠といたしまして、景品表示法の優良誤認表示または消費者契約法の不実告知に当たるとして、このチラシ配布の差止めを求めたものでございまして、問題となったチラシの配布が消費者契約法にいう「勧誘」に当たるか否かが争われた事案でございます。

訴訟経緯でございます。まず第一審判決においては、問題となったチラシの表示が景品表示法の優良誤認表示に当たるとして差止めが認められました。ただ、第一審においては消費者契約法については判断されておりません。そして、控訴審判決ですが、こちらは事業者が問題とされた表現を含むこのチラシについて、第一審判決後に配布を一切行っていないということもございましたので、優良誤認表示を現に行い、また、行うおそれがあると認められないということで、景品表示法による差止めの必要性があるとはいえないとして、差止請求を棄却したというものでございます。

また、消費者契約法にいう「勧誘」には、不特定多数の消費者に向けて行う働きかけは含まれないとして、この「勧誘」に当たるとは認められないとして、消費者契約法に基づく差止請求を棄却したという結論でございます。

このような控訴審判決を受けまして、適格消費者団体の上告受理申立てに対して、最高裁判所は4ページに記載のとおり判示してございます。この最高裁判決によって、不特定多数の消費者に向けられた働きかけであったとしても、消費者に向けた働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与える場合には、「勧誘」に該当する可能性があることが示されたと考えることができるかと思います。

こういった点を踏まえまして、「勧誘」要件の在り方についてどのように考えるか、委員の皆様より忌憚のない御意見を頂戴したいと思います。

御説明は以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、「勧誘」要件の在り方について御議論いただきたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。永江委員、どうぞ。

○永江委員 まず前回の調査会にて、御要請をさせていただいて、事務局からこれまでよりはかなり早い段階で資料をいただきましたことを、非常に感謝しております。とは言うものの、「勧誘」要件について広告に関連する他の諸団体の意見の聴取が十分にできているとは言えないことを御承知おきいただきたいと思います。

その上で不特定多数の消費者に向けられた働きかけであったとしても、消費者に向けた働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与える場合には、勧誘に該当する可能性があると最高裁判所が判示したことを前提として、「勧誘」要件の在り方についてどのように考えるかということでございますが、最高裁判所の判示は不特定多数の消費者に向けられた働きかけにおいて勧誘に該当する、あくまで「余地がある」旨を示したものと考えます。

日本広告業協会としては、不特定多数の消費者に向けられた働きかけに含まれるとされるもののうちの広告を想定して意見を述べさせていただきますが、広告にはテレビやラジオのCM、新聞広告、街頭の看板、インターネットのバナー広告など、実に様々な種類があること、そして、もし全ての広告が勧誘に含まれて一律に不当勧誘規制が及ぶとするならば、特に不利益事実の不告知との兼ね合いで大きな不都合が生じる可能性があることは、昨年12月のプレゼンテーションにおいて御理解いただけたかと存じます。

また、前回のプレゼンテーションのうち、特に今回の議題と関連する部分を抜き出したものを事前に資料2としてお送りさせていただきましたので、あわせて当協会の懸念点を御確認いただければと存じます。

広告はあくまで限定的なスペースにおいて効果的に情報の伝達を行うためにメッセージを絞り込んで実施するものだからであります。したがって、この最高裁判例以後においても、全ての広告が勧誘に含まれるとして一律に不当勧誘規制が及ぶわけではないことについては、ここにいる皆様の了解事項であると考えたいと思います。

このことは、最高裁判例においても、勧誘に該当するにはその働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることを要件として要求されているように読めることとも合致すると考えております。ただし、どのような働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えるかについては明確ではございません。確かに「商品等の内容が取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような」という例示がなされておりますが、商品等の内容や取引条件を認識させる行為は極めて一般的なことでありますし、その他これらの取引に関する事項も極めて曖昧であります。一方で最高裁の事例で問題となったチラシには取引条件の記載はなく、別途資料請求しなければ分からないものだったように思います。

つまり個別の消費者の意思形成に直接影響を与えるという基準では、広告が勧誘に該当するかどうかの区別をする要件としては機能し切れていないように思います。とするならば、最高裁判例の基準のみが広告への不当勧誘規制の該当性判断に当たっての唯一の規範として実務で利用されるとするならば、極めて幅広く曖昧な要件らしきものに寄りかかった非常に危うい運用がなされるのではないかと考えております。ここで言う運用には、裁判実務における裁判所の判断の指針ということだけではなく、消費者による取消しの主張がなされることも含んでおります。この点、当協会としては極めて曖昧な基準に寄りかかった訴訟等が頻発するリスクも懸念しております。

したがって、「勧誘」要件の在り方について広告が勧誘に含まれる余地があるのだとすれば、当然に含まれない場合もあるのだということを念頭に置いた上で広告媒体、広告内容、特徴等に応じて、それぞれの広告が勧誘に該当する外堀を明確に議論していかなければならないとは考えております。

いずれにしましても、特に全ての広告に対して不利益事実の不告知の条項の適用があるとした場合に想定するような問題が生じることのないように検討していく必要があると思慮しております。

以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見があればと思いますが、後藤委員。

○後藤(準)委員 4ページの判決の下線部分についてですが、最高裁が「勧誘に当たらないということはできない」と言っている具体的な事例を消費者庁、内閣府はどのようにお考えになっているのか。また、そのボリューム感といいますか、実際にそのように考えられる案件について我々は承知していないものですから、案件のボリュームはどのようなものなのか。その辺りがお分かりであれば教えていただきたいと思います。

○山本(敬)座長 それでは、消費者庁からお願いします。

○加納消費者制度課長 この判決をどう評価するかということだと思いますが、この判決で述べられているところは、正にこの判決が全てでありまして、それについて特に消費者庁としてこれが当たるとか当たらないとかいうものを現時点で確たるものとして持ち合わせているわけではございません。

ただ、この判決は、正に当たらないと言うことはできないという言い方をしているわけでありまして、先ほど永江委員からも同じような御指摘がありましたけれども、全てが当たると言っているわけでもないと思います。そうしますと、どこまでが当たって当たらないのかということについては、個別の事案において適切にそれが裁判で争われる場合には裁判所によって適切に判断されるということを意味しているのではないかと思いますので、当該事案ごとに判断されるということではないかと思います。

ただ、これはこれまでの専門調査会の御議論を踏まえてということでありますけれども、今回の判決内容といいますのは、私が思いますには、前回の専門調査会の取りまとめで御議論いただいたところと、そう大きく変わるものではないのではないかという気がしております。その専門調査会における議論がどこまで最高裁の判決の判示内容に当てはまるのかというのは、これは正に学説その他によって評価されるべきものかなと思いますけれども、仮に専門調査会の議論と似たような射程であるという前提に立ちますと、これまでの専門調査会においては例えばいわゆるイメージ広告のようなものについては、それによって商品、役務の内容について消費者が誤認をするということではないのではないか。こういった議論がされていたように記憶をしておりますので、仮にそれが当てはまるのであれば、同じようなことが言えるのではないかと思いますけれども、ただ、これはあくまでも専門調査会の議論が最高裁の判決と大体スライドしているという前提に立つというものでございますので、その辺は留保はさせていただきたいと思います。

以上であります。

○山本(敬)座長 後藤委員、どうぞ。

○後藤(準)委員 続いて2ページのところなのですけれども、専門調査会の報告書の抜粋というところがありますが、マル3の上から5行目の中ぐらいに逐条解説に記載すること等によりと記載がありますが、逐条解説は今般、改訂されているところです。この逐条解説に記載された事例が先ほどの最高裁の判例を明示したものかどうかは分かりませんので、それに当てはまるかどうかは分からないのですが、上のマル2のところはこれまでの専門委員会での議論があったことを踏まえて、マル2の形でまとめられたということだと思います。最終的にはいろいろな課題があり、なかなか全体のコンセンサスが得られないという結論に前回至ったと思っております。では、現時点でコンセンサスが得られるところまで行くのかどうか。ここがポイントになるのだろうと思っていますが、そこまで行けるのかなという気がしておりまして、この件についてはもう少し議論を深めて慎重に検討していくべきではないかという印象を持っております。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。山本健司委員、どうぞ。

○山本(健)委員 結論として、「勧誘」要件に関しては、今回の法改正は最高裁判例で不要になったのではないかと考えております。

今回の法改正で「勧誘」要件は非常に重要な論点の1つでございました。その理由は、もし不特定多数に向けられた契約誘引行為が「勧誘をするに際し」に該当しないとすれば、インターネット通販、テレビショッピング、カタログ通販など、不特定多数向けの契約誘引行為によって契約締結に至った場合については、どのような虚偽表示があっても消費者契約法上の誤認取消の適用が一切ないといった極めて不合理な結論になってしまうことから、不特定多数に向けられた契約誘引行為も「勧誘をするに際し」を満たし得るという点を明確化することにあったと理解しております。

この点、今回の最高裁判例は、現行法の「勧誘をするに際し」の意味内容について、事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても、そのことから直ちに消費者契約法上の勧誘に当たらないということはできないということを明確に判示しております。よって、今回の法改正が是非とも必要であるという前提は失われたように思います。

また、この専門調査会におけるこれまでの議論からも、本日永江委員が御提出された資料2の書面内容からも、「勧誘」要件については見直しに関する反対意見が強く、このような状況を踏まえると、最高裁判例の「『勧誘』に当たらないということはできない」という判示内容を過不足の無い文言で明文化することは難しいのではないか、もし可能としても多大な審議時間を要することになるのではないかと思われます。 そのような点を踏まえると、「勧誘」要件については、既に最高裁判例で結論が出た争点となったことを踏まえ、これ以上の法改正に関する審議は不要ではないか、むしろ審議の時間を他の重要論点に回すべきではないかと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。丸山委員、どうぞ。

○丸山委員 私自身も今の山本委員の御提言に賛成をしておりまして、基本的には勧誘を立法的に改正することではなくて、今般出されました最高裁判決を前提としながら、逐条解説であるとか解釈論を深めていく方向でよろしいのではないかという、そのような意見を持っております。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

では、有山委員。

○有山委員 私も今回の最高裁判決でよしとするところなのですけれども、誤解がないように申し上げたいのは、広告協会でお出しになられました事例については、大変違和感がございます。消費生活センターでは基本的に広告のみで解約交渉に使うことは余りしていないと思っているのです。広告以外にも表示の問題も入ってきます。パソコンの販売に関しても、パソコン関係の販売店の方たちと議論をしたことがあるのですが、かなり詳細に販売するときにスペック等を伝えていらっしゃるので、ほとんどの業者さんはこのような広告しか見ていないという状況には置かれていない。けれども、そこで何らかの表示によって誤解を招くようなことがあるとか、学習塾の広告のことですが、私が受けた例では学習塾に2つ通っていた。夏期講習に2カ月だけ行った塾が生徒の希望の大変偏差値の高いところに入ったら、その人は我が学習塾の生徒であり、その学校に志望したのは1人だけだったのだけれども、1人でも志望が100%かなったというようなことで広告を打たれたときに、それはおかしいのではないかと苦情になりました。広告の書き方を変えてほしいというようなお話があったのです。そういう使われ方はするにしても、かなり広告や表示からの問題がない限りは、消費者センターで問題として取消しを求めるとか、そのような形にはなっていかないのだろうと思うのです。

消費者センターは、少額な形でトラブルが起きたときに間に入るというのが基本的なスタイルですので、高額であってもたくさん同じような問題が出ているときには、消費者センターの相談員が入っていくことはあると思いますが、このような広告のみによってということは余り考えられない。これから出てくる場合もあるのかもしれませんが、考えられないと思いますので、その誤解は解いていただきたいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

永江委員、どうぞ。

○永江委員 今の点は誤解があると思うのですが、結局、優良な事業者は、広告実務において広告を制作するに当たって、当該広告を見た人が、それを理由に取り消すことができないようなものを作らなくてはいけないと考えることになります。取消しというのは非常に大きな効果があり、取消しという個別の取引に対する影響を考えると、実際にそれを言うか言わないかというのは、やってみなければ分からないところではあるものの、とはいえ、裁判されないだろうという前提で留意せずに進めるという実務はなく、実務的には非常に影響があるということは御理解いただきたいと思います。

○山本(敬)座長 磯辺委員、どうぞ。

○磯辺委員 私も今回の議論で、「勧誘」要件の在り方についてこれ以上議論を重ねるというよりも、勧誘に関わる規定は今のまま置いておいて、今回の最高裁判決を踏まえて具体的な裁判例が蓄積していくのを待つということがよろしいかと思います。特に今の議論は、広告が勧誘に当たるか当たらないかということに焦点化がされていますけれども、併せて言いますと、実際に取消しの効果が及ぶかどうかというのは不実告知なりで誤認をしたかどうかということで、その誤認との因果関係、勧誘の全てのプロセスがどうなのかということを個別に見ていく。その中で広告がどの程度の役割を果たすのかみたいなことは、実際に具体的な事例を積み上げてみないとなかなか見えてこないと思いますので、今回は特にこれ以上踏み込んだ議論は難しいかなと思っています。

○山本(敬)座長 河野委員、どうぞ。

○河野委員 私も前回の審議において適用対象となる行為の範囲についてなかなかコンセンサスが得られず、今後に向けて非常に暗澹たる気持ちでおりましたが、今回の最高裁の判決によって非常に適切な解をいただけたと思っております。一律ノーであったものが個別対応を行っていただけるということで、消費者側にとってみると大きな前進だと受け取っております。今後は今、磯辺委員がおっしゃったように、判例の積み上げによっておのずと結果は付いてくると理解しております。「勧誘」要件の検討はこれ以上、必要ないと思っております。

以上です。

○山本(敬)座長 松本理事長、どうぞ。

○松本理事長 今回の最高裁判決の意義は、従来、特に事業者側が強調していた不特定多数に向けられた広告であれば自動的に勧誘に当たらない。したがって、消費者契約法は一切介入できないという考え方は誤りだということだけを言ったものであって、広告の中のどういうものが消費者契約法の射程に入るのかについては何も言っていないということです。したがって、従来コンセンサスが取れていなかったところの広告であれば勧誘に当たらないのか、広告でも勧誘に当たることがあるのかという点については、後者だということを言った。このレベルでコンセンサスが取れればそれで今回はいいのだと思うのです。

その上で、広告だけでもって契約が取り消されることがあるのかというと、多分そう簡単にはいかない。広告がきっかけとなって契約締結までのプロセスの間にどのようなやりとりがあるのかということをも評価しない限りは、誤認勧誘に当たるかどうかの評価ができないわけです。

したがって、第三者による広告ではなくて、売り主が広告を行っている場合という分かりやすい場合で議論したほうがいいと思うのですけれども、街頭でチラシを配っている。そのチラシを見て大変魅力的だと思ってお店にやってきた。その段階でいろいろやりとりをして、チラシの中には確かにスペースの都合もあるから、良いところしか書いていないけれども、実はこういうところもあるんですよということをきちんと告げれば、それは何の問題も普通はないのだろうと思うのです。それを言わないで都合のいいチラシを信頼させておいて、そのまま契約締結までいってしまうとすれば、それは問題があるのではないかということだろうと思います。

他方で、不特定多数を相手とした広告は一切、法的に問題にならないかというと、そうではなくて景品表示法はそこを押さえますから、実際のものより著しく優良な、あるいは著しく有利な表示であれば、景表法違反となって措置命令が出るということになるわけです。

したがって、あえて議論をするとすれば、景表法には今のところ民事ルールは差止めの話しか入っていませんけれども、著しく優良、有利な広告の場合に、広告だけで誤信して契約した場合に取り消すことができるというような制度を景表法の中に入れるかどうかというのは、別途議論の余地はあるかと思います。この場合に、最近措置命令に加えて初めて課徴金命令が出されました。消費者に返金をすれば課徴金は減額されるというわけですから、行政が後ろからプッシュして一部取消しあるいは代金減額という解決を図るような仕組みだということになります。景表法の論理の中で一定の民事ルールを入れるかどうかというのは、別途議論すればいいと思うのですけれども、消費者契約法は広告だけで決まる法律ではないというか、事業者が広告だと言えばそれで除外されるものではないというところだけ確認できればいいのだろうと思います。

○山本(敬)座長 中村委員、どうぞ。

○中村委員 今までの皆さんの御意見と一部同様なのですけれども、現状において法を改正するというような形で勧誘の文言を変えることについては、議論する必要がないことについては同意見でございます。

若干、今までのお話の中で誤解ではないかと思う部分を少し補足しますと、事業者としては今までの資料というのか前半の部分での資料の中で、勧誘というものを広告全般に広く広げるというような議論をするのであれば、それは広くなり過ぎてしまう。広告だけをもって取消しにつながっていくというようなことは非常に事業に影響を与えるので、まずそこの部分についてはもう少し議論が必要だというようなことを議論してきたということでございますので、現状においてはそういうことではなくて全体を見ていますよということでしたけれども、仮に勧誘に広告全般が拡大されるというようなことですと、そういうことではなくなるということを非常に懸念していたところは御理解いただきたいと思います。

その上で今回この勧誘について議論するかしないかというところなのですけれども、事業者側としてはそこの部分がどこまでが取消し対象とすべきであって、こういうところであればいいのではないかという目線が若干持てるのであれば、そういう議論も事業者としては有益ではあるのですけれども、そこの議論はしなくてよいのだろうかというところでございます。

先ほどイメージ広告に関しては、除外だということが前半で議論されたというところの御紹介がありましたけれども、そこの部分は今回の判例の中でも確かにそのように読み取れるのかなと思っておりまして、私は個人的には私どものいわゆるスーパーのような商売の中で、商品のいわゆるナショナルブランドの例えば洗剤の写真が載っていて、それに値段だけが書いてあるというようなものについて、それが勧誘だというようなこともないのかなと一応、理解をしているところなのですけれども、今回の判例では先ほどお話にありましたように、なかなかここの部分が勧誘に当たるのではないかというのが非常に判断がしにくいというか、できないようなメルクマールしか現状ないので、そこのところの議論は若干していただきたいなというような気持ちを私としては持っています。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見があればと思いますが、沖野委員、どうぞ。

○沖野委員 まず「勧誘」要件についてなのですけれども、私は「勧誘」要件というのは問題があると考えております。と申しますのは、例えば今、中村委員がおっしゃった点なのですけれども、スーパーで品物が陳列され説明などもございますね。それに値段も示されています。これは、一般的には申込みであるか申込みの誘引であるかですが、恐らく申込みであると考えられます。それを持って商品レジに行けばそのまま買えるということでしょうから。そこで更に拒絶できるのなら申込みの誘引となるのですけれども。では、そのようなもの、申込みか申込みにダイレクトに直結したものが、では積極的に働きかけているのかという観点から勧誘ではないのではないかとして、そのような概念で勧誘概念が語られることがありますけれども、しかし、私は、そういう勧誘というのは積極的な行動がない限り勧誘ではないというよりは、正に契約の締結に向けてどうぞ買ってくださいという表示をしていれば、勧誘という概念に当たるはずだと考えられ、それが条文の理解としてむしろ一般的だと思います。その意味では、契約締結過程における情報提供を捉える、あるいはそれがかなり幅広い形で行われるときには一連の行為を捉えるということがあるはずだと考えております。ですので、勧誘という表現は、概念上混乱を招くので、以前から問題ではないかと思っておりました。

また、先般の改正によりまして過量取引に勧誘の概念が別途入っている部分があり、その概念が同じなのか、それとの関連という点でも勧誘概念というのは今そのまま維持することが本当にいいのだろうかというのは疑問には思っております。ただし、今次の立法課題としての「勧誘」要件の見直しにつきましては、これはずっと議論していたところで、今回も資料におまとめいただいておりますように、前回の専門調査会の報告書としてのこの段階での意見集約は2ページにありましたように、意見がまとまらなかったというのではなくて、マル1までは了解であったのだけれども、より具体的にどのようなものが当たるのか、適切な切り分けはできるのかという点でのコンセンサスがなく、とりあえずは解説のところで状況を示そう。この後、更に立法していくならば、もう少し絞込みなりできないかというのが継続された課題だったということですので、マル1の点については了解があったということであり、また、先ほど加納課長が非常に慎重に言われましたけれども、最高裁によってこの点は明らかにされたと理解されます。ですので、下級審に見られた若干の混乱というものは、それによって解決されることが予想され期待されます。とすると、更なる立法課題として、つまり今回の立法課題として「勧誘」要件をいかに適切に切り分けていくかということに取り組むのは、恐らく非常に困難な課題でもあり、見通しという点からすると、今日の冒頭でも限られた時間をどう切り分けていくかという問題意識があった中で、この問題を更に考えていくのはややもったいない。時間の使い方としてもったいないということであって、その意味でこの要件についてはこの限りとしてもいいのではないかということだと理解し、そういう点については賛成いたします。

正に中村委員がおっしゃった、しかし、そうは言っても具体的にどうなるのだということは非常に重要な問題なのですが、ここでは立法に向け具体的な改正に向けて、そういう改正をするためにはどういうこととなるのかを検討していくべきものということですので、現行法の解釈上様々な問題があるところを明らかにしていくことができないかという工夫は、ここで取り上げる問題ではないのではないかと思っております。

それから、若干細かいことなのですけれども、今回、永江委員が提示してくださった資料についてです。私は欠席が続いておりますものですから、従前の抜粋をしてくださったということなのですが、これまで余り意見をちゃんと言う機会もなかったものですから、若干の点を申し上げたいと思います。先ほどのような話ですから、これ以上検討することは置いておいていいのではないかということではあるのですけれども、ただ、若干申し上げますと、1つは議論の中で広告だけを取り上げることは余りないというお話でしたが、しかし、取引の形態によっては、そもそも一体広告とは何かという定義自体がはっきりしないので、それを広告と言うのかという問題もありますけれども、正に画面上、直接に説明をしていて、不特定多数が誰でも見られるというタイプで、そこで申込みをしていくというそのような場合ですとそこを捉えてということもあると思います。確かに、多くの場合はしかし広告を見た後、例えば学習塾の例ですと実績についての問題は恐らく2つの問題を取り上げられていると思います。一つは、過去の合格実績というものがそれだからこそ契約をしようということにつながった事実であるのかという辺りにそもそも疑問を呈しておられるというもので、これは広告ではなくて個別に対面で口頭で言ったとしても同じであり、広告ゆえの問題ではないのだと思います。

もう一つの点は、それが広告でされたということですが、学習塾の申込みというのは実際には塾等に行ってするものではないのでしょうか。そうしたときに、既にそれが誤記だと分かっていたときに、何の訂正もしないことは考えられないわけで、合格実績はこうなっていますけれども、これは間違いでこういうことなのですよという説明は普通そこであるのではないか。契約締結過程に至る様々な情報提供のルートというものがあるわけで、そこで適切な訂正がされるし、それがされないのであれば、それは逆に問題ではないかということではないかと思っております。

最後は若干蛇足ですけれども、以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。長谷川委員、どうぞ。

○長谷川委員 大体皆さんがおっしゃられたことと違わないのですが、今回の最高裁判例を踏まえて不特定多数に対して向けられたものについても勧誘に当たらないということではないということは、そういうことでよろしいかと思います。

その上で中村委員がおっしゃられたことと近いのですが、では勧誘の外縁をどのようにしたらいいのかということを考えたほうがいいのか、あるいは考えないほうがいいのかということはよく分からない。また考えたほうがいい場合、先ほど山本委員もおっしゃられましたが、立法ではなくて逐条解説という手もあるのかもしれない。しかし、ここで議論を全然していない状況で逐条解説に何と書くかというのは、消費者庁としてもなかなか難しいのではないか。

○山本(敬)座長 今のは質問でしょうか。

では、消費者庁からお願いいたします。

○加納消費者制度課長 恐らく事業者サイドの御意見ないし御要望としては、仮にこの「勧誘」要件を改正せず、この法律の規定のまま今後も適用されるとなった場合に、ではどこまでが勧誘に入り、入らないのかというような何らかのメルクマールが示されないのか。後藤準委員の御指摘もそういう趣旨に基づくものかもしれないですけれども、そういうことかと思いますが、もしそれを明らかにするのであれば、ある程度事例などを想定しつつ、例えば不特定多数向けの媒体でこういう表示なりがされたというときに、そこでどういう意思形成プロセスがあるのが通常であり、その場合に意思形成過程で誤認が生じたとか、そういったある程度のシミュレーションをした上で、こういう場合であれば当たるけれども、こういう場合では当たらないということを整理するということではないかと思います。

ただ、それはどこまで行っても想定にはならざるを得ないと思います。かつ、私どもとしてもそれを検討するに当たりましては、例えばどういう広告媒体で、どういう取引がされているのかといった実情をある程度把握しないと、それを例えば逐条解説などに書くことになりますと、一定の波及効果が生じてしまいますので、そこはそれなりの検討を踏まえた上でないと難しいかなと思いますので、例えばこういう広告媒体でこういうことがあるとかいうような事例ないしデータがあれば、それを基に検討することはあるかと思いますけれども、そうでない限りは個別の事例の集積を待った上で、それを踏まえて検討するというのが穏当ではないかと思います。

○山本(敬)座長 私が申し上げることではないかもしれませんが、これまでも事例を収集していただいています。裁判例のほか、相談事例も含めて収集していただいているのですが、これらはいずれも最高裁判例が出る前の状況下で行われた判断でして、それがそのまま今後も維持されるかどうかは現時点では分かりません。最高裁は消極的な形で判断を示しましたけれども、それでも非常に大きな意味を持つものでして、これを踏まえてどのような判断が実務において集積されていくかということは、これから注視していかざるを得ないと思います。

その意味では、そこまで含めてここで指針を示してほしいという御要望があるかもしれませんけれども、ほかの論点で問題になっているような具体的なエビデンスに基づいた議論はなかなか難しいのではないかと思います。 今の点について御意見があれば。河上委員長、どうぞ。

○河上委員長 最高裁は意思表示や契約の解釈をする上で、ごく当然のことを自然に語ったことで、個人的にはほとんど違和感がありません。実は、「広告」が「勧誘」に含まれ得るかという問いかけ自体が、余り意味のある問いかけではなくて、広告は商品を買ってもらうために打っているものですから最初から勧誘的性格を持つものなのです。ですからその中で、特に直接に顧客に働きかけて、契約を締結させるような役割を演じていたかどうかというところが問題なわけで、広告などを含めて契約締結までの間での事業者の言動全てが契約における勧誘上の不当な行為を評価する上で重要な考慮要素になるというのが契約解釈におけるいろはであります。

恐らくQ&Aなんかで介入で不特定多数の人間に対するものが勧誘には当たらないと書いてしまった某コンメンタールのような書き方は非常にミスリーディングで、昔、我妻先生が広告は申込みの誘引にすぎなくて申込みではないと書いている教科書の記述などに悪く影響されたのかと思うのです。「勧誘」概念は非常に単純な技術的概念であって、むしろその「勧誘」プロセスの中で取消しに値するような行為は何かというところこそ問題にしないといけないということであります。その上で消費者の契約締結に向けた意思形成に瑕疵を生じさせるような直接の働きかけのある行為は何だったかということを端的に、それぞれの文言とか言動から拾い上げていただくことが大事だろうと思います。

消契法の第4条の規定ぶりは、「勧誘をするに際して」何々の「行為」をしたことによって契約を締結した場合に、その行為を取り消せることになっているわけでして、その部分について、「よって」で因果関係も要求されているわけですから、直接の影響関係があることも予め含まれた規定ぶりなのです。その意味では今回の最高裁が出たことによって、当然のことが確認されただけと個人的には認識しております。

もう一つ、最高裁の判決をもう少し検討したほうがいいと思うのですけれども、あれは実は「何とか研究所」というところが出した紙が、広告的に利用されて、「何とか販売会社」がそれを利用して売ったという事件を問題にしています。ということは、先ほど「第三者」が出したチラシ、これは関係ないと言いましたけれども、最高裁の事実認定方法から言えば、契約の実態とか取引の実態を見て契約の申込み当事者である事業者と見られるときに、結果的にはその主体というものを「実質的に」評価して、事実を認定したことを前提にしております。今後の事実認定の在り方を考える上では、そういう部分も最高裁の事件からむしろ学びとって、こういう事案であったということをQ&Aにきっちりと書いて参考に供するという姿勢があってもいいかなと思いました。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

長谷川委員、どうぞ。

○長谷川委員 座長がおっしゃられた、従来の事例が蓄積されていてというのは正にそのとおりで、また、最高裁の判決以後の事例も集積しないと分かりませんというのもおっしゃるとおりだと思っております。

他方で、そういうことは起こらないと思っているのですけれども、最高裁の判決があった後、例えばイメージ広告みたいなものばかりになってしまいましたという事態が生じたとき、この専門調査会の検討の場には問題があるという形でそれは乗らなくなってしまうわけです。乗らなくなってしまうというのは、消費者被害という観点からは乗らなくなる可能性が高くて、ただ、国民経済的な観点から、あるいは消費者の利益一般から見たときに、具体的な情報が入っていないイメージ広告が大半であるという事態がいいのかどうかというのはよく議論する必要があるのではないかと思います。正に勧誘の外縁を画するという議論は、すごく薄いかもしれないけれども、国民一般の利益あるいは消費者一般の利益の観点からも検討されるべきことだと思うものですから、そういった切り口での議論に対するニーズもあると申し上げさせていただきました。ただ、なかなか難しいだろうと思っておりますので、結論として今までの大勢の御議論に特に問題ありません。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

永江委員、どうぞ。

○永江委員 先ほどの確認なのですが、最高裁は、第三者がした広告であっても勧誘に当たるという判示はしていないと理解しております。

○山本(敬)座長 では、松本理事長。

○松本理事長 今の御指摘の関係では、あの事件は実質的に同一事業者だという認定が先に行われていますから、第三者かどうかという議論はする必要がないわけです。それは余談ですけれども、本来の論点であるところの勧誘には絶対に当たらない広告とは何かということを議論してもほとんど意味がないと思うので、それは広告として無意味なことをむしろやっているのではないか。やはり商品を買ってほしいから広告を打つわけでしょうから、いいところをそこに記載するというのは当たり前の話なので、では広告の表示が全て勧誘、消費者契約法で言うところの不実告知の対象になるかというと、そうではないというだけの話でしょう。最初のきっかけとして関心を持ってもらうための広告が打たれた。当然、河上委員長が言った勧誘の入口のような段階なのでしょうけれども、それだけで消費者契約法が発動されるわけではない。最後は契約締結まで行くわけなので、その間にどういうプロセスが採られたということが重要なのであって、インターネット上のオンラインショッピングの場合には、そこが割とストレートにすっとつながっているということがあります。

他方で店舗で契約をするというのが前提であれば、その間にかなりいろいろなプロセスが入ってくるわけで、対面でやりとりする段階がどこかで入ってくるのだとすれば、そこで最初の不特定多数向けの広告に誤りがあったのであれば、それをきちんと実はここは誤りでしたということを言えば、そこで誤認はなくなるはずなのです。それを言わないで、そのまま誤認に陥っていることを利用して契約をするとかいうことだと、それは取り消せて当たり前でしょうということになる。プロセス全体を見て不実告知をしている、あるいは非常に重要なことについて、不利益なことについて言っていないという評価ができるかどうかという問題になると思いますから、広告のところだけを捉えて何かルールを決めるというのは不可能だと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

長谷川委員、どうぞ。

○長谷川委員 間違っているかもしれないのですけれども、日本語としての勧誘に広告が当たるかどうかということではなく、消費者契約法上で取り消し得るかどうか、効果を持たせる入口としての勧誘概念に入れるかどうかという議論が恐らくあって、その上で従来の逐条解説は不特定多数に向けたものについては、入口のところで勧誘に当たらないというふうに外していたということなのだろうと思います。

最高裁判例は、それはそうではないものがあるのですということを言ったということであって、解釈論ないし消費者契約法の条文の解釈として、入口のところで勧誘に当たるかどうかについて広告を議論するというアプローチ自体はあり得るのであって、日本語として、それが勧誘に当たるから勧誘でしょうということでも必ずしもないのではないかと思います。

結論は変わらないのですけれども、従前は法律構成としてそういう理解をしていたのではないかと理解しております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。おおむね御意見はお出しいただけたように思います。何人もの方が確認されていましたように、今の御発言を引き継いで言うならば、消費者契約法4条に言う勧誘に広告はおよそ入らないという考え方はこれまであったかもしれませんが、今回の最高裁判例でその考え方は否定された。これは一致して理解されているところではないかと思います。

他方で、広告であれば、消費者契約法4条の勧誘に必ず当たるという考え方は論理的にはあるかもしれませんが、恐らくどなたからも主張されていないのではないかと思います。ですので、問題は、どのような場合であれば広告も含めて消費者契約法4条の勧誘に当たるかということになるわけですけれども、その点については最高裁判例では明示されていない。もちろん、それについて具体的な基準を考える必要が必ず出てくるのだろうと思いますが、現時点においてこの場でそれを明らかにしていけるかというと、資料的な制約、時間的な制約を考えますと、なかなか困難です。

いずれにしましても、今回の改正で「勧誘」要件について何らかの改正を検討すべきであるという御意見は出ていないと思いますので、現在の状況としましては、消費者契約法4条の「勧誘」要件については、最高裁判例を踏まえて差し当たり現在のまま維持し、逐条解説については既に最高裁判例を踏まえた改訂が行われていますので、この状況の下で今後の事例の集積を待って、必要に応じて検討を行うという辺りではないかと思いますが、それでよろしいでしょうか。

○後藤(巻)座長代理 1点だけ、結論的には現在の条文を維持することで賛成ですけれども、今、どういう場合に勧誘に当たるのかということの議論の中で、広告のことばかりが議論されていたということについては若干気になっておりまして、逐条解説の中でまだ本の形では改訂されていない部分では、勧誘に当たらないものとして広告以外の事例も入っていたと思います。

具体的にはこのようなものが入っていました。事業者が単に消費者からの商品の機能等に関する質問に回答するにとどまる場合というものが入っていまして、このような場合は勧誘に当たらないという例になっていましたが、具体例の部分が今回、最高裁の判決を取り入れたことによって、全部削られたのではないかと思います。ですから、そこのところを生かす形にするというのはなかなか難しいと思いますけれども、広告以外のことも含めて消費者庁の定義で勧誘とは消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の進め方を言うという、その定義の下でそもそも入口としての勧誘に当たらないというのがどういう場合なのかというのは、現在、示すことができるかどうかということは別でありますけれども、そこを知りたいという要請は強いと思いますので、そこについても今後、事例を収集するなりして、最高裁の判決の下での勧誘に当たらない場合というものを示す方向で検討していただけたらと思います。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。それでは、山本健司委員。

○山本(健)委員 私は、現行法の「消費者契約の締結について勧誘をするに際し」という部分は、今回の最高裁判例で「消費者契約の締結過程において」とほぼ同義になったのではないかと理解しております。

以上です。

○山本(敬)座長 更に御意見があればと思いますが、よろしいでしょうか。

それでは、ただいまのような御意見をいただいたということで、ここでのまとめとしましては、先ほど私から申し上げたところで整理をさせていただくこととさせていただきます。どうもありがとうございました。

≪3.不利益事実の不告知≫

○山本(敬)座長 引き続き、次の不利益事実の不告知について進ませていただきたいと思います。まず、消費者庁から不利益事実の不告知について御説明をお願いいたします。

○消費者制度課担当者 それでは、不利益事実の不告知について資料1に基づいて説明させていただきます。

資料の6ページからでございます。まず6ページ1ポツ目で「これまでの検討」ということで書かせていただいておりまして、専門調査会の報告書から取りまとめ内容の抜粋を記載してございます。ここで記載しておりますとおり、これまでは不利益事実の不告知の要件の中でも、故意要件及び先行行為要件の在り方についての検討が行われ、引き続きの検討課題とされておりました。

本資料においては、改めてこの現行法4条2項の要件を検討した上で、その問題点を分析して対応策の考え方を整理させていただいております。

7ページからですが、現行法4条2項の規定について検討しておりまして、四角囲みの中で条文を挙げております。現行法の規律は事業者の行為として不利益事実の不告知が存在することを要件としているわけですが、法4条2項でいう不利益事実の不告知というものは、不告知という不作為だけではなくて、事業者の作為もまたその中に含むものでございます。すなわち、当該消費者に対してある重要事項または当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げること、いわゆる先行行為要件と呼ばれるものですが、これが定められております。そして、この先行行為要件と故意に告げなかったという不作為が「かつ」で結ばれておりまして、この行為全体を捉えて不利益事実の不告知となるというわけでございます。

8ページに「そして」ということで書いておりますが、この故意に告げなかったことの対象となるものは不利益となる事実でございますけれども、この不利益となる事実については括弧書きが付いておりまして、当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限るということになっていますので、先行行為による告知を聞けば、消費者はそういう事実はないだろうと思うという関係があるわけでございます。すなわち取消しの対象となるのは先行行為要件として一般的、平均的な消費者において当該不利益事実が存在しないと誤認する程度の告知があった場合と考えられるのでないかと思います。この点は図でも示しておりますが、このように作為と不作為の双方がある取消し要件であることを確認させていただいております。

9ページでは、この不利益事実の不告知の課題は何であるのかということを確認しております。最初の段落で書いておりますのは、既にこの専門調査会でもお示ししました意識調査の結果として、あまり利用していないと思う法律の規定という中で不利益事実の不告知が挙げられ、その理由として事実の確認が困難であること、あるいは適用対象となる範囲が厳格過ぎるということが挙げられているというものを示しておりましたが、この点について更にその問題点が何かということを明らかにするために、消費者庁で消費生活相談員に対するアンケートを実施させていただきました。

このアンケート調査の結果によりますと、不利益事実の不告知の規定が利用しにくいと答えた相談員さんに対して、その利用しにくいと思う理由というのは何かということを尋ねたものでございますけれども、下の四角囲みに書いていまして、幾つか書いてございますが、注目していただきたいのは2ポツ目のところであります。「故意」の要件の認定判断が困難であるというのが597人で86.6%となっておりまして、このような結果からしますと、消費生活相談現場で活用するという観点では、故意要件が最も重要な課題となっていることが明らかとなっているのではないかと思います。

10ページで相談事例を挙げておりますが、これはそういう故意要件が問題となり得る事案でありまして、すなわち不利益事実の存在について事業者のほうで「知らなかった」と言われて、ただ、事情からすると知り得た事情があるのではないかというような事案でございますが、相談現場ではこれまでも指摘されていたところですが、知らなかったと言われてしまうとそれ以上はなかなか交渉が難しいということがございます。

「なお」で始まる段落で書いていますのは、では訴訟ではどうかということでございますけれども、これも従前の専門調査会における資料でもお示ししておりますとおり、裁判例としては2つの方向性が示されていまして、1つは先行行為が具体的な告知として認定されることを前提として故意を認定していた例があるわけですが、他方で不利益事実の不告知の裁判例の中には、必ずしも具体的な先行行為を明示的に認定することなく、故意要件が認められる場合に取消しを認めた例もあります。こういう例を念頭に置きますと、訴訟においても故意要件が1つ課題となっているのではないかと考えられます。

では、課題に対してどう対応するのかということで(2)で書いておりますが、最も端的なのはそういうものが障害になっているということであれば、故意要件を削除するというのが1つの考え方でございます。しかし、実際には消費者契約法立法当初に故意要件が取引の安定性の配慮という観点から置かれたのではないかと考えられるところでございまして、単純にそれを削除してしまうことについては慎重な検討が必要ではないかと思われます。

先ほど課題としてお示ししましたとおり、問題は故意の立証が実際には困難である。つまり、知らなかった、わざとではなかったと言われたときに、そうではないという立証がなかなか難しいのではないかということに課題があるとすれば、例えば事業者に重大な過失がある場合ということで、その故意と同様の効果を認めることとすれば、そういう重大な過失があるという状況を立証していくことで、故意がある場合と同様に取消しを認めてもよいはずの場合に対応できるのではないかということでございます。

11ページの注釈19のところで書いておりますが、重大な過失について、消費者契約法の逐条解説においては、「重大な過失とは、相当の注意をすれば容易に有害な結果を予見することができるのに、漫然看過したというような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態をいう」と記載しており、故意に近い著しい注意欠如の状態ということですから、故意に準ずるようなものとも言われますが、そういった場合を客観的状況から捉えられるのではないかというのが先ほどの例でございます。

11ページの上のほうで「また」というところで書いてありますが、このような重過失を要件とする場合にどうなるのかということですが、先ほどの裁判例については先行行為の認定をしているという状況の中で故意を認定していく、推認していくという例であれば、むしろ状況から認定していくというのは、重過失というもののほうがより文言に即した形で考えられるのではないかという点でございますし、他方で先行行為を明示的に認定することなく故意要件を認めている場合についても、故意に準じる重過失を認定することができるということであれば、同じような結論になっていくのではないかということでございます。

ポイントは、更にその下の「このように」で始まる段落でございまして、先ほど課題としても挙げておりました、消費生活相談の現場で、知らなかったと言われて故意を否定されたということで難しくなってしまうケースについても、消費者の側で事業者の重過失を基礎づける客観的な状況を示すことで、要件の該当性を主張することが考えられるのではないかということであります。

例えばということで書いておりますが、眺望・日当たり良好という説明を信じてマンションの一室を購入したら、実は隣接地に建設計画があって実際には眺望・日照が遮られるようになったという事例につきましても、そのような建設計画の存在を知らなかったということで交渉ができず終わってしまうのではなくて、例えば隣地の建設計画の説明会が事業者も参加可能な形で実施されていた、あるいは既にその建設計画は当該事業者以外の近隣の不動産事業者において共有をされていたなど、容易に知り得たという状況を示すことで交渉を進めていくことも考えられるのではないかと思います。

そういう中で12ページにて御提案させていただいておりますが、現在、故意に告げなかったというふうになっているところを、故意または重大な過失によってということで重過失というものを要件に追加してはどうかというのが1つの考え方でございまして、この点について御議論いただければと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、不利益事実の不告知について御議論いただきたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。では大澤委員。

○大澤委員 結論としましては、今回の御提案はあり得る方向性ではないかと思っております。不利益事実の不告知に関しましては、前回までの専門調査会でもこの点はかなり審議いたしましたけれども、多分そのときの方向性は2つほど出ていたのではないかと記憶しておりまして、1つは先行行為を要らないというふうにするのか、あるいは今回問題になっているような故意要件を削除するという2つだと思います。現に今回9ページで挙げていただいているアンケートでも、パーセンテージだけ見るとですけれども、先行行為の要件の認定判断が難しいというのが半分ちょっとぐらいで55.6%で、故意要件のほうが8割以上いたということで、このどちらか、両方というのもあり得るかもしれませんが、改正する方向としてはこのどちらかを手当するというのが、まずは第1段階としては現実的なのかなと思っていまして、先行行為を削除するという方策を仮に取るとしましたときに、これは故意要件を維持すればということですが、先行行為は不要とするけれども、故意に何も告げなかった。そういう不利益を告げなかったということになると、これは特商法の今の規定と同じような条文になるのではないかと思います。

ただ、その場合、故意に告げなかった。故意にというのを認定するのは非常に難しいのではないかと思います。

他方で今回は、私の理解が正しければですけれども、先行行為のところは特に要件としては削除せず、つまり先行行為は要件として残しつつ、しかし、その告げなかったというのを故意だけではなくて重大な過失の場合にまで広げるという方向性かと思います。

これに関しては先行行為の要件があるかないかという違いはありますけれども、現在でも民法の判例、裁判例で説明義務違反が認められるときに、それは何も事業者に限りませんが、立法当事者が説明をきちんとしていなかったということがわざと要するに不利益なことを隠していた、わざと説明をしなかったというだけではなく、マンションの事案のように実は隣接地に建設計画があることを当然、建築の専門家である業者であれば、調査をすれば分かったはずなのにという重過失という言葉がいいのかどうか分かりませんが、そういう調査不足があった。それに過失があったというときには、説明義務違反が認められているというのが民法の一般的な理解ではないかと思いますので、主観的要件として故意に限定する必然性というのは、特に先行行為を要件としているのであればなおのこと余り必然性はないのではないかと思いますので、それは民法の説明義務との考え方などといろいろ照らしてみても、結論としては私は今回の方向性はあり得るのではないかと思います。

ただ、重大な過失なのか、単なる過失なのかという、そこはもう少し詰める必要があると思います。重大な過失の程度がどういうものが想定されているのか、私自身、いまいちよく頭が整理できていないところがあるのですけれども、11ページに書かれているように専門家であれば当然知り得た情報である。それをただ調査もせずに隠していた、告げなかったということであれば、これは重大な過失に当たる。専門性が高ければそれは重大な過失というふうには恐らくなりやすいのだろうと思います。しかし、一方で別にわざわざ重大なという場合に限定しなくても、専門家であればそういう調査はできたはずだということであれば、これは単なる過失にもなりそうですので、個人的には重大な過失というものがいいのか、それとも単なる過失で足りるのかというのはまだ私自身よく分からないところがありますけれども、方向性としては今回の方向性は前向きに検討してよろしいのではないかと思っています。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見があれば。中村委員、どうぞ。

○中村委員 今回の案につきまして重大な過失か、過失かという御指摘もありまして、そこの辺りがある意味、焦点なのかなと考えております。

重大な過失として、概観的に見れば故意が疑われるような事情がある。そういうときに証明がしにくい中で故意でないにしても重大な過失があったと言われても仕方がないだろう。そういう状況下の中でそういうものが取り上げられるようにするというのは、ある程度理解ができることでありますし、例えば11ページの下にありますように、重大な過失とは相当の注意をすれば容易に有害な結果を予見することができるのに、安全を看過したというようなほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を言う。そのような意味での重大な過失があったということであれば、そこは故意と並ぶような形で理解できるのではないかと感じているところでございます。

ただ、若干そこが拡大していくというところが懸念の部分でございまして、例えば10ページのところで相談事例として挙げられる事例がございまして、ここの事例が適切なのかというところに若干疑念があるのですけれども、不動産仲介会社というところと契約した不動産会社というのと、借家の地主や空き地の地主というものが見た目上、三者出てきているように見えるのですが、そこが借家の地主さんと不動産会社が同じかどうかという事例では、この書き方ですとよく分からないのですが、少なくとも不動産仲介会社という立場にあって、その人に対して消費者が日当たりと風通し重視というふうに半年前に伝えたときに、不動産の仲介業者というのは皆さん御存じのとおりたくさんの物件を次々やっている中で、そこについて仲介会社さんに隣に家が建ちますかというところを聞かなかった、あるいは例えば嘘を言われたということも含めて、そこの部分が重過失になるかどうかというところは事例によるのかなという気がしておりまして、そこまでの内容ということではなくて、あくまでも故意に等しいような状態での重過失であれば、そこは特に問題はないのかなと感じているところです。

以上です。

○山本(敬)座長 まず、事例の補足説明を少ししていただけるでしょうか。

○消費者制度課担当者 10ページの相談事例では、基本的には不動産会社が契約当事者になっていることを考えておりますけれども、現実の事例でございますので、いろいろな論点が含まれるというのは承知してございます。ここでの趣旨は、知らなかったと言われてしまうと、なかなか交渉が難しい事例ということを想定して挙げているものでして、重過失の認定が個々の事案によるというのは御指摘のとおりだと思います。

○山本(敬)座長 分かりました。

大澤委員、どうぞ。

○大澤委員 先ほど私が故意または重過失ではなくて、単なる過失というのもあり得るのではないかと申し上げた趣旨を少し補足いたしますと、これは要件として先行行為を残すということであれば、今の10ページの相談事例がそうですけれども、先行行為というのは日当たりと風通し重視というものを伝えていて探していた。実際に恐らくこれは日当たりがいいですよといったことを多分、事実として説明をされたのだと思いますけれども、その上で実は実際には隣に家が建つということだったという話だと思うのですが、このように先行行為でこういうある意味セールスポイントといいますか、日当たりがいいですよということを言って売り込んでいる以上は、本当にそれが日当たりがいいのかどうかというのをある程度、売る側が調査をすべきだとしてもそんなに重い義務を課しているわけではないと思います。そうであるとすれば、不利益がないのかどうかという調査をちゃんとやらなかったという場合に重大な過失というふうに言えないと取消しができないというのは、これは若干厳しいような気もしますので、なので過失と言いましたが、ただ、これはいずれにしても重大な過失というものの中身によると思いますので、すごくこだわるわけではないですけれども、趣旨としてはこういう注意不足というのはセールスポイントとして売っている以上、それをちゃんと調査せずに売り込むだけ売ったというのは若干無責任なのではないかという気がしますし、そんなに重い法的義務を課しているわけではないというのが趣旨でございます。

以上です。

○山本(敬)座長 では井田委員。

○井田委員 結論としては、重過失の明記する方向性としてはあり得ると思うのですけれども、その前に以前の報告書にもございますが、類型化という議論があったと思うのですけれども、本当はその議論をもう少しさせていただければと個人的には思っています。

団体訴訟制度ということとの関わりから申しますと、消費者庁の差止め事例集というところにも数が記載されているのですけれども、それは契約条項の差止めのほうが圧倒的に多い。勧誘に関する差止めの申入れというのは少ない。これは立証の困難性というところが1つの大きな原因になっている。とりわけ不利益事実の不告知に関しましては事業者側の故意ということまで要求されると、なかなかこれを団体側が立証することが難しい。それがその制度を利用することの1つの足止めになっているのではないかと思います。

また、前回の調査会の議論でもありましたけれども、従来、不利益事実の不告知と言われるものの中には、不実告知と評価してもいいのではないかというような類型化、そういう議論がありましたし、そういう事例が存在すること自体は特段異論はなかったと思っております。そうすると不実告知に故意、過失が要件とされていないこととの関係上、やはり不利益事実の不告知というものに故意も要求するのはどうか。そこまでの必要があるのかということについては、本当はもう少し議論させていただけていればと思っています。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見があればと思いますが、長谷川委員、どうぞ。

○長谷川委員 意見というよりもまず質問をさせていただきたいのですけれども、1つ目は、今の故意の立証というのはどのようにやっているのでしょうかということです。私の知識がないだけなのですが、故意は内面のことについてなので、恐らく先ほど消費者庁の方から御説明いただいた資料の10ページのなお書きのところが関連するところ、要するに今いろいろ裁判所が工夫されてやっておられるところが10ページの真ん中あたりで書いてあるのではないかと思っているのですけれども、2つ分からないことがあります。1つ目は、ここの日本語がよく分からないということです。知識がなくてよく分からないのだと思うのですが、分かりませんというのが1つ。故意というのも結局は内面のことなので、具体的にそれ自体を立証するのは極めて困難なので、そのことを基礎付ける事実をいっぱい出してやっていくということなのだと思います。そうだとすると重過失を新たに加えても、正に資料で御説明があるように、それを基礎付ける事実をどんどん出していくということだとすると、何がどう変わるのかということが教えていただきたいことでございます。

2つ目の質問は、これは前回の改正前の検討でも議論があったと伺っておりますけれども、故意、重過失と言った場合に、事業者と従業員との関係というのは一般的にはどういうふうに理解されているのでしょうかということでございます。

○山本(敬)座長 では、消費者庁からお願いします。

○消費者制度課担当者 最初の御質問の点ですけれども、確かに故意について、こういう裁判例ではいろいろ工夫して認定されておられるのではないかと思います。その点は資料の中では、重過失のほうが文言に素直ではないかということを少し触れています。むしろ念頭に置いておりますのは、前半の「課題」のところで書いていますが、相談現場においては、故意ということが要件となっていると、「知らなかった」と言われることで止まってしまって、交渉が進められなくなっているということが大きい問題であると思っておりまして、重過失を追加することでその点がもう少し交渉を進めやすくなるのではないかということです。本来的に取り消すべき対象が大きく広がるということではなくて、むしろ相談現場においてもしっかりと交渉できるようにという趣旨でございます。

故意、重過失が企業において誰をどう基準にするのかという御質問については、むしろ消費者契約法特有の問題ではなくて、例えば民法でも誰を基準としてというのは問題としてあるものかと思います。

○山本(敬)座長 前半の御質問について、実務に関わっておられる方もたくさんおられますので、もし御補足いただくことがあればと思いますが、いかがでしょうか。有山委員、どうぞ。

○有山委員 最近の事例で1つ当たるのかなと思うのが、蓄膿症の方が本を読むと治るということで広告が打たれておりました。これはインターネットの広告なのですが、それを購入するきっかけは自分は長年悩んでいたので、効能・効果についてどうかなということを迷っていたときに、「効果がなかったらいつでも返金ができる」という条文を読みまして、その条文を読んだことによって、もしかしたら可能性があるかもしれないから、返金がいつでもできるのだったら契約しようということで契約したのです。その後、やはり効果がなかったので返金したいという旨を申し出ましたら、事業者から、「90日間使ってみて、その毎日の日記を提出しなければ無条件で返金しない」という、後出しじゃんけんみたいなお話があった。それは聞いていないと言うと、「伝えなかったですかね」ということでした。私どもで相談に入るときに故意ということなのか、うっかり伝えなかったのかというのはメールのやりとりもあるのですが、その辺については定かではないのです。基本的に不実告知でいこうかなと迷います。私としては少なくとも重大な過失が入ることによって、もう少し交渉しやすいのではないかと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見あるいは御指摘いただくことがあればと思いますが、河上委員長。

○河上委員長 この条文は、もともと故意、過失という表現が入っていた原案だったものが、国生審での議論の中で今の故意だけになったという経緯があります。そのとき確か経産省の方とか事業者の方が、日本における事業者の99%は中小事業者である。お店を持っている歳をとったおばあさんが、これはいいですよと言って、いいことばかり言ってしまって、うっかり不利益な部分を言わなかったら取り消せるということになると、日本の中小事業者はみんな取り消されてしまうのではないかというようなことをおっしゃって、結局その故意、過失という部分について、過失だけでそのような取消しまで認めるのはまずかろうという意見が出て、結局、過失の部分も取ってしまうという方向で議論が出ました。

ただ、そのときに故意と重過失はどう違うのですかという話がありまして、実は裁判所だって主観的な対応に関しては内面のことですから分からないので、普通は事実から見て故意があったと見られるような状況があれば、これで認めていくだろう。民法でも実は故意としか書いていない部分というのは昔あったのですが、これは結局、故意に準ずべき重過失を解釈上は入れていくという作業をせざるを得ませんでした。ですから重過失ということにしたらどうですか。実はそのとき、私は重過失という提案をしたことがあるのです。一応、全員でそうですねと言ってまとまりそうになったのですが、お昼のお茶の後、なぜか絶対に駄目ですという意見が出てきて、結局、その理由が分からないまま今のような状態になったという経緯がございます。

合理的に考えれば重大な過失というものでバッファーにしておいて、故意だけでは足りない部分を補っていくというのはごく普通の解釈のやり方だろうと思いますので、その意味では重過失が入ったから大きく変わるというものではないと私は思います。

○山本(敬)座長 御指摘どうもありがとうございました。

この消費者契約法4条2項に関しては、消費者契約法の成立へ向けて検討する中で、最後になって出てきて、承認された案なのですが、それだけに、それまでの公表されている中間試案等からは趣旨が読み取れないものでして、今のような内部情報がありませんとなかなか分からないところでした。国会答弁などでは若干出ているようではあるのですけれども、どこまで明確な確立した考え方に基づいていたのかということが、学者から見ますと少しよく分からないところがあります。それだけに解釈の余地のあったところです。

重過失に関しては今、御補足いただいたとおりですが、ほかにもし御質問あるいは御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。松本理事長、どうぞ。

○松本理事長 井田委員がおっしゃった意見と比較的近い感覚なのですが、不実告知の部分は過失すら要らなくて、重要事項についての言い間違いはついうっかりであってもアウトなのです。有利な利益事実の告知プラス不利益事実の不告知という場合については、別建てにしているわけですけれども、本来はその2つが合わさって1つの不実告知だと考えるのが本筋であって、この法律の1つの母法となったイギリスの不実表示法は、正にそういう発想に立っているわけです。

しかし、日本はそこを分離して積極的に告げたことについては故意、過失、無過失は問わないけれども、告げなかったことについてはそういう評価はしないという判断を立法レベルでしているということで、不利益の部分については一定の主観的要件をプラスして、海外の発想とは違った評価をしているということであります。そこは立法論としては再検討の余地はなくはないのですけれども、現在のやり方を相当変えることになる可能性があります。今回はそこまではいかないで、主観的要件についての立証のハードルを少し下げるということだろうと思いますので、それはそれで従来よりは救済が進むし、通常の事業者にとっては問題が新たに発生するものではないと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御質問あるいは御意見があればお出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。では、石島委員。

○石島委員 基本的には中村委員からいただいた御意見に同じで、ほぼ繰り返しになるのですけれども、故意と同等レベルの重過失を要件とするという方向性であれば、検討可能性はあるのかなと思います。しかしながら、ここに挙げられている事例が適切な事例なのかというのは疑問であって、借家と空地の地主が同一だったからという条件で過失の程度を上げているという御趣旨なのかなと思いますけれども、これをもってしても不動産仲介会社が調査をしなかったということに、故意と同等のレベルの重過失と認定されると言えるのかというのは疑問なので、適切な事例をもう少しお示しいただくといいのかなと思います。

あと検討可能性があるということは、事業者に影響なしと言い切るものではないという点も併せてお伝えしたいと思います。宅建業法など各種の業法においても、不利益事実の不告知については故意に告げないことが要件とされているものがあるようです。広範に適用される消費者契約法で要件を加重することが適切なのかというのも、各種の業法における利害関係者の意見も聞いていただくべきではないかと思います。

また、今回の御提案の趣旨が故意の認定が難しいというところなのですけれども、重過失というものもなかなか個別のケースによって認定がかなり難しいというふうに実務をやりながら思うところではあるので、どの程度実際に効果があるものなのかというのは若干疑問ですので、事業者への影響範囲の再度の御確認と実際の意味、意義をもう一度御確認いただきながら進めていただけるといいのかなと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見は。丸山委員、どうぞ。

○丸山委員 不利益事実の不告知の事例について、どのような改正が考えられるのかという点については、前回から随分議論をしてきたところで、私としましては最初に議論をしていた2類型で考えていく方向性が、個人的には望ましいというふうに思っておりましたが、結論としましては今回の提案に賛成いたします。不利益事実不告知の改正の貴重な一歩となるのではないかと思います。

そこを踏まえた上での確認ですけれども、もう少し具体的に考えていく必要がある部分もあるのかもしれません。重大な過失によって告げなかったという場合に不利益な事実については分かっていたのだけれども、告げなくていいと思って漫然と告げなかったというケースと、恐らくは不利益事実と密接な利益を告げた事業者としては当然、調べて告げるべきことを漫然と見過ごして、告げなかったというケースのような、いろいろなバリエーションが恐らくあるのではないかと思います。事例と照らしながら、もう少し緻密な分析・解説をしたほうが良いかなと思った次第です。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。あるいは御質問も含めて。長谷川委員、どうぞ。

○長谷川委員 先ほど事務局から相談の場で円滑にできるようにという説明があって、それから相談だけではなくて立証を容易にするためにというのが資料の全体的なトーンとして書いてある。そのために重過失というものを少し足すということが理屈付けとしてあるのかどうか。取消しという不利益を被っても仕方がない事情がある、それは故意に加えて重過失でありますということが恐らく素直な理解なのだろうと思います。資料全体の構造としては相談の場あるいは立証の容易さに着目するものとなっており、やや違和感があります。

それを申し上げた上で、重過失という要件を加えることについては、従前の判例と重過失の内容が変わらないということであれば、その方向で考えられるのかなと思っているところであります。

その上で、何人かの委員がおっしゃられましたが、挙げられている相談事例、それから、やや結論的に書かれている11ページの最後のパラグラフにある具体的な事例に即した価値判断について、それが重過失の例として適当なのかどうかについては、更によく検討していただきたいと思っているところでございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御質問あるいは御意見があればお出しいただければと思います。

松本理事長、どうぞ。

○松本理事長 消費者相談の現場的な感覚からいきますと、現行の故意の要件があると議論にならないというところが恐らくあると思うのです。すなわち事業者さんは知っていて、わざとこれを隠していたのだということでないと、交渉の土俵に乗ってこないわけです。だけれども、それは内心どうだったのだという話なので立証するのは大変難しいことです。裁判になれば同じケースがこんなにたくさんあるのですよ、これはわざとやっているのですよねという話になってくるかもしれないけれども、1件だけだと非常に困難です。ところが、重過失ということになると過失の重大なものですから、少なくともこの点を告げないのは不注意ですよねというレベルは合意できるのであれば、その不注意の程度が当該事業者としては重大であるかどうかというところの交渉に次の段階として入っていけるという話になるのではないか。

金融機関は、金利はとりあえずは高いのだけれども、為替リスクがあるところの外貨預金だとか外貨の貯蓄性保険というものを今、盛んに売っていますけれども、こういうときに金利のところだけ強調して、日本の預金の金利あるいは日本の国債の金利に比べてこんなにいいですよというところだけ強調して、為替リスクについて一切言わないという場合であれば、為替リスクを言わないというのは少なくとも金融機関にとっては過失ですよねと。しかもこういう場合は恐らく重過失という認定がされる可能性が金融機関としては多いだろう。金融商品販売法だと損害賠償ですけれども、消費者契約法レベルでも同じような評価がなされる可能性はあるのだろうと思います。当該事業者として重過失と評価できるかどうかという話になってくるのだろうと思いますから、故意ということで議論に一切入れないのに比べると、少し議論の余地が出てくるということだろうと思います。

○山本(敬)座長 大澤委員、どうぞ。

○大澤委員 今、松本先生がおっしゃっていましたけれども、この重過失という文言の中身にもよりますが、重過失を付けるというのは、今までの投資勧誘をめぐる例えば民法の説明義務違反の判決ですとか、古くですと変額保険のリスクの部分の説明をきちんとしていなかった。投資をする投資家の側も投資目的などを踏まえて本来だったら説明をするべきだったのに、そのリスクを説明していない。これが説明義務違反を民法上、構成するという判例が今まであったことを踏まえると、そんなに私自身は違和感を覚えるものではなく、故意ですとこれは事業者が知らずにわざと隠していたのだということまでを示さないといけないですが、重過失の場合というのは、重過失の判断を恐らく規範的になされると思いますので、今の話ですと例えばそういう証券会社であれば、いわゆるベネフィットの部分だけではなくて、金融商品ならではの例えばリスクについてちゃんと説明すべきであるというのは、金融商品販売法だけではなく、今までの民法の説明義務の判決でも言われていたことですので、説明義務の今までの判決と多少パラレルに考えてみたときに、今回の消費者契約法の不利益事実の不告知は先行行為の要件が更についていますので、先行行為をかぶせた上で、それで従来恐らく規範的に判断されていたであろう重過失、専門家であれば当然言うべきだったところを付け加えるということで、今までの民法の説明義務違反などの事案と比較して、そんなに変わらないのではないかという認識を私自身は持っていますので、私自身は別に故意だけに限定する必然性はその意味ではないと言っております。

以上です。

○山本(敬)座長 松本理事長、どうぞ。

○松本理事長 大澤委員の御発言ですけれども、従来の説明義務違反の効果は損害賠償で、債権法改正の中間試案でも損害賠償しか入らなかったということがあります。今回は取消しという解消型の救済なので、損害賠償の場合と全く同じロジックでやっていいのかどうかというのは別の論点になってくるのではないかと思います。説明義務違反の損害賠償が普通の過失でいいのだから、解消型の救済も過失でいいというのは1つの考え方として十分成り立つと思いますし、先ほど私も言いましたけれども、全体としての不実告知なのだという評価からいけば、過失すら要らないというところまで更に行って、説明義務違反以上の救済が認められてもいいタイプもあると思うのですけれども、そういう議論を始めるともう一度ちゃぶ台返しのようになりますから、説明義務違反がこうだからという議論とひっつけないほうが混乱しないのではないか。先行行為要件を排除してしまうということであれば、正に説明義務違反の効果としての損害賠償と契約解消というものを両方認めましょうかという話でしょうけれども、そういう形ではなくて、不実告知のやや変形として不告知が一部絡む場合のトータルとしての不実告知の場合に、どういう要件がいいかというところで今の案は出てきているのではないかと思います。

○山本(敬)座長 では大澤委員。

○大澤委員 すみません、私の言い方が悪いのが全ての原因なのですが、私が申し上げたかったのは説明義務と同じようにしましょうということではなく、先ほど来、重過失という要件をつけることでどういう違いがあるのですかという質問が出ていましたので、その判断の仕方として従来、説明義務でも同じようなことをしていたのではないでしょうかということですので、説明義務ももちろん原状回復的な賠償を認めるかどうかとか、そういう問題はいろいろありますので、全く同じにしろということではなく、重過失をつけることでどういう違いがあるのか。どういう違いがあるのかという御質問にものすごく変わってしまうのですかという意味も含まれているような気もしましたので、そういうことではなくて、今までもされていたのではないですかという趣旨で申し上げただけです。

以上です。

○山本(敬)座長 沖野委員、どうぞ。

○沖野委員 2点申し上げたいと思います。この4条2項の見直しの在り方といたしましては、従来2方向で考えられており、先行行為要件と故意要件というものをどう考えたらいいかという検討がされていました。その背景には一方では裁判例の展開がありますし、また、もともと4条2項自体が非常に分かりにくい規定であって、そもそも故意に隠すなら詐欺ではないかという問題もあり、松本理事長がおっしゃるような一部だけを出すというのは、結局それは不実告知そのものではないかという類型と、他方で告げないということを捉えた情報提供義務との関係で展開させられるべき点もある。その意味では類型化をして2方向で考えていくことがなお検討課題としては残っているとは思います。

ただ、これもおおむね御意見が一致しているように思いますけれども、今回の御提案にあるような故意のところに更に重大な過失という概念を加えるということ自体は、1つの在り方ではないかと思っております。それが1点目です。

2点目は長谷川委員の御質問についてなのですが、立証の観点から重過失を説明することが従来あったのかという点についてでして、私はこれはあったと思います。故意と重過失の関係については、重過失が要求される1つの理由ですとか、あるいはその機能として、故意というのは内心の意思の問題なので、その立証の困難さを緩和するという意味を持たされているという説明は決して異例なことではなくて、むしろ普通にされていると思います。

故意とリンクさせて故意に準じる。故意の要件とともに規定されて、故意に準ずるような場合をいうとされ、その中には立証の困難に対処するという面もあったということがありますけれども、ただ、重過失がそれに尽きるのかというと、やはりそうではなくて、他方でそれは、過失というか注意義務違反の程度が著しいという場合で、故意と切り離される場合もあると思います。典型的には錯誤の場合に錯誤者が重大な過失で錯誤に陥るというのは、これは意図的に錯誤に陥ることは考えられないわけですので、故意とは切り離されて重過失が問われます。 いずれにしてもそれは甚だしいというか、著しいということで、今回の意味合いとしては、したがいまして、一方ではとりわけ相談の現場で、正に故意要件ゆえに問題となってくる立証の困難ということに対して、故意に準じるような形でこれに対応するという観点があります。裁判所に行けば、それは証明の問題としていろいろな証拠を工夫して、何とか裁判所で認定されているということですが、その認定の詳細が判決からはよく分からないということもあって、それを直ちに相談の現場には生かしていけないということがありますので、そういう観点が1つと、もう一つはもともとがここにも書かれているような漫然と看過したとか、当然調べてしかるべきだとか、そのようなところですので、長谷川委員も先ほどおっしゃいましたが、取消しということが言われても仕方がないだろうというようなものを、故意と言わなくても取り入れるというような面と両方が入ってくるということではないかと思っておりまして、これらの両面において1つの考え方であり、重過失を入れるということには積極的に考えたいと思っております。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、河野委員。

○河野委員 いろいろ様々な法律的な御見解を伺っておりました。私自身は今回の御提案に関しては非常に単純な受け止めをしております。それは法律をしっかり執行することの重要性です。消費者契約の中でこのような条件において消費者が不利になることがあるから、この観点で消費者を救ってあげようというふうにして、この法第4条第2項が設けられているのですが、現状ではこの法律がしっかりと生きて使われているかというと、この法律は現場で生きたものになっていない。法律はあるけれども、使われていない。そのことに対してもう少ししっかりと対応をとっていこう。結果はどうであれ、もう少し消費者の実情に合った形でこの法律を生かしていくのであれば、今回のような重過失というものを付け加えることによって、よりこの法律を生きたのものにできると受け止めています。

是非故意のところに重過失を付けることで、現状とそれほど変わりがないという法律見解があるのであれば、この提案は貴重な第一歩だと思います。現場で使えない法律というのはあってもなくても同じだと感じておりますので、是非こういった形で前向きにしっかりと検討していただければと思っています。

○山本(敬)座長 では、後藤巻則座長代理。

○後藤(巻)座長代理 私も今回の消費者庁の提案に賛成であります。

判決の中で故意に全く触れないとか、あるいは故意を推認するという形で4条2項の適用を認めているという判決がありまして、重過失を規定するというのはそういう判決をより法的に明確にするだけの話ではないかと考えています。

例えば資料1の10ページの注16に挙げられている神戸地裁の姫路支部の判決でありますけれども、事案は太陽光発電システムの設置について、現在、特別にオール電化機器類をサービスで提供できること、本件オール電化機器類を設置した場合、ガス代がかからず、また、電気代も節約でき、これらにより月1万3,200円の光熱費が減少すると、消費者の利益になるかのような説明をする一方で、本件太陽光発電の設置工事の価格が国庫補助金交付申請書から算出した平均価格の約2倍で、最高価格に近い金額であることを告げなかったというものでありまして、この事例などでは具体的に判決では故意ということについて言及していないのでありますけれども、事業者に故意があると推認できるか、少なくとも重過失があると言えるものだと考えます。そうだとすると、今回、重過失という文言を加えることによって、こういう判決の明確化を図ることができるのではないかと思います。

これは一例ですけれども、事業者の故意に言及しない、あるいは故意を推認する判決というのは、少なくとも事業者の重大な過失がある場合として位置付けることが可能だろうと思います。これまでの専門調査会の議論の中では、先ほどから出ております2類型に分けることが提案されておりまして、私も結論的にはこの2類型に分けて考えていくことに賛成なのですけれども、少し気になる点としまして、2類型に分けた場合の故意の不告知の判断ということでありまして、先行行為要件を削除した下で故意の不告知をどういう形で認定するかというときに、不告知については告知義務がこういう場合にあるということを手掛かりにして、そこの義務違反ということを考えて、故意の不告知による取消しを考えていくという形になりますので、重要事項とも関係しますが、そこでの判断基準として告知義務はどういう場合にあるのかというところが検討される必要があって、必ずしもそれが明確でない状態で故意の不告知について議論するというのは、時期が少し尚早かなと考えます。

そのように考えますと、4条2項の現在の規定というのは、先行行為要件と不告知要件を組み合わせて作られていることから、先行行為との比較において不告知による義務違反の程度を判断できるという、そういう意味でのメリットがあり、重過失の判断がしやすい仕組みになっていると考えられると思います。

そういうことから4条2項の故意を故意または重過失と置き換えることによって、より明確に故意の推認をしたり、故意に言及していない判例を位置付けることができることになろうかと思いますので、特にこれで取消しの範囲が広くなるということではなくて、より法律的な構成の明確化を図った意味での改正だと考えます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

では鹿野委員。

○鹿野委員 私も既に多くの方から意見が出されましたように、主観的な要件について故意に加えて重大な過失を加えるということは一歩前進でありますし、従来の民事法的な考え方とも整合性があるということで賛成です。

その上で確認させていただきたいのですが、今回の資料の10ページの注18が付けられているところ、あるいはこの事例は11ページでも触れられているところがあるのですけれども、ここに、「不利益事実の不告知に関する裁判例の中には、必ずしも具体的な先行行為を明示的に認定することなく、故意要件が認められる場合に取消しを認めた例」があるとされています。今回の案は、先行行為要件については従来どおりということなのですが、この先行行為としてどの程度の内容のものが必要なのかということについては、具体的な事案にもよるし、解釈に委ねるということだと理解してよろしいでしょうか。

それとも若干関連するかもしれませんけれども、11ページの8行目から10行目のところで、今の事例について、「具体的な先行行為を明示的に認定することなく、故意要件が認められる場合に取消しを認めた例においても」、「重過失を認定することができれば、より容易に同様の結論を導くことができる」と書いてある点についてです。これは単純に、この事例では故意が認定されているけれども、仮に故意までの認定が難しいような事例でも、重過失で足りるのであれば、取消しにつながる可能性が増えるだろうという趣旨の記載として理解していいでしょうか。そこを確認させてください。

○山本(敬)座長 それでは、消費者庁からお願いいたします。

○消費者制度課担当者 今までも御議論いただいていたところだと思いますけれども、基本的にこの裁判例で示されているような解釈を提案によって何か変更するというものではございません。先ほど後藤座長代理もおっしゃったように説明しやすくなったりということを書いているわけでございます。基本的に先行行為要件を何か変更するとかいうことを述べているわけではありません。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。

では山本健司委員。

○山本(健)委員 資料1の提案内容は日弁連の立法提案と比較すれば不十分な内容であり、先行行為が必須の要件なのかという点や、重過失まで必要なのかという点については、将来の法改正に向けて検討を継続していただきたいと考えます。けれども、法改正に関するコンセンサスを形成するという観点から、今回の法改正では第1段階として、「先行行為要件の維持」「重過失要件の付加」という内容で取りまとめることに結論として賛成いたします。

日弁連は、先行行為で利益となる事実のみを告げて不利益事実を告げないのは不実告知と同じではないかという観点から、故意要件の削除を主張して参りました。また、純然たる不告知については、特商法と同じく故意要件のみでよいのではないか、先行行為要件は不可欠の要件ではないのではないかという意見を申し上げて参りました。

しかし、まず、先行行為の説明内容と不利益事実の不告知を併せ考慮して不実告知と同視できる事案は、現行法下でも実質的に不実告知であると評価して、不実告知に基づく取消規定が適用可能と考えられます。 問題は、そこまでいかない不利益事実の不告知の事案ですけれども、考え方としては、今も、先行行為要件は必須の要件ではないのではないか、もし先行行為要件を残すのならば主観的要件は故意のみではなく過失を含めてよいのではないかと考えております。

しかし、先行行為要件の削除や故意の要件緩和については反対意見も強いところですので、今回の法改正に関するコンセンサスを形成するという観点から、「先行行為要件の維持」「重過失の付加」でも一歩前進と考え、資料1の御提案内容での取りまとめに賛成したいと思います。 ただし、先行行為要件の要否や重過失まで必要なのか否かといった点については、第2段階の法改正の課題として、今後の判例の動向や相談現場の動向や意見を注視し続けていただきたいと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。

今の直前のやりとりからも明らかなとおりですけれども、今回の御提案は、現在の消費者契約法4条2項において、これも前から指摘されているとおり、具体的な先行行為が行われている場合について、故意を推認したり、あるいは故意について触れない裁判例がある。他方で、先行行為要件については必ずしも認定しないまま、故意があるとして取消しを認めた裁判例がある。このような裁判例をどう受け止めるかという点については、受け止め方に違いがあるところかもしれませんけれども、このような現在の消費者契約法4条2項をめぐる現在の法状況は、基本的には変えないとした上で、ただ、故意に関しては立証困難が以前からも指摘され、今回のアンケート等でもそれが明らかになり、また、他の法分野においても故意の認定が非常に難しく、それがネックになっているところもあることが指摘され、ここでもそれと共通した課題があるということで、この部分については、先ほど沖野委員の指摘もありましたように、故意を補う重過失とすることによって、本来の立法趣旨をよりよく実現することができるようにしてはどうかという提案ではないかと思います。

この提案の方向性自体については御理解が得られているのではないかと思います。問題は重過失という場合の重過失とはどのような意味か、ないしはどのように判断するか。そして、今回は具体例が1つ挙げられていますけれども、この例が適当なのか。あるいは他により適当な例があるのか、どのような例があるのかといった辺りで、むしろ提案の趣旨は理解しつつ、これが実際にどのように使われていくのかという点について確認が求められていたように思います。

ただ、実際の重過失の認定は個別の事案に即して行われるものでして、必ずこのようなルールに従って行うというものをなかなか示しにくいと言わざるを得ません。その意味では、今後さらに、他の法分野も含めてかもしれませんが、重過失の認定の在り方についてもう少し補足していただいて、そのような形で使われることが受け入れられるかどうか判断していただくことになるのではないかと思います。

あわせて、故意を重過失に変えてどう違うかという指摘に対しては、相談現場ではかなり大きな意味を持つことが繰り返し指摘されていました。裁判実務に関しても、故意の認定は間接事実の推認を用いて実際にやっていくのでしょうけれども、非常にハードルが高いように思います。その意味では、重過失とされることによって、もう少し違った認定が可能になってくる面もある。実質に非常に大きな違いが出るというわけではないかもしれませんが、最後のぎりぎりの一線のところで難しいとされてきた判断が緩和されるのではないかと思います。そのように、基本的な方向性については理解を得られつつも、若干の課題が指摘されたところでして、その辺りを更に補って次回以降に検討することができればと思います。そのようなところでよろしいでしょうか。

どうもありがとうございました。それでは、本日の議論はこの辺りとさせていただければと思います。御協力どうもありがとうございました。

最後に事務局から事務連絡をお願いいたします。


≪4.閉会≫

○丸山参事官 本日も熱心な御議論どうもありがとうございました。

次回は3月27日月曜日、15時からの開催を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。

○山本(敬)座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございます。

以上