第29回 消費者契約法専門調査会

日時

平成28年11月24日(木)15:00から18:10

場所

消費者委員会会議室

出席者

【委員】
山本敬三座長、後藤巻則座長代理、有山委員、石島委員、磯辺委員、井田委員、河野委員、後藤準委員、永江委員、中村委員、長谷川委員、増田委員、丸山委員、山本健司委員
【オブザーバー】
消費者委員会委員 河上委員長
法務省 中辻参事官
国民生活センター 松本理事長
【消費者庁】
小野審議官、加納消費者制度課長、消費者制度課担当者
【事務局】
黒木事務局長、福島審議官、丸山参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型
  3. 閉会

配布資料(資料は全てPDF形式となります。)

議事録

≪1.開会≫

○丸山参事官 委員の皆様おそろいですので、会議を始めたいと思います。

本日は、皆様、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。

ただいまから、消費者委員会第29回「消費者契約法専門調査会」を開催いたします。

本日は、所用によりまして、大澤委員、沖野委員、柳川委員、山本和彦委員が御欠席との御連絡をいただいております。

まず、お手元の配布資料の確認させていただきます。議事次第下部に配布資料一覧をお示ししております。

もし不足の資料がございましたら、事務局までお声がけのほうよろしくお願いいたします。

それでは、山本座長、以後の議事進行をよろしくお願いいたします。


≪2.合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型≫

○山本(敬)座長 本日もよろしくお願いいたします。

本日の議事に入ります。

本日は、合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型に関して、消費者庁から検討のための資料を御提出いただいておりますが、まずはこの論点に関連して、法務省から「民法の成年年齢の引下げの施行方法に関する意見募集」に対して寄せられた意見の概要について御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

○中辻参事官 法務省でございます。

資料1-1、1-2を机上に御用意いただいております。

法務省は、本年9月1日から30日までの1カ月間、民法の成年年齢引下げの施行方法についてパブリックコメントを実施しております。お手元の資料1-2は、その結果を概要としてまとめたもの、1-1は、それを更に分かりやすくポンチ絵にしたものです。本日は、資料1-1に沿ってパブリックコメントの結果の概要を御説明いたします。

パブリックコメントには、団体、個人を合わせて合計193件の意見が寄せられました。団体、個人の内訳としましては、団体が日本弁護士連合会、全国高等学校長協会、全国消費生活相談員協会を含む20の団体、個人は173名の方から御意見をいただいております。

いただいた意見の内容ですが、まず「第1 改正法施行時点の18歳、19歳に達している者が改正法施行日に一斉に成年に達することによる支障の有無」という問いに対しては、特段支障はないとの意見と、一斉施行とすることによる消費者被害の集中への懸念等から段階的施行とすべきとの意見の両論がありました。

次に「第2 施行までの周知期間」ですが、3年より長い周知期間が相当であるとの意見が多数であり、3年または3年より短い周知期間が相当であるとの意見は少数にとどまりました。周知期間を3年より長くすべきという多数意見の多くは、消費者保護施策の効果を生じさせることや、成年年齢が引き下がることを社会全体に浸透させるためには、相当長期の周知期間が必要であるということを理由とされています。

「第3 改正法の施行日」ですが、1月1日に賛成する意見もありましたが、教育現場に混乱を生じさせないため、年度替わりの4月1日を施行日とする意見が多数でございました。

「第4 施行に伴う支障について」ですが、これにつきましては支障があるとの意見が大多数を占めまして、具体的な支障としては、養育費の支払の終期が20歳までから18歳までに事実上繰り上がるとの問題を指摘するものや、新しく成年者となる18歳、19歳の若者がローン契約を締結して多重債務者となったり、消費者被害に遭う危険性が増大することが挙げられておりました。そのような問題に対する対策として、若年者の知識・経験の不足に乗じた契約からの救済措置を設けるべきであるとか、消費者教育を充実させるべきであるという意見もいただいております。

皆様御承知のとおり、現在、法務省におきましては、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる内容の民法の一部改正法案の準備を進めているところでございます。民法の改正法案を国会に提出する時期については、現時点で確定しているわけではありませんが、早ければ平成29年の通常国会に提出することも選択肢の一つであると考えております。

成年年齢引下げの法整備を行うためには、平成21年の法制審議会の答申でも触れられているとおり、消費者被害の拡大のおそれ等を防止するための施策の実現が必要であるとされています。これまでも政府内の関係部局が連携して民法の成年年齢の引下げに向けた環境整備施策に取り組んできたところであり、こうした施策が一定の成果を上げてきたものと認識しておりますが、先ほどお話ししたとおり、パブリックコメント手続におきましては、若年者の消費者被害の拡大に対する国民からの根強い不安が示されています。仮に消費者契約法が改正され、若年者を含めた形での消費者被害に対応するための規定が設けられることになれば、国民の皆様の不安を解消するための施策の一つとして、非常に大きな意義を有することになるものと思われます。そのような状況でございますので、本専門調査会におかれましても、若年者等に対する消費者被害対策について早急に御検討いただけますよう、お願い申し上げます。

以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ただいまの法務省からの説明内容につきまして、御意見や御質問のある方は御発言をお願いいたします。

石島委員。

○石島委員 説明ありがとうございました。

私からは、成年年齢引下げに係る議論を今回のテーマの取消権創設の理由の一つとすることについて前向きに議論をというように伺いましたけれども、これにつきましては明確に反対をいたします。対象年齢の消費者保護に係る強い懸念が存在するのであれば、成年年齢の引下げを実施しないというのが最大最良の解決であると思います。成年年齢の引下げを実施するならば、合理的な判断力を有し、消費者契約の締結を始めとした行為能力があるものとするべきだと思います。そして、対象年齢者をターゲットにした消費者被害が増大する懸念があるのであれば、それは消費者契約法において別途取消権を付与するといったような救済ではなく、徹底した消費者教育と事業者規制での対象を検討するべきかと思います。

それでもなお救済されないために取消権がこの論点に関連して必要という方向に行くのであれば、成年年齢引下げ自体について、国民的理解が足りていないということになるのではないかと思いますので、そうした議論を喚起するなど、反対の声を上げていくべきではないかと思いますし、その議論の主戦場は、この調査会ではないのではないかという懸念を持っています。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見あるいは御質問があれば、お出しいただければと思います。いかがでしょうか。

長谷川委員。

○長谷川委員 このタイミングで申し上げることかどうか分からないのですけれども、成年年齢の引下げに絡んで質問とお願いをさせていただきます。参考資料1で国民生活センターからの資料が配布されていますが、資料の1ページを見ますと、18歳から19歳の平均値と20歳から22歳の平均値で相談件数を比べられて、これだけ上がっているのだということでお示しになられています。

質問は、私どもで国民生活センターに伺うと、20歳代と答えた人は20歳に全部含まれてしまって分けられないのだというお答えをいただいていまして、ここのデータで20から22歳の平均値というのは、20歳代と答えた人が含まれているのかどうかを教えていただければと思います。

あと、ほかのデータを見ますと、17歳から18歳になって、要するに進学とかをして環境が変わったケースですね。そうすると相談件数が相当増えるという状況がございます。つまり取消権の有無にかかわらず、相談件数が増えているという状況なので、取消権の有無が問題の解決になるのかどうかという論点があると思っております。お願いしたいのは、各年齢の相談件数を何とか代というのが入っているかどうかも含めて、10歳代、20歳代に加え、30歳代、40歳代、50歳代も含めて出していただければ非常にありがたいと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 では、これは松本理事長からお願いいたします。

○松本理事長 相談現場の方から、相談員の感覚についてお話し願えれば一番いいわけですけれども、相談では、未成年者であるか、成人に達しているかというのは救済の方法ががらっと変わる関係があって、かなり丁寧に確認をしていると聞いております。しかし、20歳代としか答えていただけない方に、お答えいただけない限り相談に応じませんというような対応をとる相談員はいないと思います。成人である、したがって未成年者取消権が行使できないことを前提に相談に乗っていくということになります。20代としか分からなかった場合に、年齢を記入しないというやり方のほか、20代という意味で20歳とか25歳という記入がされる可能性も否定できません。

したがって、19歳と20歳だけを取り出すと、そこにはそういう必ずしも正確でない部分が入っている可能性があるわけですから、もう少し広げる形で、20歳、21歳、22歳という大学生の後半部分に相当する年齢でとってみました。そして、18歳、19歳というのは大学1年生、2年生ぐらいに相当する年齢ということです。その1歳あたりの平均を各年度でとった結果、大きな傾向で見れば、18歳、19歳と、20歳から22歳とでは有意な差が出ているということは明らかであろうと考えております。

○山本(敬)座長 長谷川委員。

○長谷川委員 いろいろな解説は多分できると思うのですけれども、要するにこの図は18歳と19歳の数字の平均値と、20歳と21歳と22歳と、あと20歳代と答えられた方も含まれた平均値を比べているという理解でよろしいでしょうか。

○松本理事長 20歳代と答えられた方というのを別枠で集計していない関係で、相談員の判断で、そういう場合にそれ以上細かく追求しないで20歳というふうにつけられている可能性があるのではないかと見ています。どれぐらいがそうかということは全く分かりません。したがって、19歳と20歳だけを取り出すというのは少し誤解を与える可能性があると考えています。

○山本(敬)座長 長谷川委員。

○長谷川委員 そういう集計上の限界があるのは非常によく分かりますし、相談の現場で何歳ですかと強く聞くのも望ましくない対応だと思っております。それはそれなのですけれども、政策形成といいますか、ルールメーキングの議論のベースにする数字ないしファクトとして可能なものは厳密にしたほうがいいと思いますので、そういう観点からの質問です。また、多分20歳代よりも30歳代、40歳代のほうが相談件数は多いと思っております。先ほどの話では20代半ばと答えたものが25歳とかに集計されている場合もあるかと思いますので、それも含めて年齢別のものをぜひ出していただければと思います。

○松本理事長 1歳刻みで出すと、先ほど言いましたように誤解を与える可能性もありますので、その出し方については少しまた検討させていただきたいと思います。

件数だけではなくて、中身の相談内容が年代によって変わってきているというところもよく見ていただきたいと思います。この資料の中でも書いていることでございますけれども、8ページに「契約内容について」という解説がございます。18歳から19歳、20歳から22歳とを分けても、例えば男女ともに「アダルト情報サイト」「賃貸アパート」「出会い系サイト」などが上位を占めているということでは、あまり違いはないということなのですが、他方で20歳から22歳の男性については、「フリーローン・サラ金」「他の内職・副業」「教養娯楽教材」といったものが上位に上がっている。他方、成人に達した女性の場合は、「脱毛エステ」「痩身エステ」「美顔エステ」といった美に関するものが上がっているというのが特徴として出ているということでございます。

これが30代とか、あるいは50代、60代になると、また傾向が変わってまいります。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

山本健司委員。

○山本(健)委員 成人年齢の引下げが若年者の消費者被害を増加させることは必定であると思います。例えば、参考資料1の【事例3】で「もう21歳だから自分で決めればいいのではないか」との執拗な勧誘がなされたという事例が紹介されておりますが、このような不当勧誘事例は類型的に認められる被害事例です。私事で恐縮ですけれども、私の娘が21歳の大学生で、先日、少額で参加できる体験料理教室に行った際に、パンが焼けるまでの間、ずっとオーブンの前で長期間の役務契約を勧誘され、「お金がかかる話なので親に相談したい」と言っても、「もう21歳なのだから自分で決められるはずだし、決めるべきことでしょう」と言われ続けたと言っておりました。少なくともそういう類型的な不当勧誘行為の対象が18歳、19歳にまで拡大するということですから、若年者の消費者被害が増加するのは間違いないと思います。

予防措置としての消費者教育や行政規制の検討も重要だと思います。しかしながら、実際に若年者の社会経験の乏しさによる判断力の不足に乗じて不必要・不相当な契約が締結されたといった被害実例が発生した場合の事後的な救済規定は別途に必要であると思います。具体的には、消費者契約法におけるつけ込み型不当勧誘取消規定が必要であると思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、河野委員。

○河野委員 成年年齢引下げに関して、この専門調査会のマターではないという御意見が出されたかと思いますが、私自身は、このことに関してここがやらなければどこがやるのだと思っているところでございます。成年年齢の引下げに関して言いますと、関係する法案というのはかなりの本数があると伺っています。それぞれの法律によって成年年齢というのがどのような意味合いを持って各法律中で規定されているのかということを考えていくと、消費者契約においては、成年というところで線引きがあり取消権が付与されているということです。契約において、私たちは成年年齢引下げということが社会においてどのような状況をもたらし、それに対して重要なのは、やはり消費者教育ですとか家庭教育、様々なそういった長期的な対応というところだと思いますが、直近で言えば、もう来年の通常国会に法案が出されるというところで、何らかの対応をここで考えていかなければ、私たちは不作為を問われるのではないかと考えております。

私たち、選挙権付与というのはかなり前からメディアに取り上げられておりましたので、かなり理解が進んでおりましたが、それと同時に成年年齢が引き下げられるということがしっかりと進行していて、もう既に法案提出に至るというこの時系列的な切迫感に気が付いたのは、まさに法務省がどういうやり方でこれを行えばいいかという今回のパブコメがかかるときに初めて、私たちは今こういう現状にいるのだということに気付かされました。その後、全国消団連では学習会を持ちましたし、大学生協連の学生たちとお話合いをしたり、このことに対して緊急アンケート等をとってまいりました。現在何の手だてもないままに現状変更になるということ、そのことに対して分かっているのに何も手を打たないということ、それは責任回避だと思っています。ぜひこの場で、どのような対策が必要なのかということを真剣に話し合っていただきたいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、増田委員。

○増田委員 松本理事長の発言に少し現場の意見から補足させていただきたいと思います。

未成年と未成年ではないといった場合の交渉の仕方、あるいは解決の方向性については全く異なりますので、そこはかなり厳密に確認をしていまして、必ず何歳ですかということを聞いております。特に20歳前後の方は、年齢を伝えることにちゅうちょはありませんので、例えばもう少し年齢がいくと言いたくないという方も中にはいらっしゃるのですけれども、そういうことはまずございませんので、大体においてはこの数字に余り違いはないと思っております。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、有山委員。

○有山委員 追ってまた補足部分かと思うのですが、20歳未満と以上というのは大変な違いであるのと同時に、学生であるかどうか。専門学校なのか、大学生なのか、そういうこともあわせて聞きます。それから、収入等も未成年者取消しのときに小遣いの範囲とか、どのぐらいのものかということも今後の交渉に使いますので、ほかの年代、30代、40代よりはきめ細やかに総合的に聴き取ります。初めは年齢を言わないようなお子さんでも、こういう目的で必要だから聞いているのよと言うと大体、詳細に教えてくれます。この20歳以上、未満というのは厳密に聞かれていると思っております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

中村委員。

○中村委員 中村でございます。

まず年齢の部分なのですけれども、18歳から20歳までの若年層について、判断力が不足しているのではないかというようなお話かと思うのですが、先ほど石島委員がおっしゃいましたように、もしそうだとするならば、それはすなわち成年年齢を引き下げないようにするべきだと考えております。

未成年者というのは、取消しができるということもありますけれども、そもそも論として、先回も申し上げましたが、自分の処分が許された財産を超えるものについては法定代理人の同意がなければ契約ができないということでございまして、取消しをできるという権利だけを持っているわけではなくて、契約ができるという権限と責任、契約に対する自分で理解をして契約するというものは、基本的に裏腹で伴ってくるものだと私は理解しております。

ということですので、そこで民法が定める成年年齢を18歳に引き下げるのが適当である、取引の場面など私法の領域においても自己の判断と責任において自立した活動ができるように引き下げるのが適当であると言っているときに、それに対して合理的な判断ができないのだとするのは、少なくとも矛盾しているのだろうなと思います。

一方で、そういう問題が起きてくることを懸念するということに対してどうするかということ、法改正云々も含めてというのはこれから更に議論をさせていただきたいと思いますけれども、基本は消費者教育をまずはやっていくということだと思うのですが、例えば18歳から20歳の方については、一度説明をしてから冷却期間を置かないと契約ができないようにするであるとか、そのような手段も考えられるのではないか。要するに、事業者の側からすると、実際に契約をしてしまって、準備をしたり、例えば私どもで言うと、食品をお渡ししてしまった後で取消されるということは、商品が全く無駄になってしまうということですので、取消しという行為に持っていくということは、社会的に見てもできるだけならないようにすることを考えるべきだと思います。そういうことも含めて今後議論させていただきたいと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

後藤準委員。

○後藤(準)委員 国民生活センター及び他の相談事例も読ませていただいたのですけれども、相談した後の結末はどうなっているのかということを少しお伺いしたい。相談が寄せられたということで、相談内容を聞いて、相談件数の一件だという形で処理が終わっているのか、また、数度にわたって相談があり、問題の解決のところまで行っている事案があるのかどうか。相談の中身の話です。

資料を拝見すると相談内容を踏まえた、消費者へのアドバイスというのは画一的に記載されているようですけれども、東京都の相談センターでも同じなのですが、簡単に大金を得ることは通常あり得ないとか、うまい話には飛びつくなとか、こういうことを言っておられるということなのですが、これ以外には今のところ具体的な話はやっておられないのか。要するに、啓蒙としてアドバイスをしているだけでなく、相談を受けた後の対応もされているのかどうかということをお聞きしたいと思っているのです。

○山本(敬)座長 松本理事長。

○松本理事長 相談を受けた後、センターとしてあっせんに入っているケースがかなりあると思います。場合によっては、あっせんに入らないで助言だけで終わっているというのもございます。あっせんに入って、事業者が応じてくれるケースもあれば、そうでないケースもあるということで、様々でございます。

ただ、我々が公表資料として出す場合につきましては、あっせん内容や解決内容については公表しないという扱いをしております。相談概要自体もそれぞれの個々の消費生活センターの情報でございまして、我々が公表する場合、それぞれを入力したセンターからこういう形で公表資料に使ってもいいという同意を得た上で使っているということです。解決内容の部分はかなりケースごとに違いもありますし、場合によってはそこから相談者が誰かということが同定されるリスク、個人情報保護の問題もございますので、公表資料の中ではそれは出しておりません。いわゆる手口情報といいましょうか、勧誘のやり方でこういう形のものがあり、問題だという形にとどめております。

ただ、そういう勧誘のやり方について苦情が入ってきているということ自体に大変重要な意味があって、それを基にして消費者に対して注意喚起する、啓発する、あるいは事業者に対して要望する、行政に対して要望するということをやっています。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

では、磯辺委員。

○磯辺委員 成年年齢の引下げで消費者被害が多発することが懸念されるという、その懸念がかなり根拠のあるもの、今の状況を見て非常に心配されるという認識は共有できるのではないかと思うのです。

対処として、もちろん民法の成年年齢引下げが中止になれば、それがベストなわけですけれども、多分、消費者契約の問題ではなくて、民法の成年年齢引下げに関してはほかにもいろいろな論点があるのだろうと思いますので、引下げがどのように必要になってきているのか、どういう議論がされているのかというのは、ぜひ中辻参事官に少しお話をいただければなと思います。

そういう進行状況の中で、やはりなかなか民法の成年年齢引下げ自体をやめるということに現実的な見通しが立たないということであれば、消費者被害の観点から見ている私どもは、やはり消費者契約法及び特定商取引法、ここは特定商取引法の検討の場ではありませんけれども、消費者契約法を検討するにおいて、この民法の成年年齢引下げが近々予定されるということを念頭に置いて、きちんと議論をしておくということが十分必要なことではないかと思う次第です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

民法の成年年齢引下げの改正に関する帰趨については、ここで議論するものではありませんので、この点については置くとしまして、現在の状況を見ながら消費者契約法において対応が必要かどうかをここで議論していただければということで、よろしいでしょうか。

後藤準委員。

○後藤(準)委員 先ほど申し上げたことと関連なのですけれども、事業者としては、今の状況より、改正をされた場合、契約の内容に様々な条件が今以上に付加されるのかどうか。このあたりは極めて重要な要素になっていると思うのです。現行と同じ程度で済むのであれば、親権であるとか後見人と同じ程度の条件設定とのことであれば、現状と同じ状況ですからそれで済んでしまう話になる。おそらく、石島委員がおっしゃっている趣旨もそうだと理解していますけれども、事業者側からすると、20歳から18歳に成人年齢を引き下げたことによって、親権であったり後見人が今までやって済んでいたこと以上の何か別のことをしなければ、今までは本人の親の了解をとればそれで契約ができたことが、親の了解ではない別のものとなり、かつ、それにより契約自体に今まで以上の負荷がかかってくる。そのことを事業者の側は心配しているということだと思うのです。

例えば18歳と19歳だけ特別に契約のときにいろいろな要件をつける。しかしながら、この相談の中身を見てみますと、20歳とかを超えた22歳ぐらいの人たちも同じような被害を受けている。では、この人たちは手当をしなくていいのか、18、19歳だけ手当を行う形にするのですかということが一番ここで大きな問題になるのかなということだと思っているのです。その辺のところも十分に現実対応ということでお考えをいただいて、単に18、19歳の問題なのか、そうでないのか、それとあわせて我々事業者としては、現行よりもこの新しい制度を導入されたことによって現行以上の負荷がかかるということは極力避けていただきたい。したがって、現行以上の負荷をかけるのであれば、今の条件のままでいいのではないかという議論になってしまうということだと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ただ、この後の議論の検討課題として示されているのは、合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型について何らかの手当てをするかどうかということでして、今、御指摘いただいたような若年者、特に18歳・19歳に限って撤回権や取消権のような手当てを類型的に創設するという案が出ているわけではありませんので、御意見として承りましたけれども、これから後の議論としては、御指摘のような事柄は現時点では必ずしも問題になっていないという前提で検討していただければと思います。

それでは、長谷川委員。

○長谷川委員 入口論のようなところで何度も申し訳ございません。先ほど増田委員、有山委員から、現場での処理の仕方について教えていただきましてどうもありがとうございました。

ただ、私が申し上げているのは、この数字で未成年と成年の分け方がすごく曖昧なのではないかと申し上げているのではございません。20歳から22歳の相談件数の平均の数字が、18歳から19歳の相談件数の平均の数字と比べて、実際20歳代と答えた人を除くとどれぐらい増えているのかということ、あるいはそれが分からなくても、20代と答えた人が入っているのか入っていないのかという点だけでも知りたいというのが1点でございます。

あと、相談対応の中身が重要だという松本理事長の御発言はまさにそのとおりだと思っておりまして、それゆえに、先ほど石島委員からも御発言がありましたように、一般的な消費者契約法ということではなくて、業法のような対応も考えてはどうかというのが第1回の会合のときから私の申し上げてきたところでございます。

その上で、消費者契約法の中で考えるということであれば、当然、取消権あるいは取消しではなくて無効というのもあるかもしれませんが。そういうものの効果がどういったものかというのを考えないといけないと思います。そのような観点に立ったときに具体的なデータとして、当然ながら19歳から20歳になったときにどれぐらい変わっているのかというデータも必要ですし、場合によっては、先ほどちょっと申し上げましたけれども、生活環境が変わっているという要因があるかもしれないので、17歳から18歳でどれぐらい変わったかというのも必要だと思います。

それから、後で出てきますけれども、勉強不足であるとか経験不足というのが仮に要因になっているとすれば、30代、40代と比べてどうなのかという数字も当然必要だと思います。なので、そういったデータも含めてお出しいただければありがたいということをお願いしている次第でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかによろしいでしょうか。

それでは、引き続きまして、今の御議論とも関連するところですが、成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループの議論状況について、事務局からの提出資料がありますので、資料3について御説明をお願いいたします。

○丸山参事官 事務局から御説明させていただきます。

資料3、タイトルといたしまして「成年年齢引下げ対等検討ワーキング・グループのヒアリング状況について」ということで資料を御用意させていただいております。

こちらのほう、9月20日以降ですけれども、直近まで8回、ワーキング・グループということで会合を開かせていただいております。状況につきまして、私のほうから簡単に御説明をさせていただきます。

まず1ページ目を御覧いただければと思います。

第1回ワーキング・グループにつきましては、本日も国民生活センターから資料の御提出がありましたけれども、同様に若年層について、18から22歳の消費者トラブルの実態についてということで国民生活センターから御報告がございました。

2回目、10月4日でございますけれども、有識者から若者の実態についてのヒアリングということで、お二方からお話をお伺いしました。お一人目は、宮本みち子先生ということで「成年年齢引下げによる『消費者としての若者』をどう位置づけるか?」ということでお話をいただいたのとともに、中央大学の古賀先生から「消費者としての若者」ということで御意見、実態の報告についていただいたところです。

3回目のワーキング・グループにつきましては、大学・高校、学生団体の関係者の方から消費者啓発、消費者教育の推進についてお話を伺いました。お一人目は明治大学の学生支援部学生相談室の室長から、こちらのほうの意識啓発と相談体制についてお話をいただいたということ。お二人目につきましては、合計2名なのですけれども、同志社生活協同組合、それから大学生協関連の消費者教育タスクチームの方からお話を伺いました。お三方目につきましては、茨城県の神栖高校の家庭科の先生から、消費者教育の実態と高校生の意識についてお話を伺ったところです。この回の最後の方といたしましては、横浜国立大学の工藤先生から、家庭科教育という観点からお話をいただきました。

続きまして、2ページ目でございますけれども、第4回につきましては、若年者の知識や判断力不足等につけ込む事業者の行為に対する規制の在り方についてということで、お三方、大学の先生からお話をお伺いいたしました。お一人目は、中央大の宮下先生から、適合性の配慮についてということ。お二人目は、京都産業大の坂東先生から、未成年者取消権が果たしてきた役割と若年消費者保護の課題について。お三方目、龍谷大の中田先生からは、海外の状況ということで、不公正取引方法指令における「攻撃的取引方法」の意義について、お話を伺いました。

続きまして、第5回目につきましては、事業者からヒアリングをさせていただきました。1番目は、訪問販売協会。2番目につきましては、日本エステティック機構。3番目につきましては、日本貸金業協会からお話を伺いました。

続きまして、第6回につきましては、関係省庁から、特に若者の被害が多い分野における現状と対策について、それから消費者教育、消費者啓発の取組についてヒアリングをさせていただきました。1番目は、消費者庁から、特定商取引法の執行状況について。2番目につきましては、東京都消費生活総合センターから、被害防止のための若年者への啓発・教育事業、それから消費者被害の状況についてお話を伺いました。それから、国民生活センターは、こちらの回につきましては、学校現場への直接的・間接的な教育研修の状況についてお話を伺いました。

続きまして、3ページ目ですけれども、第7回につきましては、同じく若者の知識や判断力不足等につけ込む事業者の行為に対する規制の在り方についてということで、こちらについては京都大学の潮見先生から、適合性原則について等々のお話を伺ったとともに、学生団体のほうから、消費者啓発、消費者教育の推進状況につきまして、関西で活動されている学生団体スマセレというところから状況についてお話をお伺いしました。

それから、22日、今週でございますけれども、第8回ということで、関係省庁から、若者の被害が多い分野、高額被害の発生を助長する与信等の分野における現状・対策、それから消費者教育の状況、教員養成課程の状況についてヒアリングをさせていただきました。1番目は、経済産業省から、クレジット分野における若者向けの消費者被害対策の実施状況について。2番目は、金融庁から、多重債務問題についての現状ですとか取組状況についてお話を伺うとともに、文部科学省からは、消費者教育の取組について、それから教員免許の制度についてお話を伺い、消費者庁からは、消費者教育の推進についてお話を伺ったところです。

また、来週につきましては、29日に次回会合を予定しておりまして、こちらにつきましては、主として法教育ですとか金融・経済教育の取組状況について、関係省庁から意見を伺うとともに、様々な団体のほうから成年年齢引下げに関しての御意見も伺う予定でおります。

今後につきましては、12月の取りまとめに向けまして、数回程度、ワーキング・グループを開かせていただいて、取りまとめという形でつなげていきたいと思っております。

御報告については以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

以上の点について御質問等がありましたら、お出しいただければと思います。いかがでしょうか。よろしいでしょうか。

それでは、続きまして、消費者庁から資料2について御説明いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○加納消費者制度課長 それでは、資料2につきまして御説明をしたいと思います。

今回、消費者契約法の議論を再開するに当たりまして、私どもとしては、合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型というものから取り上げるのが適当であろうと考えて資料を準備いたしました。

まず2ページから、なぜこの論点なのかということであります。

1.は、これまでのこの専門調査会における議論をもう一度敷衍して整理したものでありますが、(1)の中間取りまとめというところで、枠内に書かせていただいております。2行目から3行目ぐらいでありますけれども、こういった消費者の判断力の不足等を利用して、不必要な契約を締結させるという事例については、一定の手当てを講ずる必要性があるということについては特に異論が見られなかったということであります。ただ、その際、適用範囲を明確にする。先ほど後藤準委員から御指摘があったのもこの趣旨であろうと、私はお聞きしながら理解をするわけでありますが、もちろん事業者の正当な事業活動には影響を与えない範囲で、しかしながら、不当な勧誘については取消事由として規律を明確化していくことが、この専門調査会の一定の成案ではないかという理解をしておりまして、これについては検討の必要性が、コンセンサスが得られているものと理解をしていたところでございます。

これにつきまして、消費者契約法において一定の手当てをいたしました。(2)から書いてあるところでございますが、結論としては、過量契約ということで、通常必要とする分量等を著しく超える内容の契約については取消事由とするといった手当てを講じました。これは先ほどの後藤準委員の御指摘に対応して、規律の明確化を図ったというものであります。ただ、これは過量というものが取消事由になっておりますので、必ずしも過量ではない不当な勧誘については、なお課題が残っているというのが4ページの専門調査会の記述でありまして、私の理解としては、この専門調査会における合意事項として、過量でないつけ込み型とについては、引き続き検討する必要があるというコンセンサスが得られているものと理解をしております。

さらに、それに加えまして、民法の成年年齢の引下げの議論があると考えておりまして、それが5ページの2.以下のところでありますが、若年者も判断力が不足しているという被害事例の一つの典型例ではないかと思われるところであります。

先ほど長谷川委員からデータについての御指摘がございましたので、この点については国民生活センターとも御相談をした上で、更に検討をさせていただきたいと思いますが、被害事例を見る限り、あるいは相談に当たっている相談員、弁護士などのお話を聞く限りは、若年者において、その社会経験の不足や知識のなさなどから、十分に考えることなく不必要な契約を締結して被害に遭う。それが現行では、未成年者であれば未成年者取消しということで対応できるところもあるけれども、それがなくなったら、少なくともその部分においては保護が及ばなくなることについてどう考えるのかというのが今般の法務省がパブリックコメントをされて、その中で懸念事項として指摘されたことではないかと理解をしております。

また、この合理的な判断をすることができない事情を利用した契約の締結類型というものにつきまして、6ページの(2)でありますが、丸山参事官から御紹介がありましたとおり、この消費者委員会におけるワーキング・グループにおいても議論が進捗をしているとお聞きしておりまして、その議論の動向も踏まえて検討する必要があるのではないかと考えられるところであります。

他方で(3)に書かせていただいたところでございますけれども、この規律の在り方をどうするかということにつきましては、様々な要素を勘案して検討する必要があると思われるところでありまして、どういった事例を念頭に置きながら、どういった規律があり得るのかということを整理していくことが必要ではないかと考えるところでございます。

8ページから、どういう事例を念頭に置きながら検討するのかということで、第2としまして「事例の整理・分析」と書いたところであります。

1.に書かせていただきましたとおり、過量ではない、例えば著しく高額な商品。たくさん買っているわけではなくて、単体で1つ買うのですけれども、その消費者の生活状況とかいったところからしますと身の丈に合わないといいますか、非常に高額であると。高額な商品を買ったからといって直ちにどうかというのではありませんが、その高額な商品を買わせる上で不当な勧誘がされたような場合につきましては、手当ての必要性が高いのではないかと考えられるところであります。

他方で、「また」というところに書きましたが、本質は判断力の不足でありますとか、知識・経験の不足、心理的な圧迫状態などの合理的な判断を妨げるような事情があって、それを積極的に事業者が利用した、つけ込んだという場合は、本来自由な意思決定に基づいて契約締結すべき環境が阻害されたということでありますので、問題はやはりそういった不公正な勧誘の仕方である。そうしますと、必ずしも不利益が課題であるということが認められなくても、取消しを認めるべきであるという考え方もあろうかと思います。これは似たような議論が法制審議会における暴利行為に関して指摘されていると理解をしているところであります。

具体的な事例でありますけれども、9ページの「2.被害事例の整理・分析」で幾つかの事例を紹介しつつ、一定の整理を(1)から(4)まで、合理的な判断をすることができない事情として何を利用しているのかという点について着目して整理を試みたものであります。

(1)は知識・経験の不足の利用ということでありまして、例えば事例1-1を御覧いただきますと、若者によく見られるわけでありますが、就職を考えてセミナーに行くということでありますけれども、その際、意識調査とかアンケートというような形でまずは声をかける。その後、無料の説明会などに誘って事務所に来訪させた上で、このケースの場合には更に、一生成功しないなどの不安をあおる言動があったということでありますが、それで受講契約について勧誘したといったケースであります。

事例1-2は、必ずしも若者というわけではなく、独居の高齢者というケースでありまして、このケースであれば、その所有する不動産を売却したというケースでありますが、その売却の価格が時価に比べると著しく安価であるというケースであります。ただ、その勧誘の際に、不動産相場に疎いことを予期しつつ、突然電話をかけて、更に電話で直ちに契約の合意と手順までをも決めて契約させたということでありまして、判断する機会を与えることなく契約締結に至るケースがある。1-2は高齢者のケースでありますが、若年者以外にも高齢者のケースにおいてもこういったケースがあり得るのではないかということであります。

点線の下のほうに書かせていただきましたが、こうした事例から、例えば3段落目あたりですけれども、一つには事業者による不意打ち的な消費者への接近と、あとでまた詳細に御説明をしたいと思いますが、こういった接近を端緒として契約をするといった場合に、本来必要でない契約をしてしまうということが類型的に発生し得るのではないかと考えております。

もう一つが、一生成功しないなどといった不安をあおる言動から、消費者が本来必要でない契約をしてしまう。ここに不実告知とかはないわけでありますけれども、こういったことで本来不要なものについて契約するといったケースがあるのではないかということであります。

10ページに書かせていただきましたのは、消費者に十分判断する機会を与えないといった手口もあるわけでありまして、これらの事例から言えるのではないかということとしては、消費者の知識・経験の不足を前提としつつ、一定の不公正な行為というのがあって、それによって消費者の合理的な判断をすることができない事情を作出あるいは増幅し、不公正な契約が締結されるということではないかと思います。

(2)は断り切れない人間関係の利用ということでありまして、事例2-1から幾つか御紹介しておりますが、いずれもデート商法とか言われる手口でありまして、若者によく見られるものであります。それらについて、総じて見受けられることとしましては、例えば2-1で言いますと、女性の従業員が親しげに話すとか、そういう形で男性をよい気分にさせる、あるいは見栄を張っているところを利用するということで、雰囲気にのませ、商品の購入を断れなくして、宝石等の非常に高額なもの購入させているというケースであります。

2-2は同じようなケースでありますがDVDの教材、2-3は真珠のセットということでありまして、高額な商品について購入しているというケースであります。

(3)は心理的な圧迫というものであります。3-1から3-4を御覧いただきますと、いずれも霊感商法と言われることがありますが、そういったケースであります。心理的な圧迫状態としましては、13ページの2段落目でありますが、消費者の抱える病気とか家族の死亡、離婚といった家庭の事情などがあるわけでありまして、こういった人々が抱える悩みというのがある場合に、その悩みをつくような形で勧誘がされる。内容が余りないような商品などの購入をさせられるといったケースであります。

確かに宗教行為というのはそれ自体自由でありますが、13ページの中ほど下に書かせていただきました「しかしながら」というところでありますけれども、消費者の抱える悩みを知りつつ、それにつけ込んで財産を得る目的で殊更に不安をあおり、高額な支払をさせているという場合には、社会的相当性を逸脱するということではないか。裁判例などがあるということで書いております。

(4)は判断力の不足の利用ということであります。この判断力の不足のケースで事例4として御紹介しておりますのは、認知症の方ということでありまして、十分な判断力がない。そういった状態を知悉しながら誘い込まれたというケースでありまして、このケースは、例えば過量契約というものに該当するのであれば、そこでの手当ても可能でありますが、不動産を単体で、更に消費者が売主として売却したというケースでありまして、消費者契約法の過量契約の規律は当てはまらないと思われるものであります。

以上のような幾つかの事例を御紹介いたしまして、こうした問題はいずれも古くて新しいといいますか、いわゆるデート商法でありますとか、霊感商法でありますとか、そういった問題は今に始まったわけではなく、従前からあったと思われる事例でありまして、従前は民法の不法行為でありますとか、公序良俗無効といったもので一定の対処がされてきたものと理解をしているものでありますけれども、それを消費者契約法においてどう受けとめるかというのは、過量契約の場合と同じ問題ないし課題があると認識をしているところであります。

そこで、19ページ、第3のところで、具体的にどうするかということでありまして、これはあくまでもたたき台の案でありますけれども、お示しをしております。

1つはモデルマル1としてお示しいたしましたが、これは過量契約のモデルを過量でない場合にも踏襲するとしたらこういったことが考えられるのではないかということで考えてみたものであります。消費者の状況として点線で囲っておりますが、既に合理的な判断をすることができない事情がある。例えば認知症の方がおられるとしますと、合理的な判断ができないということでありますから、その場合にそれを知りながら勧誘するということでありまして、そうすることによって事業者が不当な利益を得ることになる勧誘をするというふうに見ることができるのではないかというものであります。

もう一つがモデルマル2ということでありまして、これは合理的な判断をすることができない事情をむしろ事業者が積極的に作出する、あるいは既にあるものを増幅するといった不公正な行為があって、それに基づいて契約を締結するというパターンのものでありまして、モデルマル1との違いは、その作出または増幅という不公正な行為がある。逆に言えば、そういったものを切り出して規律の適用対象にしていくというアプローチであります。

19ページの1.から、状況を知りながらの勧誘ということで、モデルマル1について敷衍して書いております。こういった場合、外形的・客観的に見ると、必ずしも消費者に誤認や困惑を生じさせる働きかけを行っているわけではないと考えられるわけでありますが、事業者が主観的に、消費者に「合理的な判断をすることができない事情」があるということを知りながら、利用する目的で勧誘するというものについては、不当性が認められるのではないかということでありまして過量契約の考え方を踏襲するものであります。

そこで、その対象をどうするかというのが問題になってくるわけであります。(1)でありますけれども、過量契約の場合であれば、これは過量ということで考えたわけであります。これに変わるものとして何らか考える必要があるということでありまして、ここをどう考えるか。これは非常に難しいところでありますけれども、結論として、20ページの最後の段落に書かせていただいたとおり、若年者というところも念頭に置きますと、例えば「年齢等に応じた生活の状況等に照らして通常不要とされるもの」といった規律の枠組みがあり得るのではないかということであります。もちろん、この生活の状況等といったところにどういったものを読み込むか、さらには、その「等」としてどういった考慮事情を加えるかといったところは、まだ議論の必要があると考えているわけでありますけれども、過量契約と同じ枠組みで過量でないものを捉えるという規律の在り方が考えられるのではないかというものであります。

いま一つは(2)「誤認」・「困惑」を知りながらの勧誘ということでありますが、これはちょっとアプローチが変わってまいりますけれども、「合理的な判断をすることができない事情」として、消費者が既に「誤認」ないし「困惑」をしてしまっているという状況を捉えることを考えてはどうかというものであります。「誤認」・「困惑」が既にあるとしますと、それに基づいて誤った判断をするということが想定されるわけでありますので、それを知りながらの対象として想定してはどうかというものであります。

(3)の「知りながらの勧誘」の意義というのは、(1)(2)に共通する課題となるわけでありますけれども、やはり過量契約とパラレルに考えてまいりますと、事業者の不当性を基礎づけるものとしては、事業者の積極的な勧誘、具体的には当該事情について知りながら勧誘を行うというような場合に限っていくということではないかと考えます。

最終段落で「したがって」と、スーパーマーケットの例等を書いておりますが、ここに書かせていただいたものは、過量契約における考え方を踏襲するものであります。

22ページは、「以上を踏まえ」としまして、A案、B案という形で書いてみました。もちろんこれは一つのたたき台でありますので、これを基に更に規定の明確化をどうするかということについて御意見を頂戴できれば大変ありがたいと思うところであります。

続きまして、23ページの「2.不公正な行為による事情の作出・増幅」というものであります。

これは既に合理的な判断をすることができない事情がある場合というわけではなくて、まだないところそれを作出したり、あるいは既にあるのであればそれを増幅する、より不合理な判断をするように仕向けるというようなものを捉えていって、逆に言えば、そういったものを切り出して取消事由としていってはどうかというものであります。

ここで(1)としまして社会心理学の知見ということで、御参考まででありますが、言われているところを書いてみました。これは御紹介ということでありまして、24ページのイ、ウ、エということで、「コミットメントと一貫性」、「返報性」、「好意」、「社会的証明」、「権威」、「希少性」というようなことで書かせていただいております。

ちょっと補足して御説明いたしますと、「コミットメントと一貫性」ということでありますが、消費者は、一旦他者に対して表明した意見を変えようとせず、あるいは類似した行動を一貫してとろうとするということでありまして、言われておりますのは、例えばということでありますけれども、後ほど御紹介いたしますが、キャッチセールスのようなケースでありまして、ある商品に関心がないかと声をかけ、余りその段階では深いことを考えずに、ありますよというようなことを消費者が答えた場合、更に、ではこういった商品がありますよと、二の矢、三の矢という形で働きかけがされ、それに対してだんだんとその契約、物を買わなくてはいけないということが分かってくるわけでありますけれども、最初、私はその商品に関心があると言ったと。さらには、いろいろとその人が親切に丁寧に説明してくれたということがあって、後でやはり要りませんとは言えないということで、判断過程がだんだんゆがめられていくといったことがあり得るのではないかというものであります。

ウの「返報性」あるいは「好意」というものでありますけれども、これも先ほどデート商法とかを御紹介いたしましたが、好意を示してくれた場合に、自分も同様の好意を与えなくてはいけないのだということでありまして、そこで商品の必要性に関する判断がゆがめられてしまって、要らないものを買うということが考えられるのではないかということであります。

その次の「社会的証明」「権威」「希少性」ということでありまして、「社会的証明」、例えば社会一般の人がどのように考えているか。御近所はどうですか、みんな買っていますとか言われると、そうかなと思って買うとか、あるいは「権威」でありますけれども、例えば公的機関が認証した製品ですよと言えば買うとか、「希少性」というのは、数量限定商品であって、今だけであると言われたら買うとか、そういった心理傾向について指摘がされているところであります。

ただ、注意をお願いしたいのは、25ページの2段落目の「これらの」というところに書いてありますように、これらは多かれ少なかれ、通常の商売においてもある程度されていることがあり得るのではないかということでありまして、これらがあるから直ちに違法だとか、直ちに不当だとかというものではありません。ただ、正当な範囲を逸脱して行き過ぎた営業活動というような場合には、消費者の意思決定がゆがめられていると言えるのではないかということでありまして、手当ての必要性が生じてくるのではないかということであります。

具体的に(2)でどういった不当な行為を切り出すのかと、ここが難しいわけであります。ここを適切に切り出して規律の対象にするというのが後藤準委員の御指摘に対する答えになるのではないかと思うわけでありますが、例えばということで、アから幾つかお示ししてみました。

まずは「ア 本来の目的を隠した接近」というものであります。先ほどコミットメントと申し上げましたけれども、やはり不意打ち的な状況になりますと、消費者としては十分な検討をせずにそのまま契約締結の意思決定をしてしまうということが考えられるわけでありまして、その消費者の知識・経験の不足とかそういった事情と相まって、事業者の勧誘する目的を隠した接近ということによって、合理的な判断をすることができない事情が作出なり増幅されることが考えられるということであります。この点につきましては、特商法上のアポイントメントセールスによる手当てというのも一定考えられるところではありますが、意思決定のゆがみという観点からいたしますと、クーリング・オフとは別途、こういった手当ての必要性があるのではないかと考えておりまして、この点については御意見を頂戴できればと思いますけれども、意思決定のゆがみという点に着目いたしますと、消費者契約法における手当てが考えられるということで書いております。

「イ 十分に判断する機会の非付与」ということでありまして、これも事例でいきなり決断を迫られたというようなケースがありますが、こういうことでありますと、消費者として十分に情報を吟味し処理することができないまま判断をするということになるわけでありまして、そこにはやはり意思決定のゆがみがあるのではないかということでありまして、さらには「返報性」や「好意」といったことや「社会的証明」「権威」といったものが加味されますと、合理的な判断ができないということになるのではないかということであります。

それから「ウ 殊更に不安を煽る告知」というものでありますが、典型的には霊感商法と言われるものに見られるかと思いますけれども、それ以外にも、セミナーで一生成功しないよとか、そのように言われますと、学生であれば就職しなくてはいけないということで、就職先を見つけるためにはわらをもすがる思いということがあり得るわけでありまして、そうした場合、これによって判断がゆがめられることがあるのではないかということであります。

なお、これらにつきましては、27ページの2段落目で、不実告知であるとか断定的判断の提供ということでの手当てができればそれにこしたことはないのですけれども、現行法の解釈を前提とする限りは難しいところがあるのではないかということでありまして、なお手当ての必要性が残るのではないかということであります。

最後でありますけれども「エ 断りきれない人間関係の構築」というものでありまして、デート商法などに見られるわけでありますけれども、「返報性」や「好意」を利用するということでありまして、そういった状況を作出する。こういったものについても手当ての必要性があるのではないかということであります。

以上を前提としますと、28ページに(3)で書かせていただきましたが、アイウエと幾つか行為の切り出しということでお示しいたしました。必ずしもこれで過不足なく切り出せているかという点はまだ自信がないところでありますので、委員の皆様の御議論を踏まえた上で、更に検討を重ねてまいりたいと思いますが、仮にこういった行為の切り出しをすることができるのであれば、それらを組み合わせたりすることによって、C案、D案という形で一定の組合せということで、これは事例に照らしてこんなことが考えられないかということでお示しした程度でありますので、まだまだバリエーションはあり得るかと思いますし、必ずしも組み合わせなくても単体で規律の対象にしていくといった発想もあり得るかと思いますので、そういった点について御議論をお願いできればと思います。

御説明は以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

本日のこれからの進行ですけれども、まずはこの資料2の「第1 本論点を優先的に検討すべきと考えられる状況等」と「第2 事例の整理・分析」についての質疑及び意見交換を行って、その後「第3 具体的な対応策の検討」についての質疑及び意見交換を行わせていただくということで、残りの時間を区切ることとさせていただけばと思います。よろしいでしょうか。

それでは、まず、先ほどの消費者庁からの説明内容のうち、「第1 本論点を優先的に検討すべきと考えらえる状況等」及び「第2 事例の整理・分析」につきまして、御意見や御質問をお伺いしたいと思いますが、その前に、後藤巻則座長代理から資料の御提出がありますので、この点について御説明いただけるでしょうか。

○後藤(巻)座長代理 資料4-1と4-2を出させていただきました。

成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループにオブザーバーとして参加していますので、同ワーキング・グループで実施された学識経験者からのヒアリングのうち、本日のテーマに関係するものであります中央大学の宮下教授と京都大学の潮見教授の御見解について、短く御報告をさせていただきます。

資料4-1が宮下教授の御見解です。

1ページですけれども、現在の未成年者取消権が18歳、19歳に適用されなくなると、若年者の消費者被害が増えるという懸念があります。そこで、若年者が自分にふさわしくない契約をした場合の救済法理を考える必要があるという問題意識から、適合性原則に着目します。2ページで適合性原則とは何かということが書いてありますけれども、3ページに行っていただいて、適合性原則は、証券取引の分野で導入され、金融サービス、そして投資サービスの分野全般をカバーする法理として広がってきたルールですけれども、現在、消費者取引にも守備範囲を拡大してきています。もっとも消費者取引に適合性原則を導入することに対しては抵抗感もありまして、一つは適合性原則は商品特性や顧客の属性を勘案するという個別性のある勧誘ルールであって、消費者契約の一般法である消費者契約法に導入することは不適切であるという議論があります。

また、適合性原則は、顧客の知識や資産状況について事業者に調査・確認義務を課すことにつながりますので、消費者取引一般に導入すると悪質業者に個人情報を垂れ流すことになるのではないかという懸念もあります。

4ページでありますけれども、しかし、若年者あるいは高齢者という顧客の属性に着目した形であれば、ルール化が可能ではないか。高齢者の場合は資産を持っているケースが多いので、そこを確認することにもなるけれども、若年者ということであれば、資産を持っていないのが普通でありましょうから、年齢を確認するということで足りるのではないかと宮下教授は述べられております。

そこで、5ページですけれども、若年者の消費者取引における適合性の配慮として具体的に4つの提案をしております。

提案1としまして、適合性原則の一つの徴表ということができるつけ込み型不当勧誘と接続させる形で、若年者も念頭に置いて年齢等の当事者の属性に着目して、その状況を利用して契約を締結させた場合に、契約取消権の行使を認める規定を消費者契約法に設けるという立法提案をしております。5ページの囲みで立法提案が書かれております。

提案2でありますけれども、消費者取引に際して年齢等の属性を踏まえた適合性に配慮する必要性があることを消費者契約法の中で明記する。

提案3でありますけれども、若年者の取引をめぐるトラブルは、特定商取引法の対象となる取引が多いことから、現在は特定商取引法で適合性原則は指示事項という形で、しかも省令に委ねられているわけですけれども、これを法令事項にした上で、可能であればこれに取消権を付与する。

6ページでありますけれども、提案4として囲みの立法提案1というものをしておりまして、年齢等を理由として合理的な判断ができない状況にある消費者について、損害賠償請求権を付与するという提案をなさっております。

あるいは囲みの立法提案2ですけれども、現行の消費者契約法3条1項の事業者による情報提供努力義務の規定につき、若年者も念頭に置いて、年齢等に配慮した情報提供を行うべき旨を明記することを提案しております。ただし、立法提案2は、先ほどの消費者契約法3条1項が努力義務という形になっておりますので、できたらこれ以外の方法が望ましいということをおっしゃっております。

宮下教授は、以上のような幾つかの提案をなさっておりますけれども、質疑において、できるならば取消権があったほうが望ましいと述べられております。また、消費者契約法の中にルールが入った場合に適格消費者団体や特定適格消費者団体が訴訟をするときに定型的な判断ができるような要件立てにしておくことが望ましいのではないかという質問に対して、できるだけ客観的に捉えるという観点から、5ページの囲みの立法提案の中で、代替案ということで括弧に入っているところを提案したと述べられております。

5ページの囲みのところの代替案というのは、特に客観的要件ということを意識して記述したということを述べております。

宮下教授との質疑応答は、もっとたくさんあったわけでありますけれども、時間の関係で以上の御紹介にとどめさせていただきます。

次に、資料4-2は潮見教授の見解であります。

1ページから3ページにわたってでありますけれども、適合性原則は、投資取引において取引耐性に欠ける者を商品先物取引や金融商品取引の市場から排除するための論理として登場してきたもので、元来は投資取引における業者ルールあるいは業法ルールとして、当該市場における事業者レベルでの行為規制として展開を見て、今日に至っているものであって、排除の論理としての適合性の原則を投資取引の場面を超えて一般化することは疑問であると述べておられます。

さらに、広義の適合性原則を民事上の効果と結びついたルールとして展開する場合には、民法の枠組みのもとでの説明が必要であること、それから、消費者基本法2条2項というのは、3ページにどういう規定なのかということが囲みのところでありますけれども、その2条2項が適合性の原則を体現するものかどうかという問いは、適合性の原則が多義的である以上、意味を持たないという指摘をしております。

4ページですけれども、年齢に対する配慮ということに関する基本的な考え方として、囲みの中に2つが上がっています。1つは、近代民法の考えている枠組みからのアプローチ、もう一つは、消費者契約法の下での枠組みからのアプローチであります。

まず、囲みの中の近代民法下での意思能力・行為能力制度というところですけれども、知的・社会的・経済的成熟度、言いかえると自己決定能力でありますが、その不足というものが合理的な意思決定を妨げている状況がある場合に、それはその者にとっては自律的な意思決定とは言えない。したがって、取引の効力を否定するということをおっしゃっております。

そのための制度として、マル1理性的に判断・決定をすることのできる能力を欠く者のした法律行為の効力を否定する制度としての意思能力の制度。さらに、これを補充するものとしての行為能力制度。

マル2として、動機づけ・意思形成の過程及び意思決定において不完全があった場合に意思表示の効力を否定する制度としての瑕疵ある意思表示の制度。錯誤とか詐欺、強迫などの制度であります。

マル3として、相手方が表意者の意思の脆弱性につけ込んで表意者の自己決定権を侵害する行為をした場合に法律行為の効力を否定する制度としての暴利行為の制度がありますけれども、消費者契約法の下で無価値判断の観点からは、5ページでありますけれども、現行の消費者契約法の規律において、情報格差・交渉力格差が考慮されているのは、先ほど述べましたマル2とマル3の面であって、先ほどのマル1の観点、つまり理性的に判断・決定することのできる能力を欠く者のした法律行為の効力を否定する制度としての意思能力の制度、それから行為能力制度、この観点は原理レベルのものも含めて消費者契約法に明示されていないという指摘をされております。その上で、消費者の知的・社会的・経済的成熟度は、情報収集面にも、動機付け・意思形成・意思決定面にも大きな影響を及ぼし、しかも、現行の意思能力制度や制限行為能力制度でこれに対応することには限界があることから、消費者取引被害の実態及び消費者取引における事業者、消費者の情報面、交渉力の面での構造的格差を考慮に入れたときに消費者取引の効力を評価するに当たり、消費者の知的・社会的・経済的成熟度を重視し、それを消費者契約法の規律に取り込むことは十分検討に値すると指摘されております。

6ページ、以上の基本的な考え方を具体的な制度・準則面にどう反映させるかということですけれども、(1)として説明義務・情報提供義務の枠組みを用いる方法が示されています。具体的には、事業者による情報の提供、意見・判断の提供が、消費者の知的・社会的・経済的成熟度の不足、これは年齢等のことでありますが、そのゆえに事業者・消費者間の構造的な情報格差・交渉力格差を介して消費者の意思決定に影響を及ぼすことがあり得るという認識のもとで、消費者契約法4条の規定を解釈運用するという提案をしております。

次に、7ページの(2)つけ込み型勧誘による法律行為に対する効力否定の枠組みを示しておりまして、事業者による消費者の意思決定過程への介入が、消費者の知的・社会的・経済的成熟度の不足、これは年齢等によるものでありますが、その不足のゆえに事業者・消費者間の構造的な情報格差・交渉力格差を介して、消費者の意思決定に影響を及ぼすことがあり得るという観点から、暴利行為のルールを活用することを提案しております。法制審議会民法(債権関係)部会では暴利行為の議論をしたものの、結局は規定に盛り込まれませんでしたけれども、その理由の一つとしては、このような規定が必要であったとしても、これは消費者契約という場面で問題になることであり、新たな規定を設けるのであれば、民法ではなく消費者契約法の領域で議論をすればよいという意見が出ていたところであって、消費者契約法のほうでこれを引き取って、何らかの形で考える必要があると述べられました。

その際に、囲みの中のマル1でありますけれども、暴利行為のルールにおいて決定的なのは、表意者の窮状・経験不足・判断力不足・意思の脆弱性につけ込む行為を事業者がすることにより、表意者の意思決定過程が他方当事者によりコントロールされ、自由な意思決定をすることができなかったということであって、利益の過大性は本質的なものではないと述べられております。

それから、マル2でありますけれども、情報格差、交渉力格差の存在が消費者の脆弱性へのつけ込みによる取引を招来するリスクを構造的に内包しているという点に鑑みたならば、このような意味での暴利行為ルールを少なくとも消費者契約法に導入することに意義があるとされております。

その際に、マル3でありますけれども、消費者の知的・社会的・経済的成熟度の不足、年齢等によるものに乗じて事業者がした行為の結果として、消費者の自己決定権が侵害されているという局面に対応するために、当該取引の効力を否定するルールの中に知的・社会的・経済的成熟度の不足、年齢等の要素を明示する必要があるという提案をしております。

質疑の中でもたくさんの応答があったわけでありますけれども、まずは特商法よりも消費者契約法の中でルールを考えるのが有益であるということ、それから、現在の4条の適用範囲が狭いことから、消費者契約法4条の規定を解釈、運用するというアプローチよりも、つけ込み型勧誘の規制を考えるほうがよいということを述べています。

それから、過量契約の取消し、この条文が新設されたわけでありますけれども、それとの関係でありますが、過量契約の場合は規定の体裁上、過量性という内容面も意識した形での効力否定ルールを立てているけれども、今回提案したつけ込み型の場合には、意思決定過程に対して不当にまさにつけ込んでコントロールをしているので、観点が違うということから、適用が重なることもあり得るけれども、一方で対応できるから、他方ではやめておくというような態度はとるべきではない。こういう御指摘をなさいました。

以上であります。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、検討に入りたいと思いますが、少し時間のことを申し上げておきますと、本日は6時までとなっていますが、4時50分前後ぐらいに1度休憩をとらせていただくことをあらかじめ申し上げておきます。

それでは、第1及び第2の点につきまして、御意見や御質問のある方は御発言をお願いいたします。

丸山委員。

○丸山委員 それでは、今回の第1と第2の点について、意見ということで述べさせていただきたいと思います。

合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型について、優先的に検討すべき状況にあるということには異論がありません。これまでの議論を踏まえて、次のように考えております。

まず、現在の消費者契約法1条の目的規定を読みますと、現在の消費者契約法は、事業者・消費者間の典型的な情報交渉力格差に着目した規制となっています。しかし、消費者の中で特にその属性や状況から脆弱、弱いと言える消費者が存在することを規定の設計において直視すべき状況にある、そういう必要があると考えております。そのことが既にこれまでの議論や、お示しいただいた事例で示されていると考えます。

現実の社会において、そのような存在がいるというのは事実として確かであると思いますし、立法するときには、経済的な効率性だけではなく、正義や消費者の満足、厚生といった観点も着目していくことが重要であると考えます。

特に今回、弱い消費者、脆弱な状況にある消費者というところにスポットを当てて考える場合に、成年年齢の引下げや従来の被害事例から若年者、高齢者という存在が注目されている。ここをカバーするというのはもちろんなのですが、例えば社会のグローバル化の中で、日本で暮らし始めた経験に乏しい外国人の方、こういう方々がつけ込まれるという状況があってはいけないと思いますし、また、日本という災害の多い国で、例えば被災して心理的に不安を抱えた人、こういう人がつけ込まれることもあってはならないと思いますので、少し視野を広く持って検討していくということを望んでおります。

第1、第2に対する意見でございますので、以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、井田委員。

○井田委員 ありがとうございます。

「第2 事例の整理・分析」というところについて、意見を述べさせていただきます。

私は今、大分のほうで適格消費者団体を運営しているのですけれども、例に挙げていただいたような事例1-1から事例3-4につきまして、私たちの団体でも消費者被害相談を受けるのですが、少なくとも確認すると、事例1-1とか事例2-2、事例2-3、事例3-1、事例3-3に似たような相談を幾つか受けたことがございます。団体としてはもちろん差止請求しかできないということなのですけれども、私どもが実際に経験した事例あるいは消費者庁に挙げていただいた事例を、果たして特商法というカテゴリーで対応できるのかと言われると、なかなか難しいところがあるのかなと思います。

また、仮に特商法に該当し得るような事案があったとしても、差止請求というのはもちろんそれ以外の要件、違法な勧誘を継続するおそれとか、ほかの要件もございまして、1例だけそのような相談があるだけではなかなか差止めを認められないというような状況でございますので、消費者契約の一般法である消費者契約法でこのような被害事例をどこまでフォローするかという議論はあるかと思いますが、立法化というのは当然検討するべきではないかと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

石島委員。

○石島委員 1点目の本論点を優先的に検討するというところについては異存がございません。

進め方についてなのですけれども、事例をベースに丁寧に検討していくという点につきましては、これまでの調査会で確認をされたとこかと思っております。また、前回の報告書では「当該規定の適用対象とならない被害事例については、当面は、公序良俗の規定や不法行為の規定による救済等を図ることとしつつ」とされており、各事例について、現行法では対処できないのかというのをまず検討するべきかと思っております。対処できない事例については、どの法律で対応するのが適切なのかというのをまず丁寧に検討するべきではないかと思います。目的を隠した勧誘やデート商法など、不意打ち的な要素のある勧誘等は、特商法において対策がとられてきた事例であり、例えばクーリング・オフが機能していないというおそれがあるのであれば、クーリング・オフの期間の延長等、その在り方を検討するべきであって、全ての消費者契約に適用される消費者契約法での手当てを優先して検討するのは妥当ではないと考えております。

また、前回の特商法改正において、主務大臣は、違法行為を行った販売業者に対する指示として、購入者等の利益の保護を図るための措置も行えるということになっておりますので、当該改正の実効性についての評価も待つべきではないかと考えております。

また、進め方につき、一件一件の消費者被害の事例のみならず、事例を収集した上で消費者被害の類型ごとの件数であったり、傾向等をより詳細に分析するということが必要であると考えます。これはぜひ事務局にお願いしたいという点になります。

また、事業活動に与える影響について、念のためなのですけれども、本論点は事業活動に与える影響がかなり広範になると考えます。今日は3時間いただいておりますが、3時間かけて議論したことで十分ということにはならないと思いますので、より広く関係者の意見を聴取し、慎重に検討していただきたいと思います。この点も重ねてお願いいたします。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

山本健司委員。

○山本(健)委員 まず「第1 本論点を優先的に検討すべきと考えられる状況等」部分に関する意見です。

高齢者の消費者トラブルの割合が増加し続けている現状において、高齢者の消費者被害の救済手段として必要性が論じられている「つけ込み型不当勧誘取消規定」の採否・内容を議論することは極めて重要と考えます。また、この問題は、第1ステージにおける報告書の取りまとめ時においても、継続協議事項とされた重要な論点の一つであったと思います。加えて、前述の成人年齢の引下げ問題もかかわってきた現状において、その重要性は更に増していると思われます。したがって、この論点をまず議論するということは合理的であると思います。

次に、「第2 事例の整理・分析」部分に関する意見です。

まず、「1」部分において、過量契約取消規定で対象とならない被害事例があるという御指摘はそのとおりだと思います。

次に、「2.被害事例の整理・分析」において、事例1-1から事例4の具体例を挙げていただいております。

まず、このような被害実例や類似の被害事例が現に社会に存在することは事実ですし、消費者被害の相談現場では、このような消費者被害を適切に救済できる法制度が望まれていることも疑いのないところだと思います。

弁護士会内での議論の際、「つけ込み型不当勧誘」として問題となりえる事例は、「高齢者の被害事例」「疾病者の被害事例」「若年者の被害事例」「霊感商法の被害事例」「恋人商法ないしデート商法の被害事例」「SF商法ないし催眠商法の被害事例」「雇用・友人関係の作出・利用事例」といった類型であろうと議論をしておりました。この報告書では、その多くについて、代表選手のような被害事例が紹介されていると思います。

また、各事例の性格の違いや特色を(1)から(4)の4つの類型に分けていただき、より分かりやすくなったと思います。特に高齢者の被害事例には、マル1認知症等による判断力の減退で販売員に迎合的に行動してしまう、販売員から言われたとおりに契約を締結してしまうといった被害類型と、マル2複雑な取引等に関する知識・経験の不足から不必要・不相当な契約を締結してしまうといった被害類型の2類型があり、後者の類型は若年者の被害事例と共通性を有するように思われます。この点、高齢者の被害事例を事例4と事例1-2に分けて分類していただいているのも適切だと思います。それらの被害類型の特色や違いを意識しながら要件論を考えていく必要があるだろうと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見があれば。

まず中村委員、そして増田委員。

○中村委員 全般の話なのですけれども、これからのほかの論点にも通じる話でございますが、ここでは悪質事例というのが注目されておりまして、こういう案件については当然のことながら私も被害は救済されるべきだと思うわけです。他方で、一般の取引では、提供された商品やサービスが消費者にとって価値があるものが通常の場合には提供されるわけでございまして、先ほども申し上げましたけれども、それが取消されるということになれば、せっかく例えば農家の方であったり、工場の方とかが一生懸命作ったものであったり、従業員が一生懸命提供したサービスが無になってしまうということでございまして、そこの部分について、とにかく広く取消されるようにすればいいのではないかという発想は、事業者と消費者という枠を超えて、私ども全体、この委員会の専門調査会全体で考えていくべき視点であると私は思います。

例えば食品について無駄に返品がされるということになりますと、地球環境の問題にもかかわってくるわけで、消費者の未来ということを考えると、そういう返品はできるだけ、そもそも論としては起こらないほうがいいのだという視点もぜひ持っていただきたいということでございます。そういう視点を持って、悪質事例の対応もさることながら、維持されるべき取引というものについては、不必要に取消されないということをぜひ考えて、制度の組立てというのをしていただきたいと思います。

ちょっと話が変わるのですけれども、先ほど後藤巻則座長代理から御紹介いただきました適合性原則等の部分に関して、1と2の領域なのかということはよく分からないですけれども、若干コメントさせていただきますと、先に御紹介のありました宮下先生の適合性原則の適用ということに関しましては、私どもチェーンストアという立場からすると、もともと証券の取引というところから発している議論ということがありまして、それを広く一般の消費取引、以前から申し上げているとおり、毎日何千万と行われている取引にそういう考え方を広げるのはそもそも全く違和感がある。要は消費者の属性ということに着目をして、そういうことを見ながら事業者が取引をしなければいけないという考え方を広げていくのは、ちょっと違うのではないかと思っている次第でございます。

そういうことからすると、潮見先生のほうでは、適合性原則についてそれを広く消費者契約法に移すということについては反対とおっしゃっていただいた点については、それに賛成でございます。

以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

中村委員からの御指摘のうち、前半でおっしゃったことは、むしろ第1及び第2の点について何らかの対応が必要であるとして、では、どのような形で対応するのか、その対応された規律が仮に幅の広いものを対象にするようになると不都合が生じるという御懸念でして、これはむしろ第3の点のところで改めて御指摘いただければと思います。

また、後半でおっしゃった適合性原則に関する御指摘は、もちろん御意見としてはあるわけですけれども、先ほど後藤委員から御紹介がありましたが、現在のところはとりあえずここで言う第1及び第2の点についての検討を中心にしていただければと思います。

それでは、増田委員、お願いいたします。

○増田委員 ありがとうございます。

事例をたくさん出していただいておりますが、その中で特定商取引法で適用できるのではないかという御意見があろうかと思いますので、現状についてお伝えしたいと思います。

キャッチセールス、アポイントメントセールス、それによるクーリング・オフという制度がございますけれども、キャッチ、アポに関しましては、厳格な要件がありますので、その要件に適さないケースというのが数多く最近はございます。最初にキャッチ、アポのようなものできっかけを作り、その後、何カ月間か交流を持って、自ら遊びに来させるとか、食事に誘うとかいうようなことでお友達感覚の末に契約に至るというような場合、結果的にそれがキャッチだとか、アポと明確に断定して交渉することが非常にしづらいということがあります。

また、マルチ商法に関しましては、特定利益というのが要件になりますけれども、その金銭的な利益ということではなくて、例えばなりたい自分になるというような、そういうことができますよということで連鎖的に契約をさせるケースもありますので、今は特定商取引法ですぐさま解決できるようなことは大変少なくなっていると感じています。

また、占いなどに関しましては、通信販売の形で雑誌広告あるいはインターネット広告を見て自分からアプローチしていきますので、クーリング・オフという制度はありませんし、その中でいろいろな説明を受けたり、もともと自分の精神的な悩みを相談する状況にあることを分かっている相手ですから、そこでいろいろな不安をあおるというようなことで契約に至らせるということがありますので、必ずしも特定商取引法でカバーができるということではないと考えております。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

では、長谷川委員。

○長谷川委員 まず、座長からの休憩の御提案ありがとうございます。感謝申し上げます。

優先的に議論するべき課題はこれかどうかという話ですけれども、これについては、結論としては御議論にお任せしますということなのですけれども、私の考えとしては、例えば損害賠償の予定ですとかほかの論点と比較してどれぐらい困っている事例が多いのかというのが定量的に分からないと判断がつかないというのが結論でございます。ただ皆さんが、これを優先的に議論すべきという御議論であれば、特に反対はございません。

また、たくさんの事例を挙げていただいてありがとうございます。これについては、先ほど申し上げたことと絡むのですけれども、ちょっと言葉はよろしくないかもしれませんが、消費者被害における「手口」の類型化を見る材料としては非常にいいと思いますけれども、立法としてどれぐらい対応すべきものなのかというのは、先ほど石島委員がおっしゃったように、数の蓄積がどれぐらいあるかというのも重要かと思います。これについてはぜひ事務局に作業をお願いできればと思っております。

それから、これも他の委員の御発言と重なってしまいますけれども、多分合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結されるというこの類型は事業活動に与える影響が非常に大きい場面も多いかと思いますので、検討に当たっては各業界へのヒアリング等、丁寧な議論をお願いできればと考えております。

以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見は。

それでは、永江委員。

○永江委員 事業者側の委員と同じような意見もあるのですが、2番目に関して言うと、全般的に事例が、立法事実と申しますか、救済すべき事例と申し上げればいいのか分からないですが、これはこういう形で出すためにでしょうけれども、断片的な一部の事実しか示されておりません。これでは、詳細な事実関係が把握できていないので、いずれも真に取消権等を付与する根拠とすべき事案なのか評価が分かれるところもあると思います。したがって、詳細に事実関係を把握できるような状況にしたうえで、議論すべきかなと思っています。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

余りに詳細過ぎますと、どう判断してよいか分からなくなりますので、立法に向けて重要となる特徴を適切に抽出していただきたいという御意見として受けとめておきたいと思います。

では、ほかに御意見等があればと思いますが、いかがでしょうか。

それでは、河野委員。

○河野委員 ありがとうございます。

前回の検討のときにも議論になりましたが、どんなふうに立法化していくかというのは、やはりなかなか難しいかなと思います。ただ、命題としてここに書かれているのは、当該消費者が当該契約をするかどうかを合理的に判断することができない事情があることを不当に利用してなのですね。不当に利用して契約を締結させた場合についてどうするかということを私たちは検討しているわけであって、こうした検討が、商行為に影響があるとか、維持されるべき取引にも影響があるとおっしゃるのは、消費者側からすると理解ができないと思っております。

最初に丸山委員がおっしゃってくださったように、消費者の中にも間違いなく弱者が見える形で存在していている。しかも、それはいろいろな形での弱者として顕在化している。例えば車の運転で言えば、判断力不足によって今非常に高齢者の方の交通事故が増えていますけれども、ああいう形で実際に見えてくれば対処せざるを得ない。消費者契約の場合はそこまでいかないといいましょうか、被害の実態が水面下に埋もれがちであるために対処が適切でない。今回かなりの事例をここに挙げていただきましたが、こういった事例をここに出すと、それが不十分であるという形で事例への疑問が出され、実際は氷山の一角であるものを根拠として提案しても、そのことに対する対処が真剣に話し合われないというのは非常に残念に思います。

ぜひ今回は、最終的には取消しが少なくなる、しっかりと維持されるべき取引がちゃんと維持されるようにするためにこのことを検討すると考えていただきたいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、後藤準委員。

○後藤(準)委員 この事例に出していただいた案件がなくなればいいというのは事業者団体もみんな同じことでございまして、ただ問題なのは、こういった事例をピンポイントでちゃんとなくせるような法的な措置がとれるかどうか、そこが問題なのであって、何も事業者団体はこういう事業者を野放しにしていいという話をしているわけではないので、そこはぜひ御理解をいただきたい。

ですから、前回もこの案件が法改正の俎上にのらなかったのは、適切な要件として法制化できるような形にならなかったために、後に検討しましょうという整理であったと思います。事業者団体はあくまでもこれを否定するということではないので、そこだけはぜひ御理解いただきたいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

後段の点は、次の第3のところで改めて検討していただければと思います。

これらの事例が紛争事例として存在するということはお示しいただいたとおりだと思います。先ほどいただいた御意見の中では、これらの事例が定量的にどの程度あるのか、更にデータが欲しいというような御意見もありました。ただ、今日の資料の中でも、15ページ以下の参考1、2、3という形で定量的なデータに相当するものはお出しいただいているところです。それも踏まえて、これでは不十分であるというような御意見があれば、また更にこういうものが欲しいというような御意見があるのであればお出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。

それでは、長谷川委員。

○長谷川委員 15ページ以降で定量的なデータを出していただいていて、感謝申し上げるところでございます。

先ほど少し申し上げたことと絡むのですが、この場合だという前提に立てば、取消権の効果云々を議論するということなのだと思うのですけれども、例えば15ページの就活中の大学生は御注意云々というのは、政策手段としてはこれにまさに2004年、2005年ぐらいからずっと相談事例が増えてきたことを踏まえて、国のほうで、あるいは国民生活センターのほうで啓発活動をされる一環としてこういうパンフレットを用意してやられていたということだと思うのです。

要するに、取消権という政策がよいのか、予算をつけて啓発というのがいいのか、そういう比較衡量もあり得ると思うので、こういった取組をされた結果、現時点で足元がどうなっているのかというのも重要だと思っております。

○山本(敬)座長 ほかに御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。

では、磯辺委員。

○磯辺委員 もちろんこういった情報を提供していただいて、啓発をして、被害を未然に防止するというのは非常に大切な活動ですけれども、一方で実際に被害が生じているわけですから、その場合に速やかに救済が図られるという意味で、民事上の効果を持つ消費者契約法をきちんと整備するということもあわせて必要なのだろうと思う次第です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

では、有山委員。

○有山委員 いろいろと事例が出てきて、個別の事例のように見えるのですが、私たち相談を受けていると同じ相談が入ります。こういう御相談を受けた後に注意喚起で同じような事例を、情報誌で公表すると、私のと全く同じという声がすごく多く聞かれます。

それから、私どもの相談窓口に入ってきた相談でよく理解できないものがありますので、大体何人かで検討をしますと、私以外の者が声をそろえて同じような筋書を言うということもございます。これは国民生活センターがお出しになった事例に何歳とか、何県とか個別の属性が入っておりましたけれども、属性が入っても典型的な事例なのです。

なぜかというと、やはり何とか消費者をだましたいと思うような業者は、それほど創造的ではないのです。これでだませたということになると、非常に似た事例を繰り返すのです。初めて架空請求が相談窓口に来たときに、これは公序良俗違反だし、私たち消費生活センターが受けるものかしらねという話を同僚としました。しかし、だまされたということで相談窓口に入ってきたのです。それで公序良俗違反なのだというちゅうちょする部分があったせいか、あっという間に相談が何倍にもなった。1年で何倍にもなったということもあります。こうすればお金が稼げるというふうになると、非常にまねされて、同じようなものが派生するということは御理解いただきたいと思います。これは1件ではなくて、この背景には似たようなものが何件も何十件も、多いとすれば何万件もあるような事例だと考えています。多少のだまし方、初めの声のかけ方が違うとかいうことはございますけれども、非常に典型的な事例だということは認識していただきたいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、お約束の時間が既に過ぎておりますので、大変恐縮ですけれども、5時過ぎ、少し細かくなりますが、5時2分に再開させていただきたいと思います。

(休憩)

○山本(敬)座長 それでは、ただいまより議事を再開したいと思います。

先ほどから第1及び第2の点を中心に御意見をいただきました。ここから先は第3の点を含めて御意見をいただければと思います。

ただ、先ほど最初のほうに石島委員から、これらの事例について現行法で対処できるかどうかということも検討すべきであるという御指摘がありました。これはもっともな御意見なのですが、増田委員から、特商法では限界がある事例があるという御指摘がありました。そのほかにも、民法90条の公序良俗、あるいは709条の不法行為による対処も考えられますが、これは民法の問題ですし、私は民法学者ということもありますので、一言だけ申し上げておきたいと思います。

まず、90条の公序良俗については、規定自体は公の秩序または善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為とのみありまして、それがどこまでのものをどう指すかは、規定からは直ちには読み取れません。もちろん、これについては、かねてから判例法で暴利行為に関する準則が確立していますが、その主観的要素は窮迫・軽率・無経験に乗じて、そして客観的要素は著しく過当な利益を取得するとされていまして、非常にハードルの高い要件が設定されています。

ただ、この20年余りの間、これを柔軟に解釈することが、学者の意見だけではなくて、下級審裁判例を中心に多数出ていますが、それで具体的に確定した指針が確立しているわけでは必ずしもありません。その意味では、この準則がどう使われるかという点については、必ずしも明確でないところがあります。その点で、事業者にとっても、そしてまた消費者にとっても、必ずしも安定的でないという問題があるだろうと思います。

709条の不法行為責任も、よく知られていますように、実際にはこの不法行為法を使って消費者被害の救済を図っている裁判例がかなり多数に上っています、ただ、要件としては、権利または法律上保護される利益の侵害、過失、そして特に損害及び損害との因果関係が問題となりますが、これらについては、必ずしも一義的に明確なルールがあるわけではありません。特に損害に関しては、取消しと同じ効果をもたらしているような裁判例もありますけれども、必ずしもそうとは限らない。このような意味で、不安定な状況にあるのだろうと思います。

したがって、民法によって対処できる場合もあるけれども、救済されるべき場合が確実に救済されるような仕組みには必ずしもなっていないとお答えするのではないかと思います。

少ししゃべり過ぎた感がありますが、前置きはこの程度にさせていただきまして、先ほど申し上げましたように、第1、第2及び第3の論点につきまして、御意見、御質問等がありましたら御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。

それでは、中村委員。

○中村委員 ありがとうございます。

先ほどの前提を置きながらということでございますけれども、まず、モデルマル1、モデルマル2の合理的な判断をすることができない事情という、この図式の部分と、最後のところにありますA案、B案、C案、D案というところに関して、若干違うアプローチが入っているのかなという感じがしておりますが、まずはモデルマル1、モデルマル2のところで検討させていただきます。

まず、合理的判断をすることができない事情ということが、例えば年齢イコール合理的判断をすることができない事情、あるいは認知症の方であるということは合理的判断をすることができない事情なのかということを考えてみますと、そこは例えば18歳から20歳の方であるから合理的判断をすることができない事情なのだという形になってしまうと、そもそも一般的に取引ができないではないかという形になってきて、それはちょっと違うのではないかということです。

それから、高齢者の方なのですけれども、例えば65歳以上の人は合理的な判断をすることができないのだというのも失礼な話でございまして、高齢者一般に一定の年齢をもって合理的な判断をすることができない事情があるというのは、これもまたちょっと違うのではないかと思います。

また、認知症の方や例えば鬱病の方というのも事例としてございましたけれども、認知症にもいろいろなタイプや程度がございますし、症状が常に発現しているわけでもないと聞いておりますので、例えば私どものスーパーでものを売るというときに、仮にそのお客様が認知症の方だということを知っていたからといって、それを知っていたからつけ込んだということにはならないだろうなと考えております。

そうすると、モデルマル1のほうで、合理的な判断をすることができない事情イコール年齢とか病気ということでなかったときに、それがいろいろな事情を勘案しているということになると、少なくとも日常的な取引ということで、事業者にそんな判断ができるのですかということが、事業者としては非常に懸念になってくるところでございまして、そういった意味で、先ほどの適合性原則の話にもなってくるわけですけれども、いろいろな事情を聞き出して、この方が合理的な判断をすることができるかどうかということを調べなければいけないのかということであったり、合理的判断をすることができない事情がないことを確認しなければいけないのかというような話になってしまうので、それを知っているということだけで事情を利用して契約させた類型ということのトリガーとしていくのは、事業者側とすると非常に厳しいなと感じるところでございます。

モデルマル2のほうだったらいいのだろうかということですけれども、後のほうでいろいろな心理学上のアプローチについて検討がされているわけなのですが、翻って考えると、例えば「好意」「返報性」というようなことで取り上げると、近くのお店に行って何かお買い物をされたときに、ちょっとサービスしておきますよみたいなことで、少しいい気持ちになって、次もそこのお店に行こうかなと考えるというのは非常に一般的なことでありますし、私どもの商売で言うとロイヤリティーというようなことを言うわけですけれども、商売として自分の店を信頼していただくために、そういういろいろな活動をするというのは全然それが違法につながることではなくて、ごく一般的なことであると思います。

それから、例えばエの「希少性」というようなことで申し上げると、この焼酎は、なかなか手に入らないものがお幾らですよとかいうのは、皆さん御経験のとおり、ごく当たり前な商売で、別にそこに誤認とかごまかしということがないのであれば、何ら違法な行為ということではないのだろうと思います。

なので、ここの「好意」を得ようとするとか、「権威」を与えようとするとか、「希少性」というようなことに関して言うと、その消費者にある意味では取り入るということなのかもしれないですけれども、そこの部分は別に何らそこ自体が違法なことではないということは強調しておきたいと思いまして、それを前提としていったときに、そういうことをやったことをもって合理的な判断をすることができない事情を作出した、増幅したと判断するというのは違うのではないかなと思っているところです。

なので、先ほど後藤委員から御指摘もありましたように、悪質な事例について何らか対応ができないかというところは、共通ではあるのですけれども、一般の取引に当てはまらないようなうまいワーディングというところについては、現状の案だとなかなか厳しいのではないかというのが意見でございます。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

中村委員、前半のほうでおっしゃったことを確認させていただきたいのですが、事業者の側が合理的な判断をすることができない事情があるかどうかを調べないといけないことになるのではないかとおっしゃったのですけれども、要件としては知りながらの勧誘ですので、知っていた場合に対応するルールが提案されているのではないでしょうか。

○中村委員 そうなのですけれども、後から知っていたと言われるリスクを考えると、事業者としては、何か知らなかったということの証拠を残しておかないと心配だなということになると思います。

○山本(敬)座長 少なくとも調べないといけないという問題ではないのではないでしょうか。知っていた場合のルールですので。

○中村委員 でも、それは事業者の側からすると、とにかく取消されては困るわけなので、取消されないためには、後からそういうふうに言われたら困るので、知らなかったということを確認しておかないといけなのではないかという方向に行くということです。

○山本(敬)座長 余計なことを申し上げたようで、失礼いたしました。

では、磯辺委員、補足をお願いいたします。

○磯辺委員 22ページのA案及びB案の書きぶりに照らしてどうなのか、具体的にこのように区分すれば悪質な事業者に相当程度絞られるのではないかということで多分消費者庁は提案されていると思います。ですから、A、Bの具体的書き方について、この書き方ではなおかつ不安がこういうところであるのだという議論がここでは求められているのではないかと思いました。

A案について言いますと、私が読む限り、先ほどのように、まず知っていた場合において、なおかつ勧誘をする。つまりそういう状況に消費者が、目的となるものが年齢等に応じた生活の状況に照らして不要とされるということを知っていたにもかかわらず勧誘するということで悪質性が切り出されているので、そこを一連の流れとして、知っていてなおかつ勧誘するということは多分普通の事業者はないだろうと思うので、そこで更に御懸念があるのであれば、具体的にはどういうことなのか御意見いただければと思った次第です。

それと、25ページのところで、今、中村委員がおっしゃった「社会的証明」や「権威」や「希少性」ということにお互い信頼関係ができる中で通常の商行為で契約に至ることというのは当然ありますよということは触れられているので、それを逸脱した行き過ぎた営業活動をどのように切り取るのかということでのC案、D案ということだと思いますので、これもC案、D案で具体的に書かれていることで、こういう切り取り方だけでは非常に事業活動に影響があるのかどうかという観点から、御意見をいただくほうがこの場の議論としては生産的なのではないかと考えた次第です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、中村委員。

○中村委員 まず後のほうについて申し上げると、一般的だということは分かったのですけれども、28ページの頭のところで「上記アからエの行為は、いずれもそれぞれが消費者に『合理的な判断をすることができない事情』を作出又は増幅する行為であると考えることができる」と記述されているので、ここの部分の記載については反対いたします。

A案のところですけれども、先ほど申し上げたのは、例えば年齢に応じた生活の状況に照らして通常不要かどうかということを判断するのが事業者としては難しいということをまず1つ申し上げたいと思います。個々の方にとってこのものが必要かどうかという判断は、基本的には消費者の方がされることなので、そういうことを知って売った、売らないということの判断は難しいと思います。

例えばCということについて申し上げると、断定的な判断を告げた上でというところは、断定的な判断のところで議論されているわけですけれども、不安をあおる行為というのが、余りないかもしれないですけれども、例えば防災の日の広告みたいなものはある意味では不安をあおっているわけなので、そういうものが入らないような中身はどうやってワーディングすればいいのか。

あと、D案の断り切れない人間関係を構築するということに関して申し上げると、例えば私どもで言うと、高齢者の見守り活動みたいなことをこれからどんどんやっていこう。それで高齢者の保護と一緒に商売にもつなげていきたいというようなことも考えているので、そういう意味での断り切れない人間関係と言えなくもないという中で、それによって勧誘すること自体は悪いことではないのではないかということの中で、そういうことについては外れるような規定ぶりを考えていきたいということでございます。

以上です。

○山本(敬)座長 それでは、長谷川委員、続いて丸山委員、お願いします。

○長谷川委員 ABCDに入る前にと思っていたのですけれども、先ほどの年齢等に応じた云々というのを調べなくてもいいのではないかという話ですが、もちろん文言上は調べなくてもいいのですけれども、先ほど中村委員からありましたが、私どもの会員のほうからも、要するに取消しのリスクを回避するということだと思いますけれども、今のワーディングだとやはり年齢や生活状況をお伺いして、その上で、契約を締結せざるを得なくなる場合があるのではないかという懸念が示されていることだけ御紹介申し上げたいと思います。

AからDのそれぞれの議論に入る前に、加納課長からアプローチについても議論をというお話がありましたので申し上げたいと思います。これはむしろいろいろ教えていただきたいという感じがしているのですけれども、ABCDを並べたときに、A案というのは年齢等に応じた生活状況等に照らして不要な契約であることを知りながらということなので、過量契約と同様だと思うのですけれども、契約の中身に一定程度着目して規律を設けているということなのだろうと思います。

B案はもうちょっと広くて、消費者側の内面のようなところ、「誤認」「困惑」があることを知りながらということなのだろうと思います。

さらにC、Dというのは、契約の内容というよりむしろアプローチですね。事業者がどういうふうに近づいてきましたかというのに着目して規律を設けようというタイプの規律かなと思っております。

その上で、A案でございますが、過量契約はまさにこういう感じで契約の中身に着目して考えるということなのですけれども、改正前の消費者契約法は契約の中身に着目しているというよりも、むしろ情報を提供しなかったであるとか、そういったことで誤認が生じたということに着目していたわけですけれども、A案はむしろ契約の中身に着目して、そういう契約を結ぶというのはよほど誤解が生じているというか、合理的ではないというか、言葉使いはいろいろあるのですけれども、言わばそういう擬制を置くということなのだろうと思います。

そのような理解に立ったときに、契約の中身に着目して、誤認等を擬制するということですから、性格上、私的自治を一定程度制約する可能性が高い。もちろん制約されるべき私的自治なのかもしれないのですけれども、そういうものだと考えたほうがいいのではないかと思っております。そういう観点からは、私的自治という大原則との関係で慎重に議論されるべきだと思っております。

加えて、C、Dについてでございますが、これは契約の中身との関係が整理がつかないのですが、具体的な勧誘行為に着目して規律されるということであるので、これも事業活動に与える影響が大きいかもしれない。要するにどういう勧誘行為をするかということに着目して規律を設けるわけなので、クリエーティブな勧誘の仕方を萎縮させてしまうかもしれない。そういう警戒感を持って慎重に御議論いただければと思っているところでございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

途中でA案・B案が契約内容に着目したものではないかという御指摘がありましたけれども、厳密に言いますと、契約内容の当否そのものを問題にしているわけではなくて、当該契約を締結する通常必要な事情がないにもかかわらず契約をさせているという意味でして、過量販売もそのような側面があるわけですが、その点に関する問題であって、契約内容そのものの問題ではないだろうと思います。

では、ほかに御意見があればと思いますが、丸山委員。

○丸山委員 それでは、事務局がたたき台を出してくださいまして、かつアプローチの点から議論してもよいとおっしゃっていただいたので、少々提案を見て考えたところを述べさせていただきたいと思います。

事務局提案のAからDについては、とてもよく考えられていると思った反面、例えばAからDのうちのどれか1つを取り上げて、そこしか具体化しないといった方向性になってしまう場合には、少々狭過ぎるのではないかという印象を受けました。

また、C案、D案に関してなのですけれども、現行の消費者契約法というのは、「誤認」があるとか、「困惑」があるとか、あとは過量販売の場合も要件としては明確に出てきていませんけれども、やはり著しく過量なので合理的な判断を消費者ができていないという心理状態というか判断状態が前提にあるのではないかと思っていたのですが、CとDの案だと、何らかの問題がある判断状況とか意思の問題点というのが見出せなかったので、その点が現行の意思表示の瑕疵とか契約締結過程の規律に関する規制と整合性があるのかという点は検証が必要なのではないかと思いました。

そういった感想をAからD案に持った上で、私自身は、事業者の方からは反対されるかもしれませんが、一定の射程をカバーするような解釈の余地があり、かつ、今の消費者契約法とも体系的に整合性のある民事ルールを模索する姿勢というのも大切ではないかと考えております。

例えば一案として、事業者が消費者の若年や高齢、障害や疾病、無経験や心理的不安状況など、そういった脆弱な状況にあることを認識していた場合において、事業者の勧誘によって当該消費者が不合理な判断に基づいて契約をしたという場合に、消費者に取消しを認めるみたいな方向もあり得るのではないかでしょうか。

不合理な判断としましては、例えば今回の提案に出ているように、年齢や生活状況に応じて通常不要なものを購入するという判断をしたとか、契約の前提となる事実を誤認したまま判断したとか、不安とか一定の興奮状況によりまして、通常ではない情動や心理状況の下で行った判断というものが例示としては考えられると思います。

私が今、述べているのは要するに、消費者の脆弱な状況とか不合理な判断というものを解釈の一定の余地のあるキーワードとしながら、具体的な例示を挙げて客観性を高めていくという、こういった制度の作り方というのもあり得るのではないかと考えたところです。

また、この提案というのは、現在の4条の誤認、困惑、過量取消し規定と連続性を保つものです。すなわち消費者に脆弱性、弱さがあるゆえに過量要件というものを緩和する、誤認の対象を緩和する、困惑よりも広い心理状況を捉えるということで、現行法では対応できていないけれども、救済の必要性がある部分に手当てができるような方向性を考えるべきではないでしょうか。

その一方で、脆弱な状況を認識している事業者の勧誘によって消費者が不合理な判断をして契約をするということを要件とすれば、当初から自ら自分に不相応な契約をしようと思ってお店に来たような若年者や高齢者や無経験者に対して販売活動をしても問題はないということになると考えます。

いろいろな着眼点はあると思うのですけれども、私としては、事業者がいたずらに取引拒絶をするような社会になってもいけませんし、事業者にお節介を強要するような立法となってもいけないと考えます。その点については配慮しつつ、問題となっている事例について、事業者が消費者の脆弱性、弱さ、そういう状況を知りつつ、不合理な判断に至るような勧誘をしているという問題状況を捉えるような規定を模索するということも、一意見でございますけれども、あり得るのではないかと思っております。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました  では、まず、永江委員。

○永江委員 1つは、資料2の23ページの6要素をマーケティングで活用するというのは当然のことであり、どのようなものを「行き過ぎた営業活動」と評価しているということが資料から明らかではありません。したがって、どのような行為を「行き過ぎた営業活動」と評価するというのかについては、具体的に今後詰めていただきたいなと思っています。

また、「好意」や「権威」を利用するということについてですが、例えば「芸能人や著名人を広告で起用する」という一般的な広告手法が、イコール「好意」や「権威」を利用するということにもなりかねませんので、その点も指摘させていただきたいと思います。

A案、B案、C案、D案について具体的に述べる機会が今後あるかどうか分からないので述べさせていただきたいと思います。これはあくまでもたたき台ということなのですが、現状を前提としてお話しさせていただきますが、各案でそもそもどの事例や類型をカバーしようとしているのかが分かりにくいので、それを明示していただきたいと思います。

A案に関して言うと、通常不要とされる要件となっていますが、これだと嗜好品全部入るのではないかと考えます。まさか規制範囲をそこまで広げるわけではないと思うので、その辺も検討が必要と考えられます。

また、年齢等の生活の状況に照らしてという点も、具体的な適用イメージがなかなか難しいなと思います。例えば免許を取りたての方が高級車を買いに来た場合はどうなのか。「その人は親がお金持ちなのです」というような事情がある場合にも取り消せるのかというような話もあるのかなと思います。

例えば事例4に関連して、土地の売買契約に関連して述べるならば、生活資金を獲得するとか、相続のために分割するしかないということは明確に「通常不要とされ」ないと分かるのですが、それ以外の事実が、通常不要に当たってしまうのではないかと考えられます。ですから、規制範囲が広範になってしまう可能性はあるのではないかと思います。

B案に関して言うと、「誤認」「困惑」というのが非常に広範であって、客観的な要件としては不十分ではないかと考えます。また、あくまで知識・経験の不足であって、事理弁識能力の減衰については文言上当てはまらないと考えますので、認知症の方の被害等を現状の文言では救えないと思えます。

それから、「誤認」「困惑」について、事業者の働きかけが要件になっておりませんが、経験不足等、消費者側の事情によって「誤認」「困惑」に至っていることを事業者がただ知っていたからといって、つけ込み型として契約を取消されるのは行き過ぎではないかと考えます。21ページに事業者の積極的な勧誘が行われた場合のみ捉えるべきとありますが、一方でB案では、生じていることを知っていた場合とありますので、知りながら勧誘を行っていることが直ちに積極的に勧誘するに該当するのかどうかという点が問題になると思います。知っていることのみをもって該当するとすれば、実質、事業者に消費者が合理的に判断することができない事情を解消する一般的な義務を課しているに等しいのではないかと考えます。

C案につきましては、「本来の目的を隠して消費者に接近し」とございますが、事例1-2や事例3として挙げられているケースでは、本来の目的を隠して消費者に接近したと言えるのかどうかは微妙だと思います。したがって、C案ではこれらのケースを救うことができないのではないかとも思えます。

D案に関して言うと、勧誘に利用する目的でそのような人間関係を利用して当該消費者契約締結について勧誘した場合とありますが、取引や制約に向けて、まずは人間関係を構築する等、これらは通常の営業活動で日常的に用いられている手法であると思われますので、これを問題視するというのがそもそも理由を知りたいと思います。さらに言えば、この文言でどのような行為を規制しようとしているのかが不明確ですし、文言と規制対象との間にギャップが大き過ぎるのではないかとも思われます。たたき台ということなので、こういう点を御参考に検討していただければと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

では、次に、後藤巻則座長代理。

○後藤(巻)座長代理 先ほどの丸山委員の御発言ですけれども、お考えを確認するためにお聞きしたいのですが、18ページにモデルマル1とモデルマル2とありまして、おっしゃっていた脆弱な消費者という問題は、主にモデルマル1の問題ではないかと思います。モデルマル2の場合にも、確かに合理的な判断をすることができない事情、例えばもともと認知症と言えるかどうか分からないのだけれども判断力が低いとか、そのような状況があって、それに対してさらに合理的な判断をすることができない事情を作出したり増幅するという状況も含まれると思うのですけれども、先ほどの社会心理学の知見ということで事務局から御説明いただいた内容を見ると、割と通常の人でも陥る心理状態というようなことも想定して、消費者契約の場面で利用されやすい6つの消費者心理というのを導いているのではないかという印象を持つわけであります。

ですから、合理的な判断をすることのできない事情という同じ言葉を使っておりますけれども、モデルマル1が想定している「合理的な判断ができない」という意味とモデルマル2が想定している「合理的な判断ができない」という意味はイコールではなくて、違う内容も含み得るというような印象を持ったのです。そのような問題意識から見たときに、丸山委員はモデルマル1のような脆弱な消費者に対してその状況を知りながらつけ込んだ契約をするという場面に加えて、モデルマル2ではどういう状況を想定するのか、あるいはモデルマル2は余り考慮しなくていいと考えていらっしゃるのか、その辺についてお聞きしたいのです。

○山本(敬)座長 それでは、丸山委員、お願いいたします。

○丸山委員 実は先ほどの発言では、事業者が消費者の若年・高齢・障害・疾病・無経験・心理的不安状況など脆弱な状況、弱い状況にあることを認識してというふうに考えていたので、モデルマル2のような事例も最終的にはそういった脆弱な状況というものに陥ることになるので、そこを最終的に認識しているのであればよいと思っています。

また、恋人商法とかそういうものに関しては、社会的な無経験を利用するという側面もあると思いますし、霊感商法のような不安心理というのは、やはりそういう状況に意図的に陥れているのだけれども、その状況も認識して、結局不合理な判断をさせるという方向に帰着しますので、それで包摂できるのではないかということを考えておりました。

○山本(敬)座長 ありがとうございます。

○後藤(巻)座長代理 議論をモデルマル1に限定しているわけではないということですね。私もモデルマル2というのは、事業者が攻撃的な取引行為を積極的に行っている点で、非常に大事な考えるべき問題だと思っておりますので、そういう意味で、モデルマル2についても重要な問題だということをここで発言させていただきました。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、石島委員。

○石島委員 私も、モデル案のABCDについてはたたき案ということで、まだかなりスコープが広過ぎるのかなという印象を持っておりまして、具体的な問題点につきましては事業者委員の皆さんが述べたところに賛同するのですけれども、こういう視点もということで申し上げたいのが、前提となっている議論についてです。例えば、年齢や客観的状況によって一般的に必要か必要ではないかというのを事業者が判断するのは難しいと中村委員からもおっしゃっていただいたのですけれども、できるということを推定するのがそもそも危険なのではないかと思っております。

例えば若者に限らず、先ほど嗜好品が入ってしまうという御意見もありましたけれども、背伸びして一点豪華主義の贅沢品を購入するという消費行動は昔からあって、ここにいらっしゃる委員の皆様御自身の行動としても御記憶の方がいらっしゃるのではないかと思うのですけれども、そうした背伸びした消費行動が若者に限らず成長を促す側面もあって、当人にとって何が必要かというのは、価値観と自由選択の問題なのだろうと思います。少なくとも今のA案については、その価値観の押しつけが過ぎる前提の規定になっているのではないかと受けとめています。

また、ちょっとこれも余計な話なのですけれども、数カ月前に全国放送のメディアで当事者としての貧困を語った女子生徒が、実はゲーム機を複数所有しているだとか、漫画を一そろい持っているということで、実際は貧困ではないとか、贅沢だみたいなことがソーシャルメディアで批判されるということがありました。こうしたバイアスを助長したり、取引拒絶事例などを発生させたりですとか、そういった社会分断を促すようなことにつながらないのかということも懸念をしている次第です。

もう一点、高齢者についてもなのですけれども、先ほど調べたところによると、内閣府の今年度の発表数値では、日本の高齢化比率は26.7%となっていて、実に4人に1人が高齢者と定義をされてしまう。この比率は上がる一方であるという状況にあります。もちろん現行の規定で全ての高齢者に取消権を付与しますということではないというのは理解をしているのですけれども、今のところそういう可能性もあり得るような規定になっていて、ないと思いますけれども、4人に1人は高齢を理由に広く取消権を行使し得るというようなことは、日本経済にとってはブラックジョークでしかないなというような感じがいたします。

また、健康寿命の伸長に社会全体で取り組んでいるという中に、年齢に対する価値観というのも徐々に今後も変化し得て、そうした状況を前提とすると、取引の予見性や安定性を年齢を出発点として考えると非常に阻害するものにならざるを得ないのではないかという懸念があります。日本が世界でも最先端の高齢化社会を走っているわけですけれども、その対応については契約法という既存の思考フレームだけで解決をできるものではないのではないかと感じていて、そこはもうちょっと、この契約法の問題ではなくて広くクリエーティブに総合的な対応をしていくことが必要なのではないかということを申し述べたいと思います。

あと、話がかなり戻るのですけれども、現在出していただいているデータでは足りませんかという御質問を先ほどいただいて、それで改めて見たのですが、PIO-NETに出ている相談件数を出していただいているのですけれども、これは相談の件数で、実際に被害事例だと認定されたものがどれぐらいの件数なのか、また、どういう解決を見たのかというのが分からないので、この数字イコール検討すべき被害事例なのかどうかが分からないかなと。もしこれが分かるのであれば、出していただきたいというところでございます。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、井田委員。

○井田委員 ありがとうございます。

A案からD案までということで御検討いただいて、たたき台ということではございますけれども、合理的に判断することができない状況をパターン分けされていて非常に分かりやすいというか、議論がしやすいというところはあると思います。確かに事業者側の皆様の懸念のように、C案とかD案ということについては、例えばD案だと人間関係を作るのが全てこれに当たるのかというような御懸念もあり得ると思いますし、恋人商法とかと事業者・被用者という上下関係を利用した人間関係というのでも少し違うのかなという気もするのです。

その中でも比較的、私の意見ですけれども、A案に関しましては、今回改正されて新しくできたルールと非常に似通った要件立てでもありますし、先ほどから御懸念は示されているのですけれども、それについては例えば21ページにも書かれていますように、スーパーマーケットに商品を買いに来た消費者がいて、消費者が自らレジに持参した商品を販売するだけであれば、知りながら勧誘したわけではないというようなことであったりとか、一点豪華主義とかいう話もありましたけれども、生活の状況などに照らしてという要件の中でも、具体的な購入状況とかも考慮された上で取消しの可否が検討されることになると私は理解しておりますので、これは感覚の違いとしか言いようがないのですけれども、必ずしもA案が広過ぎて、とてもこれでは事業者が不安でというようなことにはならないのではないかと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

事務局に確認をさせていただきたいのですけれども、A案で、当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の年齢等に応じた生活の状況等に照らして通常不要とされるものであることを知っていた場合とあります。何を知っていたかということが先ほどから問題になっていまして、通常不要とされるものであるというのは評価を伴う判断ではないか。その判断を知っているというのは、判断を実際にしないといけないことになるのではないかということが、中村委員等から指摘されたところです。

確かに「知って」の対象が評価的な事実になってきますと、なかなかその判断は難しくなってくるところもあります。その意味では、私がこの提案を最初に読んだときに、こういうことではないかと思いましたのは、先ほども少し申し上げたのですけれども、当該消費者契約をするのであれば、その契約をすることを基礎づける客観的な事実が通常あるのではないか。その当該消費者契約をするならば、当該消費者契約を必要とする通常あるべき事実が実はないということを知っていたというのであれば、認識の対象としては特定されていくのではないかと思いました。しかし、そうではなく、評価的な要素を含めるところにむしろ意義があるということなのか、そのあたりについて、もし検討過程で問題になったことなどがありましたら、御指摘いただければ議論がしやすくなるかと思いますが、いかがでしょうか。

○加納消費者制度課長 非常に詰めが甘い状態であって、委員の皆様には御懸念があったということで、更に検討しなければいけないと思いましたけれども、知っていた場合の「知っていた」の対象は何かというのは、不要性とでもいいましょうか、その商品・役務について客観的に置かれた状況に照らしてみると不要ではないかという不要性というものを想定しておりまして、これは過量性にパラレルに考えると不要性と。過量ではないけれども不要性と。

その不要性を基礎づけるものは何かという点につきましては、今、座長がおっしゃっていただいたものが適切なお考えと私どもも思っておりまして、例えば過量性というのも、評価を伴うといえば評価を伴うわけであります。ただ、過量性の判断としては、通常の分量等を超えるということで、その通常の分量等というのは、その目的物の内容でありますとか、取引条件とか、消費者の生活の状況認識などに照らしてということで、そういう状況から客観的に過量性を判断しますよということを意図して、こういう条文の書きおろしをしたわけでありまして、それはそういった諸般の事実関係に照らして考えるというものでありますので、そういう意味では一定の客観的な事実関係を基に要不要性というものを考えるという枠組みで考えておりました。

あとは、そうはいうものの、個別具体の事例でどこまでが適用対象になるのかならないのかというのは非常に悩ましい問題があるというのは事実でありまして、それは過量契約においても実際にどこまでなのかという限界事例をずばり問われますと、かなり判断は難しいと言わざるを得ない。最終的には、その事案における状況に照らして裁判所で判断が適切にされるというものを想定しているわけであります。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、松本理事長。

○松本理事長 いろいろ御意見をお伺いして、この案の詰めがまだまだ甘いという感じがします。とりわけ見出しと本文が必ずしも対応していないという感じがいたします。典型がD案でありまして、D案の小見出しは「断りきれない人間関係を構築して濫用する行為」と書いてあるわけです。ところが、本文を見ると、濫用という趣旨が全く出てこない。これは確かに本文だけを見ると、事業者が顧客の信頼を得ることがそもそも不当かというふうに誤解されかねないので、濫用だということが本文の中でも分かるような文言、たとえば不当にだとか、濫用しとかいう形にしないとだめなのではないか。

B案も同じ感じがいたします。お客が誤解をしているということが分かっている場合、例えば、私はこうこうこうだからこれが欲しいのだと言っている場合に、それが誤解だと事業者に分かっていたとすると、普通の良心的なお店であれば誤解を解いてあげるでしょうけれども、そうしないと取消せるというルールまで行くべきなのかどうか、これは非常に大きな問題になってくると思うのです。お客を誤解させたということであれば、それは取り消すことができるということは現行の消費者契約法にも書いてあるのだけれども、誤解をしているのに対して誤解を解かないで売れば取消されるのかというところは、反対意見もあると思います。

勧誘をする際にという表現が問題になりそうです。今の場合に、お客のほうで買う物を決めてやってきて、誤解に基づいてその決断をしたということがある程度分かるという場合に事業者としてどう対応すべきなのか。よい事業者であれば、こうすべきだというベストプラクティスはあるのでしょうけれども、法律的な効果を発生させる行為準則というところまで誤解を解く義務を置くべきなのかは、じっくり議論する必要があるだろうと。

となると、誤解をしているのが分かっていて、それを利用して、もっと高い別のものを勧めるといった形になると濫用っぽい部分が出てくると思いますから、このB案が何を対象と考えているのかがもう少し分かるような形で文言を精細にしていただきたい。A案も、B案も、C案も、D案も、いずれも共通するところがあるかと思います。

もう一点、国民生活センターの資料の中の事例について、本当のところはどうなのだという趣旨の御質問が幾つか出されていたと思うのですけれども、裁判のように、それぞれが出せるだけの証拠を出して事実関係はこうだということを確定して紹介しているというものではありません。消費者の相談に基づく情報だということで、それがその後、事業者とのやりとり等まできちんとやれて、事業者も交えて事実を確認した上できちんと書いてある場合もあるでしょうけれども、事業者と交渉が全くできないという状況ですと、消費者の言い分が基本的にデータとして入るわけです。したがって、この事件は本当はそうではなかったのではないかと言われると、そうだったと言い切れる類いのものではないということであります。

それから、詳細なデータに関しましては、先ほども言いましたけれども、消費生活センターの同意がとれない可能性や個人情報が分かる可能性もあるので、それは避けたいと考えています。

4ページの事例6の最後のところ、属性のところで「20歳代、男性、学生、東京都」と書いてありますが、これは実はデータベースではきちんとした年齢が入っているケースだそうです。しかし、センターの側の要望で、年齢をきちんと出すことによって、事業者のほうから見れば、このお客だと分かる可能性があるので、相談者にとって後々の不利益になるかもしれない。そういったことも考慮して、公表資料では少し丸めて「20歳代」と書いているということです。事案自体も、詳細をそのまま出しているわけではなくて、少し丸める形にしているケースもあると思います。ですから、このとおりのケースが本当にあったかどうかという観点からよりは、もしこのようなケースがあったとすれば、これはやはり不当ではないかというような観点で議論していただくほうが生産的だろうと思います。裁判ではないのだということです。仮にこういうことがあったとすればどうするのがよいかという観点から御活用ください。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ただいまの前半のほうで御指摘された点ですけれども、A案とB案ですが、B案は実はA案と違う角度から、しかし、同じような問題を捉えようとしたものであって、表現し切れているかどうかという問題はあるのですけれども、先ほど指摘させていただいたところとつなげるならば、当該消費者契約を必要とする事情がないにもかかわらず、消費者が当該消費者契約を締結しているのは、きっと誤認しているからだろう。それがB案で言う誤認の内容なのだろうと思います。それが明確な形でここでは表現されていないけれども、そういった場合を捉えようとしているのではないかと理解しました。

最後のD案に関しましても、人間関係で示そうとしているのは、おそらく取引に利用することが不公正と感じられる人間関係の利用なのだろうと思います。もちろんそれをどのような文言で特定していくかという次の問題はありますけれども、意図しているのはそのようなものであり、仮にそのようなものだとするならば、それをどう表現していくかという点を更に検討してみることに価値があるのではないかと思います。

お待たせしました。山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。

まず、モデルマル1とモデルマル2の分類については、一口に「消費者が消費者契約を締結するかどうかを合理的に判断することができない事情」といっても、事業者による作出・増幅がある類型とない類型は確かにあると思います。資料2の2分類は一つの合理的なアプローチではないかと思います。

次に、具体的な対応策ですけれども、日弁連では、いわゆる現代的暴利行為論を参考に、モデルマル1、モデルマル2の類型を区別せずに、全ての被害事案に適用可能な立法提案をしております。具体的には、「消費者は、事業者が、当該消費者の困窮、経験の不足、知識の不足、判断力の不足、その他の当該消費者が消費者契約を締結するかどうかを合理的に判断することができない事情があることを不当に利用して、当該消費者に消費者契約の申込みまたは承諾の意思表示をさせたときは、これを取消すことができる。」という立法提案です。

もっとも、この専門調査会の議論において、被害類型ごとに要件を考えるべきではないか、要件をもっと具体化すべきではないかという御意見がございますことは承知をしております。より良い立法を、より賛同者が多い状態で実現するという観点から、弁護士会の提案は提案として、他のアプローチについても柔軟に議論をさせていただきたいと考えております。

本日、たたき台としてA案からD案を御提案いただきました。被害事例の事案内容に即した要件定立をすべく、事務局の皆様には御苦労をいただいたのだろうと思います。あくまでたたき台ということですので、この専門調査会で委員の知見を集めて精度を高めることが必要ではないかと思います。

各提案に関する感想ですが、まず、A案については、過量契約取消規定との親和性は魅力的だと思いました。要件については、今後深める必要があると思いました。

B案については、要件がより客観的な点は魅力的だと思いました。一方で、「困惑」「誤認」が認定し難い高齢者被害案件、例えば事例4の被害事例を救済できるのだろうかという点は、要検討であると思いました。

C案については、具体的な被害事案に沿った要件立てであると思いました。しかし、2つの不当勧誘行為が一緒になされないと取消権が認められないかのような規定ぶりである点は要検討であると思いました。

D案については、具体的な被害事案に沿った極めて具体的な要件立てであると思いました。その一方で、D案だけでは、恋人商法や雇用・友人関係の不正作出利用の被害類型は救済できるけれども、その他の被害類型については、必ずしも救済できないのではないかと思われます。他の被害類型に対応した別の条文の策定が別途に必要となってくる提案内容であると思いました。

あと、私見ですが、別のアプローチとして、対価的な均衡を失する不均衡契約の被害類型と、それ以外の不必要契約の被害類型とを分けて議論するというのもあり得るのではないかと思いました。安価な商品を著しく高額な金額で買わせるといった不均衡契約は、実質的に見て過量契約と近似していると思います。過量契約については、特商法9条の2の条文を参考にして、マル1過量契約に当たること、マル2当該消費者に当該過量契約の締結を必要とする特別な事情がないこと、マル3上記マル1マル2に関する事業者の認識という3つの要件で取消権の適用範囲の明確化を図れるというのが、この専門調査会の第1ステージの報告書の骨子であったと思います。その後の立法の過程において、3つの要件が混ざった条文になりましたけれども、改正法の底流に流れているのはそういう考え方であったかと思います。ならば、対価的な均衡を失する契約についても、これとパラレルに、例えば、マル1対価的な著しい不均衡があること、マル2当該消費者に当該不均衡契約の締結を必要とする特別な事情がないこと、マル3上記マル1マル2に関する事業者の認識という3つの要件で取消権の適用範囲の明確化を図ることも検討可能でないかと思います。そのうえで、それ以外の「客観的な対価的な均衡は認められるけれども、事業者によるつけ込み型不当勧誘行為がなければ締結されなかった不必要な契約」という被害類型について、今回の提案も踏まえ、不当勧誘行為の行為類型を具体的に考えつつ、別途に要件立てを考えるというアプローチもありえるのではないかと思いました。皆様の御意見をいただければ幸いです。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、長谷川委員。

○長谷川委員 お時間のない中で申し訳ありません。個別のA案からD案までについて、聴けた範囲は少ないですが、我々の会員から出された御意見を申し上げたいと思います。

A案については、先ほど申し上げたとおり、なかなかこの要不要を判断するのは難しいので、それを確認するような作業、あるいはそれを徹底するためのマニュアル等の作成が必要になってくるというような御意見があります。

B案については、消費者の知識・経験の不足ということでございますけれども、結局これも知識・経験不足が生じていないということは、なかなか事業者側から分かりにくいのではないかという指摘がございました。

「誤認」類型ですけれども、お客様によっては、誤認を正そうとすると、いやいや、俺は誤解していないのだといってなかなか話をお聞きにならない方もおられるということもあって、そうなるとそれなら契約できませんというふうになってしまうわけですけれども、そういう対応が実際難しいこともあるでしょうし、契約しないことが世の中全体としていいのかどうかという指摘ももらっております。

C案で目的を告げずにという場合ですけれども、これは結構具体的な事業活動としては、例えば既に契約をしていただいている方のところにアフターサービスで伺うというような中で、生活環境の変化を踏まえてこういった商品もどうですかということで後から提案していくような商行為もあると御理解いただければと。あと、納入したもののメンテナンスについてもそうでございます。

また、これは量販店を通じて売っているというのだとあれなのですけれども、地域密着の家電商品店で、ふだんからのお付き合いで電球が切れていますねといって脚立を持っていって替えていくというような関係の中でビジネスをしているようなこともございます。そうすると、別に最初から電球を買ってほしいと言っているわけではなくて、それを替えましょうというような形で言っているということでございまして、そういったビジネスについてどのように考えるのかなという指摘もなされているところでございます。

D案につきましては、先ほど来御指摘があるところでございまして、人間関係の構築はビジネスの基本であるということでございますので、やや射程が広いのかなと考えているところでございます。

以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、後藤準委員。

○後藤(準)委員 国民生活センターにお聞きしたいのですけれども、例えば8ページ、9ページに18歳から22歳までの相談件数について、先ほどの話を蒸し返して申し訳ないのですけれども、これは例えば1番から4番までの1,000を超えるような件数のもの、一番上のアダルトサイトのところは1万件を超えているわけですけれども、これは具体的にこういう規制の中では既にクーリング・オフとかで解決できる問題なのか、それとも今のA案、B案、C案、D案という中で、この規定の中では全く解決できない話なのか、その辺のところをお聞きしたいのです。

○山本(敬)座長 それでは、松本理事長。

○松本理事長 アダルトサイトのケースというのは。

○後藤(準)委員 アダルトに限らないのですけれども、件数の多いものは、先ほど相談を受けており、こういうものが来ているということで、問題意識としてはこういうものが結構世の中では悪質なものという認識なのか、単にそうではないのか。

○松本理事長 一番件数の多いアダルトサイトに関しましては、スマホでぽこぽこクリックしていると、契約成立しましたと一方的に表示が出て、それで何十万円すぐ払ってくださいというふうに請求される。あるいは契約していない人は電話してくれというので電話すると待っていましたとカモにされるという、契約すらない世界における請求という、いわゆる架空請求の変形です。今回の消費者契約法で何らかの条件が入ればどうこうなるというよりは、もっとひどいケースだと考えていただいていいと思います。

賃貸アパートは普通の契約案件です。出会い系サイトも詐欺にほとんど近いですが、一応契約の形をとっていますから、取り消せるということになると一定の効果が出てきます。それ以外のフリーローン、サラ金、内職、副業、教養娯楽教材、エステ関係、これは全て契約ですので、適用可能であって、救済につながると思います。

○後藤(準)委員 続きで申し訳ないですけれども、そうすると、今回挙げていただいた事例が幾つかありますね。事例1から事例4までというのは、相談件数としては大体どれくらいになりますでしょうか。この順位に限らず、件数としてはどのぐらいなのでしょうか。18歳から19歳の場合だと男性で3万3,563件という件数が上がってきていますけれども、大学の事例とか、こういったものはその内数の話ではなく、別物という意味ですか。事例1-1などというのは大学のセミナーの事例を挙げていただいていますけれども、お聞きしているのは、極めてレアケースなのか、そうではないのかと。

○松本理事長 事例1はタレント契約の話で、非常によくあるケースでございます。

○後藤(準)委員 そうすると、男性だけで3万3,000件ぐらいありますけれども、例えばこの中ではどのぐらいの割合を占めているのでしょうか。

○松本理事長 タレント・モデルに関しては、表1のところに挙がっていませんから、それよりは少ないということです。

○後藤(準)委員 相談件数としてはかなりレアケースの。

○松本理事長 レアということはございません。相談しないケースはそれの背景に相当ありますから。

○後藤(準)委員 数のことを言うと先生方に怒られるのですけれども、そういった悪質な事例で投網をかけようとするわけですから、被害を被るとは言わないですけれども、そういうことで影響を受ける事業者も規定の仕方によってはかなり数が多くなるということも考えられますので。

○松本理事長 そういう弊害は避ける必要があると思うのですけれども、発想の問題として。

○後藤(準)委員 発想の問題はよく承知しております。

○松本理事長 悪質事業者を取り締まるために消費者契約法にこういうルールを入れろということではないと思っております。我々のこの文章は、実は6ページに要望先、情報提供先というのが上がっておりまして、要望先は消費者教育にかかわる2つの官庁です。情報提供先は消費者庁の政策課と消費者委員会事務局、これがいわば民事立法とか行政規制の立法を考えてくださいという感じです。

最後に警察庁が挙がっております。本当に悪質なケースは刑事的にきちんと取り締まっていただかなければならないということで、警察にもこういう情報を提供しているということです。

○後藤(準)委員 余計なことで申し訳ないのですが、要は前から私は申し上げているのですけれども、極めて悪質な事業者は、本当に事業者と呼べるかどうかというものと、そうではない一般の事業者に対して一律に投網をかけるというため、十分そこを配慮してこの審議をしていただきたい。規定の仕方についても同様です。多分事業者の皆さんから出ているのは、規定の仕方で、実際に事業者が条文とかそういうものを見たときに、毎回同じ話になりますけれども、一体どういうことを言っていて、何をどこまで規制されているのだということがある程度分かるような形でないといけない。

過量販売の場合、実態に合った形で事業者側も消費者側もうまくいったので法案で改正しましょうと、そうした話になっていると思うのです。ですから、今回の案件についても、うまく形ができるのかどうか。そのあたりを具体的にもっと議論していただければいいかなと思っています。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

時間が既に10分過ぎています。この件に関しましては、今日たくさんの御提案及び御意見を伺ったところです。それらを踏まえまして、更に検討を続けていくことになると思います。差し当たり今日は時間も参りましたので、本日の議論はこのあたりにさせていただければと思います。

それでは、最後に、事務局から事務連絡をお願いいたします。


≪3.閉会≫

○丸山参事官 本日も御熱心な御議論をありがとうございました。

次回の日程につきましては、追って御連絡という形にさせていただきますので、よろしくお願いいたします。

○山本(敬)座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございました。

以上