第27回 消費者契約法専門調査会

日時

平成28年10月28日(金)15:00から17:10

場所

消費者委員会会議室

出席者

【委員】
山本敬三座長、後藤巻則座長代理、有山委員、石島委員、磯辺委員、井田委員、大澤委員、河野委員、永江委員、中村委員、長谷川委員、増田委員、丸山委員、山本和彦委員、山本健司委員
【オブザーバー】
消費者委員会委員 河上委員長
法務省 中辻参事官
国民生活センター 松本理事長
【消費者庁】
小野審議官、加納消費者制度課長
【事務局】
黒木事務局長、福島審議官、丸山参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 委員からのプレゼンテーション(磯辺浩一委員・永江禎委員)
  3. 意見交換
  4. 閉会

配布資料(資料は全てPDF形式となります。)

議事録

≪1.開会≫

○丸山参事官 それでは、定刻となりましたので、会議を始めさせていただきたいと思います。

本日は、皆様、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。

ただいまから、消費者委員会第27回「消費者契約法専門調査会」を開催いたします。

本日は、所用によりまして、沖野委員、後藤準委員、柳川委員が御欠席、中村委員が遅れての御出席との御連絡をいただいております。

後藤巻則座長代理、大澤委員、石島委員については、おっつけこちらに来られるかと思います。

まず、配付資料の確認をさせていただきます。議事次第の下部に配付資料の一覧の記載がございます。

資料1につきましては、磯辺委員からの提出資料、資料2につきましては、永江委員からの提出資料となっております。

もし不足がございましたら、事務局までお声がけのほうよろしくお願いいたします。

それでは、山本座長、以降の議事進行をよろしくお願いします。


≪2.委員からのプレゼンテーション(磯辺浩一委員・永江禎委員)≫

(1)磯辺浩一委員からのプレゼンテーション

○山本(敬)座長 本日もよろしくお願いいたします。

それでは、早速本日の議事に入ります。

本日もお二人の委員からのプレゼンテーションを予定していますが、今回も、前半と後半を分けて、まず前半で磯辺委員からのプレゼンテーションとその内容についての意見交換を行わせていただき、後半で永江委員からのプレゼンテーションとその内容についての意見交換を行わせていただきたいと思います。

まず、磯辺委員からのプレゼンテーションをお願いいたします。

○磯辺委員 消費者機構日本の磯辺でございます。

本日は貴重な機会をお与えいただき、ありがとうございます。

早速ですけれども、「消費者契約法における不当条項に係る検討について」ということで、御報告をさせていただきます。

資料の1ページからですが、「1.当機構の活動について」ということで、消費者団体訴訟制度に基づいた差止請求の活動をしておりまして、不当な契約条項の是正事例が一番多うございますが、こういう件数で活動しておるということを紹介させていただいております。

「2.本日のプレゼンテーションの趣旨」ですけれども、私どもが行ってまいりました差止請求関係業務において入手、是正等した契約条項の例を御紹介することを通じて、今後の不当条項リスト、ブラックリストの追加なりグレイリストを新設するかどうかについての議論の参考としていただければということで、御報告をさせていただきます。

「3.人身損害の軽過失一部免責条項については、不当条項リスト(ブラックリスト)に加えてよいと考える」、その旨を具体的な例も踏まえて御説明させていただきます。

生命及び身体は重要な法益ですので、あらかじめ契約条項において、「一部を賠償すればそれ以上は免責される」旨を定めることは妥当ではないと思います。これまで、この専門調査会で検討された事例として、スポーツ観戦と災害時のボランティアの輸送といった例がありましたので、その点の状況を御紹介いたします。

スポーツ観戦の件につきましては、本年5月20日の札幌高裁判決で、プロ野球観戦の際の失明事故について、3,350万円ほどの損害賠償が認められております。こういう重大な人身事故事例があることも考えると、プロ野球観戦約款にあらかじめ人身損害の軽過失一部免責規定を入れることは許容すべきではないのではないかということで、紛争後に個別の事案に応じて負担すべき責任の範囲や損害額は判断していく、算定していくということで、対応するべきではないかと考えている次第です。

ちなみに、現在のプロ野球観戦約款は、ここに引用しておりますように、まず第1文で「観客が被った以下の損害についての責任は負わない」とした上で、ただし書として「主催者若しくは主催者の職員等又は球場管理者の責めに帰すべき理由による場合はこの限りではない」ということで、帰責事由が主催者側にある場合には責任が生じる定めになっております。

その定めの場合においてということで、第2項で「主催者又は球場管理者が負担する損害賠償の範囲は、治療費等の直接損害に限定されるものとし」ということで、「逸失利益その他の間接損害及び特別損害は含まれない」と明示がされております。ただし「故意行為又は重過失行為に起因する損害についてはこの限りではない」ということで、ここは消費者契約法8条を意識された規定になっていると思います。

本件については、実は従前は全部免責条項だったわけですけれども、私どもが申入れをした結果、一部免責条項になったという経過がございます。ただ、これは消費者契約法8条ですと、この規定でクリアするのだろうと思いますけれども、先ほどお話ししたような重篤な被害の例も発生して、裁判でも損害が認められているということも踏まえますと、こういう軽過失一部免責条項を今のままにしておくことは妥当ではないのではないかということでございます。

それと、後者の災害時のボランティア輸送の件ですけれども、本年10月18日に閣議決定された運送に係る商法改正案で、「旅客の生命又は身体の侵害による運送人の損害賠償の責任を免除し、又は軽減する特約は、無効とする」ということが原則として定めてありまして、無効と必ずしもならない場合ということで、「大規模な火災、震災その他の災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において運送を行うとき」ということと、「運送に伴い通常生ずる振動その他の事情により生命又は身体に重大な危険が及ぶおそれがある者の運送を行うとき」、この2項の2号は、例えば妊婦さんで出産間近の方など、そのようなことを想定された議論がございました。

商法改正案で適用除外とされたケースは、こういうように極めて限定されたケースですので、それ以外のケースでは、人身損害の軽過失一部免責条項は無効となるということになります。こういう極めて限定されたケースに対応するために、運送約款等にあらかじめ一部免責規定を入れる必要性があるのかどうかで言いますと、ないのではないかと思っておりまして、これも個別の事案に応じて負担すべき責任の範囲や損害額を事後に判断することで十分足りるのではないかと考えておりますので、その点を意見として述べさせていただきます。

それと、私どもがフィットネスクラブの利用規約について申入れをして、これは是正された結果ではございますけれども、8条の範囲で是正を求めると、人身損害についても15万円を限度ということで、「死亡等重大事故は除く」とされていますけれども、原則として15万円を限度になっております。「死亡等重大事故」という範囲の規定では、死亡等に比肩する重大な後遺障害は含まれるものの、それ以外の後遺障害が残るようなケースであっても軽過失の場合には15万円上限という規定が実際に今も使われておりまして、その辺、低額に過ぎるのではないかと思っております。

繰り返しになりますけれども、生命及び身体は重要な法益でございますので、軽過失一部免責を無効とするということで、ブラックリスト化を御検討いただければということでございます。

3ページ、「4.以下のような条項は、不当条項リスト(ブラックリストまたはグレイリスト)に加える必要があるのではないか」と思っております。

任意規定や一般法理に比して消費者の権利を制限し義務を加重する条項で、実際に消費者に不利益を及ぼしていたり、今後及ぼし得るようなものについては、類型化して不当条項リスト(ブラックリストまたはグレイリスト)に積極的に加えていただきたいということです。

いずれも、私どもが差止請求申入れの対象とした条項でして、その結果、是正がされた条項です。当該事業者と協議をして、当該事業者も書き過ぎでしたということで、是正をしていただいた、その是正前の事例ということです。ただ、団体からの差止請求がなければ、使用し続けられていた蓋然性が高いことになりますので、こういう条項を見た消費者が契約書に書いてあるから仕方がないと言って、被害回復の主張を諦めることも考えられますし、事業者は契約書に書いてあるからと主張して、消費者の苦情に対応しないこともままあることであります。

よって、不当条項リストとして定めておくことが必要だと思いますけれども、例外なく無効にすべきということであればブラックリストでしょうし、事業の特性等から、こういう条項を置くことが消費者にとっても利便性があるなどの合理的理由がある場合があるのであればグレイリストとすればいいと思いますが、本日はこれらの条項について、いずれにするのかというところまで提案するものではございませんで、こういった条項が実際に是正前にはありましたということを御紹介する範囲ということになります。

「(1)準委任契約あるいはそれに類する契約と考えられるにもかかわらず、任意の契約解除を制限する条項」ということで、資格取得講座のところで「契約者が受講契約を解除できるのは、本人死亡と重大な疾病による受講不能およびクーリングオフによる場合のみ」と記載しておるというものです。

<例4>受講講座の契約約款ということで、これは非常に限られた例を1項1号以下、示して、更に1項の柱書では、「受講契約の解約をさせていただく場合があります」と事業者の側で受講契約の解約を判断するということで、非常に重大な場合に限られているということと、その判断が事業者に委ねられているという趣旨の条項になります。

準委任契約については、解約の時点で相手方に生ずる損害を賠償すればいつでも解約できるのが基本的に民法の考え方ですので、それに比べて、消費者の契約解除の権利を制限しているという趣旨でございます。

次の4ページ、「(2)天災その他不可抗力による損害の負担を消費者側に負わせる条項」ということで、建築請負契約約款で「天災その他不可抗力によって、工事の既成部分または工事材料について損害が生じた場合、発注者が負担するものとします」と定められているものです。これは、危険負担は、請負契約の場合には事業者の管理のもとで業務が進められて、完成して引き渡される性格になりますので、原則その間に生じた天災その他不可抗力の危険負担についても、事業者が負担するということが民法上は原則だと思いますが、特約でそれを逆転させている。もちろん、建設工事保険などが付保されていますので、それがある場合には損害額から引かれるわけですけれども、例えば地震保険等に必ずしも入っていない場合も多いとも聞いていますので、この契約条項に従えば非常に過酷な場合が事態によっては発生するのではないかと思います。これは是正を申し入れた結果、保険で付保された残りのものを損害として考えて、双方協議して負担割合を決めようという趣旨の条項に改善がされております。

その次が、「(3)解除事由を拡張している条項」ということで、不動産賃貸借契約において契約を解除することができる理由として、「成年被後見人の宣告がなされた時、または破産、民事再生、会社更生、もしくは特別清算等を申立てた時、並びに申立てを受けた時」等の記載がございます。これは事業者側の解除できる理由を法理等から拡張していると考えられます。数カ月の家賃を払わず信頼関係がなくなったのであれば契約解除は認められると思いますけれども、こういう事例、成年被後見人の宣告がなされた等々のこれらの事態が生じても、家賃は何らかの形で支払いが続けられる場合もあり得るわけですので、十分慎重に対応すべきところを一方的に解除ができる条項になっているという趣旨でございまして、これは私どもの申入れの事例ですけれども、同趣旨の大阪高裁の判決等も、ほかの団体の差止請求訴訟であるところであります。

「(4)無催告の契約解除条項」ということで、これは通信役務契約ですけれども、クレジットカード決済に決済方法を限定して運用されているわけですが、クレジットカード決済が1回でも滞ると、通知も催告もすることなく契約を解除していくということが定められていまして、通信役務契約ですから、2年間の縛り契約で違約金が発生するということで、すぐ違約金が請求されるということになります。こういった条項についても、無催告契約解除条項は、非常に消費者にとって酷な場合があり得ますので、リストに入れることを検討してはどうかということです。

「(5)契約の終了にともなう違約金で、事業者に生ずる損害を著しく超える額を定める条項」ということで、不動産賃貸借契約の明渡し時の遅延損害金の条項です。これは私どもが訴訟に至った事案の一つでありますけれども、訴訟提起時には、賃貸物件を明け渡さなかった場合に、「賃貸人に生じた実際の損害額に賃料等相当額の2倍の金額を加えた損害金を支払う」という定めになっておりました。都合3カ月分の賃料が違約金になることから、債務不履行の損害賠償である通常生ずる損害の額に加えて加重ではないかということで、消費者契約法10条で主張したところです。ただ、訴訟の過程で、違約金は賃料の2倍までとする趣旨を明確にする契約条項に改定されたということで、私どもの請求は棄却となりましたが、従前はこういった条項もあったわけですので、消費者契約法9条を改正して、いわゆる契約の解除に伴うだけではなくて、契約の終了の場面でも適用するようにするか、もしくはこういう契約の終了に伴う違約金に関する条項で、事業者に生ずる損害を著しく超える額を定めている場合について、不当条項リストに加えるかということを検討していただければというところです。

その次が、「(6)契約内容から自動更新が想定しにくいにもかかわらず、自動更新としている条項」でして、これは中学受験準備のための家庭教師派遣の契約です。契約の更新を自動更新と定めているわけですが、中学受験のための契約ですので、通例、契約の終期が中学受験終了時とされていることが多くて、皆さん、自動更新条項があることを気づかず、契約も終わるのだろうと思っていたところ、自動更新条項で教務管理費が数万円終わった後に請求されてトラブルになるという事例です。これも今は是正されておりますけれども、こういった非常に不意打ち的な性格が強いもので、自動更新条項があることが消費者に不利益に働く場合に、何らかの形で不当条項という考え方ができないか、リストに加えることができないかという趣旨でございます。

「(7)事業者が契約内容を一方的に変更することができる条項」ということで、家電量販店の商品ごとに契約します保証の延長契約がありますけれども、「本保証の規定内容は予告なく変更する場合があります」と免責条項に書いてありました。実際の対応として、保証の範囲を限定する変更をして、それを既に加入している商品にも適用したため、非常にトラブルが多発しまして、私どものところに情報提供があり、申入れを行い、「すでに加入されている商品に対しては加入時の規定を適用」する旨が付記されて改善された例ですけれども、こういった条項もあり得るということでございます。

「(8)継続的契約における事前通知のない契約内容の変更条項」ということで、フィットネスクラブ等で契約等の改定を行うことができる。改定内容はそれまでに入っている方も含めて全会員に適用される趣旨の条項があります。もちろん、その改定内容を全て既存の会員に一人一人合意をとらないと改定できないというのは、余りにも事業者にとって加重かと思いますけれども、一方で、不利益な変更をする場合に、改定しますと言って、そのまま適用されるということだと、消費者のほうは契約から離脱する機会も逸してしまいますので、そういう意味では、利用料の値上げとか、施設の運営時間の短縮とか、消費者にとって不利益な変更の場合には、こういう条項が問題になるのではないかということでございます。

「(9)消費者の権利行使の期間を不相当に制限する条項」ということで、これは衣料品の通信販売ですけれども、商品に瑕疵があったり、運送方法が間違っていた場合の返品等の場合に、商品到着後7日以内の場合に限り受け付けることにされてあります。瑕疵担保責任の期間は民法だと1年になりますので、それに比べて著しく短くされている。もちろん商品の特性ですとか実務上の必要性で、返品に相当するのかどうかという合理的な判断ができる期間はあるかもしれませんけれども、いずれにしても7日以内というのは余りにも短いだろうということで、この点は是正をしてもらいました。

こういうように、団体が気づいた範囲では是正しているのですけれども、世の中には、こういう水準でいろいろな契約条項があるということをぜひ御理解いただいて、不当条項リストの検討、特にブラックリストだけだとどうしても範囲が限定されますので、グレイリストということも含めて検討していただければと思います。

そのほか、「平均的な損害の額」の立証責任と条項使用者不利の原則の点につきましては、この間も意見として述べていることですので、繰り返しの御説明は避けたいと思いますけれども、特に「平均的な損害の額」の立証は、消費者だけではなく、消費者団体にとっても非常に難しいという実情がございます。

あと、前回の御議論のときに、条項使用者不利の原則について、解釈を尽くしても複数の解釈の可能性が残ると判断するのは誰でしょうという疑問がこの場で提示されたと思いますけれども、私が思いますに、そもそも事業者、消費者双方が解釈を示すということで論点が出てくるわけでして、それで一致しなかった場合は協議して、詰めていく。それでもなお解釈が一致しない場合に、ADRですとか裁判官が、双方の見解を聞き、検討する。それでも、複数の解釈が成り立つとなれば、使用者不利という流れになるのではないかと思いましたので、付言させていただきます。

どうもありがとうございました。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの磯辺委員からのプレゼンテーションの内容を受けまして、意見交換を行いたいと思います。御意見、御質問のある方は、御発言をお願いいたします。

石島委員、どうぞ。

○石島委員 磯辺委員からのプレゼンテーション、このような契約条項が実際には使われているという事案の御紹介、ありがとうございました。

少し細かく意見出しをさせていただきたいと思います。

まず、ブラックリストについてです。ブラックリストは、皆さん、御案内のとおり、10条はバスケット条項であって、そこで定められた要件を飛ばして一律に不当とされてしまうものがブラックリストです。こういった性質のブラックリストについては、ある意味、ミニマムリストであるべきだと考えます。合理的なケースが存在しないような、よほどひどいものに限定すべきであるかと思いますので、ブラックリストに該当すべきものかどうかは、丁寧な議論の積み重ねが必要かと考えます。

また、グレイリストについての御提案があったのですけれども、グレイリストというものが新設されれば、それが商品やサービスの設計上、やむを得ないものであったとしても、消費者の方々からは無効であると主張されることになって、事業者としては、事実上グレイリストに載せられた条項を使用することが困難になって、事業者の商品・サービス設計の大きな足かせになり得ます。個別の商品やサービスにおいて、どのような契約条件にするかは、ビジネスモデルと密接不可分であって、単に契約条件だけではなくて、商品・サービスの価格や品質等とも密接に関連してきます。これは、新たなサービスを生み出していくときにもとりわけ問題になることであって、現在の価値判断を固定させてしまうことになります。それによって一律に規制をかけることは、今後の日本が成長していくに当たってのイノベーションが阻害されることにもなりかねません。グレイリストを設けるのではなくて、一般条項に従って、個別のケースごとに契約条件だけではなく、商品・サービスの価格・品質などを総合的に考慮して、個別の条項の有効性について判断されるべきだと考えます。

次に、人身損害の軽過失一部免責条項について申し上げます。このような条項を使用している事業者の方々にも事情があるはずではないかと思いますので、その対象の事業者からも意見をヒアリングするのが正しいのではないかと思います。

また、準委任契約あるいはそれに類する契約と考えられるにもかかわらず、任意の契約解除を制限する条項、これについても慎重な議論が必要と考えます。特に、類する契約の射程範囲がかなり不明確だという印象を持っております。典型契約に類されない非典型契約のようなものが、特にインターネット上の事業では多く存在しております。こういったものに対してもこの射程に入ってくるとなると、非常に影響が大きいと言わざるを得ないと思います。例えば、合理性のあるものが射程に入ってしまうのではないかという懸念がある例を一つ申し上げると、当社でヤフーウォレットという決済サービスを提供しているのですけれども、この決済サービスの利用停止を御希望になる場合は、所定の手続に従って、御利用を基本的にはいつでも停止していただくことはできるのですけれども、有料サービスを御利用になっている場合は、そちらの解約手続を先に終えてから決済サービスの御利用をお取りやめいただきたいという御案内をすることがございまして、こういうものも不当とされてしまうと、非常に影響が大きいと言わざるを得ないかと思います。

次に、天災その他不可抗力による損害の負担を消費者側に負わせる条項、これについても慎重に議論すべきかと思います。まず、御提案されている条項の射程範囲が不明確かと思われます。ここで、例えば非常に安価な金額で請け負って、対価の前払いを受けているケースにおいて、不可抗力があって債務が履行できない場合にも、それを全て御返金しなければいけないということになると、先ほど申し上げた商品・サービスの設計にも多少かかわってくる問題かと思いますので、これも一律に全て不当だということについては、慎重な議論が必要なのではないかと思います。

また、解除事由を拡張している条項、これについても事業者にとってはかなり影響が大きいと言わざるを得ないかと思います。これもどちらかというとバスケット条項に近いような条項のような印象を受けておりますので、ここで御紹介いただいた生活の拠点を奪われるような特殊なケースは、個別の法律や10条で処理すべき問題かと思っております。また、反社会的勢力との取引を絶つために、こういう条項を入れることもあるのですけれども、これも解除事由を拡張しているのかという懸念も生じますし、非常に射程が不明確かという印象を持ちました。

無催告の契約解除条項についてです。これは、こうした資力に不安を覚えるような方に対して、無催告の解除とすること、実際そういうことはございまして、他のお客様を獲得するために解除することは事業者で一般に行われていることですので、これも慎重なヒアリングのもと御検討いただきたいと思っておりますし、国が定めている旅行に関する標準旅行業約款などでもこうした条項は見られますので、こういったことを丁寧に分析していただきたいと考えます。

あとは、事業者が契約内容を一方的に変更することができる条項につきましても、これは民法改正で新設される約款の施行状況を見て判断するべきではないかと考えます。

次に、継続的契約における事前通知のない契約内容の変更条項につきましても、同じく民法改正で新設される約款の施行状況を見て判断するべきではないかと考えます。

また、消費者の権利行使の期間を不相当に制限する条項につきましても、これも影響が大きいと言わざるを得ないかと思いますので、これは10条で個別に一つ一つ判断していくべきものではないかという印象を持っております。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見はございますか。

井田委員、どうぞ。

○井田委員 磯辺委員から御報告をいただきました。ありがとうございます。

これは現実の適格消費者団体の業務において取り扱われた条項ということでございますけれども、ここに例として挙げられたものが全てではなくて、いわゆる第1ステージでは、例えばサルベージ条項であるとか、あるいは事業者の解釈権限付与条項なども検討すべき条項として挙がっていたかと思いますので、ここに挙げられた例が全てではないということは前提として御理解いただいて、今後議論させていただければと思います。

私個人的には、中間取りまとめには必ずしも出ていなかったのですけれども、専門調査会の審議の過程で出た不当条項リストの中で、例えば消費者の同時履行の抗弁権を制限するとか、あるいは放棄させるとか、あるいは相殺権を放棄させるなどというものについては、これは少しいわゆる事業者の有用性というところだけで法的妥当性があるのかなと個人的には思っておりますので、そのような議論もできればと思います。

不当条項の規制を検討する際に、よく事業者側から一定の有用性という話が出てくると思います。先ほどの石島委員のお話も、そういう一定の事業者側の有用性というくくりの中で分類できることかなと思うのですけれども、もちろん事業者側として、事業者側の根拠があって特定の条項を設定しているのは事実なのですが、それが法的な意味で全て妥当かと言われると、必ずしもそうではないのではなかろうかと思っております。

具体例を挙げますと、消費者の任意解除権を制限する条項については、第1ステージの議論がありまして、その中で、自由に解約を認められると困るということで挙げられた例として、例えば個人年金契約であるとか、定期預金契約であるとか、あるいは金銭消費貸借契約であるなどという金融取引に関する話は出たのですけれども、他の業種に例えばそういう任意解除権を制限する有用性のみならず、法的妥当性があるのかどうかについては、もう少し具体的にこの委員会で議論ができればと思っております。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、磯辺委員、どうぞ。

○磯辺委員 私の説明が不十分で誤解を招いた点もあろうかと思いまして、特に4以降の(1)や(2)など、表題のようにつけているのは、こういう表現でリスト化するということを言っているわけではなくて、その後に示されている事例の約款を一言でまとめるとこのようなことですという趣旨です。リスト化するときには、当然私の能力はとても及びませんので、もっと精緻にきちんとどういった場合かということで限定を加えて御議論いただくということは当然必要かとも思います。

もう一つ、非常に事業者の方はグレイリストのことを御心配になっているのですけれども、それはグレイリストの趣旨をどれだけ社会的に認知をしてもらうかということにひとえにかかっているように思います。要は、合理的な理由があって、消費者にも利便性があるのだよ、こういうサービスを維持するにはどうしてもやむを得ないのだよということで、説明が尽くされれば、それで有効ということが認められる場合も当然あり得る条項ということになります。グレイリストとはそういうものなのだと。ただ、そういった検討なくぼんと置かれていると無効になる場合がある、そういう条項なのですよということの認知が広がることが大切です。そのような趣旨のリストが具体的に見えるということが、事業者の方も約款を検討する際に非常に参考にもなると思いますし、消費者のほうもこれはどうなのかなと思って質問するきっかけになるのかなということで、そういった趣旨のものだということでぜひお受けとめいただければと思います。それを実際に担保するためにどういう運用が必要なのかという御議論もあるのかもしれません。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、大澤委員、どうぞ。

○大澤委員 貴重な御報告、どうもありがとうございました。実例がいろいろ示されていて、今後の検討に当たって、非常に参考になるかと思います。その上で、何点かつけ加えさせていただきます。

まず、3ページの準委任契約あるいはそれに類する契約と考えられるにもかかわらず、任意の契約解除を制限する条項ということですが、これは先ほど石島委員がおっしゃっていたとおり「それに類する契約」の範囲をどう考えていくのかが問題になると思います。

恐らく想定されているのは、現在の裁判例で特に役務提供契約の中に準委任契約は類似の契約であるという判示をしているものが結構多く見られますので、そのような契約であるかと思います。準委任契約そのものではないのですけれども、あえて言うと準委任に一番近いという形の判示だと思いますが、結局今度の民法の改正法案の中で、この点の、例えば役務提供契約の規定を設けるですとか、そういったことは実現がされていませんので、このような書き方にするしか多分ないのだと思いますし、役務提供契約という言葉を使っても、やはりこの範囲は何なのだということが争いになりますので、ここは慎重に詰める必要はあると思います。

ただ、任意の契約解除を制限する条項につきましては、再開前の専門調査会の中でも、いわゆる法定解除権に限定する合理性はあるのかどうかということが議論されましたので、こういう任意の契約解除権についても、それを制限する条項は法定解除を制限するものと同様に不当性があることがあるのではないかという観点から、もう一度議論する必要があると考えております。これが1点目です。

2点目は、5ページの(6)契約内容から自動更新が想定しにくいにもかかわらず、自動更新としている条項ということで、もちろん、表題は今後検討されるということだと思うのですが、この条項はどう捉えていいのかなかなか難しいところがありまして、つまり、例えば自動更新条項自体をリストに入れるということなのか、ただ、この表題を見ますと、自動更新の条項が入っていることが想定しにくいというか、ちょっと不意打ち条項に近いような話なのかなという気もしています。仮にそうであるとすると、民法改正法案の中に入っている、定型約款のみなし合意のところにある、いわば不意打ち条項に近い条文だと思いますが、そういったものとの関係が必要になるのかなと。(6)に関しては感想でございます。

3点目は、磯辺委員の報告からは少し離れてしまうのですが、先ほど石島委員がおっしゃっていたこととの関係で意見を申し上げたいと思います。

専門調査会が再開されて、私はずっと欠席しておりましたので、この間、議論があったのかどうかは分かりませんので、もし重複になったら大変申し訳ないのですが、恐らくこの再開前の専門調査会でも出ていたのは「グレイリスト」という言い方が余りよくないのかなという意見です。「グレイ」という言葉の印象が余りよくないのかなという印象は持っています。漠然としているという印象を与えるからです。「ブラック」というとどう見てもアウトであるということに対し、「グレイ」というとアウトなのかセーフなのか分からない印象を与えるのかなと思います。

そのこともあって、例えば再開前の専門調査会ですとか、あるいは、学説などでも言われていますのは、いわゆる「不当であると推定されるリスト」とか「一定の場合に不当と見られるリスト」とか、立証責任の問題はともかく、そういったいろいろな言い方をしてきたと思いますので、それをまず前提として申し上げたいのです。

ただ、グレイリスト、この不当と推定されるリストよりも、一般条項10条に委ねたほうがいいのではないかという意見について、この種の御意見を非常によく伺っていますので以前から疑問に思っているのですが、一般条項のほうが、結局10条の抽象的な要件に当てはめて審査して、不当かどうかを判断しなければいけないということで、明確性の観点からは疑問が残るのではないかと思います。法規定の明確性の観点から、果たして多くの条項を一般条項に委ねることが本当に事業者、消費者双方にとって健全と言えるかどうかは、検討する必要があると思います。

先ほど磯辺委員もおっしゃっていたように、恐らく、このリストの趣旨をもう少し丁寧にこちらで議論し、そして、それを周知していく必要があるのではないかと思います。仮に不当であると推定されるリストですとか、あるいは一定の場合に不当と考えられるリストというものを設けるとしても、当然商品の特性あるいは商品の価格設定などを考慮して、場合によってはこれの不当性が覆る種のものですので、これを別にリスト化したからといって、例えば商品の値段としては非常に安価に抑えているといったことを無視するものではなく、むしろ、先ほど有用性という言葉が出ていましたけれども、事業者にとっての有用性ですとか、商品価格・品質とか、その種のものを考慮した上で相当と言えるかどうかを、具体的な条項の中で審議していくものであると考えています。

例えば、典型的には、これは別にブラックリストかどうかはともかくとしても、6ページに挙げられている(9)消費者の権利行使の期間を不相当に制限する条項というものがありまして、この例として、返品期間を7日間に限定しているものがございます。これは返品の理由を限定している条項かと思いますが、その一方で、この期間制限が7日と短過ぎるという話だと思います。まだ私も検証しているわけではないのですが、当然、これは商品によっては、余り長い期間を設けると、例えば生鮮品とか生ものといったように適切でないものはあると思います。仮にこの(9)をリストに入れるとしても、その場合に、この権利行使を7日間にしているのは合理性があるのかどうかという観点の審査をするときに、当然、その商品の特性あるいは値段とか、例えばバーゲン価格で売っているとか、そういうものは審議するわけです。そういうものを、単に10条のいわゆる著しく一方的な不利益を与えるという要件だけではなくて、こういう形の少しでも具体化された「権利行使の期間を不相当に制限する」という文言で審査していくものだと私個人的には考えておりますので、別に今日決める話でも何でもないですから、今後の審議の中でこの種のリストがどういう趣旨のものなのかをもうちょっと審議して、周知していく必要があるのではないかと考えています。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見があれば、お願いします。

丸山委員、どうぞ。

○丸山委員 質問が1点と、意見が1点あります。まとめて説明させていただければと思います。

まず、質問というか、情報提供をいただければと思いましたのが、<例6>のような不動産賃貸借契約の契約条件について、こういった契約条件は一人の不動産業者、大家さんだけが用いているようなものなのか、それとも何か市販のひな形のようなものでこういったものが増えている状況なのかを、仮に情報があれば教えていただければと思いました。

2点目は、今、話に出ている、グレイリストと言うのはいけないのかもしれないのですが、グレイリストに関して考えたことを述べさせていただければと思いました。

基本的には、明文、不文の任意法規に照らして、消費者に不利になっているような契約条項というものが問題となる。そういったものの中で、特に事業者に合理性があるのだ、合理的理由があるのだということを説明していただいたほうがよい条項、こういうものを精査していくということで、グレイリストというものを立法化していくことは、個人的には可能なのではないかと思っております。

付言しますと、グレイリストとは直接関係ないのですが、今回の10条の改正で、不文の任意法を例示として入れるといった改正をしたところなのですが、国民にとってその条文が一見すると何を意味しているのか、どういう意義があるのかが、なかなか伝わりにくい条文になってしまっているように思います。出発点に返りまして、国民全体に、その意味や意義が分かりやすい消費者契約法ということも立法をする際には意識して議論をしていったほうがよいのではないかという意見を持っております。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

では、質問の部分について、磯辺委員、お願いいたします。

○磯辺委員 こういった解除事由を拡張している条項がひな形として準備されているのかどうかについては把握しておりませんが、同趣旨の条項は幾つかの事業者に見られますので、比較的採用されている条項だと思います。

それと、割と大手が採用されている条項をそのまま余り考慮されずに中小事業者が広く使われることもありますし、そういった場合に、こういった条項は問題ではないですかと御指摘をすると、運用はちゃんとやっているのですというお話が出てきます。その場合には、では、運用どおりに書いてください、それが契約条項としては正確だし、お互いの理解になりますからという御説明をして改善していただく。そのようなことで進めております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、長谷川委員、どうぞ。

○長谷川委員 法律論ではないのですけれども、質問させていただければと思います。磯辺委員のところで、大体どれぐらい是正を要請されて、それに応じられる事業者の方はどれぐらいになっているのかということと、要請された後、仮に是正されるとして、是正されるまでの期間はどのくらいかということについて、千差万別なのかもしれませんが、教えていただければと思います。

○山本(敬)座長 磯辺委員、どうぞ。

○磯辺委員 まず、私どもが設立以来行ってきた要請の件数ですけれども、110件超ぐらいです。そのうち80件ぐらいが是正されている。是正されずに終わったものの中には、相手方が非常に小さい事業者で、なかなかやりとりがうまくいかなくて、むしろ行政指導でやってもらったほうがいいだろうということで、行政に情報提供をして、行政指導をお願いするというものですとか、もしくは、やりとりをしている間に相手方が倒産をしてしまうですとかといったものもございます。

そのようなことで、もちろん事情を聞く中で、それはやむを得ないことですねということで、こちらの要請なり、申出なりを取り下げる例もまれにですけれども、ございます。また、今、継続中のものが15件ぐらいあります。そのようなこともあり、110件のうち80件ぐらいが是正されたということです。

期間ですけれども、一番短いものでおおむね半年ぐらい、書面をお送りしてやりとりをさせていただいているということで、長いものですと、2年、3年にわたるものがあります。裁判になりますと、もう少しかかることになります。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかにいかがでしょうか。

山本健司委員、どうぞ。

○山本(健)委員 御報告ありがとうございました。

磯辺委員が御指摘の契約条項は、実務上、確かに合理性の存否が問題となっている契約条項です。付加するとすれば、先ほど井田委員からも御指摘がありましたけれども、契約文言の解釈権限を事業者のみに付与する条項なども、新たな不当条項リストとして検討されるべき契約条項であると思います。

中間取りまとめで列挙された不当条項リストの候補のうち、今年の法改正で対象とならなかったものについて、消費者被害の救済促進という観点から、法改正が検討されるべきものと考えます。

先ほどグレイリストは経済成長を阻害するのではないかという御懸念が表明されておりました。しかしながら、例えばドイツでは昔からグレイリストを含む詳細な不当条項リストが採用されておりますが、御承知のとおり、現に欧州を代表する経済大国であり続けており、経済活動に支障は生じておりません。韓国もそうです。

また、グレイリストには、先ほど大澤委員からも御指摘がありましたとおり、10条の一般条項しかない現状よりも、不当条項の予見可能性が高まるというメリット面があると思います。

確かに、立法する場合には要件を慎重に検討する必要があるとは思いますが、グレイリストないし評価規範を含む不当条項リストという立法の在り方自体が問題であるわけではないと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、中村委員、続いて後藤巻則座長代理、お願いします。

○中村委員 先約がございまして、遅れまして、申し訳ございません。

不当条項につきましては、私どもの業界というところで申し上げますと、一般的には業界全体で使用しているようなものはございませんので、個別の条項の考え方につきましては、改めてもう少し議論が詰まってからお話をさせていただきたいと思うのですけれども、解除事由の拡張等のあたりについて、一般の事業者の考え方として御説明させていただきたいと思います。

まず、4ページの(3)のところで、成年被後見人の宣告がなされたとき、または破産、民事再生、あるいは強制執行等の処分があったときという条項でございますけれども、これは特に消費者向けの条項ということではございませんで、一般の事業者同士の契約書にもほぼほぼ全体的に入っている条項だと理解しております。

その理由としましては、典型的には、例えば破産という場合を考えた場合に、この条項は、こちらは相互の契約ということが多いわけですけれども、相手方が破産したといった場合に、こちらが債権を持っているときに、破産で、その瞬間に解除ということにすることをもって、その後にこちらのサービスの提供を免れて、そこで一旦契約関係を切って、債権の回収ということに入っていく。そういう会社としての損害を避けるための一般的な条項でございますので、そこはたまたま消費者に対して、片方側ということだけで設定されているということであれば、少し御議論の余地はあるのかもしれないのですけれども、こういう条項が何か一般的に見て不当な条項とは事業者としては考えていないというところを御理解いただければと思います。

このような形で、解除事由とか解約について考えていく場合に、相互の関係といいますか、例えば事業者が無料のサービスを提供していて、そうはいっても会社のいろいろな都合でやめることがある。ただ、お客様のほうもいつでもやめられますというような、お互い同士にどういう組立てになっているのかということも、不当かどうかということを判断するのにも重要な要素ではないかと思っておりますので、そういうことも含めて御議論ができればと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 磯辺委員、どうぞ。

○磯辺委員 事業者間の契約について、そういう条項があることはよく存じ上げておりますが、消費者契約で、しかも、これは不動産賃貸借契約という、先ほど石島さんからもありましたけれども、居住の権利とか、非常に保護されている権利との関係での条項でございますので、そういう趣旨で例示させていただいています。

○山本(敬)座長 それでは、後藤巻則座長代理、どうぞ。

○後藤(巻)座長代理 冒頭の磯辺委員の御報告と、それから、石島委員のやりとりで、例えば3ページの任意の契約解除権を制限する条項についてなのですけれども、任意の契約解除権を制限する条項については、それを無効だという形で、その観点から不当性をチェックするということと、解除をした後に消費者が過大な損害賠償を負担するという点に焦点を当てて不当性を問題とするということと両方の方法があると思います。

その後の方法で考えますと、9条の1号の問題になりますが、9条1号の問題にして、解除権の制限としてはリスト化しないことにした場合に、どのような不都合があるのかということで、すぐに思いつくのは、平均的損害の立証が困難だということです。それ以外に、実際に差止請求の仕事をなさっている中で、どのような不都合があるのか。9条1号の問題として考えますと、全部または一部返金しないというような条項があって、それが平均的損害を超えているのかどうかを問題にすることになると思います。そういう考え方と、今、ここで示していただいているような任意の解除を認めないということはおかしいのだという考え方と、どちらがいいのか。リスト化するのかどうかを考えるに当たっては、最終的には9条1号だけだと不都合だということが割とはっきり出てくる必要があるのではないかという印象を持つのですが、その点、差止請求業務を行っている過程でお感じになっていることなどありましたら教えていただきたいと思います。

○山本(敬)座長 もし御意見があればということで、磯辺委員、よろしいでしょうか。

○磯辺委員 まず、契約の解除が認められない限りは9条の場面に行かないので、契約の解除をきちんと認めていただくことが必要だと思います。また、こういう条項が置いてある場合に、中途解約の場合の違約金条項(損害賠償条項)が置かれていないケースがあるのです。ですから、そうすると、まず契約解除の問題。その上で、解除の時期等に応じて消費者契約法の趣旨にのっとって適切な規定を置いてくださいというやりとりという感じでしょうか。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

後藤巻則座長代理、時間も押しておりますので、手短にお願いいたします。

○後藤(巻)座長代理 あと一つ、これもふだんのお仕事上で感じていることがあればお聞きしたいのですけれども、1ページ目の平成28年5月20日の札幌高裁判決なのですが、この判決は免責条項の問題について、免責条項の合意があるかどうかというところを問題としていて、消費者契約法のチェックは、問題としていない事件だったと思います。こういうような判決の態度は、民法改正案で事前の開示ということについて、相手方からの請求がない限りは開示しなくていいのだという方向が出てくると、この判決のような言い方ができにくくなるのではないかと思います。そういうことから見ると、民法の改正案とは別に、消費者契約については開示を尊重するような定型約款の考え方を採る必要があるのではないかという印象を持ちます。ふだん、実際にいろいろな不当条項に接している御経験の中で、不当条項というのは本当にそれについて合意しているのか疑問に思うような条項が割と多いのではないかと思いますが、そういう場面で、むしろこれは開示の問題であって、免責条項の有効性という問題より以前の問題だと感じるような場合は結構あるのでしょうか。その辺についてもし御意見があればお願いします。

○山本(敬)座長 かなり大きい問題なのですけれども、もしお答えがあればということでお願いします。

○磯辺委員 簡単に。開示がされていても、その趣旨まできちんと合意できているのかどうかという問題ですが、具体的な場面に照らしてその条項がどのような意味を持つのか、消費者のほうは一見して分からないことが多いと思います。ですから、開示されていたとしても事後的に不当性ということを十分検討しないといけないのだろうと思います。お答えになっていないかもしれません。済みません。

○山本(敬)座長 非常に大きい問題ですので、ここはこの程度にさせていただいて、最後に、河野委員からお願いします。

○河野委員 ありがとうございます。

専門的なお話をいろいろ伺っておりますが、私自身は消費者の立場から今回磯辺委員から提案された内容に関しまして、どういう姿勢で考えていただきたいかを申し上げたいと思っております。

まず、1ページ目の人身損害の軽過失一部免責条項につきましては、前回の検討で不当条項化は見送りになりましたが、改めて生命・身体にかかわることというのは、非常に重要な法益であるというそもそも一番大事なことを検討の過程にしっかり置いていただきたいと思います。

私自身は、2ページに示されている商法改正案の審議にたった一人の消費者代表で加わりましたけれども、回を重ねるごとに、事業者の皆さんもこういった内容において、適用除外は置かれましたが、この適用除外以外は非常に重要であるということで、ある意味、片面的強行規定ということでこの規定を置いてくださいました。このあたりをしっかりと今回も御議論いただければと思います。

もう一点は、「グレイリスト」という呼び方が少しよくないのではないかというお話もありまして、それは今後の検討に任せたいと思いますけれども、これも4ページに書かれています、前回検討されていた様々な不当条項に当たるであろうリストが見送りになりました。

ただ、立場が違うと見解が違うということをここでしっかりと申し述べさせていただきたいと思います。事業者の皆さんから見た有用性という御議論もありましたけれども、消費者側からしますと、ここに挙げられている9例は全て不利な条件であって、適格消費者団体の非常に地道な努力によって是正が図られたものでございます。

消費者契約法の議論ですと、今日もそうですけれども、何となく対立軸のような形で話が進んでいきます。でも、そもそも対立するものではなくて、善良な事業者と善良な消費者であったとしても、そこにある意味そごが生じることが現実であり、事実である、そのことをしっかりと見据えた形で検討していただければと思います。分かりやすく示して、お互いに気をつけましょう、それが今回検討されている「グレイリスト」と言っているものだと私自身は理解しております。ですから、お互いに気をつけましょうという目安として置くことに、ぜひ事業者の皆さんも前向きに、積極的にこのことに関与していただきたいと思っております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

おそらくまだまだ御意見は続くかとは思いますけれども、今日で終わりではなく、今日の御議論を踏まえて今後検討を進めるものですので、御容赦いただければと思います。

(2)永江禎委員からのプレゼンテーション

○山本(敬)座長 続きまして、永江委員からのプレゼンテーションをお願いいたします。

よろしくお願いいたします。

○永江委員 日本広告業協会の永江でございます。

本日は広告業に携わる者の立場から、「消費者契約法の見直し」についての意見を述べさせていただきたいと思います。

資料のパワーポイントは大部になっておりますが、右上にページ数がございますので、そのページ数に従って説明させていただきます。

まず、2ページ目「I 基本的な視点・考え方」についてでございます。

当協会といたしましては、「悪質な事業者」の「悪質な行為」から「消費者の利益を擁護」しようと試みること自体について反対するものではありません。しかしながら、そのために「消費者契約法の見直し」をしなければならないのか否か、具体的に、かつ、丁寧な検討が必要不可欠だと考えております。

特に、「勧誘要件の見直し」によって、不当勧誘規制の対象が「広告」に拡大されることについては、反対でございます。したがって、本プレゼンの主要な領域は、「勧誘要件の見直し」にかかわるところでございます。

なお、我々の意図するところは、広告活動に消費者契約法の対象が拡大されること自体に反対ということですから、逐条解説での記載による解釈変更によって、不当勧誘規制の対象が広告活動にまで拡大される場合も含めて考えております。

3ページ目、「消費者の利益の擁護」のために「消費者契約法の見直し」という方法が必要かつ適切なのかを具体的に、かつ、丁寧に検討する必要があると考えております。

その検討の方法としては、4つのステップを踏まえるべきであると考えます。

1.現行の消費者契約法では対応ができない具体的なトラブルの集積があるのか。そもそも現行法では対応できない具体的なトラブルが相当多数存在しているわけではないのであれば、法改正などは必要ありません。

次に、トラブルの集積についてですが、2.どのような点が真に問題なのかを正確に把握した上で、3.「消費者契約法の見直し」以外の方法で、対応不能トラブル集積に対応することができないかということについて検討する必要があると思います。仮に現行の消費者契約法では対応できないトラブルが実際に相当多数存在している場合においても、「消費者契約法の見直し」以外の、例えば他の法律の適用による適切な方法で対応ができるのであれば、あえて見直しなどするべきではありません。

「消費者契約法の見直し」以外の方法でなければならないということが具体的かつ丁寧な検討で明確になった場合に、4.具体的な「消費者契約法の見直し」の方法について、過剰な規制にならないか、相当性の観点から丁寧に検討を行うということになると思います。現行法制下では対応できず、かつ、「消費者契約法の見直し」以外の方法では対応できないという事情がある場合において初めて立法事実が認められると考えますが、仮に立法事実の存在が認められたとしても、事業者側に過剰な負担を負わせるような規制ですと、販売価格への反映など、かえって国民経済にマイナスの影響を及ぼす可能性もございます。したがって、仮に立法事実が認められる場合においても、その改正の内容が過剰なものにならないように、相当性の観点から丁寧に検討する必要があると考えております。

なお、本プレゼンにおいて、立法事実について、「立法事実(対応不能トラブル集積)」と記載しております。これは現行法等では対応できない、かつ、「消費者契約法の見直し」以外の方法では対応できないという点を明確にする意図がございます。本来はこのような括弧書きを記載しなくても当然そのようなことになるはずですが、議論の対象を明確にするために、あえて記載させていただいております。

4ページ目、まずステップ1・2・3に相当する立法事実の有無についてお話しさせていただきたいと思います。

5ページ目、「勧誘要件の見直し」、すなわち不当勧誘規制を「広告」にも及ぼすことにかかわる立法事実の検討に当たっては、そもそも「広告」とはどのようなものなのかについて理解をする必要があります。そこで、まずは「広告」の具体的な実施形態について説明いたします。

6ページ目、『広辞苑』の記載と当協会の定義は6ページに記載のとおりですが、これらの定義からすれば「広告」は、「広く世間」の「多くの人」である不特定多数の消費者を対象として、彼らを「誘致するために」、企業・商品・サービス等の存在及びその特長を広く告知し、当該商品等についての消費者の良好な認識・態度を形成することを目的としております。

つまり、「広告」は「特定の消費者に働きかけ、個別の契約締結の意思の形成に直接に影響を与え」ることを目的とするわけではございません。この点は「勧誘」とは大きく異なるものであると考えます。

7ページ目、つまり、「広告」は、店頭などでの消費者契約の「勧誘」に至る前段階において機能する活動です。「勧誘」の前段階において、より多くの消費者に効果的に事業者の商品・サービスの存在とその長所を広く告知することを目的としております。

従って、「広告」とは、消費者に対して商品・サービスの特長・アピールポイントに関する情報を提供し、消費者の興味関心を引くものであると言うことができます。

8ページ目、次に、「広告」の多様な実施形態について、そのさわりをお話しさせていただきたいと思います。ここでは、主な「広告」の種類についてざっと記載をしております。一口に「広告」と言っても、テレビ、新聞などから看板に至るまで非常に多様であることがお分かりいただけると思います。

9ページ目、「広告」のテレビCM、ここで重要な点は、「広告」は時間やスペースの制約上、伝達できる情報量に限界があるということです。まず、テレビとラジオCMですが、テレビCMの基本的な長さは一般的には15秒です。しかし、最後にCIカットというキャッチフレーズと社名のように決まった映像が入りますので、実質的な商品情報を伝達する秒数は、それを抜いた14秒になります。

言葉として伝達できる文字数が非常に限定されていることがお分かりいただけると思います。

10ページ目、次に、新聞広告と雑誌広告でございます。新聞広告の1ページ全てを使うようなものもあれば、1ページの下から3分の1の広告スペースや、さらにその半分の広告スペースのようなものもございます。10ページの図の左から3番目をいわゆる半5段と呼んでおります。

11ページ目、半5段の広告スペースに、架空の商品について要素を入れ込んでみたものになります。こちらを見ていただくと、短所を含めた商品の情報について、詳細を述べるには限界があることは御理解いただけると思います。

12ページ目、次にインターネット広告でございます。インターネットを介在した消費者へのコミュニケーション手段は非常に多岐にわたりますから、インターネット広告とは具体的にどのようなものを指すか、この専門調査会での意思統一を図るべきと考えております。

インターネット広告には画像や映像のものも文章のものもあり、その両方を使った例を記載しております。伝達できる情報量が非常に少ないことがお分かりいただけると思います。なお、インターネット広告については、日々新しくなっておりますので、その詳細については、私よりもむしろヤフーさんや、例えばeコマース事業者、インタラクティブ広告協会のような団体の方に意見を聴取したほうがより詳細な御説明をいただけると考えております。

13ページ目、次に交通広告や屋外広告です。広告スペースにおいて伝達できる情報量に限界があるということとあわせて、特に看板やポスターなど、もともと詳細な情報を伝達するには向かないメディアもございます。

14ページ目、このように「広告」は多種多様なものでございます。しかしながら、「消費者利益の擁護」という観点で真に問題であるのはどの「広告」なのか、それを解決するにはどうしたらよいのかというように、冒頭に御説明した検討4ステップのうち、ステップ2と3について十分な分析がこれまでになされていないと考えます。

15ページ目、広告活動には法令や条例などの法規制や、業界ごとの自主基準など様々なルールがございます。我々事業者はこれに基づいて、適法かつ適切に「広告」を実施すべく、日々努力を行っております。

16ページ目、次にII-2「提出された事例の検討」でございます。

17ページ目、このパートでは、昨年の専門調査会に提出された資料に記載された事例につきまして、消費者契約法の改正によらなければ解決できない立法事実となり得るのか、特に不当勧誘規制と「広告」の観点から検討を行っております。

検討に当たっての視点は、マル1見直しの検討に当たって紹介されている各事例は、そもそも適切なものなのか。

マル2見直しの検討に当たって紹介されている各事例は、一般的な事案なのか。

マル3消費者契約法を見直さなければ適切な処理が不可能なのか。

この3点でございます。

18ページ目、検討の材料は、第8回及び第13回の専門調査会において消費者庁から提出された参考資料に記載された各事例です。

一旦、スライド19ページ目以下を見ていただきたいのですが、まず、事例全体について申し上げておきます。参考資料は、裁判例、相談事例、ADR事例で構成されております。このうち相談事例、ADR事例につきましては、一方当事者が主張する事実であって、裁判官が客観的証拠に基づいて認定した事実と異なり、真に当該資料の記載のとおりであったのかという保証はないということになります。

ですから、まずはこの観点から、真に立法事実の根拠とするにふさわしいかどうかを十分に検討することが必要です。

その上で、各事例について検討を行っております。その詳細は以下に記載しておりますが、18ページ目、結論として、当協会としては、提出事例からは、現行の消費者契約法を含む現行法等の規制では対応ができない具体的なトラブルの集積があると納得できる事実はないと考えております。つまり、冒頭御説明した検討のための4つのステップのうち、現状はステップ1の入口にあるという認識でございます。

したがって、「勧誘要件の見直し」等について、消費者契約法の改正、解釈変更が必要だとするのであれば、まずは、現行の消費者契約法では対応ができない具体的なトラブルの集積の具体例、特に、どのような「広告」が問題なのか、改正が必要だとお考えの委員から具体的に詳細な事情が分かるものを御提示いただきたいと考えております。

当協会としては、詳細な事情が分からない点や、一方当事者の主張にすぎない点で、ADRや相談事例には問題があると考えていることは先ほど述べたとおりでございます。この点、過去の調査会などにおいて既に立法事実となる事例の分析や議論が尽くされたという御意見もあるかもしませんが、過去の検討事例は極めて特殊な事例ではないか、他の法律等でも救済可能ではないか、あるいは悪徳事業者が責任追及に応じないなど強制力の問題であって、法改正が適切な解決策にはならないのではないかと、立法事実とすることに疑問がございます。

事業者側も含め、明確に法改正により一般的に広く対応すべき問題だと納得した事例はございませんので、これまで提示してきた事例をもって、立法事実が集積されているとは評価できないと考えております。

21ページ目、「III 『消費者契約法見直し』への意見」ということでございます。

さて、日本広告業協会では「勧誘要件の見直し」等の法改正、解釈変更が本当に必要なのか、その必要性を支える立法事実の存在を認識できてはおりません。しかし、報告書によれば、今後の議論は「取消しの規律の適用対象となる行為の範囲について、引き続き、事業活動に対する影響について調査するとともに、裁判例や消費生活相談事例を収集・分析して検討を行うべきである」とされています。そこでは必ずしも特定の消費者に対する働きかけでなくても、「勧誘」に含めることが念頭に置かれているようでございます。したがって、報告書に記載されているように、現時点ではまだ事例収集を行う段階であり、また、当協会は、対応不能トラブル事例があるとは認識していないものの、「勧誘要件の見直し」にかかわる法改正、解釈変更の議論への意見を述べておきたいと思います。

22ページ目、取消しの規律の適用対象となる行為の範囲についてもコンセンサスは得られておらず、具体的にどのようなものを対象に含めようとされているのか、報告書には要件が記載されておらず、明らかではございませんが、「勧誘」要件について仮に改正するのであれば、それは消費者契約法の目的である「消費者の利益の擁護を図」ることに合致した内容であるべきであると考えます。

一方で、逐条解説にも明記されているとおり、消費者契約法の目的に関連して、事業者にとって「予見可能性の高いルール」が策定されることも重視されるべきであると考えます。

したがって、「消費者契約法の見直し」が検討される際には、事業者にとって、「予見可能性の高いルール」が策定されるべく議論されなければならないと考えております。

事業活動の遂行に当たっては、「予見可能性の高いルール」とは言えない形で消費者契約法が作用するのであれば、それは法の趣旨に反するものであり、事業活動に実質的な影響(萎縮効果)が生ずるか否かという観点からも検討が必要だと考えております。

23ページ目、「消費者の利益の擁護」を図るためには、まずはどのような形で消費者の利益が損なわれているかについて把握しなければならないと考えます。そのためには、ステップ1においてトラブル事例の収集・検討が必要ですが、ステップ1の入口である現時点では、当協会としては、「消費者の利益」を損なわせている主体は一部の「悪質な事業者」であると考えております。

24ページ目、逆に言えば、ほとんどの事業者は現行の法令等の規制に従って、適切に広告活動を行っていると言えます。そして、不当勧誘規制の効果は個々の消費者に対する取消権の付与であります。これが見直しの検討の前提になります。

ここで、「悪質ではない」広告活動、つまり、取消しに値するとまで評価できないような広告活動までもが形式的に不当勧誘規制の要件に該当することが懸念されます。そうすると、広告活動をきっかけとして成立する消費者契約の数は膨大ですので、取消しの対象となる契約も膨大になる点が大きな問題です。これが1つ目の問題です。

更に言いますと、消費者契約法は消費者契約一般に当てはまる民事ルールです。不当勧誘規制によって「広告」が規律される場合には、事業者の広告活動の結果成立した消費者契約は、消費者からの権利行使の対象となります。

したがって、事業者は、消費者が事業者に対して法的手段を講じることができるという前提で広告活動を実施しなければならないことになります。このような事業活動への圧力を2つ目の問題として挙げたいと思います。特に相手の属性も理解度も見えないマス向けの広告活動を、個々の消費者からの取消しの主張にさらされることを認識した上で実施することになりますから、非常に問題があると考えます。これらの問題提起のとおりだとすると、「悪質ではない」広告活動を実施している事業者が、過大な代金返還請求権を負いかねないことにほかなりません。そして、そのような事業者における広告活動を含む事業活動に相当な萎縮効果を及ぼすことが懸念されると考えます。

25ページ、「悪質ではない」広告活動の結果成立した消費者契約が消費者による取消しの主張の対象となるのであれば、それは実質的に「予見可能性の高いルール」が設定されたとは言えません。

では、実際問題として「悪質ではない」広告活動までもが、不当勧誘規制の要件に該当し得るのかということについて検討が必要になるわけですが、この点に関しては、今後の専門調査会において、具体的な要件について、関係する各事業者の代表から、実証的な分析に関する意見聴取をすべきであると考えます。ただ、ここでは当協会として考える影響について、「勧誘要件の見直し」の検討内容とあわせて説明したいと思います。

26ページ目、その検討に当たって、手段の相当性という観点も忘れてはなりません。仮に立法事実があるとしても、具体的な「消費者契約法の見直し」の方法については、相当性の観点から丁寧な検討を行う必要があります。取消権が過剰に拡大すれば、事業者の健全な事業活動に対する萎縮効果が増大するからです。

例えば「広告」に不足情報があった場合、訂正広告を実施するなど、可能な限りの誤認を解消する手段を講じた場合においても、訂正前の広告のみを見て取引に入ったと主張されるおそれがあります。

そして、取消しの効果は代金の全額返金です。つまり、事業者は、一度行った「広告」を理由に、常に代金の全額返金の危険にさらされるわけですから、そのような前提で広告活動をしなければならないことになるわけです。

27ページ目、それでは、各論として、不当勧誘規制によって「広告」が規律される場合の問題点について述べたいと思います。この検討に当たっては、報告書と中間取りまとめをベースとしていますが、今後の本専門調査会における流れによって変わり得るものであることを、まずは申し上げておきたいと思います。

まずは、「不実告知」ですが、当協会は3つの理由から、「広告」を「不実告知」の対象とし得るような「勧誘要件の見直し」には反対です。

1つ目としては、「広告」ならではの表現が「不実告知」に該当すると主張されるおそれが否定できないということです。商品イメージを比喩的に伝達するための表現手法やシズル感醸成のための表現といった広告表現は、非常にポピュラーな手法であります。これらは当然取消しに値するものではないと考えますし、裁判所も取消しに値すると判断するとは思えません。ただ、要件設定が適切にできないために、このような当然取消しの対象となるべきでない「広告」までもが、消費者からの取消しの主張にさらされるおそれがあると事業者が考えるのであれば、このような広告手法を自粛することになりかねませんし、それは事業活動の萎縮効果にほかなりません。

2つ目としては、故意が要件となっていないため、校正ミス等で間違えたスペックなどを表示してしまった場合に問題となり得ます。

28ページ目、A-3のようなケースでは、一旦誤記を表示してしまった場合には、永遠に取消しリスク、さらに言えば取消しの主張にさらされるリスクがあるというわけです。

3つ目としては、2.に関連しますが、「広告」において表示にミスがあった場合の取消しリスクが大きいわけですから、事業者において、「広告」での情報提供を最小限にとどめてしまうという萎縮効果があると思われます。これは情報量という観点から、消費者にとってマイナスであると考えます。

29ページ目、当協会は断定的判断の対象が財産上の利益に影響しない事項までは拡大しない理解ですが、仮に拡大が検討されるとすれば、それについては反対いたします。

理由は、拡大の範囲が不明確であり、かつ、故意の要件がないため、「広告」における「言い切り」表現が、幅広く取消しの対象となるおそれがあるからです。

30ページ目、不利益事実の不告知についてです。当協会は、先行行為要件を不要とする類型については反対です。

理由の1つ目としては、そもそも「広告」はメリットを訴求するものであるからです。

理由の2つ目が、「広告」における告知完遂の不可能性です。広告スペースは極めて限定的な大きさでございますので、商品・サービスに関するデメリットまで含めた要素を全て取り込むことは事実上不可能であります。

にもかかわらず、このような改正がなされれば、本来「広告」ならではの技法を駆使して、消費者の興味関心を引くために利用していた広告スペースをディスクレーマーのために使用することになりかねません。

さらに3つ目の理由ですが、重要事項の拡大によって告知しなければならない範囲が拡大した場合には、より事実上のリスクは高まると言えると思います。

次に、当協会は、「不実告知」型の故意要件の削除についても反対です。

中間取りまとめによれば「利益となる旨だけを告げることは、不利益事実が存在しないと告げることと同じである」とされていますが、安易に作為と不作為を同一視すべきではないと考えています。

33ページ目、不利益事実の不告知と関連しますが、当協会は、情報提供義務を法的義務とすることについて、反対です。「当該情報が消費者の契約締結の意思決定に重要な影響を及ぼすものであること」という要件は曖昧で、個々の消費者にとって、何が意思決定に重要な影響を及ぼす情報なのか、事業者側が判断することは極めて難しいと考えます。

また、不利益事実の不告知などとも共通しますが、「広告」における情報提供完遂の不可能性と、消費者による損害賠償請求リスク、それを避けるための広告実務のゆがみというのも大きな理由です。

35ページ目、次に、第三者による不当勧誘についてです。当協会は、逐条解説で「媒介」について解釈変更することに明確に反対します。

また、委託関係にない第三者による不当勧誘の規律については、報告書では、「新たな取消しの規律の適用対象に含めるかについては、引き続き、裁判例や消費生活相談事例を収集・分析して、検討を行うべきである」とされており、事例収集を行う段階、ステップ1であると理解しております。具体的要件も提示されていませんが、いずれにしても本見直しに賛成する趣旨ではございません。

事業者の過失の場合にも第三者による不当勧誘の取消権を認めることも検討されていますが、これにも明確に反対いたします。

36ページ目、もしかすると「広告」の特質を理由として、「悪質ではない」広告活動であるが、形式的ではあるものの不当勧誘規制の要件に該当するというケースについては、不当勧誘規制の対象にならないということになるかもしれません。

具体的には、消費者庁による景品表示法の運用と同様に、「通常程度の誇張は許容される」というように裁判所の判断もなされるかもしれません。

しかし、結局は、個別的・事後的な実質的判断にならざるを得ず、事業者にとって、「予見可能性の高いルール」であるとは言えません。

また、事業者は消費者からの取消しの主張に対応しなければならないというリスクを負っていることからすれば、事後に裁判所の実質的判断によって取消しの対象でないとされたとしても、事業者にとっては、実質的に「予見可能性の高いルール」であるとは言えないと考えます。

37ページ目、小まとめでございます。「勧誘要件の見直し」という流れで検討される場合に、「広告」と「勧誘」の意味について検討します。

38ページ目、先ほども申し上げましたが、「広告」と「勧誘」とはそもそも言葉の意味が異なるものです。それにもかかわらず、「広告」を「勧誘」に取り込んで、「勧誘」という切り口で一律に規制の対象とするのであれば、違和感がございます。

「勧誘」要件を拡大して、「広告」にも規律を及ぼす方法は、別異の概念をあたかも包含関係であるかのように捉えようとしている点で、適切であるとは言いがたいと考えております。

39ページ目、以上のとおりでございますので、日本広告業協会としては、「勧誘要件の見直し」などの方法によって、不当勧誘規制を広告活動にまで及ぼすことについては、明確に反対いたします。

なお、ここに逐条解説での規制による解釈変更によって、不当勧誘規制を広告活動にまで拡大することを含むというのは、これまで申し上げたとおりでございます。

40ページ目、当協会は、「悪質な事業者」による「悪質な行為」から「消費者の利益を擁護」すること自体について反対するものではございません。

ただし、現行の広告関連規制を誠実に遵守している事業者に対して過剰な規制がかかるような見直しには大いに反対いたします。

この点を前提として、ここでは当協会のスタンスを述べたいと思います。

41ページ目、冒頭に御説明いたしました検討に当たっての4ステップのうち、当協会は、現在、ステップ1の入口に立っていると認識しております。したがって、「広告」に不当勧誘規制を及ぼすために「勧誘要件の見直し」等の法改正が必要だとするのであれば、まずは現行の消費者契約法では対応ができない具体的なトラブル集積の具体例を、改正が必要だとお考えの委員から御提示いただきたいと考えております。

「広告」の実施形態は極めて多様なものであります。ですから、本専門調査会で検討すべき「広告」について、皆さんの認識を統一させることが必要不可欠でありますので、特に問題となる「広告」について、具体的な詳細な事情が分かる事例の提示をお願いいたします。

そのような具体的な問題事例のさらなる検証によって、現行の消費者契約法では対応することができないトラブル事例の集積があるということになれば、それらを更に検討の上、現行法では解決できないケースを解決するための解決手段を、具体的に検討する必要があると考えます。

ただし、その検討の方法は、法改正ありきでないことは言うまでもございません。

そして、当協会としては、少なくとも広告に不当勧誘規制を及ぼすような法改正は、現行の広告関連規制を誠実に遵守している一般事業者に対する過剰な規制という悪影響が大きいため、実施すべきではないと考えております。

42ページ目、最後に、今後の進め方について提案をさせていただき、本プレゼンを締めくくらせていただきたいと思います。

現行の広告関連規制を誠実に遵守している事業者に対する過剰な規制にならないことを前提として、「消費者の利益の擁護」をどのように行っていくべきか、検討を進める必要があると考えています。

そのためには、マル1どのような事象を、マル2どのような方法で解決するかという観点で情報収集を行い、議論を進めていくべきであると考えています。

43ページ目、3つの観点から提案させていただきます。

1つ目の観点は、問題となる行為の具体的な絞り込みについてです。「悪質な事業者」の「悪質な行為」に広告活動が含まれているということであれば、問題となる行為を絞り込むために、以下の2点について検証が必要であると考えています。

その1つ目は、II-2のパートに関連しますが、丁寧な事例検討の実施です。本当に現行法律で解決が不可能なのかという観点から、問題とされるケースについて個別具体的に検討を行うべきだと考えます。ここで言う法律は、消費者契約法に限定されるものではございません。

2つ目は、II-1のパートに関連しますが、「広告」の実施形態の多様性把握のための事業者ヒアリングの実施です。事業者の負担の実証、自主的な規制等について、個別の事業者(特にインターネット広告、通販、EC等)や関連団体にヒアリングすべきであると考えています。

2つ目の観点は、立法事実が認められた場合の、条文化の検討に当たってです。条文の検討に当たっては、可能な限り明確性を図っていくべきであると考えております。条文に解釈の余地が生じる可能性を否定するものではございませんが、現行の広告関連規制を誠実に遵守している事業者に対する過剰な規制にならないためにも、可能な限り、条文は明確であるべきと考えます。

3つ目の観点は、本ラウンドの専門調査会において新たに提供された2つの視点についてです。この点に関しては、慎重に、かつ、丁寧に議論していくべきであると考えます。

その1つ目は、諸外国の消費者法の検討です。外国の法規と同水準にすべきであるということが意図されているのであれば、我が国と同様の広告活動における同様の消費者被害が生じている国の、消費者法の運営当局の専門家などから、民事法体系の中での位置づけが明確になるよう、ヒアリングすべきであると考えております。

2つ目の視点は、成人年齢の引下げについての消費者契約法における手当てについての検討です。この点については、中村委員のプレゼンテーションにもございましたが、慎重に検討していく必要があると考えています。

私からのプレゼンテーションは以上となります。非常に駆け足でございましたが、プレゼンテーションの機会をいただき、ありがとうございました。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの永江委員からのプレゼンテーションの内容を受けまして、残りの時間で意見交換を行いたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いします。

山本健司委員、どうぞ。

○山本(健)委員 詳細な資料と御報告をいただき、ありがとうございました。

「勧誘要件の見直し」という論点に関する日本広告業協会の御懸念と、それを前提とした御意見の内容がよく分かりました。そのような御懸念があることに十分留意しつつ、今後の議論を進めていくことが必要であると思いました。それを前提に、お聞かせいただきました問題提起や御懸念について、感想と意見を述べさせていただきたいと思います。

第1に、「勧誘要件の見直し」という論点について、法改正が必要とされるだけの社会的な必要性、トラブルの集積、いわゆる立法事実がないのではないかという問題提起がございました。

しかし、ネット取引やテレビショッピングなどにおいて、事業者の不実表示によって誤認をして、真に望まない契約を締結してしまったという被害事例・トラブル事例は極めて多数あると思います。

最近社会問題となった事案でも、例えば、2016年6月16日の国民生活センターの公表で「相談急増!『お試し』のつもりが定期購入に!?-低価格等をうたう広告をうのみにせず、契約の内容をきちんと確認しましょう-」という表題のもと、「消費者がホームページやSNS等で『健康に良い』『ダイエット効果あり』『バストアップ効果あり』や『有名女優も使用』とうたう広告を見て、商品を通常価格より安い価格で購入したところ、実際は定期購入契約だったというトラブルが急増しています」という注意喚起と事案紹介がなされています。問題の所在が広告の内容・態様、厳密に言えば、ホームページやSNSにおける契約勧誘の内容、態様であることは明瞭です。

このように、個別勧誘の事案でなかったら取消せないといった法制度でよいのかということが問題となる事例は、現代社会ではたくさんあると思います。この専門調査会では、そのような社会実態を真正面から受けとめて、どういう法制度にすれば世の中がよくなるのか、消費者被害が救済できるのかを考える必要があると思います。

第2に、真の問題点はどこかという問題提起を頂戴しました。

この点については、個別勧誘と不特定多数向け勧誘で、取消権の存否を形式的に区別することの不合理性だと思います。

事業者ヒアリングの際にも挙げた例ですが、家電量販店の店頭に来た消費者が、携帯音楽プレーヤーを、実際には1,000曲しか入らないのに「1万曲入ります」と店員から聞いて、1万曲入る商品だと誤認して当該商品を買ったという事例と、同じ家電量販店で商品の陳列台に掲示された「1万曲入ります」という商品の説明書きの記載から1万曲入る商品だと誤認して当該商品を買ったという事案において、前者の事例では誤認取消しができ、後者の事例では誤認取消しができないといった結論は、常識的に考えても不均衡であり、不合理と思われます。2つの事案は、事業者の帰責性も消費者の要保護性もほとんど同じです。

問題の所在は、個別勧誘と不特定多数向け勧誘で形式的に取消の可否を区別するという考え方の不合理性だと思います。それゆえに、裁判例も結論が分かれている現状にあるのだと思います。

第3に、消費者契約法以外の方法ではトラブルに対応できないのかという問題提起を頂戴しました。

しかし、行政規制や刑罰法規の強化では、既に起こった消費者被害の救済にはなりません。また、自主基準では拘束力がありません。消費者被害を救済するには、行政規制のように事業者の方を見て事業活動を規制するというスタンスではなく、消費者の方を見てどのような権利を与えることが必要かつ適切かというスタンスで考えることが必要です。その意味で、行政規制や刑罰法規とは区別して、消費者契約に関する民事ルールを定める消費者契約法の改正が必要不可欠と考えます。

第4に、過剰な規制にならないか、正当な事業活動への悪影響がない見直し内容にしなければならないこの御指摘はごもっともであると思います。相当性の観点から丁寧な検討が必要であるという問題提起をいただきました。

私はこれからの第2ステージで行われるべき主たる議論は、ただ今の御報告の中での表現をお借りしますと、ステップ4の議論だと思います。

この点、第1ステージで、広告は多種多様である、広告一般を対象にして考えるのは不適切ではないか、イメージ広告など特定の契約を誘引する目的ではない広告は対象とすべきではないだろう、といった御意見や議論があったかと思います。

また、事務局から一つの立法提案として「当該事業者との特定の取引を誘引する目的をもってする行為をするに際し」という趣旨の文言とすればどうかという提案があったかと思います。この御提案については、事業者委員からも一定の評価をする御意見があったかと思います。そのような具体的で建設的な議論を重ねることが今後必要だと思います。

第5に、39ページで、逐条解説への記載による解釈変更には反対という御意見がございました。

この点については、解釈変更ではなく、現に存在する裁判例やその考え方を紹介するということであったかと思います。実際にそのような裁判例がある状況にあるということは、客観的事実として世の中に提供されるべき情報であると思います。この点については、逐条解説をぜひ充実させていただきたいと思います。

同じことは、「媒介」に関する逐条解説の記載補充にも妥当すると思います。理由は繰り返しません。

「勧誘要件の見直し」は、今回の法改正でぜひとも必要な論点です。御懸念には十分に配慮しつつ、その具体的な要件を議論することが重要であると考えます。

以上です。

○山本(敬)座長 御意見をいただき、ありがとうございました。

今の点に対する御意見ですか。

それでは、永江委員、お願いします。

○永江委員 最初の第一、第二のところなのですが、問題とされている行為が果たして「広告」なのか、「広告」には該当しない「表示」なのかというところからきちんと検討すべきだと思います。要するに、立法のところで、「広告全般」とか、「広告」という表現を使うことが果たしていいのかというところから、まずトラブルになっている事例を、それが「広告」なのかどうかということを真に議論して、検討すべきだという意見でございます。正直に言って、第一のところは、問題とされている行為が「広告」なのかというと、我々としてはそれは「広告」ではないと考えているものも多数含まれていると思います。第二に関しても同様だと思います。

ありがとうございました。

○山本(敬)座長 山本健司委員、よろしいですか。

それでは、増田委員、どうぞ。

○増田委員 ありがとうございます。

今の永江委員の御発言を伺いまして、少しほっとしたところでございますけれども、「広告」の意味合いをきちんと分析することは基本的に重要なことだと思います。ただ、今までの議論の中においても、全ての「広告」を対象とするということではなかったと思います。例えば、販売方法との一つとして規定されている通信販売というものについて、どうお考えなのかということをまずお伺いしたかったです。

それと、「悪質な事業者」ということで分類することは非常に難しくて、結果的に悪質だったということは結構多いと思うのです。今までも、大手事業者であっても、景品表示法の対象となり、それにもかかわらず、取消しということにはならず、消費者の被害回復にはつながっていないことがたくさんございましたので、そういうことについては、「悪質な事業者」という分類にはならないと思います。そういう分類をすることは少し困難ではないかと思います。

もう一つ、相談事例、ADR事例というものが、一方のほうの主張を書いたものであるということは誤解されているのではないかと思います。少なくとも、ADR事例で御紹介されているものは、一度ADRにあがって双方の意見を聴取して、その上で掲載しているものですし、相談事例も、交渉をして、その結果を出していることも多くありますので、一方の主張だけではないと御紹介したいと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ほかにいかがでしょうか。

大澤委員、どうぞ。

○大澤委員 貴重な御報告、どうもありがとうございました。

お話を伺っていて、今後この専門調査会で議論をしていくときの「広告」をどういうものとして捉えるのかということをもう一度整理したいと個人的には思いました。

お話を伺っていますと、特に最初のほうの10ページ、新聞広告ですとか、あるいは9ページのテレビCM、12ページのインターネット広告というところを伺っていますと、今日挙げられている例は比較的スペースもそれほど大きくなくて、情報としても多分書くことができる情報は限られているという、前の専門調査会の言葉で言うと、比較的イメージ広告に近いのかなという印象を受けました。

しかし、前の専門調査会でもこの点は議論があったと思うのですが、先ほどのビールの泡の写真が載っているとか、そういうイメージの広告のことをターゲットにしているというよりは、特にインターネット広告などの場合かと思いますが、これも「広告」と定義するのか、ぜひ質問したいのですが、むしろ、細かい商品の情報が載っていて、その中に例えば不実の記載があるとか、それについて消費者がそれを見ていわゆる契約締結に至ったというときに、これが要するに紙に書いてある記載だった、口頭で勧誘するときの説明ではなかったというだけで「勧誘」から排除するのは、これは正当化できないのではないかと思っていますので、今後、この「広告」という言葉の意味は、私も非常に勉強になりましたけれども、どういうものを念頭に置いているのかということを踏まえて、既に前の専門調査会でもこの点を議論していたと思うのですが、改めて議論していく必要があるのではないかと思いました。

その点を踏まえて質問をさせていただきたいのですけれども、12ページのインターネット広告というところでございます。このインターネット広告の一番上のポツのところの定義を見ますと、「媒体社が運営するウエブサイト、アプリケーション等に掲載されるバナー広告、テキスト広告、動画広告」などと書いてあって、その下のところに、上記定義の中には、例えば専門情報サイトやECサイトでの情報掲載とか、企業が自社サイト等を利用して行う広報、商品・サービス紹介、販売促進、口コミなど、こういうものは入りませんと書いてあって、これを見て分からなくなってしまったのですが、例えば通信販売の場合ですと、化粧品ですとか健康食品の通信販売におきましても、消費者から見ると、そのインターネットのサイトに書いてある情報を見て契約をするしかない状況だと思うのですが、例えばこのサプリメントの効果としてこういう効果が得られますとか、例えば成分としてこのようなものが入っていますとか、詳細なものが結構インターネットでは記載されていることが多いのではないかと思っています。こういうものはインターネット広告に入らなくて、むしろバナー広告のような企業だけをぽんと出すようなイメージのようなものを「広告」と言っているのでしょうかということです。この定義が、私はいまいち理解ができませんでしたので、どういうものをインターネット広告として念頭に置かれているのか。私が今、申し上げたような、例えば健康食品の通信販売サイトで成分の内容など、いろいろなものが詳細に書いてあるようなものは、これは「広告」ではないのか。「表示」や「説明」になるのかということです。この点を確認させていただければと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 永江委員、お願いいたします。

○永江委員 日本インタラクティブ広告協会の定義によると、御指摘のとおり、「広告」には当たらないということになります。したがって、「企業のホームページ、ECサイトなどに問題があるから、「勧誘」要件の在り方の議論が「勧誘」に「広告」まで含めるべきだ」という方向で、「勧誘」に「広告」まで入れようということであれば、それらは「広告」ではない以上、そもそも「広告」というものを議論の対象から外していただきたいと考えます。ただ、企業のホームページ、ECサイトなどに不当勧誘規制を及ぼすかどうかは、別の検討をしていただきたいと思っています。ですから、そのためには、ここで「広告」についてお話ししたように、立法事実からの検討を始め、企業ホームページですとか、ECサイトについて、当協会では語れない部分については、メーカーとか専門の事業者等の御意見を聞いていただきたいと思っております。

以上です。

○山本(敬)座長 大澤委員、今のでよろしいでしょうか。

それでは、河野委員、どうぞ。

○河野委員 ありがとうございます。

私も今回改めて「広告」に関しての検討ということで、今のお話を伺っていて思ったのは、大澤委員と全く同じで、「広告」というものは一体何なのだろうと考えております。

本日、6ページにお示ししていただきました「広告」とはというところを拝見しました。そもそも「広告」に対して、法律においてのきちんとした定義があるのかどうかも、私は知識がなくて分かりませんけれども、ここに書かれていることによりますと、国語辞典的な意味合いと、日本広告業協会が「広告」ということに対して意味づけていらっしゃる、この箱の中に2つの考え方が示されています。

それで、ここのところ問題になっているのは、「広告」と「勧誘」はどう違うのかということなのですけれども、ここに関しまして、質問が3点ございます。

箱の中の日本広告業協会にお示しいただいた「明示された送り手が、選択された受け手に対して」のところの、「選択された受け手」の「選択された」という意味を教えていただきたいと思います。特定ではないと言っておきながら、「選択された受け手」という言葉をここに使っていらっしゃるのはどういう意味かということが1点目の質問です。

2点目は、効果として、「送り手にとって望ましい態度・行動を形成したりする目的」と書かれています。ここに書かれている意味と、下から3行目に書かれています、「『勧誘』とは」のところの「消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度のすすめ方」「消費者の契約締結の意思形成に影響を与える」という言葉と、「送り手にとって望ましい態度・行動を形成したりする」ということはどう違うのかを御説明いただきたいと思います。

3点目は、一番下の箱の中に書いてあります「『広告』と『勧誘』は〔目的〕〔対象の広さ(不特定/特定)〕〔態様(広く/直接)〕等の要素において、大きく異なるものである」とお示しいただいておりますが、先ほどから懸念されています技術の進展、デバイスの変化ということがここに果たして反映されているのだろうかという疑問を持っております。

対象の広さで言いますと、インターネットのターゲティング広告等は、限りなく特定の方に振れていると思いますし、態様のところでも、限りなく直接の方に振れていると思います。そのあたりをどうお考えになるのか、教えていただければと思います。

○山本(敬)座長 永江委員、お願いいたします。

○永江委員 まず、1番目のところですが、「選択された」というか、当然媒体などを選ぶ際に、例えば新聞広告で言えばスポーツ新聞を選ぶのか、経済新聞を選ぶのかで、当然ターゲットを決めるわけです。対象を特定しているというわけではないのですが、一定の層というものがありますから、例えばテレビCMを平日の昼間に流すのか、深夜帯に流すのか、それによっても伝えたい人が違います。そういう意味で、「選択された」という表現になっていると御理解いただければと思います。

2番目は、「形成したりする」というところは、ざっくり言うと、いわゆるファンになっていただくということです。企業広告などが一番典型なのですが、別に特定の商品を具体的に買ってもらおうというわけではないのですが、そのメーカーについて選んでもらいましょうと。そこで具体的な商品を出しているわけではないというようなケースが言えるかと思います。

3番目の御質問は、インターネットのところは、相談事例等も含めてネットが多いということであれば、具体的に広告手法についてきちんと委員の皆さんに御理解いただいた上で、その上で議論をしたいと思いますので、私が語るより他の事業者の方にプレゼンをいただくほうが適切かと思うので、今日の御質問には回答は控えさせていただきます。

最後の質問は何でしたか。

○山本(敬)座長 技術の発展、デバイスの変化は、この最後の箱の中に反映されているのでしょうかという御質問だったのではないかと思います。

○永江委員 それも同じです。お答えになっていれば幸いですが、よろしいでしょうか。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

どう定義するかという問題で、「勧誘」に当たらないものを「広告」と定義すると言えば、それはそういう定義もあるかもしれないと思うところがありますが、そうしますと、問題は「勧誘」がどこまでのものを指すのかということで、それが恐らくかなり広がってきているのではないか、それをどう捉えるか、どのような基準で捉えるのかが真の問題なのかもしれないと感じました。

石島委員、続いて、河上委員長、お願いします。

○石島委員 山本座長に今、おまとめいただいたところが的確かと思ってお聞きしていたのですけれども、まず、広告全体に網がかかるような印象で議論が始まってしまっているのですが、御懸念であるとか、前回のこういったケースが問題だということをお聞きしていると、今の「勧誘」に含まれないものが何なのかというところから議論を始めたほうが、建設的なのではないかと思っておりまして、「広告全般」となりますと、消費者に何か物やサービスをお届けするときにはそのプロセスで必ず入ってくるものですので、かなり影響が大きい。問題がない「広告」も当然ありますと前回も御発言いただいたところでもありますので、「勧誘」要件に「広告」を含めるかという議論の始め方が少し乱暴なのではないかとお聞きをして思っておりましたので、実際にこういうケースは消費者の救済が図られていないケースがあるでしょうというものを具体的にお示しいただいて、それは「広告」なのか、「広告」ではないのかというところにこだわらずに、まず、そういう被害に対してどういう救済方法があるべきなのかという議論をしていったほうがいいのではないかと思いました。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、河上委員長、続いて後藤座長代理、お願いします。

○河上委員長 時間のないところ済みません。

今日はどうもありがとうございました。

参考までに申し上げようと思ったのですが、景品表示法という法律がございます。その第2項第4号というところの規定では、「この法律で『表示』とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて」という書き方をしています。つまり、「広告」は広い意味で「表示」の一つの態様であるという理解で、景品表示法はでき上がっていることになります。実は、ヨーロッパなどでも広告規制は随分盛んに行われているのですけれども、そのときに、「広告」か「表示」かという区別そのものはもうできないという前提で、さらに、「広告」「表示」以外の誤認惹起行為も含めて「広告」というものを位置づけていかないといけないだろうということで、イギリスでは、誤認惹起取引方法という言い方をしますし、フランスでは誤認惹起行為という言い方をしてこれを規制している。消費者に対してアプローチしていくときの事業者の行為対応、それが全て誤認惹起的なものになるのかどうかという観点から規制を議論しているのが現状であることは認識しておいたほうがいいのではないかと思います。参考までの情報でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

後藤巻則座長代理、どうぞ。

○後藤(巻)座長代理 私が申し上げようと思いましたのは、先ほど石島委員がおっしゃったこととほぼ同じことでありまして、その後の河上委員長の御発言でそれに理論的な裏づけをしていただいたという感想を持ったのですけれども、今日は「広告」ということをテーマとしていて、発言するのがはばかられるというか、いいのかなという感じはしたのですけれども、「広告」という問題を議論しているうちに、そこでの議論の意味が分からなくなってきまして、「勧誘」に「広告」が含まれるのかということで、「広告」も重要な問題だとは思うのですけれども、ただ、「広告」について深入りしていくと、かえって生産的でないというのか、むしろ問題を複雑にする側面があり、不必要な議論をすることが出てくるのではないかという感想を持ったわけであります。

例えば26ページの、一旦誤認惹起的な広告をしてしまって、その後訂正したのだけれども、訂正前の広告のみ見て取引に入ったという主張が消費者側から出てくるのは不都合だというお話があったのですが、これなどはむしろ「広告」ということから離れて、要件として、「契約の締結に際して」というぐらいの形で考えておけば、「契約の締結に際して」ということだと、締結時の事情が考慮されるということですので、そう考えれば、26ページの御心配のようなことはないのではないかと思うわけです。要件を、「契約の締結に際して」という要件にしたとしても、現実に、「広告」の問題を考える必要があることはもちろんなのですが、余り「広告」のところから問題を考える出発点にするのはどうなのかなという感想を持ちました。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

松本理事長、どうぞ。

○松本理事長 「広告」というところから議論をすると、景表法でいう「広告」は、契約の相手方が行う「広告」だけではなくて、消費者と契約関係のないメーカーが行う「広告」なども入っているわけです。メーカーが行っている「広告」について、それを信用して小売店で買った場合に小売店との契約を取り消せるのかという問題は大きな問題で、今の消費者契約法の範囲を超えているので、現段階ではそこまで拡張して議論をしないほうがいいと私は思っています。

したがって、「広告」と「勧誘」の問題を議論するに際しても、まずは、契約の相手方が行っている景品表示法でいうところの「広告」「表示」の中でどのようなものが消費者契約法でいうところの「勧誘」の延長としてカバーできるのかという観点から議論を絞っていけば、対立点はかなり減ってくるのではないかと思っています。それが第1点です。

第2点として、永江委員のお話の論調には、消費者契約法は、「悪質な事業者」が行う「悪質な行為」にのみ適用される法律なのだという考え方があるようなのですが、恐らくそういう観点から消費者契約法はできていないのだと思います。そういうように消費者契約法を組み替えるとなると、ものすごく内容が変わってくると思います。むしろ、消費者契約法は「悪質な事業者」にも適用されるけれども、「悪質ではない」普通の事業者であっても、消費者との関係で不当な結果となるような場合は、是正してもらおうと。消費者に生じた不利益を一定回復するという民事のルールとして作られてきた。どちらがこの結果について負担すべきなのかという観点からのルールだということです。

販売業者が行う「広告」の中に景品表示法違反に該当する事実と異なって著しく優良であるという表示がなされている場合、わざとやれば「悪質な事業者」ですけれども、そうではなくて、間違えてやった結果として消費者がそれを信頼して契約をしたという場合、普通の事業者であれば、きちんと返品に応じて代金を返すでしょう。それは消費者契約法の取消しと同じですね。そういうものが消費者契約法のルールで、普通の事業者は間違った表示で消費者が損害をこうむれば、きちんとそれに対応していると思うので、その点は心配する必要がない。すなわち、消費者契約法を恐れている事業者は「悪質な事業者」かもしれないと思います。消費者契約は当たり前のルールが大部分だと思うのです。

3つ目は、相談事例についてです。我々のところは、年間九十数万件の相談事例をデータベースで管理しているわけですけれども、その一件一件の相談事例に記載されている事実が真実かどうかは、必ずしも保証されていません。かなり確実なものとして入力されているものもございますが、そうでない、つまり、相手方の事業者との話合いが全然できない結果として、当事者の一方である消費者側の言い分しか入っていないものもあるわけです。

しかし、ある特定の事業者について、同一タイプの苦情が大変たくさん集まってくると、これはそれぞれのケース自体の個々の事実はさておき、全体として問題がある事業者だという推認は十分働く余地があると思いますし、あるいは、事業者が異なっても、同種のタイプの苦情が大変たくさん出ているとすれば、それは立法事実として大いに考慮に値するものであると考えています。1件しかないような場合は、かなり注意しなければならないですけれども、相当多数集まっている場合には、それ自体が考慮に値する客観的事実だと考えています。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

永江委員からお答えいただきます。

○永江委員 別に消費者契約法そのものを「悪質な事業者」を対象に規制するものだと考えているわけではなくて、今回「勧誘」要件の議論の中で「広告」を含むかどうかというところで問題にされている事例について、「悪質な事業者」云々という議論をさせていただいたつもりでございますので、誤解のないようにお願いします。

○山本(敬)座長 有山委員、どうぞ。

○有山委員 御質問なのですけれども、私ども消費者相談の窓口に立つ者にとっては、「広告」という言い方で苦情を企業に持っていった記憶は余りないのです。「広告」が「勧誘」に当たり、誤認取消しにしてほしいというお話を持っていった記憶がないのです。法律を変えるときに、そういう事実があるのかなという思いがありまして、広告業界に対して、消費者相談窓口の方が、先行的に法律より1歩進んだ形で、これによって誤認取消しをしてほしいという苦情が殺到しているのかどうかを伺いたいと思いました。

私としては、「広告」について、さっき「勧誘」のことを、先日も申し上げましたけれども、一定条件のもとということで、永江委員がお話しされるような広い意味での「広告」を法律の中に入れてくるというイメージはなかったので、逆に広告業界では、そういう御相談が増えているのでしょうか。それだけ伺いたいと思います。

○山本(敬)座長 永江委員からお願いします。

○永江委員 正確なところを申し上げられないのですが、我々の会員社ですとか、我々が対象とするクライアントの皆さんのところにそういう話が来たということは把握しておらず、ですから、逆に今回の法改正ということに対して非常に違和感を覚えているということでございます。

○山本(敬)座長 それでは、長谷川委員、どうぞ。

○長谷川委員 前回、立法事実に関して発言させていただいたことと関係して、今日、永江委員が御説明された41ページに一般的にたどるべきステップが書いてあるかと思いますが、基本的には、こういうステップで議論がなされるべきなのではないかと思っております。

ただ、1点だけ違うところがあって、3.で「消費者契約法の見直し」以外の方法でできない場合に、消費者契約法だということで4.に行く形になっているのですけれども、ほかの方法で解決できる問題だとしても、消費者契約法で解決することが、国民全体としてコストが安ければ、それはそうしたほうがいいのだろうと思っております。ただ、先ほどの松本理事長の御発言と関連するのですけれども、消費者契約法は直接にみんなが守らなければならないルールということで適用されますので、広がりが大きいといいますか、影響が大きいということであります。

他方で、前回、私が少し発言させていただいた、行政的手法であれば、行政リソースをどう振り向けるのかということになります。もちろん法律は一般的にかかるわけでありますけれども、集中することが一定程度可能であるということで、効率的な運用が可能であるのではないかということです。そういった手法も考えられるのではないかと思います。

その上で、前回、事前規制、事後救済のお話がありましたけれども、要するに、行政規制だと私法的な効果が生じないのが問題だということなのだろうと思いますが、行政法的な手法でも、独禁法の第25条のような私法規制のようなものはありますので、そういったことも考えながら、より大きなフィールドで御議論いただければと思っております。

以上でございます。

○山本(敬)座長 独禁法のような規定があればということですけれども、そのような規定をどのような形で作るのかという問題に発展していく可能性もありますので、その点も考慮していただければと思います。

では、山本健司委員、どうぞ。

○山本(健)委員 松本先生が最初に述べられた御意見に関連して、メーカーの表示が小売店舗で商品の表示として使われていたといった類型などについては、2当事者の類型よりも1歩難しい問題となりますが、議論の対象から落としてしまうと、それだけ被害救済できる範囲が狭くなってしまいますので、現時点で論点から落とすことには反対です。

以上です。

○山本(敬)座長 分かりました。

それでは、消費者庁からお願いします。

○加納消費者制度課長 恐縮ですけれども、問題提起と、1点、永江委員に御質問させていただきたい点がございます。

まず、増田委員や松本先生から御指摘があった相談事例などをどう見るかでございますけれども、永江委員の御指摘も理解できるところはあるのですが、こういった事案はなかなか訴訟になりにくいところがあるように思われまして、裁判事例として挙がっている件数は必ずしも多くないと思います。再開後の専門調査会の第1回でも、山本座長から、相談事例についてしっかり見ていくことが重要ではないかという御指摘があり、そういう観点から検討するのがいいのかなと思っていたところですけれども、この点につきましては、今回は時間の関係もございますが、委員の皆様方でじっくり御議論していただいたらどうか。今後の検討方針にもかかわるところではないかと感じました。それが1点でございます。

2点目、逐条解説でございますけれども、私ども、この改定作業はやっておりますが、この方針は前回の専門調査会の取りまとめにおいて書かれたことに従って、その範囲内で直すというものでありまして、そういった作業を進めようと考えております。これにつきまして、山本健司委員から御指摘がございまして、永江委員からはその点について御回答がなかったようにお聞きをしたのですけれども、前回の専門調査会の取りまとめについても反対されるという御趣旨と理解すべきなのか、そこまでではないという理解でよいのかについて、御回答をいただければと。

○山本(敬)座長 今の最後の点について、永江委員からお願いいたします。

○永江委員 取りまとめ自体を否定するものでは決してございませんが、プレゼンでも申し上げた通り、挙げられた事例は、事業者が立法事実として納得する事例ではないと考えておりますので、十分な検討をしていただきたいという趣旨でございます。ですから、取りまとめで決まった上で、法改正になったものについて見直せというわけではないですが、まだ法が改正されていないものについては、もう一回議論していただきたいという趣旨でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

消費者庁から指摘された1点目につきましては、私も再開後1回目に申し上げたところです。もう一度だけ少し付言させていただきたいのですが、消費者紛争で、実際に訴訟をして判決にまで至るのは、消費者から見ますと非常に大きなコストがかかるものでして、そこまでのことをしても解決を目指すものの数はどうしても限定されざるを得ない。そして、訴訟にまで至らなければ世の中に問題がないのかというと、決してそのようなものではなく、コストとの見合いでそうならざるを得ないということがあると思います。その意味では、相談事例は、先ほど松本理事長からも御説明がありましたように、参考になり得るものですし、そこにあらわれているものは考慮していく必要があるだろうと思います。

もっと言いますと、相談所にも行かない、そうだと言われればそうかもしれないと思ってしまうような善良な消費者もいるかもしれない。数の上では非常に多いかもしれない。そういったものも推測しながら考えていかないと、社会的な政策はうまく実現できないのではないかと思います。裁判所の認定を経ていないものであるということは、そのとおりですけれども、そういったものとして考慮しながら考えていきませんと、政策形成に向けての合理的な議論はできないのではないかと思います。初回に申し上げたことですけれども、改めて申し上げておきたいと思います。

永江委員、どうぞ。

○永江委員 裁判例が少ないというところに関して言うと、おっしゃるように消費者側のコストもあるのかもしれませんが、多くの場合、我々会員社や、そのクライアントが、例えば景表法等に関しても、裁判にまで至る前の段階で、きちんと対応を行っています。そのような事業者側の努力によって、裁判例が非常に少なくなっているということも背景にあることは御理解いただきたいと思っています。

○山本(敬)座長 分かりました。

既にもう5時をかなり回ってしまいました。私の不手際で恐縮ですが、本日はこの程度とさせていただければと思います。もちろん前回も申し上げましたけれども、これで終わりというものではなく、むしろこれからさらに具体的に問題を検討していくことになりますので、どうか御容赦いただければと思います。いずれにしましても、本日の意見交換の内容につきましては、今後の検討に生かしていきたいと思います。

最後に、事務局から事務連絡をお願いいたします。


≪3.閉会≫

○丸山参事官 本日も御熱心な御議論、どうもありがとうございました。

次回は11月7日月曜日、15時からの開催を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。

○山本(敬)座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございました。

以上