第8回 消費者契約法専門調査会

日時

平成27年4月10日(金)16:00~19:15

場所

消費者委員会大会議室1

出席者

【委員】
山本敬三座長、後藤巻則座長代理、阿部委員、井田委員、大澤委員、沖野委員、河野委員、古閑委員、後藤準委員、増田委員、丸山委員、山本和彦委員、山本健司委員
【オブザーバー】
消費者委員会委員 河上委員長、石戸谷委員長代理、橋本委員
国民生活センター 松本理事長
法務省 中辻参事官
【消費者庁】
服部審議官、加納消費者制度課長、山田取引対策課長、消費者制度課担当者
【事務局】
黒木事務局長、井内審議官、金児企画官

議事次第

  1. 開会
  2. 不当勧誘に関する規律(1)
    「勧誘」要件の在り方、断定的判断の提供、不利益事実の不告知、「重要事項」
  3. 閉会

配布資料(資料は全てPDF形式となります。)

議事録

≪1.開会≫

○金児企画官 本日は、皆様、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。

ただいまから、消費者委員会第8回「消費者契約法専門調査会」を開催いたします。

本日は、所用により、柳川委員が御欠席との連絡をいただいております。また、オブザーバーの松本国民生活センター理事長は、おくれての御出席と御連絡をいただいております。

まず、配付資料の確認をさせていただきます。

資料1は、前々回の第6回において出された主な意見の概要です。

資料2は、消費者庁からの提出資料で、本日御議論いただく不当勧誘に関する規律に関する論点の検討資料です。また、その資料2に関連する消費者庁提出資料として、参考資料1は参考事例です。それと、参考資料2は概要の1枚紙を配付しております。

資料3は、山本健司委員からの提出資料です。

また、参考資料3と参考資料4は、それぞれ大澤委員及び丸山委員から御提出いただきましたもので、前回の専門調査会において発言いただきました内容に関し、補足するものでございます。

配付資料は以上でございます。もし不足がございましたら、事務局へお声がけをお願いいたします。

それでは、ここからは山本座長に議事進行をお願いいたします。


≪2.不当勧誘に関する規律(1)≫

(1)「勧誘」要件の在り方

○山本(敬)座長 本日もよろしくお願いいたします。

それでは、本日の議事に入ります。

本日は、消費者契約法の不当勧誘に関する規律について議論していただきたいと思います。これまでの議論を踏まえまして、消費者庁から各論点の検討のための資料として、資料2及び参考資料1と2を作成・提出していただいています。

資料2の表紙の目次にありますとおり、4つの論点が示されておりますので、それぞれの論点ごとに区切って、消費者庁からの御説明と委員の皆様による御議論をお願いしたいと思います。

それでは、まず1つ目の論点、「『勧誘』要件の在り方」について議論を行いたいと思います。資料2の1ページから14ページまでの部分につきまして、消費者庁から説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 それでは、消費者庁より御説明させていただきます。資料2の1ページからでありますが、ペーパーの構成としましては、前回の資料と同じように事例を幾つかピックアップいたしまして、それについて現行法の規定及びその解釈、それから裁判例、相談事例などについて検討を加えるという形をとっております。事例については1ページですが、該当箇所で触れさせていただきたいと思います。

2ページの「問題の所在」の「現行法の規定」というところでありますが、現行の消費者契約法は、御案内のとおり、「勧誘をするに際して」という形で適用場面を画しておりまして、この勧誘の意味につきましては、2段落目に書いてありますとおり、「消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の勧め方」、具体的には、客観的に見て特定の消費者、この「特定の」というところがポイントでありますけれども、に働きかけて個別の意思形成に影響を与えていると考えられない場合は含まないということでありまして、例えばということで、広告などについて入らないという考え方が示されているところであります。

イの広告等による消費者トラブルでありますが、事例1-1から幾つか挙げております。例えばインターネットオークションの記載に不実があったと思われるケースとか、チラシの記載に不実ないし効果に関する断定的な表現があったと思われる事案といったものが挙がってきているところであります。

また、3ページでありますけれども、特にインターネットや通信販売については件数等の増加があるということで、参考2でデータもおつけしているところであります。

(イ)ですが、この「勧誘」の解釈につきましては、立法当時から学説を中心としていろいろと御意見があったところでありまして、「そこで」というところでありますが、消費者の意思形成への影響という意味では、その手法が特定の者向けか不特定多数の者向けかによって差は生じないということで、広告等による働きかけも「勧誘」に当たるという考え方、落合先生の教科書などを引いておりますが、そういった考え方もある。それを踏襲したような立法提言も弁護士会などからあるところであります。

「考え方」の「『勧誘』と『広告等』」というところで、3ページから4ページにかけて新聞、テレビとか、いろいろ書いておりますが、非常にさまざまな媒体といいましょうか、広告があるということで、「広告等」という形でこの資料では言っております。

4ページのイの上の段落あたりで書いておりますが、勧誘と広告についてどう見るかということで、1つの切り口としましては、一般に、勧誘が特定の者を対象として行われるのに対して、広告は多数の利用者を対象に行われる点で区別されるということで、広告については、単純な情報提供を目的とするものもあるところではありますが、取引への誘引を目的とするものもあるということでありまして、その誘引を目的とするものについては勧誘に近くなってくるという指摘もあるところでありまして、勧誘と広告の区別の相対化が現行法の問題を引き起こしているということではないかと思われます。

では、消費者契約法でどう受けとめるかというのが4ページのイあたりからでありまして、(ア)は先ほどの繰り返しでありますが、現行法は特定の消費者に対する働きかけと、少なくとも立法時はそのように整理していたところであります。

ただ、ちょっと注意しなければならないのは、「もっとも」ということで、下から7行目に書いてありますが、働きかけの行為態様については、対面か非対面かは問わないし、必ずしも1対1であることを要しない。例えばダイレクトメールのような形は、1対多数かもしれませんが、特定の者に対する働きかけと見ることはできると思います。また、不特定多数者向けの広告であっても、それを用いて特定の者に対して働きかける、説明するという場合には、勧誘の一内容となる。これは立法時からそういう整理をしておりました。そうしますと、問題の所在につきましては、専ら広告等のみによる意思形成がされた場合をどう見るかということかと思います。

では、そもそも現行の消費者契約法をどうしてそういうふうにしたのかということで、(イ)で一応の整理をしているところでありますが、民事ルールからしますと、例えば民法の詐欺や強迫においては、こういった切り分けはないところでありまして、要するに当該詐欺・強迫行為によって消費者がどういう意思形成をしたのか。その意思形成がゆがめられたかどうか、当該欺罔行為ないし強迫行為に基づく因果関係のある錯誤ないし畏怖があるかというところかと思います。

その上で、現行の消費者契約法があえてそうしていることについては、「すなわち」というところに書いているところですが、この消費者契約法の契約締結過程の規律というものは、民法に比べまして故意や違法性の要件を不要としつつ、不当な行為を類型化・明確化と。この類型化・明確化というのは、消費者契約法の在り方を考える上でかなり重要なコンセプトになると思います。ということで、消費者に対する積極的な働きかけがある場合には、類型的に消費者の意思形成に影響を与えるだろうと。他方で、不特定多数者向けの働きかけというものは、当該広告等以外にも消費者の意思形成に影響を与える事情が介在し得るというところで、働きかけとしては弱いと見て、政策的に切り分けたと考えられるところであります。

他方で、(ウ)ですが、法制定以来の状況ということで、とりわけインターネットの普及に伴う消費者トラブルというものは非常に重要な問題と受けとめなければならないのではないかと、私どもとしては考えるところでありまして、5ページから6ページにかけて書いております。

6ページ、例えばインターネットに書いている場合に、そのインターネットのサイトを見て、それに基づき意思形成するということが通常多いだろうと思われる。これは、類型的にという発想に基づくということでありますが、そういうもの。さらに、そのサイトと消費者の意思形成の因果関係というのは、事業者の購入履歴などから判断することも可能だろう。

この因果関係のところですが、あえて書いておりますのは、よく言われます新聞広告に不実があって、それを見て誤認して商品購入した場合には、民法では、因果関係がある限りはそれも詐欺に含めてよいということではないかと思われるところでありますが、その消費者が本当にその広告を見たのかどうかというのが必ずしも明らかでない場合に、事業者としてどういった対応をとるのかというところで、勧誘の場合でしたら勧誘によって誤認したというのがほぼ明らかと言えるでしょうけれども、広告の場合には、本当にその人が広告を見たのですかというのは、事業者にとっては必ずしも明らかにならないケースも多かろうと思いますので、そういったところまで一律に広げることについては、問題があるということもあり得るかと思います。

そうであれば、企業から見ての因果関係が明白かどうかという形での切り分けをするというのも一つあり得るのではないかということで書いております。

テレビショッピングや通販カタログについても同様でありまして、当該テレビ番組で示された番号にアクセスして購入しているとか、カタログに示された手法によって購入しているということであれば、その意思形成と当該広告等との因果関係が比較的・類型的に見ても明らかと言えるのではないかということで、そういった場合に切り分けた上で勧誘と同様の扱いをしていくということはあり得るのではないかということで書いております。

6ページの四角の「そこで」では、2つのマル1、マル2の要素から切り分けるということについて、どうかと問題提起をしているところでありまして、7ページの甲案が以上の思考プロセスをまとめてみたものでありまして、マル1、マル2を満たす場合について「勧誘」とみなす、ないしは「勧誘類似行為」という考え方で、現行消費者契約法の勧誘規制を適用させるということは1つあり得るのではないか。

他方、こういった形の切り分けがどこまでできるのかといった問題もありまして、むしろ民法の発想に近づけますと、「勧誘をするに際し」というのではなく、当該不実の記載といいますか、表示といいますか、広告等と消費者の誤認との因果関係がある。そういった場合を民法並みに規律の対象にしていくという考え方もあろうかと思いますので、乙案。その場合の文言としては、「契約の締結に関して」とか「契約が行われる(締結される)までの間に」といった形で書き込んでいくことがあり得ると思います。

脚注の9におきましては、弁護士会の提案のほかに、類例として金融商品取引法や金融商品販売法などの例を挙げております。

他方で、事業者からするといろいろ弊害もあり得るという御意見も予想されるところでありますので、現行の規定を維持した上で、そういった広告等による不当な勧誘につきましては、解釈に委ねるという発想もあろうかと思いますので、丙案としてお示ししているところでありまして、こういった甲案、乙案、丙案の考え方について御意見を頂戴できればと思います。

なお、最後に、7ページの下のあたりで問題提起をさせていただいておりますが、仮に甲案、乙案のような形で広告等というところを規律の対象として加えていく場合に、広告等の主体となる事業者と契約当事者となる事業者とが異なるといった場合、どう考えるかという点は押さえておく必要があるのではないかと思われます。

この点は脚注の10で書いておりますが、古閑委員から問題提起をいただいたところでありまして、インターネットで販売する商品に不実の記載があったということですが、それはメーカーが発表する説明を引用しているのにすぎない場合とか、さらに応用編かもしれませんが、スーパーやコンビニエンスストアの小売において、商品棚に商品を陳列している、その商品の容器や包装の表示をメーカーがしているときに、その表示に誤りがあった。

例えば産地偽装の表示があった。その産地偽装の表示を見て、小売と契約を締結した場合に、消費者としてはその産地を誤認したということかもしれませんが、表示主体は小売ではない、メーカーであるときにまで小売との契約の取消しを認めるのが妥当かどうかという点は、よく検討する必要があると思われますので、その点を書いております。

8ページに触れておりますが、なお、この点について、民法の改正の中で、いわゆる不実表示の規律を入れるかどうか。これは、錯誤取消しの一類型、動機の錯誤の一つの類型として不実表示というものを位置づけるという提案が、途中まで、中間試案の段階まではされておりましたが、その表示者の錯誤が、相手方が事実と異なる表示をしたことによって引き起こされた場合という形で、不実表示の主体を相手方としている点が参考になるのではないか。

具体的には12ページの参考3で中間試案の案文を掲げておりますけれども、(2)のイですが、表意者の錯誤が、相手方が事実と異なる表示をしたことで生じたとしているというのも一つの参考になるのではないかと考えられます。

御説明は以上であります。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明を受けまして議論を行いたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。では、山本健司委員。

○山本(健)委員 詳細な御報告をいただきまして、ありがとうございました。本日、資料3というペーパーを配付させていただいております。これを引用しつつ意見を述べさせていただきたいと思います。

まず、「広告等への不当勧誘行為規定の適用の是非」につきましては、広告等であっても、消費者の意思形成に向けた働きかけの程度が強く、その広告等に基づいて消費者が契約締結の意思表示をしたと認められる場合には、消費者契約法の不当勧誘行為規定が適用されるべきものと考えます。

「具体的な法規定の在り方」につきましては、現行法の「勧誘をするに際し」という文言にかえて、「契約の締結に関して」又は「契約が行われる(締結される)までの間に」とする考え方(乙案)に賛成いたします。

「事業者が当該広告等の記載や説明に関与している場合に限定すべきか」につきましては、そのような限定には反対でございます。

以下、理由でございます。

1つ目の「広告等への不当勧誘行為規定の適用の是非」につきましては、不特定多数向けの広告、パンフレットや説明書、チラシ等が「個別の契約締結の意思形成に直接影響を与えているとは考えられない」といった理解は、消費者契約の実態から乖離しているように思います。消費生活相談事例においては、広告に掲載された不実告知に相当する内容を信じた消費者の事例が見受けられるほか、近年のインターネットの普及に伴い、インターネットの画面上で不実告知に相当する内容が掲載され、それを信じた消費者がトラブルに巻き込まれる事例も多く見受けられます。

不特定多数向けの働きかけと思われる広告等であっても、消費者の意思形成に向けた働きかけの程度が強く、また、その広告等に基づいて消費者が契約締結の意思表示をしたと認められる場合には、誤認取消しなど消費者契約法の不当勧誘に関する規律を適用してしかるべきと考えます。

2つ目の「具体的な法規定の在り方」につきましては、「広告等はおよそ不当勧誘行為に該当しない」といった文理解釈につながり得る現行法の「勧誘をするに際し」という文言部分を排除・改正すれば足りるものと考えます。

また、商品先物取引法や金融商品販売法で用いられている「契約の締結又はその勧誘に関して」という文言や、金融商品販売法で用いられている「販売が行われるまでの間に」といった文言など、既存の法律で使用されている文言、本日配付の資料2で列挙されている既存の法律の文言は、消費者契約法の条文改正でも参考になると思われます。

上記のような観点から、現行法における「勧誘をするに際し」という文言を、「契約の締結に関して」又は「契約が行われる(締結される)までの間に」と改める考え方(乙案)に賛成します。

なお、甲案もあり得る提案だとは思います。しかしながら、そこにおける要件マル1(=消費者の意思形成に直接的に働きかけるものであること)は、消費者の誤認等を惹起し得る不実告知等と評価できるか否かという点(不当勧誘行為性)において、要件マル2(=当該広告等における記載や説明に基づいて消費者が契約締結の意思表示をしたこと)は不当勧誘行為と誤認等に基づく意思表示との因果関係が認められるか否かという点(因果関係の存否)において、消費者取消権の発生要件として検討される事柄であるように思われます。甲案のようにマル1、マル2を新たな要件と位置づけることは不要ではないかと思います。

3つ目の「事業者が当該広告等の記載や説明に関与している場合に限定すべきか」につきましては、小売業者がみずから行った表示か、メーカーの表示の引用かは、相手方の消費者があずかり知らない事柄であり、かかる事由で消費者の取消権を否定することは、被害者となった消費者に酷と思われます。

また、メーカーの不実表示等を引用して誤認取消しを受けた小売業者は、仕入れ先やメーカーに契約責任や不法行為責任を問うことでみずからの損害を回復できると思われます。実際、小売業者が消費者に欠陥商品を販売した事例では、消費者から売り主としての瑕疵担保責任等を追求された小売業者は、仕入れ先やメーカーに契約責任や不法行為責任を問うことで、みずからの損害を回復して対応しております。そのような場合と同様に処理すれば足りる問題と考えられます。かかる観点から、事業者が当該広告等の記載や説明に関与している場合に、不当勧誘行為規定の適用を限定する考え方には反対でございます。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

それでは、阿部委員。

○阿部委員   結論から申しまして、7ページの丙案を支持いたします。6ページの下の囲みの中の理由書きはよくわかります。まさにこのような整理でいいかと思うのでありますが、実際にこのような考え方を消費者契約法の中に生かすために、甲案あるいは乙案のような法改正が必要かというと、そうではないと思います。

1つは、広告といっても非常に多様でありまして、消費者の意思形成に直接働きかけるかどうかというのは、まさに千差万別であります。例えばダイレクトメールなどが直接働きかけるものと書いてありますが、私などはダイレクトメールは1通も見ずに全部捨ててしまうので、これは相手方の対応によるということ。

それから、6ページの四角の中の書き方で、類型的にこの広告とこの広告はこうだ、あるいはこれは違うみたいな判断ができるかというと、非常に無理があると思います。そういう意味では、消費者庁がこれから消費者契約法の適用について、このような解釈をするということを明らかにした上で、法律の文言自体は丙案そのままでよいかと思います。

もう一つ、景表法の改正があったばかりでありまして、非常に強力な改正が行われたわけでありまして、広告一般の在り方についてもこれから影響を受けることがあるかと思いますので、そこの様子を見る時間も必要かなと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 それでは、増田委員。

○増田委員 私も、甲案の場合は、マル1、マル2の条件が満たされるかどうかという争いが必ず推測されますので、乙案に賛成いたします。景表法のお話が出ましたけれども、以前にLTEの通信速度の件について問題になったことがありました。そうしたときにも、どの表示・広告を見て、その後説明を受けたのかどうかというところまで、一人一人確認しないとお話し合いができないような状況というのがありまして、措置命令が出たからといって即座に取消しができるという状況ではなかったということもございました。

それから、広告といっても、スーパーなどで売っているところに広告が出ているものは、店員さんに一々説明を受けて買うわけではないので、その広告を全て信じて買うということが多くあると感じます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

丸山委員。

○丸山委員 まず、提案されている案の中では乙案の方向に賛成しています。理由につきましては、まず甲案につきましては、先ほども指摘がございましたように、基本的には因果関係要件や誤認要件の存在の証明が問題になるのではないかと考えておりますので、そういった観点から乙案の方向で考えるべきなのではないかという意見を持っております。

また、7ページで紹介されているメーカーの包装表示や説明が不実だったというケースですが、これについても少々考えてみたのですけれども、現行の例えば民法によった場合について考えてみると、例えばメーカーが製造している商品の包装に、「これは国産の原料を使っている」と記載されていて、実はそれが外国産だった場合は、錯誤、契約違反・瑕疵担保の主張をしていける可能性があるのではないかと考えました。そうなると、契約違反とか瑕疵担保の主張ができるということは、これは契約内容、つまり売主と買主の契約内容、意思表示の中にメーカーの包装の記載内容が取り込まれるという発想をとっているのではないかと考えました。

ですので、この辺は意見は分かれるかもしれませんけれども、そういう発想をとるのであれば、売主の表示という形で捉えていくような可能性というのも十分あるのではないか。そういった可能性がある以上は、明文で限定をかけるということは避けたほうがいいのではないかといった意見を持っております。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

それでは、河野委員。

○河野委員 今回、御提案いただきました3つの案のうち、私は乙案、「『勧誘をするに際し』という文言に代えて、広告等による場合を含め、契約締結の意思形成への直接的な働きかけであることを要する趣旨から、『契約の締結に関して』又は『契約が行われるまでの間に』とするという考え方」に賛同したいと思っております。乙案は、広告等から契約締結時の説明まで、消費者が契約締結の意思形成を図る全体を通じて、不当勧誘であるかどうかというのを判断する考え方です。広告等で誤認したまま契約締結に至る事案というのはたくさんありますし、私自身も日ごろ考えてみて、たくさん思い当たるような状況でございます。ですから、これは適当な案であると考えます。

ただ、この乙案を採用する場合には、逐条解説において法文改正の趣旨について、広告等が勧誘に該当するものであることを明記していただいて、裁判外の紛争解決の際にも参考にできるようにしていただきたいなと考えております。

それから、もう一点、7ページにお示しいただいたことに対して意見を述べたいと思います。当該消費者契約の当事者たる事業者が当該広告等の主体である場合など、広告等の記載や説明に関与している場合に限って対象となる旨を規律として明記することに関しましては、反対したいと思います。

その理由ですけれども、不当勧誘に当たる広告等で誤認し、契約を締結してしまった消費者にとっては、その契約を取消すことができるかどうかが重要な点です。広告等の制作が誰によるかは問題ではありません。たまたま契約当事者が広告などの内容に責任を持ち得ないからといって、誤認させられた消費者が契約の取消しを認められないというのは不合理だと思います。不当勧誘に当たる広告等があって消費者が誤認してしまった場合には、消費者と契約を締結している事業者が契約の取消しに伴う返金を行う必要が生じるわけですけれども、その事業者が広告等の内容に責任を持っていない場合は、誤認を与える広告の内容に責任を持っているメーカーさんなどに消費者への返金額などをしっかりと損害賠償を求めれば足りると考えます。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

ほかに。大澤委員。

○大澤委員 お示しいただいた案では、私は乙案を支持いたします。

その理由というのは、先ほど来出ておりますように、甲案のマル1、マル2の要件というのは非常に判断が難しいということで、かえって混乱を招くのではないかということがまず理由の1つです。特にマル1「消費者の意思形成に直接的に働きかけるものであり」というところとか、あるいはマル2、それに基づいて「消費者が契約締結の意思表示をしたこと」という場合は、特にインターネット取引とかテレビショッピングの場合は、基本的には広告だけを見て判断していることが多いので、そうすると、この要件は結局はほぼ満たされることがある程度あると考えられます。

ただ、特に「直接的に働きかける」という「直接的に」というのが、どの程度のものであればダイレクトと言えるのかといった疑念を招きますので、こういう要件を明文化することには個人的には反対です。ですので、乙案にすれば足りるのではないかと思っています。

丙案をとらない理由ですけれども、「勧誘をするに」という文言を維持するということですが、これも先ほど消費者庁さんから説明がありましたように、特にインターネット取引とかテレビショッピング、通信販売のように、広告を見て、それで直接申し込むような場合というのは、広告がその消費者の意思形成に直接的に影響を与えていると、現行法でも恐らく言わざるを得ない。現行法の消費者庁の逐条解説などを見ても、直接的に意思形成に働きかけるというニュアンスのことを書かれていますので、除外できないということであれば、あえて勧誘という文言を残さずに、乙案に変えてよいのではないかと考えています。

7ページの広告主と販売者が別の場合ということについて、対象外になるということを明記するということには私も反対いたします。

理由は幾つかあるわけですが、まず実質的な問題として、もしこれを明文化してしまうと、メーカーから直接買ったような場合じゃないと取消しができない。今は、インターネットショッピングなどがあって、メーカーから直接買わなくても、そのインターネットのショッピングサイトを経由して買うことはよくあることですので、メーカーから直接買った場合には取消しの対象になるにもかかわらず、インターネットショッピング、ショッピングモールなどを利用したときには対象外になるというのは、実質論としても余り筋が通っていないのではないかというのが1つの理由です。

ただ、そうは言いましても、これは非常に難しいと思いますのは、消費者契約法の4条の規定というのは、事業者の一定の行為態様を要件としています。不実告知とか断定的な判断の提供といった、事業者がこういう行為をしたときには取消しができますよという要件のつくり方をしています。

先ほど丸山先生が、民法の場合でも意思表示の内容に取り込まれているということで、錯誤が認められるのではないかという話をされていたと思います。それは私もそうだと思うのですが、民法が意思表示の内容に取り込まれているかどうかということを基本的には要件にしていのると、今回の消費者契約法というのは若干ニュアンスが違っているように思います。事業者がどういう行為態様をとったから消費者は取消しが認められるのだという要件づくりをしている以上、実際には事業者が広告主でない以上は、売り主が広告主でない以上は、売り主としては何もしていないわけですから、それでも取消しが認められるのだということを理論的にどういうふうに説明するかは、民法とはまたさらに違った方向からの論理づけが必要であるように考えております。

済みません、1つ、申し上げるのを忘れておりましたが、広告主がどういう広告内容、広告をしているかということについて、過去の裁判例などを見ていて、例えば新聞社とかその広告を掲載した雑誌などの出版社に広告内容の調査義務があるかどうかというのは、不法行為の事例で争われていると思います。

もちろん、その新聞社や出版社が広告内容について、ここまで調査をするのは難しかった、あるいはそこまでの義務はなかったという結論がとられることが多いのですが、そのような裁判例があるということは、広告主のやっている広告内容に、掲載する側が全くノータッチでいられるということではない。実際に広告にどういう内容を書いているかということが、もし調査可能である場合にはある程度調査しなきゃいけないという判断がなされる可能性がゼロ%ではないということを示している裁判例だと思いますので、そのような観点からも広告主と売り主が異なるということだけを理由に取消しの対象外にするというのは、理論的にも正当化できないのではないかと考えております。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

古閑委員。

○古閑委員 5ページの終わりのほうから6ページにかけてですけれども、ここについては印象論が入っている部分があるのかなと思っております。今日、今朝気づいた資料のため御提出できていなくて恐縮ですけれども、2月5日に株式会社エルテスさんというところが公表している資料がありまして、ここにインターネットで買うかどうかにかかわらず、インターネットで情報収集してから商品購入する人は87.5%という内容が出ています。

今は、例えば電車で中吊り広告を見ながらスマートフォンで注文したり、実店舗で物を確認して、安いのでネットで買おうという人がいたり、ネットなのか、テレビショッピングなのか、通販なのか、実店舗で買うことと必ずしもつながっていない場面が相当あります。実際、情報収集を相当した上で物を買うという、今、申し上げたデータにもございますように、どこから買ったから、それが因果関係なのだということは必ずしも言える状況ではないと思っています。履歴が残るので、証明はしやすいということはあると思うのですけれども、因果関係というのは総合的に判断すべきものだと思いますので、そこを通じて買ったという履歴だけをもって因果性ということは必ずしも言えないのではないかと思っています。それが大きく気になったことの1つです。

もう一つは、7ページの下のところです。こういうことは本当に配慮いただくべきだなと思っており、しっかり書いていただいてありがたいところですけれども、下から3行目に「関与している場合」という書き方になっているところがあります。関与というと非常に広いので、実際に帰責性がある場合は責任を負うべきだと思うのですけれども、単にメーカーさんなどが利益ばかりを書いているときに、本当に不利益はないのかどうかというのは、店舗とか、あるいはネットで売っている人などが、どこまで調べ切れるかというのはなかなか難しいので、そこで関与と言われてしまうと、ちょっと広い範囲で責任を負わないといけない場面が出てくると思いますので、この配慮を是非していただきたいと思います。関与ではなく、もう少し本当に帰責性がある場合に絞られるべきではないかと思っています。

案で言うとどれがいいのかというところですけれども、丙案は、現状を維持した上で解釈に委ねるというものですが、今の解釈の仕方について、もうちょっと考え直したほうがいいところはあると思います。意思決定に対して働きかけがある部分が、今の解釈で必ずしも拾えていないという部分があるのかと思いますので、解釈も含めて現状維持と言うつもりはないですけれども、そこの解釈のところを変えるのであれば丙案でもいいのではないかというのが意見でございます。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

では、井田委員。

○井田委員 7ページの甲・乙・丙案については乙案に賛成でございます。確かに法規制につきましては、景表法とか特商法にあり、山本委員の意見にもありましたけれども、広告の中におよそ不当行為に該当しないというという言い切りも不可能だと思います。消費者の意思形成に直接影響を及ぼすような広告もあると思いますので、それでも勧誘に当たり得るのだということで明確にする必要はあるため、現状維持というのはどうかなと思います。甲案と乙案につきましては、ほかの法律でも乙案類似の規定というのがございますので、これは無理もない要件かなと思います。

また、7ページの下のところですけれども、確かに実際の小売業者さんが容器とか包装の表示を自分では全く手をつけていないという事例はあるかと思いますが、当該取引において、その表示を示しているのはまさにその事業者であるということは留意したい。別に消費者がその表示を選んだわけではないということに留意していただきたいと思いますので、小売業者さんに対する配慮をこの消費者契約法で特段する必要はないと思います。実際問題としても、容器とか包装の表示を国外のメーカーがしたような場合、もし例外的に配慮を及ぼすということになると、実質的に消費者が救済されないという事態も生じかねませんが、それでいいのかということ。

海外のメーカーがつくったものをそのまま輸入するという取引形態もかなりふえてくると思うので、消費者の救済という点からしても、例外的に勧誘に当たらないという解釈をとるのは反対でございます。

以上です。

○山本(敬)座長 では、沖野委員。

○沖野委員 4点ほど申し上げたいのですけれども、1つ目は、インターネット取引などを例として、広告等を不特定多数を対象とするという一事をもって除外することは不当であるという指摘があり、その限りでは共通理解が得られているように思います。常に広告であるという一事、あるいは不特定多数に向けたものであるという一事をもって、およそ除外するという点は、ここではそうではないということは了解されていて、広告でも一定のものは対象たりえて、その切り分けをどういう基準でやるかとか、それをどのように法文化するかということだと思います。

関連しまして、インターネットのような場合が一つの例として問題があると言われているのですけれども、私は以前からこの点がよくわからないと思っております。それは、申し込みそのものも不特定多数に対する申し込みというのがあり得るわけです。あるいは、申し込みの誘因自体も必ずしも特定人に向けられていなくて、不特定多数に向けられたものもあるわけで、それらの内容が違っていたというときには、もちろん意思形成に問題があるということで、取消しであったり、錯誤の対象になるのに、なぜこの勧誘に際してという、ここだけが不特定か特定かということで区別されるのか。理由がないと思います。

説明の中では、政策的に明確性という観点から当時は切ろうとしたというのが立案担当者の説明だということですけれども、これも既に指摘されておりますように、例えば落合先生の消費者契約法の御本などは、立案に非常に関与された方ですし、かなり早い段階で出た解説書ですけれども、そういう考え方ではないと、その一事をもって排除されるものではないということも打ち出されておりましたので、既に言われていることではありますけれども、最初から一致してそう考えられているというわけでは決してないということです。仮に、それを説明するとすれば政策的にという以外に説明はできないのではないか。しかし、その政策も妥当ではないということが現在、認識されているということだと思います。

そういうことを考えますと、どのような形で明らかにするかということですけれども、「勧誘をするに際し」という表現が、そうは言っても、他の立法の広告規制と勧誘規制という対で語られたり、勧誘というのは特定の者に対してだけ向けられたものですということが、立案担当者の説明でもしばしば書いてある。落合先生の本を見てくださいと言っても、立案担当者解説の力というものがありますし、ましてや消費者相談の場でも有用な規律となるということを考えますと、勧誘という言葉が持っている含みとか、それに伴ってされている説明の強さというものを打ち消す必要があるのだと思います。

そうだとすれば、この言葉をやめてしまうか、あるいは勧誘に際しだけれども、「不特定多数に対するものを含む」と書いてしまうことが考えられます。含むのだけれども、あとは因果関係など他の要件の問題です。こういう形で、消費者契約法の勧誘は、広告規制と勧誘規制であえて分けている勧誘じゃないのですということを明らかにする、そういう形も考えられるかと思います。それは結局、乙案と実質的に余り変わりはないのですけれども、そのような考え方もあるかと思います。それが1点目です。

2点目ですけれども、主体の関係という点です。7ページに書かれているところです。ここは微妙な問題があると思っております。それは、大澤委員が御指摘になった、現行法の4条は事業者がした行為を捉えているからで、さらには事業者以外の第三者がした行為については、5条で一定のものを取り込んでいるということがありますので、ここでも基本的には、媒体はどうあれ、事業者がした虚偽の説明とか表示とかという類型がまずは問題になるのだろうと思います。そうすると、その事業者、当該売主に当たる主体が全く知らないところで、何か広告なりが打たれていて、それを見たという場合は、確かに消費者は誤認しているのですけれども、果たしてそういう場合まで取り込めるのだろうかというのは、私はその点は疑問に思います。

ここに挙げられている例がそれなのかということがもう一つの問題で、陳列というのは非常に微妙だと思っているのですけれども、インターネット上のホームページなどで商品の説明として、メーカーが発表する商品の説明をそのまま張りつけているという場合ですと、それはまさに当該売主がそれを表示しているのだと思うのです。あるいは、チラシを置いて、これを見てくださいというのであれば、表示しているのではないかと思います。ですので、事業者が不実の表示をしたのかという点からしても、こういう例はそうしているのではないかと思われるわけです。

関連して、3点目が帰責性という点なのですけれども、帰責性の有無は問わないというのが消費者契約法の今のたてつけです。そして、そのことは、事業者がそういう表示をしたならば、それを消費者は信じてよいということであって、例えばホームページに商品説明はこうですと。これは、実は見ていくと、メーカーの説明をそのまま張りつけたようなものだけれども、それを見た消費者は常にこれが本当なのかということをチェックしに行かなきゃいけないのかということですね。そういうことは要求されないと思いますし、そのことは事業者として、そういう表示をしたということに対しては、それ自体として取消しという効果を受けてしかるべきであると。そういう意味では、帰責性があると言ってもいい。内容のチェックはできないというときであっても、それを消費者に対して表示している以上は、消費者が信じて、それで構わないという判断になるのではないかと思います。今のが帰責性に関する3点目です。

4点目は、インターネット以外の点でも同様の話というのはあるのではないかと考えていたところで、現実には余り問題にならないのですけれども、一番最初に申し上げた不特定多数に向けた申込みとか申込みの誘因というのは普通にあるという点に関係します。機械を使った販売、自販機とかATMでの預金取引とか海外旅行の空港での自動の保険契約の締結などです。今、問題にはなっていないのですけれども、例えば、自販機の商品説明でどこのコーヒー豆を使っていますとあったときに、それはどうなるのか。誰が来ても売るつもりという場合だと考えられますが、そういう場合が除外されるのもおかしな話だと思います。確かに、インターネットの場合とかテレビ等のショッピングなどが非常に問題になり得る事例ではありますけれども、他にも不特定多数を対象とするものがあると、そういう点から言っても、不特定か特定かということだけで区別するのは非常におかしいのではないかと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

では、後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 私も、乙案に賛成します。

その理由としましては、今、お話を伺っていて、阿部委員が広告は多様であるというお話をなさっておりまして、古閑委員も丙案をとるけれども、現在の「勧誘をするに際し」の解釈については、そのまま維持するというのは問題があるという御指摘もなさっていたと思いますので、そういう方向のお考えであるということであれば、乙案と丙案、実質上、そんなに対立すると考える必要はないのではないかと思います。

具体的に意思決定に対して直接影響を与える広告であれば、それの取消しを認めるということに関しては、意見がその点は同じだとすると、「勧誘をするに際し」という要件を現在のように入れておいて、そういう意思決定に対して直接影響を与える広告についても、取消しをできないのだという疑義が生ずるという状態にしておくよりは、むしろ「勧誘をするに際し」ということをとってしまうほうが、意見の一致しているところがより端的に表現できることになると思いますので、そういう趣旨で乙案がよろしいのではないかと思います。

今、私が申し上げたのは、阿部委員の御発言の中で、広告にも多様なものがあるとおっしゃいましたので、私の理解としては、多様なものがあるので、一定の場合については広告も取消しの対象になるという理解をしまして、意思形成に対して直接働きかけているような広告については取消し可能になるというお考えと私は理解しました。古閑委員もそういうお考えなのではないかと理解しましたので、もしそこの点が違っていれば、訂正していただきたいのですが、もし問題がなければ、乙案と丙案は実質上、同じだと私は考えます。

○山本(敬)座長 今の点についての御返答があればと思いますが、いかがでしょうか。阿部委員。

○阿部委員 実質同じといいますか、まさに6ページの四角の中の整理の結果としては同じなのですけれども、丙案は今の文言でその解釈だけの変更ですね。文言が実際変わったときに、「勧誘をするに際し」というものに加えて、「契約の締結に関して」あるいは「契約が行われるまでの間に」に、一体どこまでのものが入ってくるか、事業者側としてすぐにわからない。はっきり言って、広告以外のさまざまな要素が入ってくるということで不安があるということです。

○山本(敬)座長 古閑委員。

○古閑委員 乙案の3行目に書いてある「契約の締結に関して」又は以下のように変えるということによっての影響、まさに阿部委員がおっしゃったとおりで、近いかなと思っております。乙案の1行目に「広告等による場合を含め」というのが出てくるので、広告も本当にいろいろなものがありますし、かつ先ほど申し上げたとおり、何を見て意思形成につながったのかというのが今、なかなかわかり得ないところでもありますので、その状況を考えたときに、この乙案の説明部分も含めて読んだときに、乙案には直ちに賛成できないかなと思っています。

○山本(敬)座長 よろしいですか。阿部委員。

○阿部委員 非常に極端な例を言いますと、例えば広告に至らないような看板のようなものもここに入り得るかもしれない。ここで書いてある「契約の締結に関して」あるいは「契約が行われるまでの間に」というところの広がりが、こちらで整理されているような問題に本当にきちんとおさまり切れるのか、ここは非常に疑問があります。

○山本(敬)座長 後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 今、おっしゃっているような疑問が出るとするならば、おっしゃっているような内容に対応すべく、注釈でその方面の手当てをするということもあると思いますので、そういうようなことをするということであっても乙案では承認できないという御意見でしょうか。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 承認できないというより、丙案できちんと解釈を示していただいたほうが、実務的に対応しやすいということです。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。大澤委員。

○大澤委員 少し細かな文言の点を消費者庁に確認させていただきたいのです。私が聞き漏らしているのかもしれないのですが、乙案をよく見ると、「契約の締結に関して」という言葉、または「契約が行われる(締結される)までの間に」という言葉が使われていて、そこで引用されている注9を見ると、今までの試案とか各種業法・特別法の条文が出ていて、その中ではいろいろあると思います。「契約に先立ち又は締結に際し」という言葉を使っているものもありますし、そうではなくて「関して」と使っている言葉があると思います。

細かいかもしれないですが、ニュアンスとして、「際して」と「関して」はかなり違うのではないかと思っていまして、「際して」の場合には契約を締結するそのときだという意味にも聞こえます。それを避けるために、各種の提案が「又は先立ち」という言葉を使っていると思うので、それはまさしく契約の判子を押す場じゃないのだけれども、その前の段階で消費者の意思形成に影響を与えたということも含むニュアンスだと思いますが、「関して」となると、今、幾つか議論が出ていましたように、消費者が契約をするに至った経緯を広く含むような印象を持つような気がするのですが、これは「関して」というのと「行われるまでの間に」という文言が書かれていますが、何かそういう意図があったのか、いや、全くないのかということを教えていただければと思います。

○山本(敬)座長 それでは、消費者庁からお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 ここは各種の類例を御参考として引いておりまして、それぞれの規定についてどうかというところまで、厳密に現時点でお答えしかねるところでありますから、正確なところはまた何らかの形で確認したいと思います。

まず、本当は契約締結過程における規律とでも言うのが、より正確ではないかと思いますが、現行法に倣って勧誘規制と仮に言いますけれども、この勧誘規制についてどう見るか。それは、契約締結過程における何らかの事業者の行為によって、消費者の意思形成がゆがめられた場合に、それを救済していこうという発想だと思います。

類例各種を見ますと、例えば12ページをごらんいただきますと参考4ということで、保険法以下、幾つかの例を掲げております。「契約の締結に際し」という言い方をするとか、13ページのマル2ですけれども、「契約の締結又はその勧誘に関して」という形で、「勧誘」という文言を残しつつ「契約の締結」という形で入れているものもある。それから、マル3のように、「契約の締結」や「勧誘」を用いない例として金融商品販売法の例を引いている。これは民事ルールの規律でありますので、消費者契約法に割と近い世界の話だろうと思っておりまして、あえて申し上げると、この金融商品販売法の規律が最も参考になるのではないかという気はいたします。

その金融商品販売法に関する規律について申し上げますと、引用している条文に書いてあるとおりでありますが、「金融商品の販売が行われるまでの間に」と言っておりまして、それ以上でなければそれ以下でもありませんので、販売が行われた後の情報提供に不実や断定的判断の提供があっても、それはもう関係ありませんけれども、販売が行われるまでの間にあれば、それは全部含むということだと理解されますので、適用対象は広い、全部だということだろうと思います。

先ほど阿部委員から例えば看板の場合はどうですかという御指摘がありましたけれども、例えば金融商品販売法のような規律にすると、看板だって入ってくる可能性は出てくると思います。出てくるのですが、例えば看板に不実の記載があって、それを見て消費者が誤認したということで、因果関係があることを前提として取消しを認めるという政策判断もあれば、看板の場合には、それは働きかけとは違うでしょうと見て、そこは切り分けるという発想だってなくはない。

消費者契約法の場合にあえて勧誘としているというのは、ペーパーでも申し上げましたけれども、民法の詐欺・強迫取消しとは別に、あえて適用範囲を広げて消費者を救済していこうという発想であり、どこまでやるかというのは事業者の事業活動への影響といったものとのバランスの中で、勧誘というところでまずは線を引きましたということだと思いますので、民法の世界でいけば、言うまでもないことですけれども、全部入りますよということだと思います。消費者契約法の場合には、そこはある程度、今までの検討過程というのをどうしても引きずっているところがありますので、事業者の御意見を踏まえつつ、よく検討する必要があるのではないか。

それで、1点だけ補足させていただきます。例えば丙案をとるとした場合には、解釈としていろいろな考え方があり得るということをお示ししているということが考えられます。そうしますと、「勧誘をするに際し」という言葉をなぜ使っているのかということとの整合性などの工夫が求められるだろうという気はいたします。丙案に関して、例えば裁判例がこうだといったことを御紹介することは、もちろん可能でありますので、そういったことを踏まえて、後は裁判実務あるいは相談実務における適宜の対応に委ねると。

裁判例に関して申し上げますと、1ページの事例に幾つか掲げてございます。先ほど御紹介は割愛してしまいましたが、事例1-5から1-7が裁判例であり、事例1-9も裁判例であります。その他が相談事例。事例1-5から1-7をごらんいただきますと、パンフレット等を使用しておるのですが、説明が加味されているという事案において、いずれも勧誘の該当性を認めたというケースであります。

悩ましいのは事例1-9でありまして、これはホームページや店内のプライスボードという広告媒体と思われるものに走行距離に関する不実の記載があった。1-5から1-7までは、事業者の何らかの説明があったという事案でありますが、1-9は明確に訂正しなかったという事案でありまして、説明が付加されていないという違いがございます。ただ、裁判所は、こういった事例について勧誘に該当するということを前提に救済を認めておるということでございまして、こういったところに現行の勧誘の解釈の広がりが、実務ではそういう芽が見え始めているという評価は可能ではないかと思われるところでありますので、逐条解説で仮に何か対応するとなった場合には、そういったところを御紹介するということではないかと思います。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

今の御説明にありましたように、この議論は、何であれ、事業者の不実告知等がどこかで行われているということが前提になります。そして、その不実告知等によって消費者が誤認しているということも前提になります。それを前提にした上で、その不実告知等がどこで行われているかによって取消しの可能性を区別するかということが、ここで問題になっていることです。今、まさに1-9の例を挙げていただきましたけれども、狭い意味での勧誘とは考えられていなかった場面で、事業者による不実告知等が行われている。そして、実際に対面して契約をする際において、その不実告知等による誤認を是正するようなことを何もしないまま契約を締結するに至った。このような場合に取消しを認めるか、認めないかというのが、現在、乙案か丙案かなどとして検討されている事柄ではないかと思います。

先ほど後藤委員から御指摘がありましたけれども、事例1-9のような場合に取消しを認めるべきであるということで、もし意見が一致しているのであれば、それをどう適切に条文の上であらわすかという次の問題に移ることができる。もちろん、それでも答えは1つではないかもしれませんが、そのような前提の上での文言選択という問題に移行するわけですが、事例1-9のような場面で取消しを認めるべきではない。少なくとも明確に取消しが認められると規定するのは時期尚早であるということであるのであれば、またその点を考えないといけないことになるだろうと思います。

今日、結論を出すことはなかなか難しいので、次回、もう一度検討することになるだろうと思いますが、今、私が申し上げた点について、もし御意見があれば、特に異論があるのであれば御指摘いただきたいのですが、いかがでしょうか。阿部委員、どうぞ。

○阿部委員 異論とか意見ではないですけれども、甲案は言っていることはわかるのですけれども、法律にするとわかりにくくなる。ここをもう少し工夫できればあり得るかなと思います。乙案だと対象が広がり過ぎると思いますので、甲案をもう少しすっきりしてわかりやすい形に改めることが可能であれば、あるかなと思います。

○山本(敬)座長 ほかはいかがでしょうか。古閑委員。

○古閑委員 私も阿部委員の意見と同様でして、甲案このままということではなく、少し変えていただいた上で、甲案のほうがまだ運用しやすいのではないかという気がいたします。

○山本(敬)座長 もう一つのアイデアとして、先ほど沖野委員のほうから、勧誘という要件は維持した上で、「不特定多数に対するものも含む」という括弧書きを入れる。これは、広告規制と勧誘規制を厳格に区別するという考え方における勧誘ではないものであるということを明示する。しかし、それ以上に関しては、なお解釈に委ねられるという御提案がありましたが、今の点については、阿部委員のお考えはいかがでしょうか。

○阿部委員 それで済むのであれば、賛成いたします。

○山本(敬)座長 ほかに御意見あるでしょうか。どうぞ。

○消費者委員会河上委員長 まとまりそうなので、とてもうれしいのですけれどもね。乙案支持の方には、甲案に対してはかなり批判的な御意見もあったのでひと言申し上げます。消費者契約法をつくるときの議論にもう一度戻りますと、恐らくあそこでも、その当時の特別法の中にあった「勧誘」と「広告」という二段構えの規制を前提にして言葉を選んでいます。つまり、ほかの法律には広告規制があって勧誘規制がある。行政規制の問題ですから、そういう仕組みになっていたのを、初めての民事立法ということで、「広告」はとって「勧誘」だけを残したという経緯があります。

しかし、落合座長が当時まとめておられたのですけれども、落合先生自身も、狭義の「広告」を外すという意図は全くなかったのだと思うのです。消費者に対して意思形成に影響を与えるような事業者の働きかけに関しては、これを全て捕捉するということだったのですが、これまでのいろいろなコンメンタールの解説とか、そういうものの中で、直接のやりとり以外は含まないという意味での「勧誘」。つまり、ほかの行政法規の中の「勧誘」概念での説明が一般に積み重ねられてしまった。

ですから、この際、「勧誘」という意味が、そういう非常に狭い意味のものではないのだということがはっきりすればよいわけでして、その意味では「勧誘」をとってしまうか、むしろ「勧誘」、括弧に入れた何々を含むという書き方のいずれかをとったらいいのではないかと個人的には思っておりました。

原案として甲案が一番最初に出てきているのは、その広告にもいろいろな種類のものがあって、働きかけがあったり、因果関係があったりするものに限定させるべきだという慎重な姿勢がこの甲案の中に入っているのだと思うのですけれども、そのこと自体は配慮すべきことなのではないかと思っております。何が何でも広告全てを対象にするということではないとすると、この甲案のような形で入れていくのは1つの考え方として合理的です。いずれにしても、本文の中で「何々によって」という表現で因果関係の必要性は入ってまいりますし、その意味でもそれほど大きな負荷ではないので、先ほど出ましたように「不特定に対して行われる勧誘行為を含む」という形であれば、かなりのものが捕捉できるということで、私は乙案と甲案こそ、そんなに差がないのではないかという感じを持っておりました。

そんなことで、もう少し言葉をブラッシュアップするという形で作業を進めていただければありがたいと思います。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

この議論はかなり長引くだろうと思っていましたが、たくさんの御意見をお出しいただき、また建設的な方向での御提案もいただきまして、ありがとうございました。次回、もう一度、以上の御議論を踏まえて、さらに消費者庁のほうでもお考えいただいた上で、改めて議論することができればと考えています。

(2)断定的判断の提供

○山本(敬)座長 続きまして、2つ目の論点、「断定的判断の提供」に移ります。資料2の15ページ以下について、消費者庁から説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 それでは、15ページの「2.断定的判断の提供」でございます。これも御案内のとおりでございますが、22ページに参考条文をおつけしておりますけれども、現行法第4条の1項2号でありまして、物品、その他契約の目的となるものに関し、将来における消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供と規律を設けているところでありまして、これについて相談事例や裁判例などがさまざま集積しているところでございます。

15ページに戻っていただきますと、事例2-1から幾つか裁判例や相談事例などを掲げております。

先に事例について御紹介いたしますと、事例2-1は未公開株式の購入について、価格が上がるかどうかという話で、割と典型的に想定していた事例でございます。

裁判例は、適用範囲について徐々に広がりを見せているように思われる状況でございまして、例えば事例2-2のパチンコに絶対勝てるという事案でありますけれども、パチンコの出球をどう見るかということでありますが、こういったものまで適用を認めたという事例であります。

事例2-3の4行目ですけれども、かぎ括弧で、恐らく6カ月ぐらいの営業停止になるだろう。そうすると会社が潰れますよ、預託金が戻ってきませんよ。それよりも、今なら100万円は確実に返すことができるということで、将来、営業停止になるだろうということも含めて、将来的なことについて断定的な提供がされているという事案かと思われます。

他方で、事例2-4は、必ず有名学校に合格しますよというものでありますが、これは消費者側が敗訴している裁判例であります。

16ページに行きまして、2-5と2-6は相談事例であります。2-5のエステで必ず痩せるというのは、ある意味古典的な消費者被害の問題でありますけれども、こういったものは従来から古くて新しい問題として多数見受けられる。2-6も同様であります。

2-7は、ちょっと毛色が変わった問題でありますが、あなたの運勢がよくなるということで改名などの契約をしたという事例でございまして、これは控訴審まで争われておりますが、第一審では、こういった運勢がよくなるという表現について断定的判断の提供の適用を認めて救済を図ったということでございますが、控訴審では断定的判断の提供には当たらないとしつつ、他の事情も合わせまして、公序良俗無効によって消費者の救済を図ったという事案でございます。

16ページの「問題の所在」というところに「現行法の規定」につきまして書いておりまして、2段落目で、ここでいう「将来における変動が不確実な事項」については、「消費者の財産上の利得に影響するものであって将来を見通すことがそもそも困難であるもの」と立案当時は考えておりまして、具体的には不動産の価額とか将来受け取るべき保険金の額といったものが想定されていると説明されているところであります。

17ページのイのそれ以外の事例ということで、最近の例では、上から3行目の終わりのほうでありますが、「例えば」ということで、有名校合格とか家庭教師とか、必ず痩せる、運命がよくなるといった事例も見られるところであります。

「(2)考え方」で、「現行法の考え方」としましては、断定的判断の提供の規定をどういうふうに考えて設けているかということであります。17ページから18ページ、これは誤認取消しの一つの類型として不実告知とは別途設けているということでありますが、18ページの2行目あたりですけれども、不実告知とは異なりまして、契約締結時点において客観的な事実により真実でないと判断することができない。将来、どうなるかということでありまして、それは不実告知とは別途規定したのだということでありまして、契約締結時点では知り得ない将来の見通しに関して判断の提供が事業者からされることによって消費者が誤認する。そういった場合は、契約として不適正であると考えて、これを対象にしたということであります。

そこで典型的に見られる消費者被害の事案としましては、財産上の利得に関する事項であるということが想定され、それが条文の文言でも例示的に書かれているということだと考えております。

18ページから、その裁判例で徐々に広がりを見せつつあるということを踏まえまして、イで、財産上の利得でないような事例についてどうかということであります。この点につきましては、いろいろと御指摘もいただいているところであり、必ずしも財産的利得に関しない事項であっても、不確実な事項について確実と断定的に判断を提供するということ自体が不適正だと見て、適用の範囲を広げていくという考え方もあり、そういった立法提言もあるところであります。

19ページで、ではどうするかということで、甲案、乙案という形で書いてみましたが、甲案は、思い切って例示を削除して、「『将来における変動が不確実な事項』又は『不確実な事項』」としてしまうという考え方でありまして、不確実な事項とだけ書いている類例というのは確かにございます。

ただ、類例について注意しなければならないと思われますのは、23ページの参考1で幾つか書いてございますけれども、24ページのマル2「不確実な事項」ということで、利益が何とかとは確かに書いておりませんが、もともと適用のターゲットとしているのは、農協とか金融商品とか、25ページの銀行、貸金とか、要するに財産に関する事業をやっている場合であるということは留意されるべきであろうと思います。

19ページに戻っていただきまして、そういった甲案のような考え方もあるところでありますが、他方で乙案で、現行の規定は、先ほど参考条文で22ページでごらんいただいたとおりですが、条文の文言が将来における価額や受け取るべき金額、その他の将来における変動ということで、ある程度広がりの余地を見せる条文となっていると見ることができようかと思いますので、そうであれば、現行法の文言を維持しつつ、個々の事案における解釈に委ねるといった考え方もあるのではないかと思います。

この甲案・乙案について考える際に、さらに「留意点」としてウで書いているところでありますが、相談事例でよく挙がってくる、例えばエステといった事例はあるのですが、いわゆる効果・効能に関して、こういった効果が必ずありますよといった形でのトラブルが多いということであります。

(ア)ですけれども、例えばエステの痩身効果、実際に何cm、ウエストが細くなりましたとか、何とか中学に受かったとか受からなかったとか、ある程度事実で検証できるものと、それから運命がよくなるとは一体何ですかという話になりますので、検証のしようもない。

客観的にある程度見えるものについても、1つは、2段落目に書いておりますが、本人の事情が多分に影響する。受験は本人が勉強しないとどうにもなりませんねというのは、ある程度明らかでありまして、そういったところをどう見るか。そういった要素がエステなどについてもある程度あるのではないかと思われるところであります。

また、これらのトラブル事例について、必ずしも断定的判断の提供に含まないとしたとしても、当該商品、サービスの内容がそういった効果・効能に見合う品質をもともと有していないということが多いのではないかと思われるところでありまして、そうであれば端的に不実告知として捉えることもできるということでありまして、脚注24で引いておりますけれども、特定商取引法の解説書においてはそういった記載が見られるところであります。

最後の運命がよくなるということは、何が該当するのかというのがよくわからないところでありますけれども、これにつきましては、そういった事案は確かに悪質商法と言われる事案で、印鑑とかつぼを買わせる事案が多くて、何とかしてほしいというのは理解できるところでありますが、その本質は、要するに運命がよくなりたい、わらにもすがりたいといった消費者の不安な心理状況を利用して、そこに何か不当な働きかけがあるということが問題ではないかと思われるところでありまして、それは別途、取消事由をさらに拡張的に検討していくことによっても対処できるのではないかということで、その旨、留意点ということで書かせていただいているところであります。

御説明は以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明を受けまして議論を行いたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。では、山本健司委員。

○山本(健)委員 御報告ありがとうございました。

資料3の3ページ以下を引用しつつ、意見を述べさせて頂きます。 結論としては、甲案に賛成いたします。より具体的には、断定的判断の提供の対象を「不確実な事項」とする考え方に賛成いたします。

以下、理由です。

事業者が不確実な事項を確実だと断定的な判断を提供して勧誘すれば、構造的な格差のもと、消費者はこれを信じやすく、契約を締結するかどうかの意思決定に影響を受けやすいという断定的判断の提供の趣旨は、現行法が規定するような「財産上の利得に影響する事項」に限って妥当するものではないと思います。むしろ、かかる断定的判断の提供の趣旨は、「不確実な事項」一般について妥当するものであると考えます。実際に「不確実な事項」という文言は、金融商品取引法、商品先物取引法、金融商品販売法など、断定的判断の提供について定める多くの既存の法律においても用いられております。

このような観点から、現行法の「将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の」という例示を削除し、断定的判断の提供の対象を「不確実な事項」のみとする考え方に賛成いたします。

「ウ 留意点」のご指摘事項に関して、まず、「(ア)客観的な効果・効能が問題となる例」につきましては、個別事案によっては、消費者の誤認や因果関係の存在が認められないという場合はあり得るものと思料いたします。しかしながら、あくまでも個別事案ごとの事実認定の問題であって、個別事案において不確実な事項について断定的判断を提供し、それによって消費者が当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認をして意思表示を行ったと事実認定できる事案であれば、特に他案件と区別する必要性はないと考えます。

なお、事業者が断定した効果・効能を実現するだけの性質・性能を有していないような事案については、他面において不実告知の問題としても捉えることができるのではないかというご指摘は、そのとおりであろうと考えます。

最後に、「(イ)客観的でない効果・効能が問題となる例」につきましても、個別事案ごとの事実認定の問題ではないかと思います。 なお、運命・運勢などが問題となっている事案について、「不当勧誘に関する一般規定」の論点において検討することには賛成です。もっとも、「不当勧誘に関する一般規定」が、対象、要件、実現可能性がまだ不透明である以上、現時点で断定的判断の提供の適用対象からこれを除外して議論を整理してしまうべきではないと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

では、阿部委員。

○阿部委員 結論から言いますと、19ページの乙案に賛成いたします。今の文言でも財政的利得に影響しない事項も十分含まれるという解釈は可能でありますし、現にそのような判例等もあると聞いております。消費者庁がここは明確にこのような解釈をするということを言えばいいだけの話であります。

甲案の問題ですけれども、例えば「不確実な事項」とか「将来における変動が不確実な事項」であるときに、この留意点の21ページの(イ)にまさに書いてありますが、こういうものをどうやって排除するのか、あるいは含めたらどうなるのか。極端なことを言いますと、運勢がよくなるということをおかしいと言い出したら、宗教行為を全部否定しなければいけなくなりかねないので、ここがすっきりするような理屈なり書きぶりがあるのか。もし、ここが可能であるのだったら甲案でも構いません。

○山本(敬)座長 ほかにいかがでしょうか。では、大澤委員。

○大澤委員 2点ほど申し上げたいと思うのですが、結論としては、個人的には甲案のほうに賛成というか、そちらに近い考え方を持っていますが、何点か気になるところはあります。

まず1点目ですけれども、20ページの「客観的な効果・効能が問題となる例について」というところで、例えば中学受験での合格とかエステなどは、利用者の能力とか体質などの影響を受けるということで、こういうものについてどう評価するかという話が出ております。これについては、確かに今までこういう学習塾とかエステのサービス契約の債務不履行が問題になった事案において、債務不履行というときには、その事業者がどういう債務を約束していたか、どういう債務を負っていたかというところが問題になります。その際に、例えば成績とか痩身効果などは、利用者というか、当事者、消費者側の能力などに左右されるので、要は結果までを債務として保証しているわけではないという形で、債務不履行違反というのがなかなか認められにくかったと思います。

ただ、今回の場合は消費者契約法という、先ほどの勧誘のところでも申し上げましたが、事業者の一定の行為態様に基づいて消費者が契約を締結して、それで誤認が生じたという、まさに行為態様が問題になっているわけで、むしろこういう将来、受ける側の例えば能力や体調などによって結果が左右されるようなものであるにもかかわらず、そういう断定的な判断を提供して消費者を誤認させたという行為態様をまさしく正面から問題にしているのであれば、(ア)の場合は特に除外する理由はないと考えています。

その上で1点、私が気になっているのは(イ)の点でございますけれども、これで事案として引用されているのが事例2-7という事案ですが、私がよくわからないのは、この2-7の事案というのが果たして断定的判断の提供と言えるのかというのが気になっています。言えるのかと言いますのは、それは経済的なことではないからということではなくて、仮に経済的な変動を含まなくて、広く断定的な判断の提供の対象になるという要件をつくったとしても、2-7のように、あなたの運勢は将来よくなりますよと言うことが、果たして断定的な判断の提供と言えるのかというのが、ちょっと気になっています。

そういう問題が現に起きているというのはよくわかるのですが、それはむしろ、例えば開運商法とか、別の問題なのではないか。よく言われますのは、最近だと消費者の病気とか心理的不安を利用して印鑑を買わせるというトラブルがあると聞いていますが、それはまさしく消費者の心理とか弱みにつけ込んでいるという話であって、それは恐らく次回の審議の対象だと思いますので、2-7に関しては、これが断定的判断の提供と言えるのかという、先ほど阿部委員がおっしゃっていたことと同じような疑問を感じています。そうだとすると、(イ)の場合だけを特に除外するべきなのか、あるいは(イ)は全く別として考えるのかどうかというのは、私自身、まだ迷っていて結論は出ないのですが、それが気になっております。

もう一つ申し上げますと、甲案を仮にとったときに1つ気になるところは、「将来における変動が不確実な事項」と一般的に要件をつくることになるのでしょうけれども、それによって変動が不確実なものであれば何でも入るという印象を持たれることが、危険とは言いませんが、それによる曖昧さもあるのではないかという危惧を私自身は少し持っております。そうだとすると、甲案をとるとしても、要件のつくり方はよく考えたほうがいいかなと思っています。ただ、現時点で案があるわけではないです。

以上です。

○山本(敬)座長 それでは、増田委員。

○増田委員 私は、甲案に賛成いたします。

客観的な効果・効能が問題になる例についてですけれども、頭がよくなりたいとか、きれいになりたいとか、お金をもうけたいという人間の根本的な欲望を利用した勧誘とか広告などによってトラブルが発生するのが現実です。そういう中で、エステは食生活の改善と運動が必要とか、勉強して一定の努力をしなくてはだめだということをきちんと説明されていたのであれば、このような契約をしないと思います。そういう説明がないままに断定的に判断を提供しているということがトラブルの原因になっていると考えますので、このようなことを特に排除していただきたくないと考えております。

それから、客観的でない効果・効能が問題になる例ですけれども、確かに断定的な判断と言い切れるかどうかというところも私も感じるところではありますけれども、現状、精神的な問題を抱えるような方がふえている中、この種の御相談というのは非常にふえてきていると思います。相談の現場におきましては、つけ込み型の不当な勧誘行為について、それによって解決を図るという考えもありますけれども、つけ込んだでしょうというところを了解していただくということはまずないわけです。そこを説得するのに非常に時間がかかると考えておりまして、こういう断定的判断の提供という道筋を残していただきたいと考えております。

○山本(敬)座長 それでは、後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 先ほどの阿部委員と大澤委員と問題意識は同じでして、特に21ページの「(イ)客観的でない効果・効能が問題となる例」ということについて断定的判断の提供の対象とすることについては、疑問を持っております。増田委員から、今、こういうものも断定的判断の提供の対象にする必要があるというお話でしたが、そういう実際上の相談業務の中での経験がありませんので、少し理屈の話でこういう考え方ができるのではないかという形でお話ししたいと思います。

19ページの甲案のような考え方をとって、「『将来における変動が不確実な事項』又は『不確実な事項』」ということを断定的判断の提供の対象にするという立場は、断定的判断の提供ということで取消しがなぜ生ずるのかということから言うと、確かに不確実な事項を確実なように断定する。それによって消費者が誤認するという場合に取消しを認めるのだという、断定的判断の提供で取消しを認めることの趣旨から見て、まさに不確実な事項を断定的判断の提供の対象にしているわけです。

けれども、具体的に考えてみますと、現在、例示がされているわけでありますが、例示もとって、単に不確実な事項とだけすることになりますと、大澤委員がおっしゃっていたように曖昧さが残ってわかりにくいのではないかという感じは否定できないと思います。そういうことから見たときに、問題となる場面として、財産的な利得に関係しないということで、20ページの(ア)と21ページの(イ)が残るわけですけれども、「(ア)客観的な効能・効果が問題となる例について」は、結論的には、断定的判断の提供の対象とするということでよろしいのではないかと考えております。

この類型では、場合によっては、20ページに書いてありますように、「当該契約の目的となるものがそのような性質・性能を有していない場合には、事業者の行為を不実告知として捉えることも考えられる」ということでありまして、断定的判断の提供でなく不実告知で考えられる場合が一定程度は出てくるのではないかと思います。しかし、客観的に事実かどうかということの判断はなかなか難しいですので、不実告知という処理をすることができるのは例外的な場合になろうかと思います。そういうことから見ると、断定的判断の提供の領域として残しておく必要があると思います。

一方、「(イ)客観的でない効果・効能が問題となる例」、これは運命とか運勢のたぐいで、事例2-7の場合でありますけれども、民法の意思表示の瑕疵ということの延長線上にあるというのが、少なくとも消費者契約法4条の当初の出発点だったわけですが、そのようなことで考えていくと、(イ)の場合は、意思表示の瑕疵の枠組みを超える問題ではないかと考えます。これはむしろ相手方の運命や運勢の事項につけ込むというような、社会的に相当でない行為を行っているということで、判例でも述べられたことがあります公序良俗違反の問題とか、今後どうなるかわかりませんけれども、不当勧誘規制の一般条項というものがもし消費者契約法の中に加わるならば、そこで対処すべき問題ではないかと思います。

そういうふうに考えますと、少なくともこの運命・運勢のたぐいというものは、断定的判断の提供から除いても、ほかの部分による手当てということが考えられて、むしろそれのほうが民法の体系上は望ましいのではないかという感じがいたします。そういうことで、私も以前、この専門調査会の中で自身の報告の機会を与えていただいたときには、不確実な事項につき断定的判断を提供するということでいいのではないかという報告をしたのですけれども、今回、改めてこうやって消費者庁のまとめていただいたものの中で、21ページの(イ)のような事例をどう考えますか、という部分を突きつけられましたので、それを考えてみると、ここの部分は断定的判断の提供と別処理ということのほうがいいのではないかと今は思っております。

一つの考え方として、現在の条文を生かすということで考えてみますと、22ページに消費者契約法の4条1項2号の条文がありますけれども、「その他の将来における変動が不確実な事項につき」というところの「変動」を「見込み」に変える。「その他」の前までは同じで、その後「その他の将来における見込みが不確実な事項につき断定的判断を提供する」ということが1つ考えられるのではないかと思います。

これは、そういうことはないという御意見もあろうかと思いますけれども、運命・運勢は見込みが立たないことである。だから、「見込み」として、この場合は除きますという、そういうことをちょっと考えたということです。

以上です。

○山本(敬)座長 それでは、ほかに御意見いかがでしょうか。大澤委員。

○大澤委員 先ほどの意見に補足をさせていただきたいのですが、甲案の「不確実な事項」というだけでは、余りに漠然としているとしつつ、特に代案はありませんという無責任な発言をいたしましたので、その後、もうちょっと何か代案はないだろうかということを考えていたのです。私自身は、個人的に例示を残すのは、例示列挙というのは、条文のつくり方としてはどうかなという印象を持っています。それがちょっと気になっていますので、例えば「将来における変動が不確実な事項」というよりは、その4条の同じ条文の前のところで「消費者契約の目的となるものに関し」という言葉がありますので、「その目的実現が不確実なもの」とか、そういう言い方、あるいは「結果発生が不確実なもの」とか。

「将来における変動」という言葉が、変わるものであれば何でも含まれるという。変な話ですが、変動だと天気なども入ってきますので、そういう印象を持ちます。要は、消費者が目的としていたものが、結果発生が必ずしも確実なものではない。例えば成績とかはそうだと思いますけれども、結果発生が不確実であるにもかかわらず、それについて確実に結果が発生するかのような断定的判断の提供をしたという言い方があり得るかなと思いました。

思いつきで恐縮ですが、以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

では、松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 この討議資料に挙がっている事例を見ますと、私は、3つのタイプが混在しているという気がするのです。

1つは、金融取引的なものであって、例えば物価がどう動くかとか、株式相場がどう動くか、為替相場がどう動くかというのは、一個人、一消費者がいかに努力しようが無関係であるというところがあるわけです。そういう個人の努力と全く無関係に将来、変動するものについて断定的判断を提供するというのは、不実告知では捉え切れないタイプである。うそをついたとは必ずしも言えない。しかし、やはり不当だからということで、わざわざ不実告知とは別類型をつくらざるを得なかったタイプ。それが1つ。

もう1つは、痩せますとか、頭がよくなりますとか、どこかの学校に受かりますといった、本人の努力やほかの取り組みとの関係で、実現する可能性があるもの、ないものについて言っている場合で、これは私は端的に言って不実告知だと思います。一切努力しなくても痩せます。ふだんのでたらめな食生活を続け、運動をしなくても、このサプリだけ飲めば痩せます。これは端的にうそだと考えて、不実告知のほうに入れるということでいいと思います。この考え方は、実は不利益事実の不告知の問題と連動しています。すなわち、このサプリで痩せます。ただし、あなたが今までの生活を悔い改めて、こういうふうにすればという不利益事実の告知をしないで利益の面だけを強調していると言えなくもないわけで、次のテーマである不利益事実の不告知の問題とも重なってくるわけです。

不利益事実の不告知の問題も、端的に不実告知として処理するのが適切だと私は考えておりますので、これも同じような立場をとっております。

3つ目が、宗教あるいは宗教の周辺、宗教まがい的なものですね。運勢とか幸せといったものについては、宗教との線引きを考えると大変難しいところが出てくると思います。皆さん、初もうでに行くと、ことしの厄年は何年生まれの人です。おはらいを受けましょうという掲示が出ておりますが、あれは社会的に許容される範囲のことだろうと思いますが、個別に、あなたは、ことしは大変凶運だから、私のこういうおはらいを受けないとだめです。価格は100万円ですとか1,000万円ですと言えば、これは不当だというのが明らかであって、公序良俗違反のほうでカバーすべき問題になってくるだろうと思います。

宗教として社会的に許容されている範囲の事柄と、そうでない事柄を区別するのに、消費者契約法の条文だけでできるかというと、これは大変難しいと思います。ここは一般的な公序良俗でカバーせざるを得ないのではないか。実際、多くの判例はそういうふうに処理していると思います。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

沖野委員、手が挙がっていたかと思います。どうぞ。

○沖野委員 済みません、私も思いつきの範囲ですけれども、1つは、不確実な事項とすることに伴う曖昧さという点の気持ち悪さというのは、少し共有するところがあります。しかし、かといって、現在の形で財産上の利益に限定されるということは、もっと避けたいと思いますので、何とかそのあたりを調整できないかという方向でもう少し考えていけたらと思っています。

一つの可能性としては、例示をどうするかという問題はありますけれども、例示のところが金額だけになっているので、逆に例示をふやすことも考えられるかもしれません。金額とか「達成される成果」、その他と入れることも考えられるかと思います。それから「変動が不確実」というところもよくわからないところなので、その部分も変える必要があるだろうと思うのですが、なかなか妙案がなくて、例えば「変動が」に代えて「結果が」というのも考えてみたのですけれども、結果だけだったのかというと、特に当該契約をすればどういう結果になるかという部分は対応するのですけれども、その前提となるような、契約をしなかったらどういうことになるかという部分について断定してしまうという部分もありますので、それを取り込むような文言にできないかなと思っております。

確定的な代案がなくて申しわけないのですけれども、そういう例示を少し追加するような可能性もあるのかなと思いましたもので、その点だけをお伝えしたいと思います。

○山本(敬)座長 よろしいですか。河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 これももともとは不実告知の1タイプとして出てきたような気がします。具体的には「絶対もうかります」というタイプの紛争が余りにも多かったので、こういう断定的な言い方をすることによって顧客を誘因する場面を、1つ条文として立てておけば比較的捕捉しやすいのではないかという配慮があったのだろうと思います。

もう一つ、不実告知というのは契約締結までの現時点で事実と相違することを言っているということなのですけれども、ここでの断定的判断の場合は現時点ではどっちかわからない。しかし、どっちかわからないことを一方だと言っている意味では嘘なのですけれども、内容の実現が現時点では不実かどうかははっきりしていないようなことについて態度をとっているということに着目したのだと理解しております。想定していたものが絶対もうかりますタイプでしたから、どうしても金額とか、金銭的利益というものになるし、それに沿って「変動」という表現も入ってきたということですけれども、その意味では誤認惹起の対象は別に、金額の不確実な、もうかる、もからないだけに限るという意味ではなかったと思います。

ですから、これは例示でしかないということなのですが、現時点でこれが価額とか金額に引きずられて財産上の利益でしかないと、そういう裁判例も出ていますから、そういうことがないようにするためには、先ほどお話があったように何かプラスしてつけ加えるか、あるいは「変動」のところは、少なくとも「将来における不確実な事柄」という表現に変えて、なるべく金額に縛られないような表現の工夫をするという微修正でも構わないのではないかという感じがいたします。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

たくさんの御意見をお出しいただいて、どうもありがとうございました。乙案のように、「現行法の文言を維持した上で、個々の事案における解釈に委ねる」ということで、現在出ている問題が漏れなく解決できるのであれば、それでも構わないのかもしれませんが、必ずしもそれだけではいけないケースがあるのではないかという御指摘が幾つか出ていました。最初に挙がっている事例ですと、事例2-4以下は、先ほどからたくさんの御議論をいただいたところではありますけれども、事例2-3も、厳密に言いますと、6カ月ぐらいで営業停止になって会社が潰れて預託金がほとんど戻ってこないというのは、変動するような事柄ではなく、将来の不確実な事柄なのではないかということもできそうです。

これらが現在の裁判例でも断定的判断の提供の中に含められているということが、自然な解釈なのか、少し無理のある解釈なのかという見きわめが必要なのかもしれませんが、こういったあたりも含めて、「変動」という文言や例示を残すのか残さないのか、あるいは、例示をふやすのか。あるいは、「不確実な事項」として、本当にそれで限定として機能するのかなど、御指摘いただいた点をさらに踏まえて、甲案そのままというわけではなく、さらにもう少し明確化を施すような案を考えた上で、改めて御議論いただくということが考えられるかと思いましたが、そういった方向でよろしいでしょうか。まだ御議論いただくべきところなのかもしれませんが、消費者庁のほうでは、そのような方向で検討をさらに進めることでよろしいでしょうか。

○消費者庁加納消費者制度課長 座長にまとめていただいた方向で、さらに検討していきたいと思いますけれども、御意見をお伺いしていまして、留意点の(イ)の場合はいかがなものかという御意見が多かった。増田委員は、こういった方向にも余地を残すべきという御意見であったと思いますけれども、他方で、(ア)のエステといった事例について、条文を書き直すのはもちろん検討するのですけれども、そもそもこれを取り込むべきなのかどうかという価値判断の問題がありまして、そこについては、現時点では私の印象としてはやや拮抗しているといいますか、こういうものも積極的に取り込むべきだという御意見もあったと思いますし、それは不実告知で処理することも含めて、断定的判断の提供で受けることについては慎重に考えるという御意見もあったように承りまして、特にエステ系統のものがどうなのかというのは、できればもうちょっと御意見を頂戴したいという気がいたします。

○山本(敬)座長 わかりました。

いかがでしょうか。では、増田委員。

○増田委員 エステとか成績アップに関して、必ずしも契約当初に不実告知と決まっていない。ある程度の効果があるケースもあるわけですね。それから、消費生活センターにおいては効果があるかないかということについては断定ができないのが実際の状況なので、不実告知だということがなかなか言い切れないと思います。ですから、こういうケースについては断定的判断の提供ということに含めていただきたいと考えております。

○山本(敬)座長 ほかに。古閑委員。

○古閑委員 不実告知について、現時点ではっきりしているかどうかということの切り分けというお話もありましたけれども、現時点で確定していなくても、科学的に将来もあり得ないのであれば、これも不実告知に含めるということができないのかなという点は、私はそれで行けるのかなと思います。そうだとすると、ここでそんなに広げる必要があるのかなと思います。

また、エステなどに関して言うと、本当に科学的に起こり得るのかどうかということで切れるものがあると思います。

断定的判断が何なのかというのもよくわかっていなくて、どこまでの表現を断定的判断と言うのかということにもよってくるのかなと思います。

○山本(敬)座長 大澤委員。

○大澤委員 今の古閑委員の意見にも関連するのですが、私は前からこの断定的判断の提供という条文でよくわからないところがあったのは、一方は学習塾の広告で成績が上がりますと言っているのと、例えば、うちで勉強すれば何々大学に合格しますというのはちょっとニュアンスが違うような気がするのです。何々大学に必ず合格しますというのは、それは確実な結果を保証しているような言い方をしていますが、成績が上がるという言い方が、これだけで断定的判断の提供に当たるのかというのが、前からその条文の解釈とか適用で、私が不勉強だからかもしれないですが、わからないところがある。

それを言ってしまうと、例えばよく塾の広告などで成績アップという文言を使っていますが、それも成績が上がるということを言っているので、これも断定的判断の提供ということになってしまうわけです。恐らくここで断定的判断の提供で考えられていることというのは、例えば確実に実現するかどうかわからないにもかかわらず、うちの予備校に来たら何々大学に合格しますという結果を保証しているとか、あるいは偏差値が70に上がりますといった、どうなるかわからない、結果に関して何か保証しているということを念頭に置いているのかなと思いますので、私が変動という言葉が若干気になるとさっき申し上げたのは、むしろそのような意識から申し上げました。

以上です。

○山本(敬)座長 ほかにいかがでしょうか。

議論が出尽くしたわけではないかもしれませんが、確定し切れない部分が少し残っているようにも思いますけれども、問題意識は一通りお出しいただきましたので、それを踏まえて、さらに検討するということにさせていただければと思います。御議論、どうもありがとうございました。

(3)不利益事実の不告知

○山本(敬)座長 続きまして、3つ目の論点「不利益事実の不告知」に移りたいと思います。資料2の28ページ以下の部分について、消費者庁のほうから説明をお願いしたいと思います。

○消費者庁加納消費者制度課長 それでは、「3.不利益事実の不告知」のところであります。これにつきましても、裁判例、それから相談事例ということでありますが、概観しますと、事例3-7のみが相談事例でありまして、他は全部裁判例になっております。

事例の紹介の前に、29ページの「(1)問題の所在」の「現行法の運用状況」というところでありますけれども、端的に申し上げますと、相談事例においては、この規定はほとんど使われていないと思われる状況がございます。ここに書いておりますのは、説明不足が原因でトラブルが生じたと言われるケースは、非常に古くから多々見られる典型的な相談トラブルのケースではありますが、この不利益事実の不告知の規定が相談現場などで使われているかといいますと、あまり使われていない模様であります。

その理由として、まず先行行為要件は、「言った、言わない」の話になるということとか、あるいは故意要件がございますけれども、それについて、そんなことは知りませんでしたと言われると、そこから先は進まないということ。

さらには、30ページに書いてあるところですけれども、そういった先行行為や故意要件を満たさないということで、情報提供義務がないのだと事業者から言われてしまうということで、ほとんど使われない。これは相談現場から言われているということで御紹介いたしましたが、そういったところがございます。

他方で、裁判例が比較的見られるところでありまして、幾つか御紹介しております。裁判例につきましては、その内容を検討いたしますと、主として2つの類型に整理することができるのではないかということで、これは一つの整理でありますけれども、そういう整理を試みております。

1つ目は、いわゆる先行行為の利益となる旨の告知というのが具体的であり、不利益事実との関連性が強いと認められる事案でございまして、仮にこれを「不実告知型」としますと、事例3-1から3-5が当たるのではないか。ちょっと戻っていただきまして、28ページの3-1、太陽光発電システムとその他の機器のセット売買、据えつけ工事というものでありますが、そういった契約を締結すれば長期的に見るとお得であるという具体的な説明を受けているということでありますが、この事案において裁判所が不告知の適用を認めておるわけです。

何を言っていないかというと、その額が標準的な額に基づくものではない。説明においては、標準的な額に基づくということを前提に説明されていたのですけれども、そうではないということが説明されていなかったということであります。説明されていなかったのは、標準的な額に基づくものではないということでありますが、裏返して、非常に有利であるということはしきりと強調されていたということであります。

また、事例3-2はLPガスの供給契約に関する事例でありますけれども、バルクという一定の設備を設置するという契約につきまして、所有権などが事業者にあるということとか、工事その他の費用がかからないということを先行行為として、しきりに強調されたということであります。※印で書いてありますけれども、他方で、供給契約が終了する際には設備を買い取る義務が生じるというのが契約書にうたわれているわけですが、そういった説明がないということであります。そういった事例でございまして、先行行為が比較的明確である。逆に、故意要件につきましてはアバウトにと言ってはちょっと言い過ぎかもしれませんが、認定していると見られる事例であります。

30ページに戻っていただきまして、2つ目は、先行行為は判決文を読む限り、どうもはっきりしないということですが、不告知の取消しを認めているという例であります。

28ページに戻っていただきますと、一番下の3-6のお寺の梵鐘、鐘の製作依頼の請負契約の事案であります。これは、前払い金として2億円払ったということでありまして、それが契約解除の場合には違約金になりますといったケースでありますが、その旨の説明がなかったということでありまして、これに該当する先行行為が何なのかがちょっとわかりにくい。ただ、当該事案におきましては、その梵鐘の製作について、括弧で※印に書いているところでありますけれども、通常は場所が確保されるということで契約することだったのに、本件では、その場所が全くないのにもかかわらずということで、無理に契約に踏み込ませているといったことも、事案の悪質性といいますか、特性としてはあるように思われる事例であります。

30ページに戻りまして、「(2)考え方」としまして、裁判例の検討を前提に2つの類型に分けて、この不利益事実の不告知の規定をもう少し活用しやすいようにするという観点から検討を加えてはどうかということで、一定の検討をしております。

アの「不実告知型」というところに書いておりますのは、こういった条件、マル1、マル2、マル3があるということであります。31ページの上のほうですけれども、この「不実告知型」と呼んでおりますのは、利益となる旨の事実だけ告知、先行行為を告知し、それと表裏一体をなしている不利益事実を告知しないという場合を、全体として一個の不実告知と見ているということであります。

この点につきまして、特に問題となると思われるのが故意の要件というところかと思います。31ページの2段落目で、現行法で故意要件を認めていることに関して説明を加えておりますけれども、上から5行目で、行為の悪性の程度がより高いと思われる事案というのは故意でしょうということで、故意要件としていると書いております。

「これに対して」、その次の段落でありますけれども、この不告知の規律、判例上も多様な考慮要素を総合して勘案されていると見られる情報提供義務の一場面であるということでありまして、その告知により存在しないと消費者が通常考える不利益事実が認められる場合には、要するに先行行為によって一定の作為義務が事業者にあるでしょうと考えますと、その義務を怠ったこと自体に帰責性、悪性といいますか、そういうものが認められると考えて、主観的要件であるところの故意要件を認める必要はないのではないかという考え方があり得ると書いております。

また、相談事例などで故意の要件というものがなかなか難しい足かせとなっているということも書いております。

そういったところを踏まえまして、32ページの「そこで」という四角のところですが、いわゆる「不実告知型」といったものにつきましては、4条1項1号の不実告知と同視すると考えまして、現行の不実告知が故意要件を求めていないということとの並びから、故意要件を削除することが考えられるのではないかとしております。

この場合は、考え方としましては、下の「この点については」という2段落目あたりに書いていますけれども、先ほどの繰り返しになりますが、利益となる旨だけを告げて、通常不利益となる事実は存在しないと考えられる場合と、もちろん要件立てをするわけですけれども、利益となる旨を告げるという行為と不利益となる旨の事実を告げないという行為は不可分の一個の行為として捉えるという考え方であります。

こういった主観要件をとることについては、慎重に考えるべきだという考え方もあると思いますので、33ページの上の四角の枠組みで、むしろ過失という形で広げていって、そこで当事者間の微妙な利益調整を図っていくという考え方もあろうかと思いますので、その点についての一つの考え方ということでお示ししております。

続きまして、イの「不告知型」というところでありますが、これは故意ではなく、先行行為の「言った、言わない」の問題というところについて、どう考えるかという問題意識のもとで検討しているものであります。先ほどお寺の梵鐘の例を御紹介いたしましたけれども、裁判例の中には、先行行為が何かという認定がはっきりせずに、実質的には故意の不告知を認めたとも捉えられるようなものが見られ始めております。

他方で、この不告知において、先行行為が求められるのはなぜかと考えますと、先ほど似たようなことを申し上げましたが、適用の範囲、その事業者にとって作為義務が生じるという根拠と思われますので、その適用範囲を適切に画するということから、そういう要件があるということだと思われますので、この考え方をある程度踏襲する必要があるのではないか。

そうしますと、34ページに行きますが、前回、まさに御議論いただいた情報提供義務に基づく損害賠償の話がございましたが、そういった形で一定の義務が発生する場合を要件立てをしていきつつ、さらに行為の悪性が高い場合、損害賠償では足りない、取消しまで認めるべきだという場合として故意があることを必要として、四角の「そこで」のところですが、情報提供義務違反が故意による場合には、取消事由にしていくということが考えられるということでお示ししております。

34ページの四角の下に書いてありますのは、参考となるべき類例としては特商法の規定がございます。これは、故意による不告知ということで、先行行為の要件がない事案でありますので、こういった類例を参考に消費者契約法の規律を考えていくということもあり得ると思います。

ただ、35ページの四角の上あたりに書いておりますけれども、特商法はもともと行政規制としての性質もあり、かつ訪問販売等の一定の取引類型に限定した規律としてあるということをどう踏まえるかというところがありますので、消費者契約法で直ちにこういった故意による不告知、取消しと認めるかどうかについては、ちょっと検討の必要があるのではないかということで書かせていただいております。

御説明は以上でございます。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明の内容を受けまして御議論いただきたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。

資料3の4ページ以下を引用しつつ、意見を述べさせて頂きます。 まず、結論ですけれども、「不実告知型」と「不告知型」に類型化して、「不実告知型」について故意要件を削除する考え方に賛成いたします。また、「不告知型」について、故意要件を残し、先行行為要件を削除する考え方に賛成いたします。

以下、理由です。 まず、「不実告知型」については、そもそも不利益事実の不告知は、消費者にとって利益となることと不利益事実が表裏一体をなすにもかかわらず、利益となる旨を告げて、不利益事実が存在しないと思わせる行為であり、不作為による不実告知とも言えるところ、現行法においても不実告知の場合には故意も過失も要求されないこととのバランス上、故意・過失は不要とすべきと考えます。かかる観点から、まず、不実告知型の類型については、故意要件を削除するのが相当と考えます。

次に、「不告知型」については、重要事項に関する故意による不告知があっても、先行行為の存在が立証できないことにより取消しが認められないというのは、当該事業者を不当に利する反面、被害者である消費者に酷な結果であり、利益考量上、問題であると考えます。また、故意の不告知による取消しは、特商法でも認められているところですし、特商法の規定ぶりによって商取引が不当に阻害されたといった事情はないと思います。かかる観点から、不告知型について、故意を維持しつつ、先行行為要件を削除する削除する考え方に賛成いたします。

なお、先行行為要件にかえて情報提供義務が認められる場合を要件とするという考え方については、故意要件を削除するのであればともかく、故意要件を維持するという前提であれば、端的に先行行為要件を削除するだけのほうがわかりやすいと考えます。

なお、前回の第7回会議でも申し上げたところですが、誤認取消しを定める規定とは別に、情報提供義務違反に基づく損害賠償請求権を定める規定は必要であり、並行して議論される必要があると考えます。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

ほかに。阿部委員。

○阿部委員 30ページの「不実告知型」、「不告知型」を分けることはわかりますが、具体的な中身として、34ページの「不告知型」の考え方ですが、私は特商法と同じな規律でも別に構わないと思います。ここが消費者契約法と特商法と違うこと自体に違和感がありますので、あえて言うと、特商法と同じような考え方で割り切れるのかなと思います。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

河野委員。

○河野委員 今回、不利益事実の不告知で御提案いただいたことに対しましては、先ほどの山本委員と同様に、2つの類型に分けて、1番の不実告知型については先行要件を維持した上で、不告知の故意要件を削除するという考え方。それから、2つ目の不告知型については、故意要件を維持した上で、先行行為要件を削除するという考え方に賛成いたします。

理由ですけれども、先ほど山本委員がおっしゃったこととほぼ同様に、不実告知型については、利益となる旨だけを告げる行為とされていまして、不利益事実を意図的に知らせていない蓋然性が高い事案であると考えられるので、あえて故意や過失の要件を定める必要はないと考えます。

それから、不告知型については、先行行為、つまり利益となる旨の告知が具体性を欠くために、告げられない不利益事実との関連性が弱い類型とされています。そうであっても、不利益事実が告げられなかったことで、そのような事実はないものと誤認して契約締結に至るケースというのはありますので、先行行為要件を定めないで、故意の不利益事実の不告知によって誤認し、締結した契約の取消しを認めることには賛成したいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかにいかがでしょう。増田委員。

○増田委員 私も、不実告知型については故意要件を削除することに賛成します。実際の裁判例において、消費者の誤認を認識し得たことから故意を認定する場合が少なくないとしても、裁判外の場面では、ここに記載されているように、事業者から、知らなかった、わざとではないと反論されると、それ以上の交渉が不可能な状況があります。

例えば光回線と同じで、どこでも使えますよという説明を受けてWi-Fiルータを契約した。ところが、実際には性能は全く同じではないということが後からわかるというケースもありますし、携帯電話の契約などにおいてもいろいろなものが無料ですよと言われても、違っていたということもございます。そういうときに故意だということが、推測は強くされるにしても断定はできないということがあります。

それから、不告知型に関しましては、特に複雑な取引とか、それまで信頼関係が築かれているような、例えば繰り返し保険の契約をするとか、金融商品の定期預金の満期を繰り返し更新しているようなときに、利益も言わない、しかも不利益なことも言わない。そのまま契約となったが、全く別のものに変わってしまっているということがございます。そうしたものが情報提供義務違反ということとの関係がどうなのかということは、ちょっと難しいのですけれども、このように両方言わないというケースもございますので、そういうことも含めて、不告知型について先行行為要件を削除するという考え方に賛成いたします。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

ほかにいかがでしょう。松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 まず、前段の不実告知型については多くの委員の方と同じ意見で、昔から主張していたことですけれども、ある事実を告げ、ある事実を告げないことが、トータルとして不実のことを告げていると評価できる場合に取消しを認めようということにすぎないわけですから、故意の要件は要らない。トータルとして誤ったことを言っているのだという評価ができれば、それで取消しを認めるのは当然だろうと思います。

難しいのは、利益の告知という先行行為のない、いわば単純な情報提供義務違反に取消権を認めるようなタイプのものの場合です。トータルした上で虚偽のことを言っていると必ずしも評価できないような場合に、どうなのかということです。特商法が故意の場合には認めているじゃないか。だから、特商法と同じように故意による情報提供義務違反の場合は取消し可能だという考えも出ていますけれども、特商法を見ていただければわかりますように、9条の3第1項2号では、6条1項の1号から5号までに掲げる事項についてのみ故意の不告知の場合に取消しが可能です。これは、何を告げなければならないかということが明確なものについての規定であって、現在われわれがここで議論しているのは、6条1項の6号、7号の場合です。

契約の締結を必要とする事情に関する事項とか、その他判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについては、その不告知を特商法は取消しという効果につないでいないわけです。そもそも禁止行為だとしていないわけです。ここについて消費者契約法で新たなルールとして導入できるかということになるわけですが、限定が果たしてうまくできるのか、条文化するのは私は難しいという印象を持っています。

消費者がある事実について誤解をしているということが明らかにわかる。あるいは、事業者であれば、そのように判断しなければならない局面であるにもかかわらず、その事実を告げないことによって契約を締結させた場合に消費者は取り消せるというルールは、これは可能かと思います。いわば相手方の誤解に故意につけ込んで契約をする場合。それから、故意じゃなくても、事業者であれば当然気づくべき誤解であるときに、その事実を告げて誤解を解いてあげない場合には取り消されてもやむを得ない。そのような予見可能性がない場合、事業者として当然気づくべきとは言えないようなタイプの誤解に一方的に消費者が陥っていた場合に、後でそれは私にとって重要事項だったのだという主張をすれば契約がひっくり返るというのは問題があるのではないか。

これは、重要事項とは何かという議論と連動してくると思います。法定されているものについては議論しやすいけれども、法定されていない事柄について何を重要事項と言うのかが誰にとってもクリアに決まれば、重要事項についての故意の不告知でよいかもしれないですけれども、そこが曖昧なままですとうまくいかないのではないか。そういう場合の代替措置として、消費者が誤解に陥っていることが事業者として認識できている、あるいは認識可能な場合というのが1つ考えられるのではないかと思います。

○山本(敬)座長 今の付加的な要件に関してですが、故意要件と重ならないですか、それとも区別可能でしょうか。

○国民生活センター松本理事長 一部は故意だと評価できるかもしれないですが、私は過失の場合も入ってもいいのではないかと思います。事業者として消費者の誤解に気づくべきシチュエーションであるという場合、たとえば、外貨預金は金利が高いから預けたいと言ってきて、為替変動のことは何も知らないということが明らかな場合のように、当該商品やサービスを取扱っている事業者であれば消費者の誤解に当然気づいて当たり前の場合にそのことを告げない、その事実を話してあげないというのは問題だろう。そこは、故意がなくても、むしろいいぐらいだと思います。誤解に気づくべき場合には。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

ほかに御意見は。大澤委員。

○大澤委員 1点気になるのは、情報提供義務との関係が、特に故意の不告知型については十分に整理しないといけないのではないかと考えています。消費者庁の提案では、不告知型について故意というのを要件として加えるということですが、そうすると情報提供義務違反というのは一体どういう場合に問題になるかという、1つ単純な切り分けで言うとすれば、それはいいのかどうかはともかくとしても、少なくとも過失によって言うべきことを言わなかったという場合には、これは故意の不告知では救えない類型になるので、これは情報提供義務違反になるのかもしれませんが、恐らくそこまで単純な話ではなくて、何についての故意の不告知なのかというところで、多分、次の議論だと思うのですが、重要事項の中身にかかわってくると思います。

ここでの故意の不告知の対象になっている重要事項というものと、情報提供義務違反で情報提供すべきとされている事柄が果たしてどれぐらい重なるものなのか、それとも全く違うものなのか。そのあたりにもかかわると思いますので、これはここだけで議論するのは恐らく難しいのではないかという印象を持っていまして、情報提供義務違反とのすみ分けを考えていかなきゃいけないのではないかと思っています。

もう一つすみ分けを考えなきゃいけないのは、恐らく効果ではないかと思っています。情報提供義務違反の議論をこちらでしたときに、今の裁判例を前提にすると、損害賠償請求とか損害賠償を認めるというのが今の裁判例ですが、そうではなくて、取消しを認めるという効果を仮に条文として認めることになると、ますますこの故意の不告知とのすみ分けが難しくなりますが、だからといって、情報提供義務違反の場合にはあくまで損害賠償請求である。これに対して、故意の不告知のときに契約の取消しが認められるときに、その区別を果たして故意かどうかというところだけで切り分けられるのかどうかということが非常に気になっております。

私もまだ整理ができているわけじゃないのですが、情報提供義務違反の要件、情報提供すべき内容と効果とのすみ分けをよく考えた上で、この不告知型については要件をつくらなきゃいけないのではないかと思っております。

以上です。

○山本(敬)座長 後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 私も大澤委員が今、御指摘になった、特に効果のところで、情報提供義務違反というのは、前回扱ったところですけれども、損害賠償を生じさせるという側面と、それから取消しという効果が生ずるという側面の両方あって、情報提供義務として、そこで取り上げる情報というのを同じと考えていいのかどうか。損害賠償で問題となる情報提供義務について、単純に、事業者に故意の情報提供義務違反があると取消しになるという形で考えていいのかどうか疑問がありまして、成案がなくて申しわけないのですが、今後、検討すべき問題だと思います。

損害賠償の側面でも情報提供義務違反を問題とし、それから取消しの側面でも情報提供義務違反を問題とするという双方からのたてつけにすることが、立法としていいのどうかということも含めて考える必要があると思います。例えば情報提供義務違反については損害賠償というのを効果として考えて、その情報提供義務違反が消費者を誤認させるということであるならば、取消しをすることも妨げないという形で、取消しの面についてはそういう対応をするか。

むしろ、それとは逆に、取消しの面で情報提供義務違反ということを考えて、情報提供義務違反によって取消しを認めるのだけれども、消費者に損害が生じている場合には損害賠償請求を妨げないという規定にするということも考えられると思いまして、今、申し上げたことですけれども、3つ考えられると思います。損害賠償、取消し、両方で情報提供義務を考える。どちらかを中心に、ほかのところはむしろ情報提供義務に言及することなく、それぞれの取消しなり損害賠償の要件を満たすということであれば、それは請求して妨げませんという形で考えるのか。条文化するときにはその辺の問題が出てくると思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

今、挙げられた問題は、実は現在の民法でも既に存在している問題でして、情報提供義務違反を根拠として、不法行為に基づく損害賠償請求を認めるたくさんの裁判例が一方にあります。しかし、他方で、詐欺による取消しに関して一致した解釈として、沈黙していても告げるべき義務があって、それに違反している場合には、それも違法な欺罔行為に当たるとして、詐欺取消しを認めるということが承認されています。

そうしますと、そこで言う情報提供義務や説明義務の両者の関係がどうかということが現在でもある問題でして、両者は同じだという立場と、少し違うのではないかという立場に分かれています。これは理論上存在する問題でして、それに決着がつけられるか、立法する際に決着をつけるべきかということが、次の問題としてあるように思います。

松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 今、山本座長が説明されたので、私が先ほど主張したことは、まさに沈黙の詐欺タイプの場合に取消しを認めてもいいのではないかという考え方だということに気がつきました。すなわち、沈黙自体が詐欺と評価される一定のシチュエーションがあるわけで、全ての沈黙が詐欺ではないはずです。沈黙が詐欺と評価されるシチュエーションとはどういう場合かというと、相手方が一定の誤解に陥っていると知って、あるいは知り得べきなのに、ある事実を告げない。誤解を解くことを積極的にしないと評価される場合であって、いかなるシチュエーションであれ、ある事実を告げないことが取消しの対象になるというのとは違うと思うのです。

そういう意味で、沈黙の詐欺と評価できるような場合については、ここでカバーして適切なのではないかということです。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございます。

沖野委員。

○沖野委員 私も故意の不告知型という提案については、沈黙による詐欺との関係が気になっております。と申しますのは、抽象的な文言だけを捉えますと、情報提供義務が課される場合に、故意にそれに違反して何も言わないという場合に取消しを認めるということで、今、松本理事長がおっしゃったように、沈黙がすべて詐欺になるわけではない。違法な欺罔行為と言える場合であり、それはどのような場合かというと、これは結局、情報提供義務が課される場合ではないか。情報提供義務はどういう場合に課されるかというと、先行行為があって課される場合もあれば、一定の立場から課されるような場合もあるという話を考えていきますと、情報提供義務が存在するときに、故意にそれに反して何も告げないというのは、まさに沈黙による詐欺のようにも思われるわけです。

そうすると、それと重なった規律を置くことに全く意味がないとは思わないですけれども、そもそも同じことをここで言っているのだろうか。とりわけ故意ということの内容が、沈黙による詐欺で言われる故意なのかというと、幾つかの可能性があり、例えば当該情報がまさに告げなければいけない情報提供義務が存在するような事項であることがわかっているのにという話と、相手方が誤解しているかについての知っているというのは、ずれているのだと思うのですね。何も言わなかったために誤解したという場合ももちろんあるわけですので、故意にということが何を指しているのかというのは、必ずしも沈黙による詐欺と同じではないタイプの故意にというのを、ここでは捉える余地があって、そういう方向を考えていくべきじゃないかと思っています。

いわゆる2段の故意みたいなものは、少なくとも証明するような要件としては必要ないと思うのですけれども、その点も考えていく必要があるのではないかと思います。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。故意の内容をさらに詰めて、少なくとも立法するのであれば、それが何を意味するのかということを明らかにした上で決めるべきだろうという点は、まさにおっしゃるとおりだと思います。

さらに言いますと、民法の沈黙による詐欺との関係はもちろん整理する必要があるのですけれども、ここでの前提は、先ほどからも出ていましたように、故意の不告知による取消しを仮に認めるとしても、重要事項に関するものであるという限定が加わってくるということです。このような限定がないのが沈黙による詐欺でして、錯誤に関しては、現行法では要素の錯誤という限定があるのに対して、詐欺に関しては、違法な欺罔行為であり、しかも故意が必要とされるので、そのような限定をかけないというのが民法の立場です。それに対して、消費者契約法で故意の不告知を認めるとしたときには、重要事項の範囲に限られるという点が詐欺と異なる一つのポイントだろうと思います。先ほども出ていましたように、情報提供義務が認められる要件を前回議論しましたけれども、それと重要事項とが違うのか、それとも実際には重なるのではないかという、先ほど大澤委員の御指摘もありましたが、ここは少し詰める必要があるように思います。情報の重要性等に関しては、重要事項の中身によりますので、次の話題になるのですけれども、実際はかなり重なるのではないかという気がします。その他の要件をもし立てるならば、若干の違いが生まれてくるようにも思いますが、この点も含めて、もう一歩整理した上で検討すべきではないかと思います。

ただ、いただいている御意見を伺っていますと、現在の不利益事実の不告知を、消費者庁から御提案いただきましたような方向、つまり不実告知型に当たるものと故意の不告知型に当たるものに区別する形で整理して規定を立て直すという方向性については一致していると見てよろしいでしょうか。沖野委員、どうぞ。

○沖野委員 済みません、2つの類型を分けて考えていくという点は結構かと思うのですけれども、松本理事長がおっしゃった不告知型について過失ということが考えられないのかという点があります。故意に限るということで、そこの意見も一致を見たとしてしまうのは、ちょっと。

○山本(敬)座長 先ほど自分では慎重に表現したつもりだったのですが、慎重さが少し足りなかったのかもしれません。 まず、現在の不利益事実の不告知に含まれているものを2つのタイプのものに分けて整理し直すという方向性自体については、意見の一致を見たと言えるのではないかということでして、その上で次の問題は2つあります。 1つは、不実告知型というものを、では、どのような形で規定の上で表現するか、あるいは表現する必要がないのかという点をさらに詰める必要があると思います。現在の不実告知、つまり4条1項1号の規定をそのままにして取り込めるのか、少し明確にするような形で何らかの手を加える必要があるのかということが、恐らく、次の論点になるだろうと思います。

もう1つは、故意の不告知型についてですが、重要事項はこの後で議論しますけれども、それ以外の要件として、故意の中身を詰めた上で、その故意で取消しを認めるべき場合をすべてカバーできているのかどうか。さらに何らかの限定、あるいは拡張が必要になってくるのではないかという点については、先ほど松本理事長がおっしゃったような問題点もありますし、それも含めて、さらに検討する必要があるということではないかと思います。まだ慎重さが足りませんか。沖野委員。

○沖野委員 私自身は、故意の内容次第ですけれども、2類型目は主観的要件をかけてという類型として考えていくというパターンかなと思っておりまして、過失といいますか、故意の内容次第ですけれども、そこも検討の余地があるのではないかということを個人的にも思っておりましたものですから、先ほど言い忘れたということもありまして、追加させていただきました。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 先ほど私、沈黙の詐欺だと言いましたけれども、ちょっと誤解を与えたようなので修正します。沈黙の不実告知と言ったほうがいいと思います。つまり、沈黙の詐欺というのが、詐欺という故意要件を前提とするという考えだと、私の考えと違います。

すなわち、シチュエーションと無関係にある事柄をわざと告げないことというのが故意の不告知だということだと、それはある意味で広く、ある意味で狭いのではないかという感じがいたします。先行行為によるシチュエーション依存型で誤解させた場合は、単純な不実告知の話だし、有利なことだけを言って不利なことを言わないというのも単純な不実表示だと思うのですが、事業者が何も言わないで黙っている。消費者が勝手に誤解に基づいてしゃべっているというシチュエーションを考えてください。そういう場合に、それに故意につけ込んだらアウトだし、当然気づくべきことなのに、事業者がのほほんとそのまま契約するのもアウトだと思います。

そういう意味で、あるシチュエーションにおいて黙っているということが、不実のことを告げている、消費者のあなたの理解で正しいのですよと告げているように評価できるような場合は、不実告知の一種として取り消せてもいいのではないかという趣旨です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。恐らく重要事項の意味合いとも重なってくる問題ですので、次のところでまた議論できればと思います。

古閑委員。

○古閑委員 2つの類型に分けることで異論があるかどうかという点について、確認させていただきたいのですが、1つ目の類型、不実告知型というのは、ペーパーでは説明としては30ページにある、利益となる旨の告知が具体的で不利益事実の関連性が強いと考えられる類型とあるわけですけれども、今の学者のみなさんの議論についていけなかった部分もありまして、これにおいて、かつ重要事項に当たるかどうかという判断がさらに入るということなのか、そういった定義についてもさらに整理するのだけれども、いずれにしろ2つに分けるということだけの異論があるかどうかを聞かれているのか。どんな感じでしょうか。

○山本(敬)座長 いずれにせよ、現行法でも、不実告知について重要事項要件が入っていますし、不利益事実の不告知のうちの不実告知型を不実告知と同様の規律にする場合には、重要事項の限定がかかわるということは当然の前提になっていると思います。それを前提にした上で、このような形で2つの類型に整理して不利益事実の不告知を規定し直すということについてのコンセンサスは得られたのかという確認でした。

後藤委員、どうぞ。

○後藤(巻)座長代理 今、私も問題意識として持っているところの議論になりましたので、発言させていただきますけれども、沖野委員と松本理事長がおっしゃったところで、不告知ないし情報提供義務違反が事業者の過失による場合をどう取り扱うのかということ。不告知と情報提供義務の関係も詰める必要がありますが、故意の不告知による取消しという場合、情報提供義務がある場合の不告知が取消しの対象になるのだとしますと、消費者契約法で考えるべき中心的な問題はむしろ事業者の過失の問題なのではないかと思います。

もし、不告知ないし情報提供義務違反で取消す場合に故意が必要だとしますと、それは消費者契約法の問題以前に、先ほどから沈黙の詐欺という話が出ておりますけれども、民法レベルの問題であって、民法と消費者契約法の関係をどう考えるかという問題が出てきますけれども、消費者契約法の場合には、不告知ないし情報提供義務違反による取消しを故意がない場合でも認めるのかどうかという議論が必要なのではないかということを考えております。

以上です。

○山本(敬)座長 ほかにいかがでしょうか。丸山委員。

○丸山委員 民法の沈黙の詐欺との関係を考えなければいけないというのは、先生方の御指摘のとおりだと思っております。

あと、1の類型に関しましては、基本的には作為型と同視してよいと思っておりましたので、過失などを要件とせずに、こういった改正を考えていくという方向はいいのではないかと思ったのですが、気になっておりましたのは、事例3-3、あるいは、カルチャースクールか何かの口座で途中から値上げするようなことを告げられなかったといった事例があるのですが、そのような事例では、先行行為というものが本当に具体的に認定できるのか、あるいは故意というものが、これは故意の意味にもかかわってくるというのは、そのとおりですが、果たして故意が認定できるのかという微妙な事例で取消しが認められてきたものもありました。したがって、先行行為というものがどれだけ緩やかに認定できるのか、故意の要件というものが緩和できるのかということとも関連して、取消しで対応すべき事例というものがしっかりとカバーできるのかという点は留意する必要があると考えておりました。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

問題点が少し積み残されている感じもしますけれども、大枠としては、一まず2つに分けて整理してみる。ただ、故意の不告知に関しては、後藤委員が指摘されているように、これを規定するということは、過失による情報提供義務違反で取消しを認める余地がなくなるのではないか。損害賠償については、なお決着はついていないところですけれども、故意の不告知による取消しを定めるということは、過失による情報提供義務違反の場合の取消しを消費者契約法の明文上は認めないということになる余地がある。その点について、もう少し慎重に考える必要があるのではないかという御指摘だったかと思います。

この点について、もし御意見があればと思います。河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 私も後藤委員に近いところですけれども、恐らく沈黙による詐欺をある程度客観化するということが消費者契約法では試みられたのではないかと思っております。そうすると、民法で言えるようなことを改めて言う必要はないわけで、もう少しそこは要件として絞り込んだ。それは、重要事項を対象にしたということと。それから、客観化するに当たっては、主観的な要素だけではなくて、本当は故意・過失というのが最初の提案だったと記憶しております。けれども、過失でうっかりいいことだけ言って、悪いことを言わなかったら全部取消されるのかという議論があって、そこはもう少し限定すべきだということになったと思います。

途中で重大な過失という言葉が使われて、故意に準ずるような重大な過失というのは当然入ってくるだろうということで、故意・重過失で一度まとまりかけた記憶があります。今、考えてみると、あのときに故意という主観的な要件だけじゃなくて、客観的に判断できるためには、重過失というのを捨てるべきではなかったということを、反省しております。いずれにしても、この部分は提案があったように2種類に分けておいて、そして後半に関しては何らかの主観的な責務要件というものを組み合わせていく方向が1つあり得るかと思います。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

それでは、そのような方向で次回、改めて検討するということでよろしいでしょうか。

私の不手際でかなり時間が押しているのですけれども、このまま進むということでよろしいでしょうか。それでは、できる限り時間どおりに終わりたいと思いますが、議論を尽くしませんと、結局は後で積み残すことになりますので、ご協力をお願いいたします。

(4)重要事項

○山本(敬)座長 続きまして、4つ目の論点、「重要事項」に移りたいと思います。資料2の40ページ以下の部分につきまして、消費者庁のほうから説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 それでは、手短に御紹介したいと思います。

重要事項につきましては、今まさに不実告知や不利益事実の不告知に関して、重要事項に関するものであるということで消費者契約法は現行法で限定しておりまして、41ページのアに書いてあるとおりですが、物品、権利、役務その他の内容の消費者契約の目的となるものに関する質、用途その他の内容、または対価その他の取引条件としておりまして、かつ、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすものとしているところであります。

事例でありますけれども、40ページに戻っていただきますと、幾つかの裁判例や相談事例ということでおつけしております。

例えば事例4-1は測量契約と広告掲載契約ということでありますが、当該山林の市場流通性について不実があったという事例であります。

また、4-2は床下換気扇の設置等の契約でありますけれども、その換気扇そのものではなく、床下が湿っているかどうかという点に関する不実があった。

4-3は通信機器のリース契約の事案でありますけれども、これまでの電話が使えなくなるといったところに不実があった。

4-4は店舗販売の事例でありますが、かつらの購入契約に関し、毛根の組織が死んでいるというところに不実があったという事案でありまして、いずれも裁判例においては消費者の救済を認めるという事案でございます。

42ページに戻っていただきまして、現行の重要事項に該当しないのではないかと思われる事例についても、裁判例がちょっと踏み込んだ解釈を示しているというところをどう踏まえるかというところであります。

43ページの「(3)考え方」というところでありますけれども、現行法が重要事項の縛りをしているのは、民法の詐欺、取消しとは別途、そういった取消権を認めるということに関しまして、適用範囲を明確にする。かつ、適用範囲に消費者の取消権を拡大するということでありますから、一定の絞り込みをするということでバランスをとったということだと思います。

「検討」というところでありますけれども、そういった重要事項については、既に学説などにおいていろいろと御指摘があるところでありまして、44ページへ行きますと、今の各号を削除して、消費者の当該消費者契約を締結するか否かの判断に通常影響を及ぼすものというものだけ端的に書けばいいといった御意見もあるところであります。

(イ)でありますけれども、他方で、そういった裁判例などを踏まえまして、この重要事項に関して、今の4条4項1号、2号に別の号を加えていくことも考えられるところでありまして、この点で参考になりますのが特商法の規定でありまして、特商法の不実告知取消しにつきましては、「例えば」という段落に書いてあるとおりですが、顧客が当該売買契約又は役務提供契約の締結を必要とする事情に関する事項というものが対象として含まれているところでございます。

こうしたことを踏まえまして、45ページの四角のところでありますけれども、甲案、乙案ということで、甲案のように各号が例示であることを明示し、又は、各号を削除して、消費者の判断に通常影響を及ぼすものという規定にすることも考えられますということでお示ししております。

また、乙案としまして、各号をさらに加えていくということで、特商法などの類例を参考に書き加えることも考えられるということで書いております。

なお、先ほど松本理事長からも御指摘があったかと思います。45ページから46ページにかけて書いておりますけれども、特商法においては、この取消しとなる事項につきましては、不実告知と不告知の場合で切り分けをしているところでありまして、不告知のほうが絞り込みをしているとなっておりますので、この点は消費者契約法において、仮に号を追加するとした場合でも留意する必要があると思われるところであります。

また、46ページの最後、「また」という段落ですが、乙案のように号を加えていくとした場合に、どこまで拾い切れるかということがやや注意する必要があるかなと考えているところであります。

40ページに戻っていただきまして、例えば事例4-6の陳列コーナーにおけるファッションリングの事案であります。これは、高裁まで行きまして取消しを認めたということで確定している裁判例でありますけれども、購入価格、販売価格について、一般市場価格について不実があったという事例であります。これについて、裁判所がいろいろと解釈して不実告知取消しを認めたケースでありますが、こういった場合に、例えば先ほど乙案ということで45ページにお示ししました、消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に入るかどうかということは、よく考えていく必要があるということでありまして、こういった裁判例などを見ながら適切に書き方を検討していくということではないかと思っております。

御説明は以上でございます。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

今日の残りの進め方についての御相談ですが、もし今日積み残しますと、次回はまた次回で非常にたくさんの問題点がありますので、次回に回すことはできません。したがって、積み残した点については予備日を使うことになります。ここまで来て予備日を使うのは、できれば避けたいと思うのは私だけではないだろうと思います。ですので、大変恐縮ですが、しかし、もちろん限度がありますので、15分程度延長する可能性がある。それより早く終われば、それで終わりたいと思いますが、そのような方向で進めさせていただいてよろしいでしょうか。どうもありがとうございます。

それでは、以上の御説明を受けまして、御意見、御質問のある方、お出しいただければと思います。いかがでしょうか。山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。

資料3の6ページ以下を引用しながら、意見を述べさせて頂きます。 まず、結論ですが、不実告知等の対象が現行法4条4項の1号・2号に限定されない旨を明文化することに賛成いたします。

具体的な法規定の在り方について、主位的意見としては、甲案に賛成します。より具体的には、現行法4条4項の1号・2号を削除して、「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」とする考え方に賛成します。

予備的な意見ですけれども、乙案のように現行法4条4項に3号以下を付加していくという考え方もあり得るところだとは思います。ただ、もしその考え方を採用する場合には、特商法6条1項6号類似の3号のみならず、7号に相当する4号も書き込む方向で検討されるべきと考えます。具体的には、本日お配りさせていただいております資料3の6ページの【意見】「2(二)」部分記載の乙2案のような条文案、すなわち、「マル4前各号に掲げるもののほか、当該消費者契約に関する事項であって、消費者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」という4号を加えた上で、「重要事項」を「第4項各号に定める事項」にあらためるといった条文案が検討されるべきではないかと思います。

以下、理由です。 契約動機など、契約締結の前提となる事項に関する不実告知等の紛争は極めて多く、このような紛争類型に取消しが認められないというのは、消費者取消権の適用範囲として狭過ぎると思います。特商法においても、6条1項6号、7号で契約動機などに関する不実告知を取消しの対象に含むことが明確にされています。これは、契約動機等に関する被害事例への対応が見過ごせない問題であることの証左と思われます。

また、特商法6条1項6号の規定、7号の規定は、民事ルールであるのみならず、行政処分や刑事罰といった重い効果をも帰結する法文ですが、その規定ぶりについて「適用範囲が不明確である」とか、「商取引を不当に阻害された」といった事情はないと思います。甲案について、適用範囲が不明確ではないか、商取引が不当に阻害されるのではないかといった御心配は杞憂であると思います。 以上のような観点から、重要事項に契約動機等が包含されることを明確にするため、現行法4条4項の1号・2号を削除し、単に「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」とする考え方(甲案)に賛成いたします。

先ほど申し上げましたように、もし仮に3号以下を書き込む方向(乙案)で考える場合には、7号に相当する条文も書き込む方向で検討されるべきであると考えます。その理由は、特商法6条1項に関する経産省の解説では、例えば「事実に反して、あたかも訪問したマンションの管理会社として契約している業者のように告げる行為とか、『ご近所はみんなやっている』と告げて排水管の清掃等の勧誘を行うことは、6号ではなく7号に該当すると考えられる」と書かれております。このような解釈が果たして妥当なのか、6号に含めて考えられるのではないかということは一つの解釈問題であるように思われますが、特商法1項6号類似の文言は、そのような限定解釈の可能性を有しているように思います。

上記の点からも、主位的には甲案のような別の法文にするほうが望ましいと思いますけれども、もし乙案のように3号以下を書き込む方向で考え、かつ特商法6条1項6号類似の字句を3号として採用するのならば、7号類似の字句の4号も同時に採用すべきではないか、さもないと救済範囲について解釈上の疑義が残ってしまうのではないか、と思います。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

それでは、ほかの御意見は。阿部委員。

○阿部委員 甲案の前段にある「例示であることを明示」するだけで終えるか、乙案のように、現状の4項各号を明示した上で、特商法類似の条項を新たに重要事項に含めるという、いずれかだと思います。

○山本(敬)座長 御協力ありがとうございます。しかし、議論は尽くさないといけませんので、よろしくお願いしたいと思います。

それでは、ほかに御意見。古閑委員。

○古閑委員 先ほど事務局に御説明いただいた内容でファッションリングの件を御説明されていましたけれども、これが乙案だとどうして入ってこないのかというところが、済みません、理解できておりません。いずれにしろ、乙案で結局何が入ってくるのかというのは、事業者、現場で何を書くべきなのだろうとやるときには相当迷うのかなと思いました。甲案になってくると、なおのこと曖昧になってしまって混乱があるのではないかと思います。

これまでの議論の中でも、例えば英会話教室の講師の国籍の話が出たりしましたけれども、消費者庁さんが出されている逐条解説にも英会話教室の件が出てきます。そちらと、この会合で議論されたときの結論というのも、ちょっと齟齬があるような気がしていまして、結局、国籍というのがどこまでこれに含まれてくるのかどうかというのも、人によって結論が違ってくるような気もしておりまして、ちょっと不明確なところが残ってしまうのかなと思います。そういったことも総合して考えると、甲案は広過ぎると思いますし、乙案ももう少し何か具体的にできないかなと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 御質問にかかる部分があったかと思いますが、消費者庁のほうからお答えいただいてよろしいですか。

○消費者庁加納消費者制度課長 申しわけないですけれども、御質問の趣旨としては、英会話の講師の国籍がどこかというところの不実に関して、適応範囲が明確でないという御質問ですか。

○古閑委員 それは一例ですけれども、ファッションリングの件が質問です。

○消費者庁加納消費者制度課長 失礼しました。ファッションリングの件につきましては、一般小売価格に関して不実があったという事例でございます。乙案は、一つの案として、特商法絡みで「契約の締結を必要とする事情」と書き込むことを御提案しているわけですけれども、一般的に「契約の締結を必要とする事情」として想定しておりますのは、先ほど来、ここでも議論がありましたように契約の動機に関するところだと思います。事例でいきますと、4-1とか4-2とか4-3、なぜその契約を締結しなければならないのかというと、こういった事情があるからということで、それが契約の動機になるということで、そういったことについて「契約の締結を必要とする事情」ということで読むのだと。

私が申し上げました4-6につきましては、一般小売価格がどうのこうのというのは、「契約の締結を必要とする事情」というものからちょっと離れて、ファッションリングを買わないといけない事情として、こういうものがあるということについて何か不実があるということだったらわかりやすいのですけれども、一般小売価格がこうだから得だというところで誤認があったという事例だと思われますので、こういうところが当てはまるかどうかというのが悩ましい事例としてあるのではないかという趣旨で申し上げました。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

それでは、ほかに。丸山委員。

○丸山委員 基本的には、現在のものから拡張する必要があるだろうと考えているのですが、列挙事由を増やしたとしても、例示という形での追加を考えたほうがよいのではないかと思っております。なぜかというと、現行法の列挙時事由である内容とか取引条件というものを、拡張的に解して対応している事例はあるのですけれども、厳格に考えれば契約目的の内容とか取引条件に当てはまらず、かつ、契約締結を必要とする事情にも当てはまらないものでも、判断に通常影響を及ぼす事項としまして取消しが認められている事例が現在でもあると思いますの。したがって、仮に列挙事由を増やしていくにしても、これも例示だということを示せる形で対応をしたほうがよいのではないかと思っております。

さらに、各号を削除するだけでよいのか、それとも事項を加えていくのがよいのかという問題は、この重要事項の規定が取消規定、そして情報提供義務の規定とどのような形でリンクしていくのかということにもかかわると考えています。特に不告知型の取消し規定や情報提供義務の規定とここでの重要事項の規定が接合していく場合に、どこまでを情報提供の対象とするのかということと、かかわってくると思いますので、単純に号を削除すればいいのか、それとも追加する方式がいいのかというのは、実は不告知型の取消規定、情報提供の対象をどのように設定すればよいのか、要件をどのように立てるのかということと同時に議論する必要があると思います。

先ほど来の議論とも関係するかもしれませんが、例えば消費者が勝手に黒電話が使えなくなると思い込んでいて、事業者と契約しようとしている場面で、事業者はそこに全く気づかなかった、気づかないことにも過失はなかったという事例と、実は消費者の誤解状態を知っていて、しかしながら、黙って契約したといった事例などがあり得ると思いますが、どのような場面を情報提供義務規定とか不告知型取消し規定で捕捉していくのかということともリンクしてくると思います。不実告知などを念頭にした場合に現在では列挙が狭過ぎるので、拡大するという方向には賛成ですけれども、その他の取消し規定や情報提供義務の規定と重要事項の規定がどのような関係に立つものとして立法を構想するのかを確認する必要があるという意見を持っております。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 40ページの事例を見ますと、4-1から4-5までは基本的に契約の締結を必要とする事情なので、乙案でカバーできるでしょうが、先ほどから議論されています事例4-6では、一般市場価格であるということについて、うそをついているという不実告知で押さえたというのが判例のようですが、一般市場価格じゃなくて、正札が41万円。だけれども、あなたに特別に29万円で売るという二重価格表示であった場合については、必ずしもカバーできないわけですね。契約締結を必要とする事情に関する事項でもない。

ただし、景表法違反になるようなケースについて、つまり不当表示性の著しいものについて取消しができないというのはおかしいと思うのです。そう考えると、景表法違反の不当表示の中の優良誤認のほうは、恐らく不実告知でカバーできると思います。実際より性能等で著しく優良だと見せかければ、それは不実告知だろうと。

ところが、ここで問題になっているのは不当表示のうちの有利誤認のほうです。価格とか、その他の条件でトータルこちらのほうがお得ですよという有利誤認で不当表示に当たるような場合も取り消せるようにしようと思うと、乙案だけだと落ちこぼれるわけです。ここで契約締結を必要とする事情に加えて、さらに当該契約の有利性に関する事情といったものをつけ加えることによって、不当表示の中の有利誤認類型をカバーできるのではないかと思います。

○山本(敬)座長 今のは、例示と言うかどうかは別として、今おっしゃったようなものをさらに乙案につけ加えて規定すべきであるという御意見でしょうか。

○国民生活センター松本理事長 そうです。そのほうがどういうタイプが入るかがはっきりわかるので、予見可能性も高くなると思います。「通常影響を及ぼすべきもの」というのは、事後的判断として、取消しを認めるべきだ、認めるべきでないという点での基準としては、これでもいいわけですけれども、事前にある程度、何についてかということをなるべくわかるようにしたほうがいいのだとすると、乙案にもう少し加えるほうがいいのではないかと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに。大澤委員。

○大澤委員 甲案の、又は、同条項各号を削除して、消費者の云々に影響を及ぼすものとするという案だけは、個人的には賛成しかねますが、残りの甲案の例示であることを明示する、かつ、乙案の「消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」を「重要事項」に含めるということであれば、それは賛成します。

ただ、今の松本先生の御意見とも重なるかもしれませんが、例示であっても、列挙するときに、果たしてこれだけで足りるのかということは考えなくてはいけないと思っていて、列挙すべき事項は恐らくもっとたくさんあるのではないかと思っています。「消費者が消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」というのを追加すれば、それで足りるということでは恐らくないのではないかと思っています。

そのときに考えなくてはいけないのは、情報提供義務との関係だと思っています。情報提供義務の対象となるものと重要事項が全く同じものなのか、それとも重要事項というのは情報提供義務の対象となるもののうち、特に重要なものであると考えるのか。それによっても列挙すべき事情というのは変わってくると思いますし、要件のつくり方も変わってくるのではないかと思います。

ちなみに海外ですが、例えばフランスにおきましては、情報提供義務の条文の中で情報提供すべき事項というのを非常に多く列挙していて、その列挙の数、今、手元に資料がないのではっきりと申し上げられませんので、また後日補足させていただきますが、10個ぐらいあったと思います。もし列挙するのであれば、仮に例示するとしても数は恐らくたくさん出てくると思いますので、このあたりをもう少し慎重に検討していかなければいけないのではないかと思っています。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

ほかに御意見は。河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 現行法は、既に1号、2号を前提として、「判断に通常影響を及ぼすべきもの」という形で受けているわけです。今の枠組みを変えないのであれば、「判断に通常影響を及ぼすもの」というのが、いわば1、2以下の例示のもとの総まとめといいますか、受け皿になるはずだろうという気がいたします。

その上で考えたときに、一番参考になるのは先ほどの特定商取引法であるということでしたし、特商法の項目を基本的には考えてやっていったら、列挙にしてもいいのではないかということで、特商法の条文を加えた上で、その他何々に影響を及ぼすべきものという形で受けることにしておけば、少なくともこの席での意見には対立はなくなっているのではないかという気がするので、考えていただければと思います。山本健司委員も、7号を入れて、それをやるという話ですから、同じ結論になるのではないかと思います。

○山本(敬)座長 少なくとも確認しなければいけないポイントは、現行法は4条4項で、同条各号に掲げる事項に限定するという立場をとっているのに対して、同条各号に限定しないという立場をとるのか、とらないのかが大きな分かれ目です。正確に言いますと、一定の事項に限定するという立場をとるか、とらないか。現在は1号、2号が限定しています。それに限定するのでなく、ほかに広げるのかというのがまず第1段ですが、その上でさらに一定の事項に限定するのか。つまり、限定列挙の数をふやした上で限定列挙とするのか、それともそれらは限定する意味を持たずに、受け皿的なものかどうかは別として、より一般的な基準に当てはまるものが重要事項であるという立場をとるか、2段階に分かれるということかもしれません。

まず、一番最初の現在の1号、2号に限定するという立場を維持すべきであるという御意見がもしあれば、積極的にお出しいただければと思うのですが、いかがでしょうか。これで足りている。それ以上のものをつけ加える必要もないという御意見がもしあればと思いますが、いかがでしょうか。御意見がないという限りでは、河上委員長がおっしゃった意味で、この場では一致が見られているということなのでしょうか。

その上で、次の分かれ目は、4条4項では一定の事項に限定して重要事項を定めるべきであると考えるか、受け皿的な規定を置いた上で一定の事項に限るという立場はとらないという方向に移行すべきかという点は、恐らく立場が分かれているのではないかと思うのですが、その点はいかがでしょうか。古閑委員。

○古閑委員 もちろん現状維持ができるのであればいいと思うのですけれども、本当に問題が起きているということなのであれば、個別の業法、今、特商法とかも挙がっていますけれども、事業者が守るものとしてやっているものについてということが対象になるのであれば、負荷がさらにふえるということではないので、その範囲においてということであれば、あり得るのかなと思います。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 繰り返しになりますけれども、基本的には今の4条4項の書きぶりで間に合っていると思います。ただ、重要事項について、この1号、2号に限定されるという解釈を変えることができないのだとすれば、これが例示であることを明記することが一つの解決だと思います。さらに、その先があるとしたら、特商法と同じような規律をここに持ち込むべきだと思います。全ての限定を外して、単に通常判断に影響を及ぼすべきものとされてしまいますと、対象が非常に広がり過ぎて不安になります。ここは、1号、2号の例示であるか、あるいは3号として、今の特商法の6条に類似した条項を掲げることで足りると思います。

○山本(敬)座長 古閑委員。

○古閑委員 済みません、私の言い方でちょっと誤解があったかもしれないのですけれども、特商法に書いてあるものをそのままこの消費者契約法に移すという意味ではなくて、個別の事業者が特商法なら特商法にかかる事業者とか、何とかという業法がかかる事業者があると思うのですけれども、その範囲においてということであればプラスの負荷がかかるわけではないという趣旨でございました。

○山本(敬)座長 松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 何人かの方から、甲案は特商法6条1項の7号と同じだから、こっちでいいのではないかという御意見があったのですが、7号を見ますと、最後に「重要なもの」という縛りがもう一回入るのです。それを抜いた形で甲案を持ってきているという点がいかがなものかという点。かといって、甲案の中に7号の「重要なもの」をもう一度持ってくると、重要事項とは、重要なものとなって、大変エレガントでない書き方になってくると思います。そのかわりに「通常」という言葉を入れれば、特商法で言うところの「重要なもの」と等値かというと、恐らくそうじゃないという気がします。そういう点から、先ほど言ったように乙案をもう少し広げるほうが安定性は出てくるのではないかという意見です。

○山本(敬)座長 山本健司委員。

○山本(健)委員 先ほどの意見陳述で、1号・2号を削除するタイプの甲案を主位的意見として申し上げましたけれども、河上委員長から御指摘をいただきましたように、甲案の前段のタイプ、すなわち、例示として1号、2号、もしくは3号と残した上で、受け皿的に「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」という規定を定める考え方も、賛成できる範囲内でございます。その点を付加させていただきます。

○山本(敬)座長 わかりました。

まとめ方が難しいのですが、少なくとも甲案のうち、同条各号を削除してしまうという案を支持される意見は存在しなかったと思います。したがって、4条4項各号が例示であることを明示して、「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」とするというのが一つの案である。

もう一つの案は、乙案がそうですが、4条4項各号の事項に加えて、「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」を含める。これにとどめるべきであるというお考えもありましたが、さらに先ほど松本理事長が挙げられた、当該契約の優位性にかかる事情も明示すべきであるという御意見もあったということではないかと思います。ただ、恐らく明示されたのかもしれませんが、甲案の中でも「4条4項各号が例示であることを明示し」とありますが、現在の1号、2号に限る必要はない。乙案に挙がっているような事項、さらに場合によっては松本理事長が挙げられるようなものも例示として挙げるという案もさらに存在していると思います。

それらについては、それぞれ支持する御意見があって、まだ収れんを見ていないと理解すればよろしいのでしょうか。それとも私が見えていないだけで、どこかで収れんしているのでしょうか。河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 特商法の規定を参考にしながら、これを一般法化して例示の中身等についても考えていけばいいし。ただ、最後には、それらは例示列挙であるから、特商法の書きぶりで一般条項といいますか、それを置いておくと。それであれば、今、特商法で対応している事業者の方にとってはそんなに不安はないだろうということになるだろうと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございます。特商法に挙げているものを全て挙げるのが本当に適切なのかという点については、さらに検討しないといけないはずですが、今日のところはそこまで踏み込んで検討することはできていないということだと思います。意見の分布は、恐らく今、河上委員長に補足していただいたところあたりかと思います。これを踏まえて、次回に求められているような案がうまく出せるかというのが次の問題ですが、少なくとも今日の御意見を踏まえて、さらにお考えいただいた上で案を整理して、もう一度検討する場を設けるということでよろしいでしょうか。

それでは、私の不手際で、7時15分を少し過ぎてしまいました。本日の議論はこのあたりにさせていただきます。

次回は、本日の議論で検討したもの以外の不当勧誘に関する規律についての論点に関して議論を行うことを予定しておりますので、引き続きよろしくお願いしたいと思います。


≪3.閉会≫

○山本(敬)座長 最後に、事務局から事務連絡をお願いいたします。

○金児企画官 本日も熱心な御議論をありがとうございました。

次回は、4月24日金曜日16時からの開催を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。

○山本(敬)座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございました。

以上