食品ワーキング・グループ(第2回)

日時

平成26年7月1日(火)12:59~14:55

場所

消費者委員会大会議室1

出席者

【委員】
阿久澤座長、夏目座長代理、唯根委員
【参考人】
東京大学大学院医学系研究科 佐々木敏教授

議事次第

  1. 開会
  2. 東京大学大学院医学系研究科 佐々木 敏 教授からのヒアリング
  3. 閉会

配布資料(資料は全てPDF形式となります。)

議事録

≪1.開会≫

○大貫参事官 本日は皆様、お忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。ただいまから「消費者委員会食品ワーキング・グループ」第2回会合を開催します。

議事に入る前に、配付資料の確認をさせていただきます。

お配りしております資料でございますけれども、配付資料一覧にございます資料1「佐々木教授資料(1)」というものと、参考資料1「佐々木教授提出資料(2)」というものでございます。この(2)は女子栄養大学出版部の栄養と料理の記事でございまして、こちらにつきましては出版部のほうに御連絡させていただいて、本日、資料として使わせていただくということで御了承いただいているものでございます。

もし不足のものがございましたらば、事務のほうにお申しつけくださいませ。

本日も多くの傍聴の方がお越しいただいておりますので、御発言の際はマイクに近づいて御発言いただきますよう、お願いいたします。

それでは、阿久澤座長に議事進行をお願いいたします。

○阿久澤座長 皆さんこんにちは。

本日の会議は、公開で行います。議事録につきましても後日、公開することといたします。

それでは、本日の議題に入ります。食品ワーキング・グループの1回目の会合は4月22日に開催し、トランス脂肪酸に関する問題提起をいただいた趣旨について御説明いただきました。

取りまとめとして、食品安全委員会の食品安全評価の結果を出発点として、今後も検討を進めることを確認しました。

また、食事の摂取を通じた疾病の予防のために、トランス脂肪酸だけでなく、さまざまな脂質のバランスが重要であるにもかかわらず、飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸、コレステロールに関する消費者の関心は余り高くないことについて触れさせていただきました。

本日は東京大学の佐々木教授に参考人として御出席いただいております。最初に、事務局から佐々木教授の御紹介をお願いいたします。

≪2.東京大学大学院医学系研究科 佐々木敏教授からのヒアリング≫

○大貫参事官 佐々木先生は医師、医学博士号を取得された後、国立健康・栄養研究所で栄養疫学に関する調査に携わられ、2007年から東大の疫学保健学講座の開設に当たりまして、初代教授を務められております。

トランス脂肪酸の検討につきましては、食品安全委員会の新開発食品専門調査会での最初の第67回会合で、日本人のトランス脂肪酸摂取量についてお話をいただいているほか、食品安全委員会が日本食品分析センターに委託しました、食品に含まれるトランス脂肪酸に係る食品健康影響評価情報に関する調査でも、有識者検討会の委員として報告書にコメントをいただいております。

また、消費者庁の栄養成分表示に関する検討会にも委員として御参加いただき、脂質等の栄養素の日本人の摂取量の分布に関する国民健康栄養調査の個票に基づく分析作業の結果について御報告をいただいております。

また、ことし3月28日に厚生労働省が日本人の食事摂取基準2015年版策定検討会の報告書を報告しておりますけれども、佐々木先生はこの検討会の委員を務められるとともに、この検討会のもとに設けられたワーキング・グループの座長を務められて、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を初め、エネルギーや塩分などさまざまな栄養素の適切な摂取量の策定のために、国内外の膨大な文献について精力的なレビューの報告を取りまとめておられます。

先生の御著書は1冊あるのですけれども『わかりやすいEBNと栄養疫学』という書籍が出されておりまして、非常に大変わかりやすい本ですので、きょうの御講演で足りない部分については、こういう書籍を御参考にしていただければと思います。

以上でございます。

○阿久澤座長 どうもありがとうございます。

それでは、佐々木先生からの御説明をお願いいたします。80分程度でお願いしたいと思います。

○東京大学大学院佐々木教授 わかりました。ありがとうございます。東京大学大学院の佐々木でございます。

きょうは日本人におけるトランス脂肪酸の摂取量。健康影響というよりも摂取量の実態のほうに重きを置いて、そして、そちらから健康影響を推測するということを行った研究成果、調査成果について、代表的なものをまとめて御説明申し上げたいと準備をしてまいりました。

それとともに、摂取量というものが多い、少ない、危ない、よいということがたくさん言われておるわけですけれども、摂取量はそもそもどのように測定するのだろうか。そして、その測定の精度、方法による精度が、その摂取量を評価するときにどのような影響を及ぼし得るのかということは、ここの場においても重要なことだと考えまして、きょうサブに食事摂取量測定の科学性の問題ということを挙げております。これはトランス脂肪酸の説明を申し上げる中で随時、差し挟んでお話をさせていただく予定でございます。

もう一つ、先ほど座長の先生からもお話がありましたように、トランス脂肪酸だけというのではなくて、他の脂肪酸、脂質、さらにもう少し広げまして、我々の健康に影響の大きい栄養素とはどういうものがあって、それは現在、どのような摂取状況にあり、どのような健康影響が明らかにされ、その対策に対して世界はどのように動いているのかということを補足としまして、代表的に考えるべきであろうと私が考えました食塩と食物繊維を例に挙げて御説明を申し上げようと考えております。それでは、よろしくお願いいたします。

資料1をめくっていただいて、右下にページ番号がございますので、このページ番号で申し上げます。

1ページ、トランス脂肪酸を考える上で、その健康影響に関しては、さまざまな生活習慣病への影響が考えられております。例えばがんなども入っているのでありますが、健康影響として一番大きく取り上げるべき、そして、そのための研究成果の多いものは動脈硬化性の疾患、そして、疾患名としまして一番多いのは心筋梗塞であろうというように考えられております。

ところが、心筋梗塞は御存じのようにトランス脂肪酸だけから生じるものではございません。そこで、心筋梗塞に関連することが知られている食事要因、1つ、2つの研究ではなく、何十、何百、何千という研究成果、これは人の研究ですね。人をはかって、それらの摂取量と心筋梗塞の発症率、心筋梗塞の死亡率などとの関連を検討した。またはその1つ手前であります血清脂質等、人の食べている量と血清脂質の量、または血圧、そういうものを調べていったという研究から、こういう関連が考えられるのではないかということを1つの図にまとめたものでございます。

これをごらんいただきますと、真ん中に心筋梗塞がございまして、それを取り囲むように喫煙とか肥満、高血圧、運動不足、そしてLDLコレステロールが高い状態、HDLコレステロールが低い状態というものが取り囲んでございます。それ以外にも多数の遺伝因子や性別、加齢というものは当然あるものでございますが、ここには直接に栄養素は入ってまいりません。これが内堀とすれば、栄養は全て外堀になります。右側をごらんいただきますと、肥満の外堀にはエネルギーの過剰摂取があり、高血圧の外堀には食塩の過剰摂取とカリウムの摂取不足があるということでございます。

そして、きょうの本題でございますトランス脂肪酸は左のほうの外堀を埋めるというか、外堀にございまして、LDLコレステロールを高くするという困った作用が知られている。同様に、LDLほど強くはないようなのですけれども、HDLを下げる。HDLは低いほうがよいコレステロールですので、下げるというのはよくないということになります。それ以外に、飽和脂肪酸の過剰摂取によってLDLコレステロールが上がるということもございます。

すなわち、ここでわかることはトランス脂肪酸は心筋梗塞に関係するかと聞かれたら、する。では、とても大きいかと言われたら、たくさんあるうちの一部であり、その大きさはほかとの相対的な関係によって決定すべきであるということがわかります。

端的に申しまして、トランス脂肪酸と心筋梗塞に直接に、それだけ結びつけて議論することは危ういと考えられるわけでございます。その一方でトランス脂肪酸を無視して、全く取り上げずに心筋梗塞の予防対策等を考えるのも、また問題かもしれません。

2ページ、先ほどの1ページ目の心筋梗塞を中心とした図の左半分を大写しにして、もう少し細かく書いたものがここにございます。脂質異常症は大きく分けましてLDLが高いタイプ。HDLが低いタイプ。トリグリセライド、これは中性脂肪と日本語で呼びますが、最近ではそのまま片仮名でトリグリセライドまたはトリグリセリドと呼ぶこともあります。この3つが代表的な脂質異常症であり、動脈硬化性疾患となるものでございます。ここには多種の脂質、脂肪酸、また、ほかの種類の栄養素がこのように、このようにと申しますのはプラスというのは好ましくない影響、マイナスというのは好ましい影響で関連しているということを示しております。

先ほど心筋梗塞の中で特に重要視すべきは、高LDL血症でございますが、そこには一番上の肥満が++で強い影響、肥満の後ろにはエネルギーのとり過ぎというものが+で影響を及ぼしている。また、肥満とは関係なくというか、独立に、別に飽和脂肪酸のとり過ぎが++でLDLコレステロールに関係している。この図はことし4月に厚生労働省から発表され、来年度の初め、すなわち2015年4月から5年間用いることになります、日本人の食事摂取基準2015年版からの引用でございます。412ページにこのままの図がございまして、それをそのまま貼りつけてまいりました。しかしながら、そこにはトランス脂肪酸が入っておりません。そこでトランス脂肪酸だけ私が追加をしてきたというのがこの図になります。ここでも見ていただけるように、他種の栄養素が+であったり-であったり、また+であったり++であったりというように、かなり複雑に脂質異常症に絡んでいることがわかります。

そうしますと、トランス脂肪酸は問題があるのか。健康影響として取り上げるべきなのかということを考えるときに、比較級を用いねばならないことがわかります。比較級というのはトランス脂肪酸が悪いかという疑問、質問文ではなく、トランス脂肪酸は「ほかの○○より悪いか」という質問文をつくることが大切だと私は考えます。その○○に何を入れるかということですが、ここはやはり影響力が大きく、心筋梗塞または高LDLコレステロール血症に困った大きな影響を与えていると、今までの研究成果が一致している栄養素を挙げるべきであろうと考えます。

それの一番大きいものが、この2ページ目にオレンジ色をつけました飽和脂肪酸でございます。飽和脂肪酸はほかの国の食事のガイドライン、日本で言えば食事摂取基準に当たるものですが、ほかの国々の食事摂取基準にはほぼ例外なく、かなり前から掲載され、国民への摂取過剰にならないようにという警鐘が鳴らされている脂肪酸であることは、国内においても多くの先生または方々が御存じのことであろうと思います。

では、そこでこの飽和脂肪酸とトランス脂肪酸、どのような違いがあるのか、また、同じような悪さをするのかというところを研究論文から見てみたいと思います。

3ページ、先ほど心筋梗塞の手前にあるものとして重要なものが動脈硬化症であり、高LDLコレステロール血症であると申しました。もう一つが低HDLコレステロール血症でございます。そうしますと、血液中でこのLDLが高くHDLが低いという状態はかなり悪いというふうに、心筋梗塞、動脈硬化のリスクが高いと考えられます。そこで、この日、すなわちLDLコレステロール÷HDLコレステロールの比をつくりますと、1つの変数、指標でもって評価ができますので便利であります。そこで、この血中の比を用いた研究がたくさんございます。その中で今までのたくさんの研究を集めて1つの図にまとめてくれた総説の論文がございますので、それをここに持ってまいりました。

これはかなり古いものでございまして、The New England Journal of Medicineという医学雑誌の1999年に発表されたものでございます。発表と申しましても、それまでに出ておりました研究の中から質のよい、すなわち信頼度の高いものです。結果がよいか悪いかは不問にしまして、誰がやったかも不問にしまして、丁寧にやったかどうか、丁寧に研究がされたかというところを見まして、これは丁寧に研究がなされているというものを選抜しまして、選りすぐりまして、集められたものということだそうでございます。

では、この図の説明をさせてください。横軸がトランス脂肪酸の摂取量でございます。トランス脂肪酸の単位、ここではエネルギーに占める割合、パーセントで示してございます。どういうことかと申しますと、脂肪酸は脂質、油の一種でございます。すなわちエネルギー、カロリーを持ちます。ちなみに、栄養学ではカロリーという言葉は単位のみに用いて、通常は用いませんので、きょう全てエネルギーで統一させていただき、単位のときにkcalという単位を用いさせていただきます。そのエネルギーに対してトランス脂肪酸を食べたことによって、トランス脂肪酸から発生するエネルギー、通常、脂肪、油は1g当たり9kcal程度を持ちますので、その9をかけることによって計算ができます。

したがって、横軸を見ていただきますと一番多いところでも10%です。この10%というのは全て食べた、あらゆる全てのエネルギーのうち、1割のエネルギーがトランス脂肪酸に由来しているということを示します。

その次に縦軸です。縦軸はChange、変化と英語で書いてございますが、この血中LDL、HDL比がゼロからどのくらい変わったかということを示しております。ゼロはどういうことかと申しますと、この研究は全てトランス脂肪酸のない食事をまず食べて、そして、その次にトランス脂肪酸を入れた食事を食べて、LDL、HDL比がどのように動くかということを観察した研究ばかりでございます。したがって、ゼロからどのようにこの比が変わったかという、その比を示します。

または、最初がトランス脂肪酸のない食事ではなく、最初にある程度トランス脂肪酸が入っている。そこにトランス脂肪酸をふやした。その場合にこの比がどれぐらい動いたかということを示してございます。端的に言いますと、0.0がございまして、そこよりも上に変われば、この比が上がったということを示しますので、動脈硬化、心筋梗塞に対して悪いと考えられます。したがって、バックを青色にしまして「悪い」と書きました。そして、逆にマイナスに変化をする、下がりますと、これはこの比が下がったということを示しますので、よいということになります。これが縦軸と横軸の説明でございます。

そのグラフの中にいろいろな色がちりばめられておりますが、それぞれ1つの点が、1つの研究の代表値をあらわします。いろいろな研究成果がございます。見にくいですので、これを1つの結果に線を引いてまとめました。回帰直線と申します。きょうは青い線で引いてまいりまして、右側に矢印でトランス脂肪酸と書き込みました。

これはどういうことかと申しますと、点々とたくさんの研究成果があるのですけれども、これを1つの結果にまとめますと、このような線でトランス脂肪酸を食べふやすと、これくらいこの比が悪くなっていくということを示します。

例えばトランス脂肪酸を総エネルギー量、全体のエネルギーの3%食べますと、横軸で3のところをごらんいただいて、縦に伸ばしていただいて、そして青い直線、傾きと交わったところ、左に伸ばしていただきますと、0.2より少し低めです。0.15~0.17ぐらいですか。そういう数字がわかります。この数字だけLDL、HDLコレステロール比が悪くなるということを示しております。

ところが、この研究成果、興味深いところがございまして、トランス脂肪酸だけではございません。1つの研究の中で、場合によっては片方だけしかやっていない研究もあるのですけれども、多くの研究が同時に飽和脂肪酸も食べさせるという実験もやってみたという研究がたくさんございます。その飽和脂肪酸の結果も点々で打ってあります。その点々は四角の点々なのですけれども、四角の点々がまたこの図の中に散らばっております。これは見にくいので1つの線にしてまいりました。回帰直線を引いてまいりました。そうしますと、この回帰直線は黒の細い点線となりました。黒の細い点線がありまして、右側に飽和脂肪酸と書いてございます。

そうすると、例えば横軸の7をごらんください。総エネルギーに占める割合、パーセントが7です。全てのエネルギー摂取量のうち7%のエネルギーが飽和脂肪酸から来ているという状態です。その横軸の7から上に点々と上がっていって、先ほどの点線の直線、傾いている点線の直線、飽和脂肪酸の直線と交わりまして、左に伸ばしていって縦軸と交わるところまでいくと、先ほどのトランス脂肪酸の3と同じところでおよそ0.15~0.17ぐらいの範囲ということがわかります。

すなわち、飽和脂肪酸を総エネルギーのうちの7%ぐらいを飽和脂肪酸で食べてしまうと、総エネルギーの3%ぐらいをトランス脂肪酸で食べてしまったときと、動脈硬化への悪さの程度は同じであるということがここからわかります。この比較は非常に大切な比較であると私は思いますし、また、世界の専門家の中でも、この図はよく使われて説明がなされているようでございます。

要するに、まとめますと、飽和脂肪酸よりもトランス脂肪酸のほうが同じ量だけ食べた場合、悪さ度が大きい。しかも2倍以上大きいということを示しております。しかしながら、前提、仮定がございまして、同じぐらい食べた場合というわけです。

今度は逆に見ましょう。同じぐらいの悪さ度をするためには、2つはどのように食べたらよいのか。食べたらよいのかというのは変ですが、同じ程度、動脈硬化が進むという場合にどのような摂取量バランスになっているかを見ますと、先ほどの例7と3からわかりますように、トランス脂肪酸3%エネルギー食べたときと、飽和脂肪酸を7%エネルギー食べたときの動脈硬化が悪くなっていく程度が同じであるということがわかります。ここで悪さの強さ3対7を覚えておくとよいかもしれません。

そこで、飽和脂肪酸の7をなぜ出したかと申しますと、これが現在、推定値として日本人の成人が食べている飽和脂肪酸の平均値、それがこの程度であろうというように観察されております。ぴったり7ではございません。調査結果によって幅はあります。およそこのあたりであろうということでございます。

そうすると、もしも私たちがトランス脂肪酸を3%よりもたくさん食べていたら、またはそういう人がいたら、その人は飽和脂肪酸よりもトランス脂肪酸のほうが、動脈硬化に対して悪い影響を及ぼし得るということがわかります。逆に3%エネルギーよりも少なくトランス脂肪酸を食べている人にとっては、飽和脂肪酸よりもトランス脂肪酸による動脈硬化への影響度は小さいということがわかります。

そこで、私たち日本人はトランス脂肪酸を何%エネルギー食べているのだろうか。これが必要になってくるわけでございます。

そこで次の図をごらんください。4ページでございます。これが健康な成人を対象としまして、習慣的なトランス脂肪酸、習慣というのは16日間、1年にわたって少しずつきょう、そして、その次は来週という形で食事を食べているものを丁寧に調べ上げた、225人の方の御協力を得て、丸一年をかけて食べているものを丁寧にはかったという極めて貴重な研究論文でございます。こういう研究に御協力いただいた対象者さんに、改めて私はここでお礼を申し上げたいと思います。そのようなことがなければ、私たちはここで議論すらできないということになるわけでございます。1年間にわたって食べているものを丁寧にはかりとり、記録をとり、そしてどうぞデータを使ってくださいと言ってくださった225人の方々、本当にありがとうございましたと申し上げたいわけでございます。

さて、結果を見ましょう。結果はこのようになっておりました。このようにというのは、横軸は先ほどと同じ単位で、総エネルギー摂取量に占める割合であります。

縦軸は人数です。225人のうちの人数です。青が男性、赤が女性でございます。さて、どこにピークがあるかといいますと、男女ともに0.5~0.74というところにピークがございます。ということは、およそ平均的な食べ方は0.6~0.7までいかないですね。0.6程度ではないかということが考えられるわけで、この図から見てとれるわけでございます。

もう一つ、男性と女性を見ますと、女性のほうがこのヒストグラム、図が右側のほうに伸びていることがわかります。すなわち男性よりも女性の一部の方に高めの摂取量の方が見えるということもわかりました。

先ほど7対3という比を出しました。日本人の飽和脂肪酸の摂取量の平均値がおよそ7%エネルギーとしますと、もしも3%エネルギーであるならば、トランス脂肪酸とほぼ同じぐらいの動脈硬化への好ましくない影響を及ぼしている。ところが、実際には平均値はおよそ0.6でございます。3よりも5分の1ということがわかります。すなわち、ここからわかることは、日本人が個人個人は何とも申せませんが、国民の平均、少なくともここは成人、大人だけですが、国民の大人の方の平均値を考えるならば、飽和脂肪酸に比べてトランス脂肪酸が動脈硬化、心筋梗塞に及ぼす影響は、我が国民においてはかなり相対的には小さい。実際に見るとゼロではないですね。なぜなら食べているからです。しかし、相対的には小さい。それに対して飽和脂肪酸の影響は相対的にかなり大きい、5倍ぐらい大きいということがわかる。計算し直さないといけませんが、大きいということがわかります。

さて、この図で1つ縦の線を引いてまいりました。1.0のところにWHOの推奨摂取量、1%エネルギーというものがございます。WHOでは1%エネルギーよりも少なくするようにと。そうすると健康影響というのは小さくできるという推奨をしております。そうすると、1%エネルギーを超える人が問題なのですけれども、少なくともWHOの基準を使うならばですね。そうしますと男性はごくわずかです。わずか6人だけ。それから、女性が少し見ます。ということで女性はやや問題があるかなというふうに考えられました。

次のページに行ってください。では、どんな女性がということを考えてみました。そこで今度は性年齢別に先ほどのWHOの推奨値を超えていた人の割合を見てみました。ごらんください。男性はほとんどいないというか、男性はごくまれです。それに対して女性のほうが全てで棒グラフが高くなっております。それを見ますと、ごらんのように60歳代は男女変わらずほとんどそういう人はいない。それに対して30代、40代、50代の女性にいる。しかも30代と40歳代の女性がややこういうWHOの推奨値を超えて食べているこう摂取量の人の割合が多いようだということがわかります。繰り返しますが、だからといって多いというわけではなく、多過ぎるというふうに判断するのは極めて難しく、この方々のそれぞれの飽和脂肪酸の摂取量をきちんと見て、その比を考えねば本当はいけません。少なくともトランス脂肪酸だけを見ると、60歳代よりも50、それよりも40、30代というところがたくさん食べているようだということがわかりました。

ところが、ここまで出すのが大変な作業でございまして、6ページをごらんください。ここからがトランス脂肪酸の摂取量の数値そのものの御報告から一度脇にそれまして、どうやってこの摂取量はわかったのかというお話を5~10分以内でさせていただきます。

といいますか、逆になぜ今までトランス脂肪酸の摂取量は正確にわからなかったのか。実は今でも正確にわかっていないのですけれども、少なくとも以前よりは正確にわかるようになってきました。そこで基本的な知識としまして、摂取量はどうはかるのか。どう計算するのか、どう測定するのかということを書いてまいりました。

6ページの上半分の文章は後に回しまして、真ん中あたりの数式、等式をごらんください。摂取量は食品中の含有量×1日の食品の摂取量、その食品の1回の摂取量×その食品の摂取頻度。この3つのかけ算によって私たちの摂取量は決まります。ここで、なぜ食品中の含有量だけを摂取量としないのかというのは当たり前でございます。食べなければ関係ないからです。

そして、この含有量というものは文部科学省から出されております食品成分表が中心でございますが、後から説明いたしますが、トランス脂肪酸に関しては十分なデータはございません。しかし、その前に食品成分表というものは100gが単位で書いてございます。そうすると使いやすいのです。けれども、実際にはそれは食べている量ではありません。私たちは食べ物を100gずつ食べるわけではございません。したがって、食品成分表または100gを単位として含有量が掲載されている食品成分データを食品間で比べることは、本来は意味の乏しいことでございます。しばしばそうやって比べて、何々の栄養素は豊富と書いたものがあったりしますが、それは正しい比較方法ではございません。

正しく比較をしようと思いますと、それに次のかけ算をいたします。私はその食品を1回に何グラム食べるのだろうかというかけ算でございます。例えば、ごまなどは数グラムでしょうし、その一方でジュースを飲めば150mlとか200mlとかいうふうに飲むでしょう。けたが違うわけです。したがって、2つ目の計算が必要になります。

その次です。最後のかけ算です。食事摂取頻度。なぜこれをかけるのか。これはトランス脂肪酸もそうですが、飽和脂肪酸もそうですが、ほかの栄養素もほぼ全てそうですが、今回、対象としている疾患、病気は生活習慣病である。生活習慣病への栄養素の影響は、習慣ではなく瞬間でございます。瞬間というのは1回食べたとき、その毒性をもって病気になるというものです。そういうものは当然、食品の毒の中には入ってございません。

しかし、トランス脂肪酸も含めましてそうではなく、1回にたくさん食べても病気になるわけではございません。というか、全く病気にはなりません。問題は、それをどれくらいの頻度で一定期間、例えば1カ月、通常はもっと長く1年間、生活習慣病ですと数年間にわたり合計量としてどれくらい食べているのかということが問題になります。したがって、この摂取頻度、例えばこの1カ月間に私はこの食品を何回食べたか。そして、1回におよそ何グラム食べたか。この後ろの2つの計算が大切になってくるわけでございます。

そして、この後ろの2つの測定、これが食事調査でなされます。食事アセスメントと呼ぶことも最近はございます。すなわち、食品成分データと食事調査、この2つによって摂取量を明らかにするという仕組みでございます。

では、この中身についても少し具体的に説明をさせてください。7ページでございます。トランス脂肪酸も海外ではトランス脂肪酸の含有量、たくさんの食品で測定をしまして、食品成分表が相当量できております。また、できておりました。ところが、日本におきましては先ほどの摂取量の論文は私の研究室で行ったものでありまして、そのための食品成分表も私の研究室で開発をいたしたものであります。そこで、きょうはその舞台裏というところでございます。

当時、食品成分表は1,995の食品について、たくさんの種類の栄養素が収載されておりました。ところが、トランス脂肪酸に関しては備考欄に少しの食品について書いてございまして、書いていないが、これはひょっとしたら入っているのではないかという食品がたくさんありました。そこで、この図に示しましたフローチャートを用いて、トランス脂肪酸の食品成分表をつくろうではないかというプロジェクトが立ち上がったわけです。プロジェクトと言っても、私の研究室の中のほんの数人だけでございます。

そして、行ったことは1,995の食品の中で総脂質、油そのものが入っていないのだったらトランス脂肪酸は入っているはずはないです。トランス脂肪酸は油の一種だからです。したがって、まず総脂質がゼロのもの、またはごくわずかなもの。これはトランス脂肪酸はほとんど入っていないはずだと断定して構いません。そういうものはたくさんございまして、1,469ありました。野菜などほぼこちらに行ってしまいました。そして、残りがトランス脂肪酸を含む可能性のある食品526食品というものになりました。これに対して526個の食品名に対して、その食品の特徴を見ながら丁寧に数字をいろいろなところから借用をしてきました。実は測定したのではございません。借用してきました。幸いなことに、それぞれの食品をそれぞれの研究者が独立にはかっていて、報告をしてくれているという学術論文、報告書等がございました。そういうものから下の表の一番下ですけれども、合計143食品はそういう情報が当時既にあったということであります。

その右側です。実際に測定がなされたトランス脂肪酸の含有量の測定がなされた食品と、その食品の中身は極めて似ている。だからトランス脂肪酸の含有量も極めて似ていると考えてよいのではないかという類推ができる。こういう食品が353食品あることがわかりまして、それで類似食品からのトランス脂肪酸を借用いたしまして数字をつくりました。

その次に、もうお手上げだというところになりまして、アメリカのデータベースをお借りしまして、そのデータベースから、これは日本の食品と同じような中身、中身というのは栄養素の構成だよねということを考えてもよかろうというものが14食品ございました。そこでアメリカからの借用が14食品、14データでございます。

そして右側です。お菓子とか加工してつくるものも食品成分表にはございます。そこはどんなレシピなのだろうというレシピの情報を集めまして、そして、パソコンの中でレシピの計算をしまして、そして、それぞれの材料、食材のトランス脂肪酸からレシピで完成したケーキなりクッキーなりのトランス脂肪酸の含有量を決めたというのが16食品あった。これで合計526で作業完了ということになりました。これで先ほどの3つのかけ算のうちの左の1つのデータベースができたわけでございます。

次のページにお進みください。8ページでございます。225人の方に御協力をいただいて、食べているものを丁寧にはかりとりました食品名、料理名、どんな調理方法、あらゆることをお聞きしました。記録をしていただきました。何でもお尋ねしました。そしてでき上がったデータのごく一部がここに切り取ってきたものでございます。

しかしながら、残念ながら、そんな大層な負担をお願いしてデータをとったわけですけれども、実はこれはトランス脂肪酸の摂取量をはかるため、見積もるための研究ではございませんでした。ほかの栄養素を見積もるための研究だったのです。そのためにトランス脂肪酸に関しての特別な配慮をすることなくデータが集められました。

例えばこのところに四角の青で囲って矢印が引っ張ってございますが、この矢印の先には14006植物油脂調合油と書いてございます。これはこういう食品を使った、食べたということがあるわけで、摂取量は4gとなっております。この調合油というのは油の種類が、実際に調合油はよく食べる油なのですけれども、不明の場合に調合油とするしかないかな、これがよく使われるからねという入れ方をせざるを得ません。ところが、トランス脂肪酸という脂肪酸の含有量は、この油の種類によってかなり異なります。そうすると、こういうところに調合油を入れることによって、トランス脂肪酸の摂取量の計算をこのデータを使って行いますと、誤差が生じるということは明らかであると考えられます。しかしながら、ここを欠損値、すなわち油は食べなかったとするよりも、一番よく使われていると推定される油を食べて、量は申告していただいたものを使うというのが最も理にかなっているのではないかというように私たちは考えまして、このような計算をいたました。すなわち、自分たちがつくったデータというのは、このような問題点を含んでいるということでございます。

9ページ、さらに大きな問題があることが明らかになってまいりました。それは日間変動という問題でございます。日本人はどれぐらい食べているのか。トランス脂肪酸をどれぐらい食べているのか。また、100人の中に何人トランス脂肪酸を物すごくたくさん食べている人がいるのか。それが誰なのか、どんな人なのかということは、重大な問題であると私たちは考えました。

ところが、このグラフにありますように日間変動と呼ばれる大きな壁にぶち当たってしまいました。日間変動というのはどういうことかと申しますと、横軸が1日1日でございまして、縦軸が食べた栄養素の量です。ここでは総脂質、油全体をあらわしております。これは225人の中から適当に、ランダムに取り出してきましたある3人の方で、この3人がどういう方であるかは私は見ずに取り出してきてグラフをつくりました。

わかったことです。人は食べているものが毎日随分違うというごく当たり前のことがわかりました。きのうカレー、きょうもカレー、あしたもカレーお母ちゃん。違うんですよね。すなわち、ここでは赤の人は1日目は5%のエネルギーだけを脂質からとっているという、ほとんど油のないさらさらの食べ物を食べていました。ところが、D02というところですけれども、2日にいくと25%程度、およそ4分の1のエネルギーを脂質からとっている。3日目もそうです。4日目になると10以上数字が下がって、13%ぐらいのエネルギーを油からとっていることになります。このように赤さんは5%から30%ぐらいのパーセントエネルギーの幅で振れながら油を食べていることがわかりました。緑さんは赤さんと同じぐらいですね。緑さんは十数パーセントから40%の間で振れています。青さんがやや狭くて、19%から32%ぐらいの間で振れております。それでもかなり振れております。

こうしますと、ある1日だけの摂取量を丁寧に測定し得たとしても、それをその人の習慣的、すなわち動脈硬化や心筋梗塞に影響するという習慣的、生活習慣病に影響するという習慣的摂取量をはかっていることにはなりません。そこで私たちは225人の方に16日間、しかも1年にわたるという大層なことをお願いして、日本人の代表のデータをとれないかと考えて収集したわけでございます。

このように食べているものの量をはかるということは、食品成分表をつくるというのも一苦労、二苦労、大変な苦労です。そして、それ以上にだと思います。食べている方、対象者さんの食べ方を調べるために、相当に丁寧な調査と、かつ、相当長い日数が必要であるということがわかります。この長い日数において食べた油の種類を事細かに報告するというのはほとんどというか、もう到底無理な話でございます。そういう無理なところでどこまで迫れるかということでやってみたものでございます。したがって、それほど自信はあるかと言われると、それほど自信はないというふうに言わないといけないかもしれません。しかしながら、ここで言えるのは、ほかの報告よりはかなり丁寧にやったであろうということでございます。それは別にほかのものと比べるわけではなく、少なくともこういう調査研究が掲載される学術論文を一応パスしているというところぐらいでございます。控えめに言っておいたほうがよいでしょう。

さて、そのような誤差を含むとしても、10ページのことがわかりました。ここで結果に戻ります。本論に戻ります。

ではこのトランス脂肪酸、どこから、どんな食べ物から食べていたのかなという解析、分析を行いました。分析と言っても計算を行いました。上が女性でございます。一番多かったのが、一番左に22という数字が入っているところでございまして、これはお菓子です。お菓子類からが一番多い。接近しておりますが、その次、2番手がパン類ということでするこれは恐らく菓子パン類が中心になるのではないか。といっても油が入っているものはほかにもいろいろございますね。そういうものではないか。そして3番目は油脂類ということでございました。すなわち、菓子類とパン類、このパン類は菓子パンを含みます。ということで、菓子またはお菓子類に入るようなパン類から相当割合のトランス脂肪酸を、この対象者の女性がとっていたことがわかります。

一方、男性は、順序を女性のほうに合わせてしまったのですけれども、男性で一番寄与の大きかった食品は油脂類、油でした。ここが女性とことなっています。そして、その次がパン類で、その次が菓子類というように、1位、2位、3位が女性と男性はちょうど逆転しているという結果になりました。

しかしながら、この3つの食品群で男女ともに全部、総トランス脂肪酸摂取量のおよそ半分を摂取していることがわかります。残りをインスタント・レトルト食品、マーガリン類、ファストフードなどで食べていることがわかります。乳類というものがごくわずかにございますが、この乳類は反芻動物にはもともと自然由来のトランス脂肪酸が入っておりまして、この乳類はその自然由来のトランス脂肪酸であろうと私たちは考えております。いずれにしても量が少ないですので、特に細かい考慮をする必要はなかろうというわけでございます。

このように考えますと、やはり直接に油があって、そこにトランス脂肪酸が入っていて、それを私たちが調理でお台所で使うということよりは、既にトランス脂肪酸を使って調理加工されて、既に食べられる状態になったものを買ってきて食べる。その中に入っているということ。そういう由来のものが多いということもわかってまいりました。

ここまでが、そのトランス脂肪酸の摂取量に関する実態という御報告でございます。

では、トランス脂肪酸に関して最後のページ、11ページをごらんください。ここまでのお話をまとめてみようと思います。

トランス脂肪酸と飽和脂肪酸、動脈硬化への影響はどちらが大きいのか。私たち平均的な日本人はという目で見てみました。そして、どの食品が問題なのかという目で見てみました。そこでこういう円グラフを2個つくってみました。

摂取量の比を面積の比であらわしてみました。飽和脂肪酸は左下に文献がございますが、これは私自身の論文ですが、それによりますと飽和脂肪酸はエネルギーの7.2%を飽和脂肪酸からとっていた。その一方で右側の論文によりますと、これはトランス脂肪酸を報告した先ほどの論文ですが、0.7~0.8%のエネルギーをトランス脂肪酸からとっていた。そして、さらに先ほどの影響のことを考えると、トランス脂肪酸は相対的に円の面積が大きくなるわけです。そこも考えてみました。そして円をつくってみました。それでもやはり飽和脂肪酸のほうが円がかなり大きいですね。そして、それぞれの飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の摂取源となる食品を入れてみました。これは2つの論文の報告によるものです。

そうしますと、飽和脂肪酸のほうは肉類、乳類というところで半分ぐらいを占めて、その次が油脂、あとは同じぐらいです。油脂、穀類、卵という感じです。そして、トランス脂肪酸のほうは先ほど見ましたように菓子類、パン類、油脂類で判断を占めている。しかしながら、私たち動脈硬化にどの食品がというと、この図のような重さになっているというわけでございます。

しかし、だからと言ってお肉は食べるのをやめようという話にはなりませんし、そうしてはいけません。なぜなら1つの食品には複数種類の栄養素が入ってございます。よい栄養素も悪い栄養素も入ってございます。したがって、ある1つの、この場合は飽和脂肪酸、お肉に入っているというものを取り上げて、だからお肉は食べないほうがよいということには全くならないですね。ここで言えることは、飽和脂肪酸の主たる摂取源としてお肉と乳類があるということでございます。これをどうするかはほかの栄養素も見ながら、そして、この飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の円の大きさの比を見ながら考えていくべきということになると思います。

12ページ、ここまでがトランス脂肪酸についての私の報告でございまして、私たちは何に注意をすべきなのかという御質問をよく私は受けるのですけれども、そのときにはとにかく広い視野に立って、落ち着いて考えてくださいと。1つのものだけを考え、ほかの全てを視野から外すことはしないように気をつけてください。視野の中にたくさんの食品と栄養素を入れ、それを量的にといいますか、さらには相対的に評価をしてほしい。そしてターゲットが生活習慣病の場合は0か1かという議論ではなく、どのくらいという量的な議論をしていただきたいというように申し上げております。

では、残りのお時間をいただきまして、補足の食塩と食物繊維についてごく簡単に御報告を申し上げたいと思います。これに関しては一つ一つのページ、ややはしょって短く急いでいきますので、お許しください。前半が食塩の過剰摂取と世界の動向でございます。

14ページは、国連が生活習慣病の専門家を2011年にしょうへい致しまして、世界の、地球レベルの生活習慣病対策のために、世界が行うべき5つのアクションというのを提言いたしました。これはLancetという医学雑誌に掲載されたものを、そのまま持ってまいりしまた。これは国によって事情が異なりますので、そのまま我が国に適用するわけにはいきません。そうしてはいけないと私は思いますが、しかしながら、国連の専門家委員会がこのようなものを提唱しているということに関して、少なくとも耳を傾ける価値というか、必要があると私はきょう考えて持ってまいりました。驚くべきことが1つあったからです。

1つ目は、たばこです。これもおわかりでしょう。一番対策を行うべきものはたばこです。

その次です。Dietary salt、食塩と書いてありました。

驚いたのはその次です。3番目はObesity(肥満),unhealthy diet(不健康な食事)and physical inactivity(運動不足)、この3つです。すなわち、食べ物の中でこの専門家会議は、食塩だけを特出しして2番目に挙げ、それ以外の肥満も運動もほかの食事も全部含めて3番目にしたということです。いかに食塩問題が地球上で大きいかということを、この専門家委員会は伝えたかったのだろうと私は思います。

4番目は、害をもたらすほどの飲酒です。これは適量飲酒ではございませんで、Harmful(害があるほど)と書いてございます。

最後が循環器系、要するに心筋梗塞、脳卒中の危険因子、危険度を下げようということです。ここで右側を見ますとCombination of drugsと書いてありまして、薬剤を組み合わせて使おうと書いてございます。注意すべきというか、注視すべきは、お薬を考えるのは5番目であるということ。そして、3番目にさまざまな生活習慣が入っているということ。そして、1番目のたばこは当然といたしまして、2番目が塩であるということでございます。世界は塩をここまで強調している。これが世界でございます。

もしも日本が塩の摂取量が世界の中でとても低いのであれば、我が国は例外とするという処置がとれるでしょう。

では、15ページをごらんください。日本は栄養素の摂取量を毎年調べている、世界でも極めてまれ、ほとんど唯一の国でございます。これが厚生労働省、旧厚生省の時代を含めまして、国民栄養調査・国民健康栄養調査の結果をまとめてまいりました。食塩摂取量の推移でございます。

1975年ごろ、1人1日当たり、これは国民全体です。子供たちも入っているのですけれども、国民全体1人当たり1日当たり14g食べていい。それが最近は10gと4gも食塩摂取量が1人1日当たり下がりました。これは非常に大きなことでございます。

では、次の図をごらんください。16ページでございます。ところが、同じ時期に、全く同じ時期にエネルギー、いわゆるカロリーです。エネルギーの摂取量は2,200kcal/日から1,850kcal/日くらいにほぼ一直線に下がりました。私たちはこれほどエネルギーを必要としなくなったということを示しています。これは運動しなくなった、またはそういう労働が少なくなったということを如実にあらわしているだろうと考えられます。

そこで1つの疑問が生まれます。塩が減った、エネルギーも減った、これは本当に減塩と言えるのか。塩が減ったと言えるのか。

そこで、次のグラフをつくってみました。これは厚生労働省から発表されているものではなく、私自身が先ほどの2つのグラフから割り算をしてつくったものでございます。これは1,000kcal食べたとしたら、その中に何グラム食塩が入っていたかという図です。要するに1,000kcal食べたらという仮定です。何をあらわしているかというと、濃さをあらわしています。味つけの濃さをあらわしているわけです。

そういたしますと、1975年から2000年までの間、実はこの数字は下がっていません。ほとんどぴたっと6.0前後で動いております。すなわち1975年から2000年まで食塩摂取量は減りましたが、同時にエネルギー摂取量も食塩が減ったのであって、私たちの食事が薄味になったのではないということをここで示しています。その後2000年代、21世紀に入りまして徐々にここも薄味に変わってきました。これがこのまま続いてほしいなと思いますし、さらにこれを続けるべきだというように考えられます。

では、そのために国は何をしているか。18ページ、厚生労働省が5年ごとに出しております食事摂取基準、先ほど少し御説明申し上げましたが、昔はこれを栄養所要量と呼んでおりました。そこで栄養所要量の時代も含めまして、横軸に西暦をとりまして、縦軸に食塩。栄養素名はナトリウムですけれども、食塩をどのぐらいとったらよいかというより、これより減らしてほしいかということをグラフにしてきました。折れ線グラフの青が成人男性用です。折れ線グラフのオレンジが成人女性用です。2004年までは男女とも10g以下というように栄養所要量で決められておりました。ところが、2004年になりますと体の大きさを考慮しまして女性だけが2g下げられます。さらに2010年になりますと、男女ともにもう少し下げます。そして、来年度2015年度からはさらに下がりまして、このように階段がどんどん下がってまいりました。

では、食べている量はどうなってきたかといいますと、先ほどのエネルギーが下がってきたということを考慮せずに、単純に食塩の動きだけ見たのが黒の点線でございます。これは先ほどのグラフと全く同じものでございます。最近は男女別、性年齢別にも報告がなされておりまして、2003年とか20歳以上男性、20歳以上女性というものをつけてきました。エネルギーが下がっているということがございまして、この曲線が下がってまいりました。この曲線を見ながら食事摂取基準としては目標量をどんどん下げていこうというように考えていると読みとれます。

これはやり過ぎなのかというと、実はそうではなく、お塩のとり過ぎは、一番の問題は高血圧でありますが、その学会であります日本高血圧学会は男女ともに6g以下にしようと言っています。そして、国連のうちの一部の機関の1つですが、WHOは世界全体に5g以下という数字を提唱しております。そう見ますと、この食事摂取基準は最近下がってきてはいるものの、高血圧学会や世界の基準に比べると、かなり高めであるということが考えられます。

これは食事摂取基準が甘くつくっているというような解釈はしたくなくて、現状を見ながら頑張れ、頑張れというように徐々にじわじわと対策を立てながら下げようとしているのだろう。そこに消費者も一緒になってやっていただけないかというようなメッセージではないかと私は読んでおります。

ところが、食事の調査は大変難しいということは先ほど申し上げました。難しいために、実は食べたものを全てなかなか書いていただくことができません。どれか忘れるのです。だから実際よりも少なめに出てくるのです。そこで食塩の摂取量の本当の数字を調べる方法がございます。

食べた食塩はほぼ全て体に吸収され、86%ぐらいが、残りはほぼ汗なのですけれども、86%くらいが尿に出てまいります。徐々に出てまいります。そこで出てくる尿を全てとれば、例えば丸一日、24時間かかって全てとれば、食べた食塩の86%を捕まえることができます。したがって、尿に出てきた食塩を0.86で割れば、食べた食塩がわかるという仕組みであります。これが食塩摂取量を測定する世界の標準法でありまして、WHOを初め、世界のこういう機関は24時間蓄尿をして、食塩摂取量をそれぞれの国民で調べるようにと言っています。日本も最近やっと調べられました。大規模にです。それがこのグラフの右に点を打ってきました。青いのが14.0gこれが男性、11.8gこれが女性。平均値です。ごらんください。物すごく高いのがおわかりでしょう。世界の先進国の中で日本人はきょう、ほかの国の比較を出しておりませんが、これはWHOの5から見たら2~3倍という数字でございます。

すなわち、いろいろな栄養素を横断的に見ました場合に、食塩の健康影響というのは日本人はこれはほかの国に比べて相当にシリアスな問題であるということが、このグラフから読めるかと思います。

参考資料を19ページでごらんください。先ほど尿をとって食塩をはかるということを申し上げましたが、その論文に載っている地図です。日本地図はこのようになっているそうであります。輪の大きいところは食塩をたくさんとっている地域です。輪の小さいところは食塩の少ない地域でございます。とは言いながら、全ての地域で平均摂取量は10gを超えておりました。1つだけ10gを割っている地域がございました。でも、割っていると言っても10gですので、WHOの5gの倍量でございます。

20ページ、その食塩ですが、どれぐらいの人がどのように食べているかというグラフを書いてみたのがこれでございます。先ほどトランス脂肪酸をとり過ぎている人が若者、女性に多いですよねということを言いましたが、ここでは男女を分けずに、そのまま全て書いてみました。そうしますと例えば9g未満という人たちが左側の2つの棒グラフぐらいしかいないということがわかります。本当はそれよりも少なくしていただきたいので、非常に少ないということになります。恐らくきょうのこのお部屋の中におられる人の中でも、食事摂取基準を満たしているお塩の食べ方をしてくださっている方はほんの3人ぐらいではないでしょうか。確率的に考えますと。そういうことになります。

その次をごらんください。急いで食物繊維についてお話をして、私の報告を終わりたいと思います。

食物繊維ですが、食物繊維、日本人はほかの国に比べてかなり少なくて、21ページのグラフのように食べています。食物繊維の目標量という、これぐらい食べてほしいねという線を網かけで入れてきたのですが、申しわけございません。コピーをしたときにどうやら網かけが飛んでしまったようでございます。口頭で申し上げますと、ほぼすべての年齢で食べてほしい食物繊維量に達しておりません。というか、かなり達しておりません。

では、その食物繊維はどういう意味があるのかが、この後の数ページ分でございます。22ページは最近報告された糖尿病患者さんの食べ方と病気の程度を見た研究でございます。4,399人に対して丁寧な食事の調査がなされまして、そして、臨床データと比較がなされました。その結果の中から持ってまいりました。

表をごらんください。左側に青の丸、緑の丸、黄色の丸がついております。これは私がつけました。この青の丸は食物繊維をたくさん食べている人のほうが、この検査値がよかったことを示します。統計的に意味のあるほどよかったということを示します。上からBMIですから肥満度、腹囲、血糖値、そして血糖値のもう一つの代理指標、ヘモグロビンA1c、この4つとも食物繊維の食べ方の多い人ほど数値がよかったことを示します。

2つ飛びましてHDLコレステロール。これは先ほど出ましたね。これは食物繊維を食べている人ほど高いこと、よいことがわかりました。

その次は中性脂肪です。これは食物繊維を食べている人のほうが低いことがわかりました。これもよいことです。

血圧は収縮血圧だけでしたが、食物繊維をたくさん食べている人のほうが低いことがわかりました。

すなわち、ここに挙げられております糖尿病や動脈硬化症、そして高血圧の検査項目の中で、これだけ丸をつけたものが食物繊維を食べるとよい方向になっていたということを示した研究でございます。

もう一つ、食物繊維の健康影響について、23ページをごらんください。食物繊維を食べたときの健康影響で、先ほどのデータ、糖尿病の患者さんと申し上げました。これは糖尿病の血糖コントロールや糖尿病の発症、そのコントロールに食物繊維が少なからず、よい影響を与えているのではないかということが、たくさんの研究でわかってきておりまして、それを求めたという研究が出てまいりました。今度は糖尿病の患者さんに食物繊維を食べていただいて、そして糖尿病がよくなるかどうかということを調べました。1つの研究では結果は揺れます。それから、よい結果だけ発表するとか最近社会問題になっておりますが、そういうことのないように結果ではなく、研究方法がよいと考えられる、読める文章。そういう論文を選んできました。世界で全部で13の研究があったそうでございます。残念ながら日本の研究は入ってございません。この13の研究、全部で605人の患者さんが食物繊維を食べたり、または対照群と申しまして、食物繊維を特にただふやさないで、いつものように食べたりというようにして結果が比べられました。

左下のグラフをごらんください。これがいつものように食物繊維を食べた人に比べて、食物繊維をたくさん食べた人は、どれぐらい糖尿病の指標であるヘモグロビンA1cが動いたかということを示しています。ヘモグロビンA1cは低いほうがよいので、横軸がマイナスほど糖尿病がよくなった、軽くなったということを示します。1つの点が1つの研究の代表値、平均値ですね。1つの研究の代表値でございます。縦軸が、食べふやした食物繊維の量です。一番上は25gとなっています。先ほどの日本人の食べ方がおよそ15gぐらいでした。14~15gぐらいなのですが、そうするとちょうどよいことに15gのところに研究が集まっていることがわかります。すなわち、15g食べふやしたという研究が多い。すなわち日本人であれば15g今、食べていて、プラス15g食べた。すなわち場合にふやしたということを示しております。それでも研究結果は揺れております。ばらついております。そこで全ての研究結果を1つにまとめて、平均値をとったのが青いひし形でございます。その青いひし形の真ん中に赤の点線を引いて、下に伸ばして、横軸と交わる数字を探してみました。そうしますとマイナス0.5%だけヘモグロビンA1cがよくなったということを示します。

このように食物繊維を食べふやすと、糖尿病がよくなるかに関しては、世界ではかなりの研究がございまして、結果が出ているのですけれども、一言で申しますと、研究成果がばらついている。しかしながら、平均値をとるとやや糖尿病は軽快する方向に動くようだということがわかります。

このように、食物繊維を多めに食べたほうが糖尿病もよいだろう。それから、先ほど今、HDLコレステロールや中性脂肪が少し出てきました。血圧も出てきました。それほどこれらは効果が大きいようではないようですけれども、複数の生活習慣病のこういう臨床データに対して、食物繊維がより影響を及ぼすであろう。ところが、日本人の食物繊維の摂取量がそれらの研究結果から考えますと、相当に食べている量が少ないというふうになってしまっております。

では、この日本人の食物繊維摂取量はどういう推移を描いてきたのかということを見てみましょう。24ページでございます。これは国民健康・栄養調査並びに国民栄養調査ですが、国民健康・栄養調査で食物繊維が報告されたのは2000年より後でございます。まだ10年ほどしかたってございません。そこでごらんください。この右側に点がたくさん集まっているところ、これが国民健康・栄養調査の報告書から直接とってきたもの。そして、左側の折れ線グラフは国民栄養調査の食品摂取量のデータをもとに、ある研究者が推定をした推定値でございます。ですので、信頼度はやや下がるのですけれども、およその推移、トレンドは見てとれるかと思います。1950年当時は20gぐらい1日に食べていたものが、1970年に15まで下がってしまいます。その後、ほぼ横ばいでありまして、2000年まで来ますが、この10年間にまた少し下がってきているなという様子がわかります。早い話が減ってきているということです。食べている量が減ってきている。

では、何が減ったのか。どの食物繊維が減ったのかということを見てください。下に3つ線を書きました。一番少ない線が果実類、果物です。もう一つ、交わっているものがございまして、1950年のときは4.5でありまして、そのまま横ばいで最後まで4.5ですね。これが野菜類であります。すなわち野菜からの食物繊維は変わっていない。とっている量は変わっていないことを示します。一方で、7.6あったものがずっと下がってきて3.7まで下がってしまったものがございます。これは半減よりも少ないですか。ちょうど半減していますね。これは穀類でございます。すなわち、日本人の食物繊維摂取量の減少の多くは野菜の食べ方が少ないとよく言われますが、それよりも食物繊維に関しては穀類からの摂取量が下がってきたということがわかります。

では、食物繊維はそんなふうに何から食べると考えなければいけないのかというお話を次のページでごらんください。25ページでございます。どの食物繊維が糖尿病の予防に有効なのか。食物繊維だったら何でもよいのか。実はそうではございませんでした。世界に食物繊維の食べ方をはかってから、誰が糖尿病になるかということを根気強く調べたという研究が世界に9つございました。それをまとめてみました。そうしますと、このような結果になりました。縦軸が相対危険と呼びまして、食物繊維の食べ方が少ない人と多い人で、糖尿病の発症の確率が高いか低いかをあらわしております。1.0は変わらない。要するに食物繊維の食べ方が多くても少なくても糖尿病になる確率やリスク、危険度が同じだということを示します。そのうち果物と野菜は、果物由来の食物繊維と野菜由来の食物繊維はたくさん食べようが少なく食べようが、糖尿病を減らしたりふやしたりということほとんど関与していないということを示しています。その一方で、穀類由来の食物繊維はたくさん食べふやすと相対危険が0.67と書いてございますように、4割程度も糖尿病を予防したということが出ています。すなわち、食物繊維というのは食物繊維の総量だけではなく、むしろ何からとっているかということも考えねばならないということになります。しかしながら、ここできょう資料は提出しておりませんが、これは穀類から食物繊維を取り出してきて、それを食べた場合というものではございません。穀物と一緒に普通のお食事として食べたという場合に限られております。

では、次に進んでください。ここからまとめと、少しだけ食事摂取基準の話をさせていただきたいと思います。26ページです。どうしてもどの食品、この食品はよいのですか、悪いのですかということは気になります。私自身も気になります。しかしながら、どの食品が悪いよいという情報よりも、これは言い過ぎですね。情報だけでなく、国民一人一人が自分のおよその栄養素摂取状態を知り、それに応じて食品を選べる社会が来たら、それは幸せな社会であろうと私は思います。あなたを知ろう。自分のために食べ物を選ぼうという時代であります。

例えばということで、1つ例を持ってきました。これは実例でございます。ある方の食事のアセスメントをさせていただきましたところ、このような結果が出ました。食事摂取基準に照らしまして、食物繊維が足りませんね。飽和脂肪酸が多過ぎますよ。脂肪と食塩とカリウムがやや問題ですね。カリウムがちょっと足りなくて、食塩と脂肪がややとり過ぎなんですよ。コレステロールはちょうどいい感じで食べておられますね。こういう結果が出ました。そこでお店に行ったところ右のような表示があった。飽和脂肪酸が少なめで、食塩は普通でというわけです。そうすると、この方は飽和脂肪酸を減らさなければいけないわけですから、飽和脂肪酸が少ない食品を選びに行く。そうするとこれは私には買いだということになります。

こうすると、その人に応じたものが選べるという社会になるだろう。これは1つの理想形でございますが、こんなふうに国民一人一人が少なくとも御自分の食べ方を見て、そして、それに対して社会が出せる情報は出すというような社会をつくれないかなと考えているものでございます。

それに対して次のページをごらんください。厚生労働省の食事摂取基準、来年から用います2015年版は、このような概念を踏まえた策定になっているのではないかと私は読んでおります。すなわち、ここに図5という図がございまして、これはそのままコピーしてきたのですけれども、食事摂取基準をこのように使いなさいと書いてございます。矢印があるのですけれども、一番最初の矢印にスタートというところがありまして、すごろくのふりだしがありまして、食事評価をしなさい。食事摂取状況のアセスメントをしてください。そしてエネルギーや栄養素の摂取量が適切か。正確に言えば食事調査は難しいですからわからないのですけれども、ざっくり評価をしてみてください。そして、それに対して食事摂取基準のような物差しを当てて、どう食べたらよいかのプランニングをして、そして、食べていただけませんかという提案をしてございます。

これに関してはもう少し詳しい図が28ページに出ております。これは食事摂取基準の総論の20ページに掲載されている図でございまして、空色をつけてまいりました。本当はこれはモノクロなのですけれども、空色をつけてきました食事調査によって得られる摂取量、そして右側が食事摂取基準の各指標で示されている値、そして、それを比較してください。そして、その比較によってその方、またはその集団が食べておられる栄養素の量などが適切かどうかということを評価してくださいね。そしてよい食べ方にどうぞ導いてあげてくださいという書き方がなされておりました。

このように進んでいきますと、食べるということが本当に私たちの健康を個人並びに集団、両方で支えてくれる社会になるのではないかと私は期待をしております。

29ページ、あとは単純な補足でございます。昨今、科学情報がたくさん出過ぎたり、それに我々が翻弄されているというお話をしばしば耳にいたします。でも、知的生産物、そのうちの生活を支える科学情報というものは、本来このような構造になっているものであると私は考えております。また、食事摂取基準を含め、さまざまな公的なガイドラインというものはこのように策定がなされるということになっております。

すなわち、上から2番目のガイドライン、総説・専門書・教科書という公的なもの、それから、これは参考にしていただきたいというものなのですけれども、それは個々の研究論文をまとめてつくられる。きょう私が紹介したものはそういうものでございました。それは個々の研究からつくられる。でも、研究でも論文にならないものがたくさんあるというような現実を示した構造物であります。どのような情報を信頼するのかということを考える上で、1つの概念図として使えるかなと思いまして、ここに添付をしてまいりました。

その次でございます。もう30ページ、この図は釈迦に説法だと私は思うのですけれども、栄養と健康の情報をどのように考えたらよいのですかというように、いろいろな方から尋ねられることがございます。そのときに、このような説明をすることがございます。安全や安心の要は情報のトレーサビリティですというように申し上げます。トレーサビリティで申し上げますと、BSE問題のときのトレーサビリティが思い出されます。あのようにしっかりとトレーサビリティをつけて安全、安心を確保していくというすばらしいことを、この日本という国はやった。そして、国民はそうして生活を守った、病気にならないようにしたということであります。

同じことが科学情報、特にこの生活科学情報です。生活科学情報においても行われるべきであろう。または行われていると私は考えております。すなわち、この場合でありましたら栄養健康情報はそれぞれの専門雑誌に掲載された原著論文でございまして、それを専門家が取捨選択し、それを集めまして平易な文章にし、国民に伝えていく。その中にいろいろな専門家のチームや行政の方が入っていただいて、正しいものを厳選し、流していくという仕組みになっているということでございます。

ところが、残念なことに栄養と健康の専門家の育成ということが、我が国においては他の先進諸国ほどには行われておりません。残念ながら基幹大学にはそのような専門育成コースが存在しないという状況でございます。このような状況では、生活科学情報トレーサビリティを確保し、国民が安心をして安全な食生活を送るという意味では、若干心もとないかなという気がいたしております。これは補足でございました。

31ページ、後半は補足情報だったのでありますけれども、日本人におけるトランス脂肪酸の摂取量の実態を、その舞台裏、研究のなされ方も含めて御報告を申し上げました。そして、加えまして大きな食事上の問題であろうと考えられます。そして、世界で大きく取り上げられております。日本も例外ではないと私が考えました食塩と食物繊維を例に挙げて、世界の動向、そして健康影響について少しお話をさせていただきました。

以上でございます。

○阿久澤座長 どうもありがとうございました。

非常に丁寧に御説明いただきまして、非常にわかりやすく理解をさせていただきました。

それでは、議論に移りたいと思います。委員あるいは事務局より質問あるいは意見などございますでしょうか。いかがでしょうか。

○夏目座長代理 佐々木先生、ありがとうございました。本当にすばらしい研究をされているということで、なかなかトランス脂肪酸のことについて理解するのは難しいのですけれども、先生は6ページのところでトランス脂肪酸摂取量は正確にはわからないということで「摂取量=」の前の段階のところは後ほど説明をしますということで、その後に説明をされたわけですけれども、このトランス脂肪酸摂取量を正確にはかるというのは非常に難しいということはよくわかったのですが、ここがわからないとトランス脂肪酸が私たちの健康にどういう影響をするのかというところがなかなかつかめないのではないかと思って、ますますトランス脂肪酸摂取量のはかり方というのは今後進んでいくかどうかというところについて、何か最新のそういう研究方法とかおありになったら教えていただきたいなと思うことと、それから、先生は健康のところの栄養疫学の御専門でいらっしゃるかと思うのですけれども、日本においてそういう栄養の専門家というものを育てる中で、この疫学についての専門家が育っていかないというのは、どういったところに原因があるというふうにお考えか、教えていただければと思います。

○東京大学大学院佐々木教授 とても大切な異なる2つの質問ですね。

1つ目のほうからお答えいたします。トランス脂肪酸の食品成分データのほうは、私たちがこの研究を始めた当時よりも相当量たくさんのものに対しての測定がなされました。その後、報告数がふえました。特に重要なことがございます。トランス脂肪酸は人工的に食品加工の途中でできるものでございますので、その加工技術が変わりますと、トランス脂肪酸の食品中含有量が変わってまいります。

今、手持ち資料を持ち合わせていないので、必ずしも正しくはないかもしれませんが、諸外国の報告も含めますと、その技術の向上促進によりまして、トランス脂肪酸の1単位重量、同じ食品で例えば1つのマーガリン100g当たりというようなトランス脂肪酸の含有量は、減少傾向にあるという報告がございます。しかし、それが全ての食品でわかっているのかというと、そうではなくて、これははかるのに大変なコストもかかりますし、サンプリングも大変なのですが、それよりも測定が難しくて、かなり大変なコストがかかってしまうようでございます。

このような場合に、どのような推定方法をとるかといいますと、ぴったりと何グラム食べていますとか、何%エネルギー食べていますという言い方ではなくて、少なく見積もるとこの程度だろうとか、多く見積もるとこの程度だろうというような範囲を設けて、摂取量を出すということがございます。

例えば、たくさん食べて悪いものに対しては、多く見積もってもこの程度だったら大丈夫だろうという見方。逆もあると思います。少なく見積もってもこれよりたくさん食べているから、本当は高い確率でもっとたくさん食べているという言い方ですね。このように範囲摂取量の誤差をつけて報告をすることが大切ではないかと考えます。私たちも論文ではそれを標準偏差という形で、その標準偏差の中に個人のばらつきも含めますし、測定の信頼度のばらつきも入りますし、そのような統計量を丁寧に見ていく必要があると思います。

トランス脂肪酸を正確に測定する、摂取量を見積もる場合に、越えられない壁が右側の食事調査の質のほうです。食べているマーガリンに対して種類を教えてくれとか、会社名を教えてくれとか、例えば何か菓子パンをどこか外で食べたとか、ケーキをどこかの喫茶店で食べた。そのケーキをつくるために使った油はなんですかとその喫茶店に聞きに行く。これは無理ですね。

すなわち、この摂取量の研究の限界は、左側の食品成分データの開発は、これは測定技術の向上と測定者側や行政側の努力によって、または企業側の努力によって克服またはかなり高いレベルまでいけます。その一方で食事調査のほうは調査技術そのものが進んでも、対象者さんの負荷というものに限度がありまして、それを超えることができないというところが問題になります。

例えば先ほど食塩のところで尿をはかるというお話をしましたが、食塩は尿をはかることによってその問題はクリアできたのです。おしょうゆを0.5gとか、これはどの種類のおしょうゆですかって、外のどこかのお惣菜屋さんで買ってきた、お惣菜のために使われたしょうゆはどのしょうゆですかってわからないです。けれども、食べた食塩がほぼ全て体内に入って85~86%尿に出てくるという基礎研究をベースにしますと、出てくる尿を全てとってくださいと。大変ですけれども、食事の調査、食べたものをはかりとるよりずっと楽です。尿をとれば正確な食塩摂取量がわかるということで、食塩の摂取量測定の問題をクリアしようというふうに進んでおります。

その一方で、トランス脂肪酸は尿に出てくるということはございません。一部が体の脂肪組織に蓄積されます。けれども、体の脂肪組織をとってきてはかってくださいというのはなかなかできないですね。でも、欧米諸国にはそういう研究もあるのです。脂肪組織を本当に少しだけなのですけれども、いただきまして、その中のトランス脂肪酸含有量をはかったという研究もございます。けれども、それも脂肪中に何パーセントのトランス脂肪酸があったというだけであって、その数字から1日当たり何グラム食べているという推定はできません。これは蓄積するものに関してはそれが難しいというものがあります。食塩は食べたものがそのままずっと尿に出てくるので、インとアウトで量がわかるのですけれども、脂肪組織に蓄積してしまうトランス脂肪酸に関しては、たとえ脂肪組織をとってきていただいて、その中のトランス脂肪酸含有量をはかったとしても、摂取量に迫るのはかなり難しいというのが現状であります。

したがって、その摂取量を推定するときには、これは専門家に誤差はどれぐらいあるのかと聞いて、そして上限と下限を教えてくれ。その調査において最も少なく見積もったときにどれぐらいの量を食べていることになるのか。最も高く見積もったときに、どれぐらいの量を食べているのか。そのあたりを教えてほしい。でも、それでもはっきりとした数字は出しにくいだろうと思います。

2つ目の御質問です。食物と健康の影響というのは、全てと私はかなり強く申し上げているのですけれども、疫学研究で行います。これは薬の開発も同じでありまして、開発の最初は試験管の中で、その次は実験動物で、最後に人で、最初は少しだけの人数の人で、その次はたくさんの普通の患者さんにお願いをして調査をいたします。その最後の調査を疫学研究と申します。

食べ物も同じでございまして、食べ物の中に何が入っているか。これは試験管の中で分析をいたします。その次、それは健康影響があり得るのか、これはその食べ物からその栄養素を抽出してきて、実験動物に与えて、実験動物がどうなるか。そして、その後、申しわけないけれども、と殺をして中の内臓の変化を見るとか、血管の変化を見るとか、そういうことをいたします。けれども、それでどれぐらいの量を食べたらよいかはわかりません。ねずみの体の大きさと人間の体の大きさ、ねずみの代謝、人間の代謝、これが大きく異なるからです。だから、どれくらいの量を食べたらよいのですかというための答えは人を使った研究でしか出ない。ところが、ねずみのように遺伝子を全て合わせるとか、人間で言えば全部遺伝子が一緒で、顔が一緒。そんな人をそろえるわけにはいきません。ばらつきます。そうすると、たくさんの人が必要になってくる。そういう疫学研究、すなわち、栄養の疫学研究が必要になってまいります。

結局、食べ物と健康の関係を業務的に、私たちがこれを1日に1回ならいいのとか、これは何グラムぐらい食べるとよいのという量を明らかにする研究は、栄養の疫学研究である。動物の実験ではないということになります。もちろん、動物の実験が終わった後で人に来るわけですけれども、栄養の疫学研究でつくります。きっとこれは日本は医学部の中も含めまして、お薬や外科治療なども全ての医療行為を含めまして、最終的には疫学研究を行うわけですが、疫学と名前がつく医学部の研究施設は実は少ないのです。ほかの諸外国に比べたらずっと少ないです。うちの大学院はやっと3つ講座が、疫学という部屋がやっとできたぐらいなのです。東京大学にしてもです。それぐらい少ないです。医学でどんな研究をされていますかと聞かれて、私は疫学ですと答えると、ああ、そうですか。先生は免疫学ですかとよく言われるのですけれども、それぐらいにマイナー、ところが、全ての医療行為は疫学的に評価がなされるわけでございます。

ところが、問題があります。そうやって徐々に疫学が医学の中で重要だということがわかってきまして、1990年より後ぐらいに日本国内の医学部でも少しずつそういう研究者が出てまいりました。そして、研究室が立ち上がるに至りました。ところが、日本の医学部の中には人間の栄養学をやるという研究室が今度はないのです。そうすると、医学部の中で疫学研究室ができても、その人が食べ物に興味を持ったり、研究するということがなされない。その一方で、食べ物の方は今度は、人間を見るという研究室が置かれない。栄養学と疫学がそれぞれ別の大学に置かれてしまっている。そのためにドッキングができないということになるわけです。それできょうもお話しましたように、世界中の研究のよいものを集めてきた結果という幾つか使用しましたが、この中には日本の研究は入っていませんと言わざるを得なかったのは、そういう結果であろうと思われます。

ほかの国の大学、例えばそれぞれの基幹大学、アメリカだったらハーバードであるとか、ジョンズ・ホンプキンス、医学部大きいですけれども、それから、イギリスだったらケンブリッジとかロンドン大学とか、近場では韓国はソウルに国立大学がありますし、中国は北京、台湾は台北にあります。全て食べ物の疫学を扱っている部屋があるのです。ソウルはかなりよい研究をしています。北京もかなり追いついてきているだろうと思います。その一方で日本はまだそこまで研究室が置かれないという状況で、にもかかわらず、食べ物と健康というのは私たちの社会、生命を支えている根幹であるというのは間違いのないところだと誰しも認めてくださると思います。その栄養と健康を疫学的に調べる、理解できる、伝えられるという専門家の育成を急がなければならない。そうでなければいつまでも研究も進まない。研究が進まなければよい情報も社会に発信できない。社会の人は戸惑ってしまうということが続かざるを得ないのであろうと思います。

○阿久澤座長 どうもありがとうございます。

非常に複雑なデータを出すのに、そういったまだ環境が研究レベルで十分整っていないという、我が国においてはということですが、しかし、世界的にはかなり、欧米では確かに、私の分野の食品科学でも欧米ではどの大学にも大体フードサイエンスはあるのですが、日本ではフードサイエンスと名乗ったところは本当にないというような、本当に食品というものに対してまだ意識が高まっていないのかなという気がするのですが、そんな中、やはり外国の信頼できるデータばかりに頼るわけにはいかないわけです。ですからそういった環境は恐らく佐々木先生中心に充実させていくと思うのですけれども、特に日本でそれをやっていかなければならないというのは、それぞれの国の食生活というものが背景にあるわけですので、そういったところはある意味、重視した研究もさらに今後必要かなと感じております。

○東京大学大学院佐々木教授 まさしくそのとおりでありまして、先進国を横並びにしてみますと、多くは欧米諸国でありまして、そうすると多かれ少なかれ、食べている食品というのは比較的似ている。

例えばオーストラリアの研究成果をイギリスに持っていってもまずまず通じるし、アメリカやカナダに持っていってもまずまず通じる。けれども、日本に持ってくると食べているもの、例えば飽和脂肪酸の摂取量とか根本的に数字が違う、組み合わせも違う。そうすると欧米諸国で行われた生活の中で行われた疫学研究というものを我が国に持ってきて、そのまま使うということは危ないですね。ほかの測定し得なかったある変数が混入していた場合に、似たような生活習慣のところであれば混入したものというのが大きな影響を及ぼさないというか、結果を余りゆがめたりしないと思うのですけれども、全く違う生活習慣とかに持ってくると、欧米では重視しなくてもよかったある栄養素が、日本ではそれを重視してほかの栄養素との関係を見ないといけないということも、十分に考え得ると思います。

トランス脂肪酸もそのとおりでありまして、やはり摂取量はアメリカやヨーロッパで相当に摂取量が高くなって、そして、それまで20年以上、飽和脂肪酸を下げようとずっと言ってきた国が、飽和脂肪酸を下げて多価飽和脂肪酸を上げれば心筋梗塞は下がるという疫学データがたくさん出て、それで国をあげて企業も一緒になって飽和脂肪酸を下げる努力をした。住民さんは飽和脂肪酸を食べないように注意をするし、企業さんは飽和脂肪酸をつくらないようにする。そうすると多価飽和脂肪酸をつくろうとする。けれども、彼らはかたいマーガリンが食べたい。多価飽和脂肪酸にするとあれがソフトになってしまう。かたくするためには水素添加をする。そのときにトランス脂肪酸ができてしまう。そうすると飽和脂肪酸を避けようと思ってつくった食品が、意図せずトランス脂肪酸をつくることになってしまった。そうしているうちにトランス脂肪酸の健康影響がわからないままに世の中にそれが出回ってしまい、もちろんそれがなかったら研究は必要なかったわけで、そして飽和脂肪酸が下がったら今度はトランス脂肪酸の摂取量が上がってしまった。そして、心筋梗塞にかかった人たちとかかわらなかった人たちとかいうような疫学研究をしてみたところ、飽和脂肪酸だけではなくというか、集団によってはむしろトランス脂肪酸のほうが影響が大きいというような結果が出た。よいと思って減らした飽和脂肪酸が思わぬところで回って、トランス脂肪酸を介してまた動脈硬化性の疾患をふやすというような悪い循環、悪いパスウェイをつくってしまったという事情があると思います。

ところが、日本人はもともと先進諸国の中では最も飽和脂肪酸が少ない民族として世界でも有名でした。ということは、日本人の飽和脂肪酸摂取量をふやさなければ、それよりも減らす必要というのは本来余りなかったわけで、最近少しふえてしまったので、目標量という厚生労働省の値を少し上回る人が少なからずいますけれども、もともとの日本人の飽和脂肪酸の摂取量はかなり低い値でありまして、そうでありましたらアメリカ人やヨーロッパ人が飽和脂肪酸を減らすために多価飽和脂肪酸をふやし、でもやはりかたい油が食べたいといってマーガリンにいって、ショートニングにいって、トランスにいってというような、その循環は日本人では本来成立しなかったはずだろうなと思うのです。

そうすると、諸外国、すなわち欧米諸国でトランス脂肪酸が問題だから、日本でもそのまま問題だというのではなくて、なぜ欧米諸国はそうなったのか、どういう歴史的経緯、食品工業まで含めて、そして、この疫学研究を中心にして、その結果を中心にして、どういう経緯、歴史があったのかということを見直す。そして、ここが栄養疫学の出番なのですけれども、それぞれの集団はそれぞれの栄養素、例えば飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を何グラム食べていたのか。それはどれぐらいの人を犠牲にするという結果になってしまったのかということを十分にそういう報告を読んで、それを日本の集団に当てはめる。そのときに日本人は飽和脂肪酸を何グラム食べているから、それで換算すると犠牲者は何人になるだろうというような計算をしてみて、社会影響を推測するというような作業だろうと思います。

先生おっしゃるように、食べ物の結果は欧米の文言をそのまま持ってくるわけにはいきません。その一方で、日本と外国は違うと言い切ってしまうことも誤りであると私は思います。

○阿久澤座長 ありがとうございます。

ほかございますか。

もう一点、これは先生の御専門とは外れるかもしれないのですが、非常にトランス脂肪酸の摂取量を推定するのは難しいというところに関連するのですけれども、トランス脂肪酸といっても多くの種類があると思うのです。それを摂取量の中に特定する必要があるのか、多分まだわかっていないところかと思うのですが、共役しないものだけをトランス脂肪酸としてトランス型なのだけれども、共役していないもののみに限定してトランス脂肪酸として推定。それで十分だろうとお考えか、特定していくほうがさらに生活習慣病とはかなり密接なところに近づけるのではないか。どうでしょう、その辺でお考え方あったら。

○東京大学大学院佐々木教授 私はその分野の専門ではなくて素人に近いので、疫学の研究というのは現状ではトランス脂肪酸をそこまで分けて、個人を分ける能力がないのです。あえて分けられるとすれば、乳製品由来の、自然由来のトランス脂肪酸と工業由来のトランス脂肪酸を分けて、その健康影響を見るというところぐらいまではできています。欧米のデータでは。でも、それより細かく分けて、工業由来のトランス脂肪酸は共役型が入っているものか否かというところまで分けるというのは、技術的に疫学の方法論的に難しいだろうと思います。

では、どうすればよいかということなのですけれども、私は疫学者または実践疫学者として別の観点を持っているのですが、それは今までの欧米の研究を見ても相当量にトランス脂肪酸を食べている人は、やはり危ない。問題は、それはどのトランス脂肪酸が危ないかというのではなくて、相当量にトランス脂肪酸を食べている人を、あなたって言ってあげることが大切かなと思うのです。その人に「あなた注意してね」と言えるような仕組みがつくれないかなと。

そうなってきたときに、トランス脂肪酸を幾つかに分けて、これを外した場合はどうなるとかいうことも考えた上で、それでも高いというぐらいの人を「あなた」と言えるような仕組みがつくれると、集団全体、国民全体が危ないのではなくて、瞬間的かつたくさんとる人が危ないというような栄養素ですから、何かそういう人たちを選び出すための仕組みができないかなと。恐らくそのほうが社会への効果、医学的に言う救命率というか、どの人たちをターゲットにするかということに関しては、こういう種類のものに関してはいいかなと思います。私たちの調査データでも、一部の人は摂取量がかなり多い人もいましたので、それでも欧米の分布から見ると、それでもアメリカ人に比べたらあなたは出ていないよねというぐらいに少なかったのではありますけれども、国民全体の中にはそういう方が見えるかもしれません。でも、それが誰かまだわからない。それを何か現実的な方法で、誤差を含めてもその可能性ということを入れれば、そうするとあなたはこういう食べ物やこういう食べ物は控えたほうがよろしいのではないでしょうかというようなメッセージを出せるでしょう。

本来であれば、もっとトランス脂肪酸のリスクの大きさの違いまで入れて、メッセージを出したいと私は思いますが、少なくとも疫学の直接に健康影響を見るという疫学方法は、どうやらまだそこまでのメッセージは出しにくいなという印象を持っています。

○阿久澤座長 ありがとうございました。

ほかございますか。よろしいでしょうか。大体の時間なのですけれども、よろしいですか。

それでは、佐々木先生、どうもありがとうございました。

佐々木教授のお話から幾つかの点について整理させていただきます。

きょうは日本人におけるトランス脂肪酸摂取量の実態と健康影響への推測ということですが、さらに食塩の過剰摂取と世界の動向あるいは食物繊維の摂取不足と健康影響ということで、非常に目からうろこというか、そうだったのかという内容も多く伺うことができました。そんな中ですが、佐々木先生は日本人の栄養素摂取基準2015で最新の文献レビューを行われましたが、そのトランス脂肪酸について食品安全委員会の評価結果を変えるような知見はありませんでした。それが1点目、2点目が、日本人の栄養摂取量の分布の推計はきちんとした精度の設計をして、お金のかかることと思いますので、財源を投入してしっかりと行わないと非常に難しいということでした。ここには食育を科学的に推進していくためにも、これは今後きちんと進めていかなければならない分野だと感じました。

3点目に、トランス脂肪酸だけが突出して取り上げることは問題があるという御指摘もいただきました。生活習慣病に関するさまざまなリスク要因は総合的に判断していく必要があります。日本人の食生活では、まず塩分の摂取が最大の問題だと。そして、脂質についても飽和脂肪酸の方法にまず注意すべきということでした。

4点目ですが、その一方ということで、トランス脂肪酸について何も対策をとらなくてよいというわけではないということでした。脂肪酸は消費者が意識して過剰摂取しないように注意すべきもの。トランス脂肪酸は消費者の意識ではなかなか対策が難しく、事業者の努力が実を結びやすいものということでした。

最後ですが、5点目で、国際的な議論の場でもトランス脂肪酸の低減対策が進展してきたこともあり、トランス脂肪酸ファースト、そしてトランス脂肪酸セカンドという議論、両者をあわせて注意していきましょうというような議論に移りつつあるということでした。

本日は、佐々木教授におかれましては、ありがとうございました。

今後の食品ワーキング・グループの運営についてですけれども、トランス脂肪酸については引き続きまして、日本動脈硬化学会の提言等についてヒアリングをしていくとともに、本日、佐々木教授のお話にもありましたように、トランス脂肪酸だけではなく、日本人の食生活全体を改善していくという、より広い視野に立った議論を進めていければと考えております。

最近のことなのですが、新開発食品調査部会から消費者委員会に特保制度の運用のあり方について問題提起がありまして、6月24日の委員間打ち合わせで、食品ワーキング・グループで取り上げていくことを要請されております。

消費者には健康な生活を送っていく権利がある。トランス脂肪酸や飽和脂肪酸など、バランスのよい食事をとっていくためには、どのように商品を選んだらよいかという表示の問題もありますし、健康増進のために食品機能の表示を特に許可された特保という制度もあるわけです。両者の問題を並行して議論していくということで、いかがでしょうか。夏目座長代理からもしこのことについて御意見いただけますでしょうか。

○夏目座長代理 私はまだ新開発食品調査部会からの問題提起というものが十分に把握できておりません。食品ワーキング・グループで取り上げていくということは異存ございませんけれども、まず特保制度の運用のあり方について、どのような問題提起がされているかということをしっかり把握した上で、問題の整理をするということをこのワーキング・グループでさせていただければと思っております。

その問題提起を分析して整理をされた後、さらに特保制度の運用全体、または特保制度のあり方、そういう大きな問題に発展していくという可能性があるならば、食品ワーキング・グループではなくて、本格的な専門家を入れた調査会なり、そういう別途の議論の場が必要ではないかと思います。

したがいまして、今の段階で問題を整理するという意味では、専門家の方のお知恵も借りながらワーキング・グループで議論をするということには賛成するといいますか、この場を使っていいのではないかと思っております。

○阿久澤座長 ありがとうございます。

それでは、唯根委員。

○唯根委員 私は第3次の委員会の中で、この食品関係の新開発食品調査部会の委員、そして、今回立ち上がりました食品ワーキングの委員になりまして、今、本当に先ほど委員長おっしゃられたように、日本人の食生活全体を改善していくということを消費者目線で、そして、当初は表示から入っているわけなのですけれども、それだけではなくて、本当に栄養という分野できょう非常に目からうろこというものが先ほどありましたが、非常に中身の濃いことを学んでいるなと、自分自身が本当にもう一度向き合わなければいない重要な問題だということと、それから、こういうワーキングでできること、できないこと、その辺も整理をしていくということでは、夏目座長代理おっしゃられたとおりだと思いますので粛々と、いうか、本当に外部の先生方のお知恵も借りながら、まずは問題点の生理をしていくところから始めて、そして、新開発食品調査部会にもともと置かれた役割は役割として、そちらも臨んでいきたいと思います。

以上です。

○阿久澤座長 ありがとうございました。

それでは、ワーキング・グループの今後は、現在このようにしていますトランス脂肪酸関連の問題の検討と、今、伺いました特保制度の運用のあり方については、まずは論点を整理するということですね。このことについて、ですからこの2点について並行しながら調査していきたいと思います。

本日の議事は以上です。最後に次回の日程について事務局から説明をお願いいたします。

≪3.その他≫

○大貫参事官 どうもありがとうございました。

次回の日程につきましては、また改めて御連絡をさせていただきます。

以上でございます。

○阿久澤座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございました。

≪4.閉会≫