第16回 消費者契約法に関する調査作業チーム会合 議事要旨

日時

2013年4月15日(月)17:00~19:30

場所

消費者委員会大会議室1

出席者

 河上正二消費者委員会委員長、山口広消費者委員会委員長代理
 大澤彩准教授、沖野眞已教授、鹿野菜穂子教授、北村純子弁護士、角田美穂子准教授、
 千葉恵美子教授、中田邦博教授、平尾嘉晃弁護士、丸山絵美子教授、山本健司弁護士、
 横溝大教授
 【事務局】 原早苗事務局長、小田克起審議官、稲生奈実参事官補佐、山田茂樹委嘱調査員(司法書士)、戸上真語政策調査員

議題

 団体訴訟/国際消費者契約における論点整理

議事要旨

(1)適格消費者団体の差止請求権に関する実体法規定の現状と課題

<報告>

  • 法第3章のうち、実体法の観点からは、法12条および法12条の2が検討対象となる。
  • 適格消費者団体の差止請求権の要件・効果については、差止めの目的に違いがあることから、不当勧誘行為型と不当条項型の場合に分けて検討する必要がある。改正にあたっての検討課題も異なる。
    • (i) 不当条項型の場合に、適格消費者団体による差止請求権が、個別の事案を前提とせずに、「問題となる契約条項の使用を市場で継続してよいかについて定型的ないし抽象的な判断をも求める権利」であるとすれば、以下の点について改正を検討することが必要となる。
    • ア) 現行12条の規定は、当該条項を含む意思表示を差止めるという構成になっていることから、不当条項自体を差止めという規定ぶり自体を変更するべきである。これによって、推奨行為自体を差止請求の対象とすることができる。
    • イ) 個別条項の一部が不当である場合、問題となる部分を含む全体条項が消費者全体の利益に影響を及ぼす可能性がある場合には、原則として全体条項を差止めの対象とするべきである。
    • ウ) 契約条項の有効・無効が具体的事案によって分かれる場合であっても、適格消費者団体の差止請求権を上述の権利と解するのであれば、個別の消費者契約の取消・無効を原因とする個別訴訟の場合とは異なり、個別の事情を契約条項の不当性の判断要素とすることは原理的に排除されることになる。差止請求の場合には、不特定かつ多数の消費者を念頭におくことになるから、当該条項の不当性を抽象的に判断するにしても、当該条項では、消費者に最も不利に解釈すると(事業者にとって最も有利に解釈すると)どのような内容になるかが基準となり、個別訴訟における契約条項・約款内容の客観的解釈の問題とは異なる原則を採用すべきである。
    • エ) 予防に必要な措置として、原則として契約条項について内容を改訂するように請求することはできないとすべきである。
    • オ) 不当な契約条項によって実際に不利益が生じるのは、契約の履行時点であることからすれば、過去の違反行為によってすでに生じた危険の除去を認めないと、差止判決の実効性が損なわれることから、事業者から消費者に不当条項の不当性を周知するなど積極的措置を講じるように求めることができるとすべきである。
    • (ii) 不当勧誘行為型の場合には、事業者によって不当な勧誘行為が反復継続して行われることによって不公正な取引方法によって需要が喚起され、消費者の選択の自由が侵害されることによって生じる損害を未然に防止し拡大を防止することを目的とする権利であるとすると、個人法益には還元できない集合的利益・拡散的利益の侵害までしか差止請求権の対象とならない点で、競争法上の差止請求権とは違いがあることになる。競争法上の差止請求権の場合には、消費者に被害が発生しているとはいえない場合であっても、潜在需要が喪失していれば差止めの対象となるからである。独禁法違反行為について適格消費者団体による差止請求権が認められていないことも勘案すると、集合的利益・拡散的利益を実現するためには、不当な勧誘行為だけを対象とするのではなくて、広告・表示に対象を拡大することが必要である。
  • 差止請求権の相手方が複数である場合に、相互の債務の関係について規定をおくべきである。
  • 法12条の2第1項の請求権の制限効については、既判力が及ばないとされる裁判上の和解や請求の放棄の場合には、請求権制限効が及ばないとすべきである。
  • 法12条の2第2項については、当該条項等の不当性を高度に推認させる重大な社会状況の変化を新事由とすることを検討する必要がある。

<主なディスカッション>

  • 契約条項の解釈の準則に関しては、差止めの場面では、「消費者にとって最も不利に解釈した場合」を基準として不当性を判断するべきで、個別事案の場面とは異なることを意識する必要があるのではないか。
  • 違法性の審査基準について、差止の場面と個別事案の場面とでは、異なりうるので、その点をはっきりさせるべきではないか。
  • 本研究会は、消費者契約法の実体法(1条~11条)の改正議論を行うために組織されたのであって、適格消費者団体の差止請求訴訟に関する問題は、本研究会の場ではなく、消費者団体訴訟制度に関するしかるべき検討の場で検討されるべきことである。
  • 実体法(1条~11条)改正に係る検討課題において、消費者団体訴訟制度と関連付けて何らかの事項を触れたりしようとする場合には、適格消費者団体の差止請求活動が事業者の違法行為を差止めることにとどまらず、個々の消費者の被害救済にも結びついている等といった適格消費者団体の役割の重要性や、その創設過程において、司法制度改革推進計画(平成14年3月19日閣議決定)等により「団体訴権の導入、導入する場合の適格団体の決め方等について、法分野ごとに、個別に実体法において、その法律の目的やその法律が保護しようとしている権利、利益等を考慮した検討を行う」とされてきた経緯はじめ、各検討課題に関するこれまでの議論経過や議論状況等を十分に理解のうえ、それを踏まえてなされなければならない。

(2)国際消費者契約

<報告>

  • 本報告では、国際裁判管轄や準拠法選択において消費者契約に関する特則が導入された現在でも、なお国際消費者契約を巡る紛争につき十分に対処出来ていない点はあるか、とりわけ消費者契約法に関し立法論的に対応が必要な点があるか否かという問題を扱う。
  • 消費者契約に関する法の適用に関する通則法11条は、契約準拠法如何に拘わらず消費者の常居所地法における保護レヴェルが保障される仕組みを実現したが、その適用範囲、特定の強行規定を適用すべき旨の意思表示の解釈においてなお不明確さを残している。また、消費者契約法8~10条は、日本に常居所を有する消費者による意思表示を待って適用されるべき法規なのか、それとも、意思表示がなくとも日本と一定の密接関連性があれば常に適用されるべき強行的適用法規なのか、現状では不明確であり、検討する必要がある。
  • 適格消費者団体による差止請求に関する国際裁判管轄については、消費者契約法中に明文規定がなく、新設された国際裁判管轄に関する規定の適用可能性に関しては、未だ不明確な状態にある。公益的目的のために政策的に導入された同制度の制度趣旨からして、外国事業者が「不特定かつ多数の消費者に対し」一定の行為を現に行い又は行うおそれがあるときには日本に国際裁判管轄があるとすることを検討すべきである。また、消費者契約法12条の国際的適用範囲についても、「勧誘」「申込み又はその承諾の意思表示」が「日本で」行われているか行われるおそれがある場合といった文言の追加を検討することが望ましい。

<主なディスカッション>

  • 通則法では11条において消費者契約の準拠法の特則があり、また、国際裁判管轄についても民訴法3条の4によって、消費者が不利になる場面はほとんどなくなったと評価できる。
  • 通則法11条1項の意思表示は、必ずしも契約時に限らずいつでもよい。時効の援用のようなものである。
  • 外国で契約をした、あるいは、外国で履行を受けたような場合には、通則法11条1項の適用が除外される。
    ただし、消費者の常居所地で勧誘をうけていた場合は適用がある。この場合の「勧誘」には、広告であっても、ある程度顧客ターゲットを絞ったものであれば該当すると考えるべき。

以上