第14回 消費者契約法に関する調査作業チーム会合 議事要旨

日時

2013年2月18日(月)9:30~12:00

場所

消費者委員会大会議室1

出席者

 河上正二消費者委員会委員長、山口広消費者委員会委員長代理、
 大澤彩准教授、沖野眞已教授、鹿野菜穂子教授、北村純子弁護士、角田美穂子准教授、
 中田邦博教授、平尾嘉晃弁護士、丸山絵美子教授、山本健司弁護士
 消費者庁消費者制度課 加納克利企画官
 【事務局】 原早苗事務局長、小田克起審議官、浅田英克参事官、山田茂樹委嘱調査員(司法書士)、戸上真語政策調査員

議題

 各論・各種契約/継続的契約における論点整理

議事要旨

(1)各論・各種契約(報告)

  • 消費者契約法に、契約類型に即した規定を置くことについても検討することが必要である。この点については、現在進行中の民法(債権関係)改正との関係も問題となるが、現時点では、民法中に、各種の契約に即して消費者契約に関する具体的な特則を置くことになる可能性は高くない。そこで、あらためて消費者契約法において、このような各論的な規定を導入することの是非について検討する必要性は高いといえよう。
  • より具体的には、
    1. 一般法において、任意規定とされているものの中でも、消費者契約において、消費者に不利な形での特約の効力は認めないという形で、片面的強行法規制を明確にする必要のあるものを検討することが必要である。もっとも、これについては、不当条項規制の中の一つの作業として位置づけることも可能であろう。
    2. 一定の類型の契約につき、消費者に一定の権利が認められ、あるいは事業者に一定の義務が課されることを明確にする旨の規定を置くことが検討されるべきであろう。具体的には、準委任契約における消費者の解除権、継続的契約における消費者の解除権、複合契約において一定の場合における消費者の解除権および抗弁の対抗規定等が考えられる。
    3. なお、契約類型ごとという訳ではないが、個別の問題につき、消費者契約に一定のルールを設けることが適切と考えられるものもある。たとえば、条項使用者不利の解釈準則については、たとえ一般法である民法に設けられないことになったとしても、消費者契約法にこれを規定することが必要なのではないかと思われる。

(2)各論・各種契約―消費者契約法に消費者売買法に関する規律を置く必要はあるか(報告)

  • 売買に関する規律は、契約法の重要な構成部分であるとともに、一般契約法の基本的な骨格を形成するものといえる。売買の規定が有償契約の典型として準用されていることはこの例となる。
  • そこで、消費者契約のあり方の問題として、こうした消費者法との交錯領域にある売買法をどのように規律すべきなのかという観点から、消費者売買法としての規律の可能性を検討することが必要である。
  • たとえば、現行消費者契約法の実体法的規律としては、消費者契約一般についてその契約締結過程および契約内容が規制されているが、これに対して、契約の履行過程や清算過程についてはそれに対応する規定が置かれているわけではない。とりわけ、契約不履行に基づく救済手段は、消費者の権利としても重要であると思われるが、その具体的な規定は設けられておらず、民法の一般規定に委ねられている。そこで、こうした規定を消費者契約法における規律として設けることも検討する必要がある。

(3)継続的契約(報告)

  • 契約の継続性故に強まる特徴、すなわち 1. 周辺事情の変化や当事者の状況変化が問題となりやすい、2. 既履行部分と未履行部分、あるいは不履行部分とそれ以外の部分とを区別できる場合が多いという特徴に伴う問題として、1)消費者の長期拘束・消費者からの任意の中途解除と効果を巡る争い、2)事業者の債務不履行や事情変更に対する消費者からの解除要件と効果を巡る争い、3)事業者からの解除の可否を巡る争い、4)契約内容・条件の変更に関する争いに着目し、消費者契約法、あるいは不当条項に関する規律に、継続的契約の特徴に鑑みた何らかの法規定や改正を加える必要があるのか、という観点から検討。
    • 1) 一定の拘束期間経過後に認められる将来に向けての消費者解除権・不相当に長期に拘束する契約条項の規制の導入、あるいは継続的消費者契約における将来に向けての中途解除権の拡大が必要かつ適切かが検討の課題となる。さらに、消費者による更新拒絶の機会を確保する法規定や消費者に不相当に長い告知期間を課す条項に対する規制が必要かも検討課題となる。
    • 2) 継続的消費者契約の性質に即した(いわゆる一身上の事由も含むような)、事情の変更を理由とする消費者解除権の導入、継続的消費者契約に即して具体化した債務不履行に対する消費者解除権の導入が検討課題となる。
    • 3) 法律上事業者に解除権が認められない事態に対しこれを認める契約条項、法律上の事業者の解除要件を緩和する契約条項の規制を、不当条項規制のグレイ・リストとして行うといったことが検討課題となる。
    • 4)事業者による契約の一方的変更などに対処するとともに、事情変更に対し、事業者の行為規範として、誠実対応義務などを導入することが必要かつ適切かといった検討課題をあげることができる。
  • 立法の論点・考え得る方向性として以下の事項を挙げる。
    1. 消費者契約では、消費者のみが履行自体に利益を有し、事業者は解除による損害を賠償されれば足りることが多く、さらに継続的消費者契約では、消費者にとって履行が無駄となる場合の非効率性リスクが大きい点に鑑み、継続的消費者契約において任意規範として(特段の合意がない限り認められる)中途解除権を導入することが可能か、検討してみてはどうか。
    2. 契約継続の要求不能を理由とする解除権を、解除事由の例示とともに消費者契約の特性に即して(大量取引における事業者のリスク分配可能性などを考慮し消費者の一身上の事由も含み得るものとして)法規定として導入することを検討してみてはどうか。
    3. 継続的消費者契約における、債務不履行の重大性判断や、将来に向けての解除か、一部解除か、全部解除(遡及効・巻き戻し)かという問題は、さしあたり民法規定と解釈に委ねてはどうか。
    4. 不相当な長期拘束、不相当に長い告知期間、更新拒絶要件の加重、事業者の解除権留保・解除要件の緩和、一方的契約条件の変更などに対応する法規定は、不当条項規制のグレイ・リストの問題として、まずは対応すべきであろう。
    5. 事情変更発生時の事業者の誠実対応義務などを定める法規定が必要か否かは、消費者トラブルの実態に鑑みて検討を要するものと考える。

(4)消費者契約の特則に関する日弁連の議論状況(報告)

  • 日弁連では、平成24年2月に「消費者契約法日弁連改正試案」、同年10月に「民法(債権関係)改正に関する意見書(その4)―消費者に関する規定部分-」を提言している。
  • 消費者契約法の私法実体法規定として、現在の「不当勧誘行為規制」「不当条項規制」の2分野に収まりきらない法分野における「消費者契約に関する民事ルール」についても、新たな立法の要否・内容の検討が必要ではないか。
  • 具体的には、法制審議会における民法改正論議の議論を踏まえ、もし「消費者契約の特則」が民法典に規定されない場合には、消費者契約法における立法を検討すべきではないか。他に、消費者契約の取消・無効の効果、複数契約の無効、消費者契約約款その他についても同様である。
    <「消費者契約の特則」の例>
    1. 消費貸借における目的物交付前の解除権の付与
    2. 消費貸借における期限前弁済時の免責
    3. 消費貸借における抗弁の接続
    4. 条項使用者不利の原則の採用
    5. 継続的契約における中途解約権の付与(サービス契約における任意解約権の付与) など

<主なディスカッション>

  • 消費者契約法に各種契約類型に即した規定を置くとした場合、各種契約に即してデフォルトのルール(任意規定)を規定することとなる。その場合、任意規定を外れる特約の効力については、不当条項規制を重なってくることとなる。不当条項リストを考えるにあたっては、この点をさらに検討する必要がある。
  • なお、民法改正において民法典の中に消費者概念や消費者の特則を入れない方向で取り纏めが進められている現状においては、消費者契約法でこれを受けていく必要性がより高まっているのではないか。もちろん、特定商取引法のような個別的な取引を対象とした定め方までは困難としても、民法の契約各論ぐらいの具体度は、消費者契約法も前提にして問題ないのではないか。
  • なお、賃貸借や消費貸借のように、別途、特別法(利息制限法や借地借家法など)があるような契約類型については、消費者契約法の各論の定めとの関係をどうするのか、慎重に考える必要がある。ただし、特別法でも規定がないようなところ(原状回復ルールや更新料などの費用の問題)は消費者契約法が、積極的に受け皿になる必要がある。
  • 権利付与型の規定について(継続的契約の中途解約権など)は、任意規定的に置くのか、片面的な強行法規として置くのかいくつかのバラエティが考えられる。結局は付与された権利の強さをどの程度のものと位置づけるかによって、そこから外れる特約の効力について、その合理的理由をどこまで厳格に要求するかが異なってくる。

(以上)