第13回 集団的消費者被害救済制度専門調査会 議事録

最新情報

日時

2011年7月22日(金)9:30~12:45

場所

消費者委員会大会議室1

出席者

【専門委員】
 伊藤座長、三木(浩)座長代理、磯辺委員、大河内委員、大高委員、沖野委員、
 窪田委員、黒沼委員、後藤委員、中村委員、三木(澄)委員、山本委員
【担当委員】
 池田委員、下谷内委員、山口委員
【関係省庁等】
 消費者庁  川口審議官、加納企画官、鈴木課長補佐
 法務省民事局  小林参事官
 最高裁判所事務総局民事局  朝倉第一課長
 国民生活センター理事長・弁護士  野々山氏
【消費者委員会事務局】
 齋藤審議官、原事務局長

議事次第

1.開会
2.論点整理4(その他の論点)
3.閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

議事次第(PDF形式:58KB)
【資料1】 本日検討する論点について(消費者庁提出資料)(PDF形式:261KB)
(参考資料1) 専門調査会で出された意見等の整理(消費者庁提出資料)(PDF形式:149KB)
(参考資料2) 集団的消費者被害救済制度専門調査会 今後のスケジュールについて(PDF形式:66KB)
(参考資料3) 消費者被害についての意識調査について(概要)(消費者庁提出資料)(PDF形式:102KB)
(参考資料4) 消費者被害についての意識調査について(消費者庁提出資料)(PDF形式:452KB)
(参考資料5) 集団的消費者被害救済法制について(経団連消費者法部会)(中村委員提出資料)(PDF形式:225KB)
(参考資料6) 消費者集合訴訟制度の現状の議論に対する意見(経営法友会)(中村委員提出資料)(PDF形式:389KB)
(参考資料7) 集合訴訟制度に対する意見(一般社団法人 電子情報技術産業協会 法務・知的財産権委員会)(中村委員提出資料)(PDF形式:195KB)

≪1.開会≫

○原事務局長 おはようございます。時間がまいりましたので、始めさせていただきたいと思います。
 本日は、早朝から委員の皆様方にはお集まりいただき、ありがとうございます。
 ただいまから、「第13回集団的消費者被害救済制度専門調査会」を開催いたします。
 議事に入る前に、配付資料の確認をさせていただきたいと思います。「議事次第」と書かれた紙の裏に配付資料の一覧をおつけしておりますが、座席表の下に、「本日検討する論点について」を資料1、資料1別紙ということで、横長の「弁護士法第72条の例外とされる法律における規律一覧」がついております。
 参考資料といたしまして、参考資料1で「専門調査会で出された意見の整理」、参考資料2といたしまして「今後のスケジュール」、参考資料の3と4は「消費者被害についての意識調査について」ということで、消費者庁消費者制度課で御準備された資料です。
 参考資料5、6、7は中村委員から御提供された資料で、後ほど御紹介いただきますけれども、経済界、事業者団体からの御意見ということで承っております。
 途中、不足がございましたら、また事務局までお申し出いただければというふうに思っております。
 それから、消費者庁の担当の審議官として川口審議官が先日、着任されておりまして、本日、御出席いただいております。つきましては、一言、御挨拶をお願いしたいと思います。

○川口審議官 ただいま御紹介いただきました、消費者庁審議官川口でございます。
 消費者庁におきましては、この7月から、審議官3人体制に1人増員いたしまして、その新設の審議官に着任しております。消費者庁における法律の企画・立案に関する事務を担当させていただきます。
 本制度に関しましては、昨年の10月以来、本調査会におきまして調査、御審議をいただいているということで厚く御礼申し上げます。先般、政府におきましては、7月8日に閣議決定いたしました「『消費者基本計画』の『検証・評価』及び見直し」におきまして、施策の実施時期につきまして、「平成23年夏を目途に、制度の詳細を含めた結論を得た上、平成24年常会への法案提出を目指します」としたところでございます。引き続き、とりまとめに向け精力的に調査・審議いただきますようお願い申し上げます。

○原事務局長 どうもありがとうございました。
 それでは、伊藤座長、議事進行をどうぞよろしくお願いいたします。

≪2.論点整理4 (その他の論点)≫

○伊藤座長 おはようございます。議事に入ります前に、先ほど事務局長からお話がありました通り、中村委員から意見書を3通提出いただいておりますので、それにつきまして説明をお願いいたします。

○中村委員 中村でございます。説明のお時間を頂戴いたしまして、ありがとうございます。
 経済界から寄せられました意見ということで、経団連の意見、経営法友会の意見、一般社団法人電子情報技術産業協会の意見というのを私の方から提出させていただいております。今回提出いたしました意見書というのは、私が事業者の意見を反映する立場でこの調査会に出席しているということで、幾つかの団体でまとめた意見書の提出を委嘱されたという形になっております。電子情報技術産業協会様の意見書につきましては、個々の御意見を確認させていただいていないところもございますので、基本的には経団連と経営法友会の内容について、ここで簡単に御紹介させていただきたいと思います。説明は、私の理解するところに従ってさせていただきますので、場合によっては若干ずれる点もあるかと思います。その点は御了承いただきたいと思います。
 まず、全体の考え方についてでございます。例えば経団連意見の1ページの2段落目のところにおきましては、市民社会において権利の救済は、権利者自身が自己の責任と判断で行うというのがまずは大原則でございまして、集合訴訟というのは、それがうまくいかないことに対する補助的な手段でございます。あくまで補足的、限定的であるべきであって、濫用の防止について万全の対策を講じなければならないという基本的な考え方を述べてございます。
 2ページの真ん中辺りでございますが、事業者というのは社会の豊かさを生み出す役割を担っているものでございますので、いたずらに事業者と消費者の対立を軸にした制度設計は将来に禍根を残すおそれがあり、専門調査会が終了した後も、中小企業の方々も含めましていろいろな事業者等の意見を聞いて、バランスのとれた制度ということで慎重に検討を続けていただきたいということを書いてございます。
 その後のところでは、現在、悪質事業者の対応というのが解決すべき課題でございますので、これにつきましては、財産保全制度、経済的不利益賦課制度が対策として適しているのではないか、そうしますと、これを優先して対策を練っていくべきではないか、この問題につきましては、行政の中で検討されているというふうに理解しておりますけれども、関係者、事業者等も含めて更に議論の場を設けていただきたい、こういう意見が主には3ページの2ポツの上の辺りです。それから、経営法友会の意見の1~2ページのところにも書かれてございます。全般的にはこういう立場の中で、今回は、この専門調査会A案ということで整理を進めておりますので、A案の個別の論点について意見を述べております。
 ここからは、すべての論点に触れますとちょっと錯綜するところもございますので、主に本日の論点について御紹介をさせていただきたいと思います。
 まず、手続追行要件ということで、経団連の意見の方では7ページから8ページのところです。経営法友会の意見では4ページの下のところから6ページ、7ページという形で記載してございます。
 まず、多数性の要件ということでございまして、経団連意見の方では、民事訴訟法268条並みの、例えば100名といった形で具体的な要件を定めるべきであるという形で述べております。
 また、経営法友会の意見では、消費者庁が以前の会合の取りまとめというところで出していただいた報告書の参考資料の具体的な事案を見ていくと、数千人規模の内容であるということで、その程度の事案にすべきではないかという意見でございます。
 次に、共通性と支配性のところは若干議論がかぶるところがございますので、まとめてお話しさせていただきたいと思います。ここは共に、共通争点を解決すれば対象消費者全員の問題が同時に解決するという程度の具体的な共通性が必要だという考え方でございます。説明は経営法友会の方が少し詳しく書いているかと思いますけれども、例えば製品の不具合の場合につきまして、違法責任の問題と損害の議論を別々に議論をすると判断が難しい事案、こういう事案につきましては、A案は、第一段階と第二段階でこういった議論を分けて判断するということですので、こういうA案の仕組みに入れるのは適当ではないのではないかというところを述べております。
 優越性というのは、最初に述べました、本制度は補助的であるべきだということでございますので、そこのところを述べております。
 最後に、事務局の本日の御説明の中では切り出した要件にはなってございませんけれども、判決の片面的効力ということから特に配慮すべき事項として、係争利益の把握可能性ということを書いております。ここは、要件として切り出すかというところはあるかと思いますが、いずれにしても、その次の対象事案のところで判断の基準になるということかと思います。
 続きまして、対象事案でございます。経団連の方は8ページ以下でございまして、経営法友会の方は、少し戻っていただきまして3ページ以下から書いてございます。
 まず、経団連意見の8ページの一番下、「少額事案への限定」という考え方です。経営法友会の2ページの(1)には、事例を見ていくに当たって、少額事案の限定と限定列挙の重要性ということを書いてございます。
 これらを前提といたしまして、製品事故等の人身被害、あるいは人格権損害というのは、損害の個別性が強いので除外すべきという意見が、経団連意見の9ページの(2)、経営法友会の3ページのマル2というところに書いてございます。
 次に、個人情報の漏えいということでございます。個人情報の漏えいに至る事情が管理体制の問題である場合、他人の犯罪による場合など、原因もさまざまである場合がある。あるいは悪用によって具体的に被害があったのか、漏えいがあったことの慰謝料的な損害なのか、そういった金額的な評価について個別性が強いことから、除外すべきというふうにしています。
 また、集合訴訟が国や地方公共団体に適用されるのかというところが今のところ明らかになっておりませんけれども、もし適用されないということになりますと、個人情報漏えいというのは、事業者に限らず国や地方公共団体等でもしばしば起こっているところでございますので、片方だけこの制度で対応するということですと、均衡を失するのではないかというふうに述べております。
 広告・表示の事案でございます。これは、どの程度まで広くとるのかというところはあるかと思いますが、一般に広告・表示に関してこの事案が適用されるものとしますと、個人がその広告・表示を見たのかどうか、どう判断して買ったのか、それを重視したのかどうか。そういったことに個別性がありまして、また、一つの表示が間違っておりましても、他の説明で治癒された場合もあるのではないか。こういったことで一律に判断できないので、除外すべきではないかということでございます。
 事案の最後としては、有価証券報告書等の虚偽記載ということで、消費者である当事者だけを救済いたしますと、一般の金融の専門の投資家の方々と均衡を失する。金融制度の趣旨ということでは適切ではないのではないかということで、対象事案にすることには反対ということでございます。
 最後に、被告でございます。経団連の意見の方では6ページ、経営法友会の意見では7ページの(7)に記載がございます。今回、消費者集合訴訟で取り扱おうとしている事案で、会社である事業者を被告とする場合において役員を被告とすることにつきまして、行為の主体はあくまでも会社でありまして、通常は役員はその主体にはなっていない。役員を被告とするのは経営判断の萎縮や日常の業務執行への影響が甚大であって、反対であるということを述べております。また、先ほど述べたところともかかわりますが、事業者の範囲には国や地方公共団体も含むものとして扱うべきではないのか、ということを述べております。
 長くなりますので、以上とさせていただきたいと思います。

○伊藤座長 どうもありがとうございました。
 今、中村委員から御紹介をいただきました各意見の内容、いずれも、本日の審議事項に密接に関係するものですから、後の審議事項の審議に際して、それに対する質問あるいは御意見をちょうだいすることにしたいと思いますが、いかがでしょうか。特に今の段階で中村委員からの御説明に関して御質問等がございましたら、お願いしたいと思います。
 どうぞ、磯辺委員。

○磯辺委員 本日予定されている論点との重複は避けて、気づいた範囲で手短にお話しさせていただきたいと思います。
 経団連さんの意見書の2ページ、後半の部分ですけれども、通常の事業者が、自主的商品回収を行ったり、対応のための相談窓口を設けたりするなど、被害救済に迅速にかつ誠意をもって取り組んでいるということで、そういう自主的な解決の可能性を阻害するような制度となってはならない、という御意見がございます。私が思うに、勿論きちんと取り組んでいらっしゃるところもあるでしょうし、不十分なところもある。もしくは、悪意を持って意図的にそういう対応をしないところがある。今回の制度ができましたら、最終的には訴訟手続があるということで、こういう自主的な解決の手立てがむしろ手厚くなって促進されるのではないかという認識でおりますので、この制度がそういう自主的な解決の可能性を阻害するというよりも、むしろ促進するということでお受けとめいただければいいのではないかというふうに感じた次第でございます。
 それと、7ページの手続追行要件の多数性のところで、具体的に100名という数字がありますけれども、実際の被害事例で言いますと、数十名ですとか、更に、十数名といったことでも、事業者が行っている共通の原因で被害者が発生しているということはございます。それは事業の規模等にもよりますので、ここは、一律の数字で議論するような問題ではないのではないかと思っております。
 10ページの個別通常訴訟との関係で、「個別通常訴訟が提訴された事案については集合訴訟の提訴を認めるべきではない」という御意見が記載されております。これは、個人で訴訟を起こせる場合、例えば被害額が大きい人が訴訟を起こすという場合にも、同じ原因で被害額が少額で多数の被害が発生しているということはあるわけです。そういう被害額が少額な人たちがなかなか救済されない。多数の被害者が、個人が起こした訴訟を敏感に情報収集してそれに参加する手立てをとれないということもあるかと思います。一つの事案で被害額について幅があるような場合、訴訟の提起が困難な人たちについて、消費者団体が取りまとめて手続をするということも期待されるかと思います。この訴訟制度の趣旨から言っても、「個別通常訴訟が提訴された事案については集合訴訟の提訴を認めるべきではない」といった考え方はとるべきではないという意見を持っております。済みません、長くなりました。

○伊藤座長 中村委員、いかがでしょうか。本日あるいは次回以降の取りまとめの段階で、いずれにしても、更に検討しなければいけないところだと思いますが、特に何か御発言はございますか。

○中村委員 最初のところだけ。経団連の意見の方で、自主的な活動が阻害されるのではないかと考えているところにつきまして、理由を若干説明いたしますと、今回の制度で、非常に大きな事案になって、たくさんの方にこれを認めたということになって、大きな賠償をしなければいけないということですと、そもそもこれが本当に自分に責任があるのかということについて、厳密に考えようとか、そういったことで救済が遅くなるというような行動も考えられるのではないかというのが、ちょっと私どものところで心配しているところでございます。

○伊藤座長 ただいまの点は、構想されている制度の意義と機能の位置づけとして、取りまとめ段階で改めて御審議をいただかなければいけないところかと思いますので、ただいまのお二方の御意見を踏まえて今後の審議を続けたいと思います。
 そこで、本日の議題に入りたいと存じます。論点整理の4回目で「その他の論点」についての検討でございますが、資料1の本日検討する論点のうち、「第1 手続追行要件ないし対象事案について」、加納さんから説明をお願いいたします。

○加納企画官 それでは、資料1の1ページをごらんください。第1としまして、「手続追行要件ないし対象事案について」ということでペーパーをまとめております。
 まず、1の手続追行要件の(1)、「これまでの議論の整理」ということで簡単に書いております。マル1の1段落目で2段落目のところは、今のところ考えている二段階型の訴訟手続について、その趣旨、内容等について触れております。
 三段落目、「このようなことから」というところですけれども、幾つかの要件についてある程度議論を整理してみたものです。「まず、多数の消費者において(多数性の要件)、同一または同種の事実上または法律上の原因に基づき被害が生じていること(共通性)」が必要になる。この辺は、特に今まで御異論なく議論されていたところではないかと思います。
 マル2番の「さらに」というところですけれども、いろいろと御議論あるところだと思いますが、支配性の要件についてどう考えるかということで書いております。これにつきまして、このペーパーで、やはりこういった要件も必要ではないかということで書いておりますので、また御意見等をちょうだいできればと思います。
 その理由ですが、今回の制度は、通常の訴訟制度とは別に新たな制度を創設するということであります。この制度を用いて実効的な被害救済が可能となる事項が共通争点として確認されるべきであり、また、そうでなければ、特に本制度を設ける意義が欠けることになると考えられるのではないかということと、訴訟手続を二段階の手続に分けるというふうにしております。一段階目の手続において、当該共通争点について確認するということで、それによって紛争を解決することの実益があるとはっきり言えるものに限る必要があるのではないかということであります。
 その具体的な内容について、これまでの御議論の中では、大きく2つの観点の御意見というふうに収れんされるのではないかと思います。マル1のところですが、「二段階目の手続において、多数の消費者の救済を簡易迅速に図れるようにするためには、事業者の行為の法的評価が請求権の存否等を判断するために十分な部分を占めている」。この「十分な部分」というのはいろいろな意味を含み得る概念ですが、それなりに紛争が、決着済みといいますか、片がつくということで、基本的には額等の争いが残っているのみ。二段階目でその額について簡易迅速な手段で解決を図っていく、そういうふうな場合であることが必要ではないか、こういう御意見です。
 マル2番ですけれども、共通争点となる事業者の行為の法的評価を確認することに、それなりに意味があることはあるだろうということで、重要な争点と。この「重要な争点」と「十分な」というのは言葉のニュアンスは違うわけですが、マル1番よりはやや軽いという意味で書いておりますけれども、紛争解決に資する争点であればよいという考え方が示されていたかと思います。
 そこで、この要件の内容等について、(2)、(3)のところで検討をしてみました。
 (2)番のその内容のところでありますけれども、最初の段落、一段階目において、共通争点として、多数の消費者に共通する事業者の行為の評価、又は二段階目の手続に予定された請求の責任原因の有無を確認したとしても、二段階目の手続において、最終的に個々の消費者の請求権の存否及び額を判断するということになります。マル1、マル2と書いておりますけれども、対象消費者の該当性とか、損害や利得の存否及びその額について審理する必要があると考えられます。
 二段落目のところですが、これらについて、マル1、マル2というところが出てくるわけですけれども、「個々の消費者ごとに相当程度の審理が必要なものである」ということになりますと、多数の消費者の請求権を糾合することで、かえって審理が非効率になる。それぞれの争点が非常に重たいということになりますと、そこの審理が非常に重たくなって、かえって非効率になるのではないか。消費者一人当たりの費用等の負担の軽減にもつながらないのではないか。結局、全体として審理が長期化し、迅速な被害救済が困難になるのではないか、そういう懸念がございます。
 「また」というところで書いているところですけれども、今回の制度で、一段階目の手続で判決が出て、それで事業者の違法性や責任原因が認められた場合、対象消費者の特定のための情報の提供といった、一定の協力を当該事業者に求めることができることとする仕組みとしてはどうかということで考えておりますけれども、協力を求めることを正当化するということ、どうしてそこまでしないといけないのかということですが、一段階目の手続で事業者等の責任原因が確認されていれば、二段階目の手続で、消費者のうち大半のものには何らかの請求権が認められる可能性が高い。そういうふうな次元に立っているので、事業者はそういう協力をしなければならないということが正当化されるのではないか、というふうにも考えられるところであります。
 そうしますと、個別争点がまだたくさん残っているとしますと、事業者としては、その点についてまだ争いたいというふうに考えることもあるでしょうから、そういった場合にすべて協力を求めるのは、公平という観点から問題があるのではないかということで、2ページの最後、「よって」というところでありますが、支配性の要件として、「二段階目の手続に加入した多数の消費者について、個々の消費者ごとに相当程度の審理が必要となることがない」と。大体そういう複雑な審理は要らない状態になっているということを言うことが考えられるのではないか、ということで書いております。この点については、またいろいろ御意見等をちょうだいできればと思います。
 以上、前提としまして、(3)ですが、争点の支配性を独立した要件として規律すべきかどうかということであります。仮にそういう支配性の要件が要るというふうにしたとしまして、支配性が、一般的にある事案ということのみということになりますと、支配性の要件を欠く可能性があるのであれば、対象事案とすべきでないということにかえってなるのではないかと思われ、そうしますと、対象事案が非常に限定されてしまうことになると思います。そこで、対象事案をむしろ広げる観点から、共通争点の支配性について、事案の類型化の際に考慮要素とするのとは別に、独立の要件として規律することがよいのではないかと思われますので、その点を書いてございます。
 「もっとも」のところは、後の事案の類型のところと重複する記載ではありますが、一般的に支配性の要件を欠く事案というふうに思われるものにつきましては、類型化の対象から除くというように考えるべきではないかとしております。
 3ページ、2ポツのところ、具体的な類型についてということでございます。(1)番の基本的な考え方、「マル1これまでの議論の整理」のところで、一段落目のところでは、二段階目の手続における消費者の請求権を列挙する。これは恐らく実際の法律上、書き下ろしていくことになるのではないかと思いますが、そういうことであるとか、二段落目ですけれども、優れている他の方法が存在するとは言えない。いわゆる優越性の議論であるとか、係争利益の把握、こういった観点から御意見をちょうだいしているところであります。
 マル2番で、具体的にどのような観点から類型化していくかということですが、大きく分けて2つ、視点をお示ししております。
 1つは、係争利益の把握という観点であります。マル2の段落ですけれども、消費者が事業者と契約関係にある場合であれば、事業者において、対象消費者がどの程度存在するのかの大体把握ができるだろう。そうしますと、ここは適格団体しか当事者として出てきませんので、対象消費者はまだ顔が見えないというふうにはなるわけですが、一段階目の手続においても概ね、その行為によって消費者にどの程度の損害・損失が生じさせ得るものなのかというのが見通せるのではないか。そういうものであれば係争利益が確認できるというふうになりますので、それを前提に事業者が訴訟戦略を立て攻撃防御をするだろうということでありまして、それが判決効の拡張の大きな正当化根拠になるのではないかと思うところであります。そこで、消費者と事業者が契約関係にある場合を中心としつつ、契約関係がなくても、事業者が契約締結過程に関与しているとか、何らかの接触関係がある場合について対象とすることとしてはどうか。これが1つ目の要素であります。
 もう1つの要素が先ほど申し上げました支配性の要件で、支配性についても、一般的に支配性が欠くのではないかという事案については、制度の対象としないという観点で検討してはどうか。
 (2)のところですが、これまでの御議論ということで整理をしております。対象事案につきましては、第10回の専門調査会でもテーマとして取り上げ、御議論をしていただいたところでありまして、その際、マル1からマル10ということで掲げております。そのうちマル1からマル5までにつきましては、比較的御異論はなかったのではないかと思われるところであります。勿論、まだ異論があるということであればこの場でおっしゃっていただければと思いますけれども、私どもの認識としましては、マル1からマル5につきましてはそんなに御異論はなかったのではないかと思われるところであります。
 特にマル8、マル9、マル10については、いろいろな観点の御意見がまだまだ残っているという状況ではないかと思います。マル8からマル10を中心に更にマル6、マル7につきましても、マル10との関係でもう一度取り上げてはどうかということでペーパーを用意しております。
 4ページの(3)のア、「個人情報流出事案」であります。先ほど中村委員からの御意見の御紹介もあったところではありますが、結論から申し上げますと、これは本制度の対象として規定する方向で検討してはどうかと、5ページの下の方で書かせていただいております。その理由でありますが、個人情報の取得につきましては、直接契約関係に基づく取得というのもあれば、それ以外のユーザー登録などによる取得というように、必ずしも契約関係にない場合もあるとは思いますが、何らかの形で消費者と事業者が接触しているからこそ、そういう事業者が情報を取得しているのではないかというふうに思われるところであります。そういう場合、まさに流出した個人情報がどの程度の人数分であって、どういう経緯で流出したのかというのは事業者にとって概ねわかるのではないか。
 その額につきましては、裁判例などを見ますと、概ね慰謝料ということで均一的に算定していると思われるところであります。慰謝料については、精神的苦痛であって個別性があるのではないかという御意見もちょうだいしているところです。その精神的苦痛の内容はさまざまであるかもしれませんが、金銭的評価という点では結局は同じような評価をしているのではないかとも思われるところでありまして、類型的な判断になじむのではないかということで係争利益の把握もできるのではないか。争点の共通性であるとか、支配性であるとか、そういうことも認められやすいのではないかということを踏まえまして、対象とすることで検討してはどうかというふうに書いております。
 イの「有価証券報告書等の虚偽記載等に係る事案」ですが、これについても対象とする方向で検討してはどうかというふうに結論としては書かせていただいております。その理由ですが、例えば金商法21条の2に基づく損害賠償請求ということで、損害賠償の根拠規定が特別法に設けられております。そういった場合におきまして、損害の算定方法は大体共通する。具体的な当てはめという点では個別性が出てくる余地がないわけではないですが、当該有価証券報告書等の記載が虚偽であるかどうかということ、あるいは損害賠償額の算定方法については、概ね共通するのではないかというふうに思われるところであって、かなり支配性もあるだろうと思われるところであります。有価証券の取得者につきましては、事業者においてもある程度把握できるのではないかと思われるわけでありまして、その係争利益の把握も概ねできるのではないかと思われますので、先ほど申し上げた観点から対象事案とする方向で検討してはどうかというふうに書いてございます。
 次に、5ページのウ、「マル10製品事故・食中毒等」でございますけれども、これにつきましてはなお慎重に検討すべきであると考えております。その理由ですが、製品事故・食中毒等につきましては、さまざまな状況、さまざまな結果、因果関係等があり得るのではないかと思われるところで、5ページの最初の段落、二段楽目の段落においてその旨を書いております。そうしますと、6ページの上のところですが、事業者において、消費者にどのような損害を与えているかを見通すことは困難ではないか。これは契約関係にある場合とない場合とを問わず、係争利益の把握は困難ではないか。先ほど、契約関係にあれば係争利益の把握は一般的にはできやすいのではないかという感じで申し上げましたけれども、そうであっても、この場合はやはり難しいというふうになるのではないかということで、対象事案とすることについては慎重に考えるべきではないか。支配性の要件につきましても、損害内容や因果関係等の個別性ということになりますとそこがかなり重要な争点になると思いますので、そういった観点からも慎重に検討すべきではないかということで書いてございます。
 最後、エのマル6、マル7、債務不履行に基づく損害賠償責任ないし解除に基づく請求等でございます。一段落目に書いているところですが、これらにつきまして、例えば品質が一定の基準を満たしていない、製品自体が瑕疵であるということで製品そのものについては損害がある。ただ、人身事故のようないわゆる拡大損害等はないというケースもないではないと思われるわけであります。こういう場合であれば、その損害額は、基本的に代金相当額に限られると思われるところでありますので、そうしますと係争利益の把握の観点から、契約関係にあるということを前提にしますと係争利益の把握も概ねできるのではないか。更に、履行態様に共通性が認められるのであれば共通性もあるだろうということで、支配性の要件が欠けるということにもならないのではないかと考えられるところであります。
 そこで、製品事故や食中毒事故と切り分ける形で整理できれば、損害等についての争点で重要でないということで本制度の対象とすることも考えられるのではないかということとで、そこは、切り分けを前提にそういうふうに整理をしてみたらどうかというふうに書いてございます。
 以上を前提としまして、7ページの(4)にア~カという形で整理しています。これは一定の整理でありまして、これ以外の整理の仕方もあるかもしれませんが、こういう形で類型化をして、二段階目の消費者の請求権とともに明記していくことが考えられるのではないかということでペーパーをつくってございます。
 第1については、以上でございます。

○伊藤座長 それでは、ただいまの説明を踏まえて審議をいただきたいと思います。大きく分けますと、支配性を中心とした手続追行要件の問題と、対象事案の類型にかかわる問題があります。勿論、2つの問題は関連するものではございますけれども、審議の順序としては、まず手続追行要件、特に支配性に関して御議論をいただいて、その後に対象事案の類型に進みたいと思います。手続追行要件に関しては、いかがでしょうか。

○窪田委員 2つの問題を切り離して議論をする方が適当ではないかということで、座長からそういう御示唆をいただきながら、それに反するような形になってしまうのかもしれませんが、ちょっと前提を確認させていただきたいと思います。
 共通争点の支配性を独立した要件として規定すべきかどうかという問題は、類型化をする場合に、その類型が一体どういう趣旨で挙げられるのかという問題と不可分だろうと思います。その場合、一つは限定列挙という形で類型を挙げて、しかし、限定列挙の類型をできるだけ広くした上で、更に付加的な要件として独立性の要件を課するというタイプのものと、限定列挙ではなく、当然これらのものはいけるという形の例示列挙にした上で、一般的な受け皿的な条項を置くというタイプがあり、その上で支配性の要件があるという幾つかのパターンが考えられそうですが、ご説明は、限定列挙というイメージが前提となっているのかなという気がしながら伺っておりました。
 お尋ねしたいのは、そういう理解でよろしいのかという点と、仮にそうだとすると、支配性の要件を欠く事案が一般的に多いと考えられる類型について、あらかじめ対象事案の類型として規定しないというのはどういう趣旨なのか。つまり、入れないということで明示するという趣旨なのか、単に類型としては挙げないということだけなのか。その点について御説明を伺えたらと思います。

○伊藤座長 ここでの列挙の趣旨は、今、窪田委員の使われた言葉に即して言えば限定列挙だと思いますが、加納さんから、説明をお願いいたします。

○加納企画官 先生の御発言の中では、どちらかというと最初の方のイメージで私どもはペーパーをつくっておりまして、対象事案につきましては限定列挙をしていく。受け皿規定のようなものを設けるかどうかというところは別途の検討の余地はあるかもしれませんが、基本的には対象事案は限定列挙していくということで考えるべきではないかと思っております。そうしますと、先ほど私から、例えば製品事故については慎重に考えるべきと申し上げましたけれども、限定列挙した場合にはそれは出てこない。どうして出てこないかといいますと、こういう理由で出てこないんですというふうになりまして、その理由として、係争利益の把握であるとか、支配性の要件であるとか、そういったものからすると適切ではない、そういう理由づけをする。
 支配性の要件につきましては、支配性を考慮しながら限定列挙をする対象事案をセレクトしていくというふうになると思っておりますけれども、ただ、3ページの(3)で書いておりますように、支配性の要件というのは事案によってバリエーションもあり得ると思っておりますので、完全に支配性があるものだけ列挙せよというふうになると、非常に狭まるのではないかと思います。むしろ対象事案を広げる観点から、独立の要件として別個規定しつつ限定列挙はするというようなイメージで考えております。

○伊藤座長 窪田委員、いかがでしょうか。法案をつくることになったときのことは、それはそれで別ですが、私どもの専門調査会の報告として書く場合には、今、加納さんから説明があったような形になろうかと思います。

○窪田委員 一つだけ補足させていただけたらと思います。恐らく限定列挙という形で明示しておく方が紛争解決のコストも低くなるし、その点では、中村委員から御指摘もあった点にも関係するとは思いますが、そういうニーズがあるというのも確かだろうと思います。ただ、一点、気になりますのは、ここで挙げていただいた類型、かなり考えていただいた上で挙げていただいていると思いますが、それぞれの類型についてこれは妥当だろうかどうだろうかという議論をしていったとしても、それ以外にまだ適切な類型があるかもしれないという問題については、検討しないまま終わってしまうのではないか。その意味では、そうした検討が十分になされないことになってしまう危険性がないのかという点が、少し気になります。
 私自身が潜在的にイメージしていましたのは、たとえば、民法770条の離婚原因の規定で、そこでは離婚原因が5つ挙がっておりますけれども、4号までの個別の離婚原因が規定されたうえで、5号に「その他婚姻を継続し難い重大な事由」という包括的な離婚原因が規定されて、全体としてそれはそれなりに機能していると理解しています。もちろん、具体的にこういう類型があるというのを挙げることができるのであれば、まさしくそれは挙げて検討していただくことになると思いますが、今、私自身がそうした具体的な提案を持っているわけではありません。ただ、本当にないのだろうかという点が気になっておりましたので、少し申し上げたという次第です。

○伊藤座長 他の委員の方の御発言も、今、窪田委員がおっしゃったことと関係することもあろうかと思いますので、大高委員、よろしければどうぞ御発言ください。

○大高委員 支配性の要件について意見を述べたいと思います。本日のペーパーでは、これまでの議論の紹介ということで2つの考え方をお示ししていただいた上で、そのうちのマル1の考え方を基本として進めるべきではないかという形で取りまとめの案を出していただいております。私としては、従前から申し上げているとおり、2ページの3行目からの2行で整理されているように、「二段階目において一定程度慎重な審理を要する争点があるとしても、重要な争点であるか、もしくは紛争解決に資する争点であれば足りる」という考え方に賛成いたします。マル1の方が望ましいとする、(2)以下で述べられている根拠については、本当にこれで十分な根拠になっているのかどうか、疑問があると思います。
 2点ほど申し上げたいと思います。
 まず、第1点として、このペーパーでは、個々の消費者ごとに相当程度の審理が必要な場合は、かえって審理が非効率になったり、消費者の負担が増すというふうに整理されておりますが、一般に本当にこのように言えるのかどうか、非常に疑問に思っております。むしろ一段階目の手続によって共通争点が確定されているわけですから、ばらばらに個別訴訟が提起されるよりも、むしろ効率的に審理ができることが多いのではないかと思います。例えば因果関係の一つの問題をとっても、ばらばらに訴訟が起こされてそれぞれ逐一審理するよりも、ある程度の被害者が集まって一定の傾向が見えてきた方が因果関係の判断を適切にやりやすいという場合も、特に集合訴訟の場合はあるわけです。一概にこのように、多数が集まって個々の審理が必要だから非効率だと言っていいものかと思います。
 また、事業者が、すべての参加してきた消費者について逐一個別争点について争うというわけでもなく、当然、争いのない被害者については簡易な手続によって早期に解決される可能性があるわけですし、その点だけでも十分に個別訴訟と比較してメリットがあると言うべきではないかと思っております。いわば事業者がすべて争うという、極端なケースを一般化するような理由になっているのではないかと思います。
 第2点として、対象消費者の特定に関する情報の提供を事業者に求める関係で、一段階目で責任原因が確認されていれば、二段階目の手続に加入した消費者のうち大半の者には何らかの請求が認められる関係が必要と、そういった根拠が挙げられているところですが、これも本当に論理的に理由になるのかというふうに思います。なぜなら、二段階目で個別に相当程度の審理が要るということと、二段階目の手続に加入した消費者のうち大半の者に何らかの請求が認められるかということは、本来関係がない話だからです。このことは、参加してきた消費者に何らかの損害が発生していることは確実であるが、単に金額の確定だけが慎重な審理を要するという場合を考えれば明らかでありまして、そういった場合に個別に一定の審理を要することと、本当にその人が被害者であるかどうかということは、一応論理的には別の問題ではないかというふうに言えると思います。
 次に、窪田委員が指摘した論点とも関係しますけれども、3ページの(3)の「共通争点の支配性を独立した要件として規律すべきか」という点についてちょっと指摘をしたいと思います。今、事務局から、考慮事項として支配性を考えつつ類型について限定列挙をして、更に独立した要件として絞りをかけるという基本的な考え方をお示しいただきました。仮にそういう考えに立つとした場合、相当程度の審理を要するというような抽象的な要件が独立して課されるというのは、かえって事業者側の不適切な争点設定によって第一段階目で無用な争点が増えたり、もしくは本来対象とすべき事案が落ちてしまうことがあり得るので、反対をしたいと思います。仮にこういうのが必要だとしても、限定列挙を政策的にする際に、考慮事項として一般に支配性があると。仮に支配性の要件を一定考慮するとしても、それがあるというふうにされた類型でありますから、仮にこういった独立した要件にするとしても、それを争う事業者側において主張・立証をさせるべきではないかということは少なくとも思う次第です。
 長くなりましたが、以上です。

○伊藤座長 沖野委員、お願いします。

○沖野委員 基本的に大高委員がおっしゃったことに賛同するものですから、併せて発言したいと思います。
 支配性の要件ということですけれども、私も、事務局から提案された御提言が、2ページのマル1、マル2に対応した上で、マル1をとるものなのかということもはっきりはしないのですが、方向としては、マル2ではなくマル1の方向でという御提言だというふうに伺いました。
 その理由づけの点ですけれども、これも以前から申し上げているところですが、大高委員の御指摘がもっともではないかと思うところでして、1点目の、多数の消費者の請求権を糾合することによってかえって審理が非効率になる等というのは、一般的に、かえって審理が非効率になるものを認めるべきではないというのはそのとおりですけれども、それがかえって非効率かどうかということの判断の基盤は、この制度がなかったときにどういうことになるか、すべて個別の訴訟でそれぞれ争っていく、更には個別の訴訟さえ起こせないようなものがあるという状態と対比してどうかということが、考えられるべきではないかと思われるところです。
 2点目の、相手方事業者に一定の協力を求めることの正当化という点につきましても、正当化が必要であるという点についてはそのとおりだと思いますけれども、そのことが、第二段階でさまざまな審理がなお残っている面があることと必然的に連動するのか。例えば個々の損害がどのくらいなのかという規模とか中身の把握に一定の審理が必要であるということと、損害賠償がおよそあるかないかもわからないということとは、一致も連動しないわけで、損害はあるけれども、それが一体どの程度の規模かは個人によって多少異なるとか、それなりに異なるとか、相当異なるとかいう話ですと、いずれであっても請求権はあるわけですから、ここでの理由づけが果たして説得的なのかというのは疑問に思うところです。
 それから、独立の要件という点です。これは、窪田委員のおっしゃった、そもそもどういう構想でいくのか、限定列挙でいくのか、代表的な例示列挙でいくのかという点の問題はありますが、限定列挙とした場合については、独立の要件で支配性を欠く場合には否定するということがあっていいのではないかと私自身は思っております。ただ、それが独立の要件として支配性に欠けることを持ち出せるということであるならば、逆に対象事案の類型化においては、その後の問題になるものについては、独立した要件として支配性のスクリーニングがあることを前提に、むしろある程度幅広にとることが考えられるのではないかと思うところです。
 3ページの(3)、「もっとも」という3段落目に書かれているところですけれども、一般的に支配性の要件を欠くものが多いと考えられる類型については、「要件を満たしているか否かの判断による審理の複雑化」とあります。一般的には、欠けるというものであれば、むしろ通常は欠けるという判断がされるということだと思いますので、そうだとすると、この要件の判断で十分に対応できるのではないかと思っております。

○伊藤座長 ただいま、大高委員、沖野委員からは、支配性の要件に関する考え方として、事務局からはマル1のような考え方が示されて、その根拠として何点かのことが挙げられているけれども、必ずしもそれが十分に説得的なものかどうかということに関する疑問と、支配性を独立の要件とすることに関しても問題の御指摘があったように思います。他の委員の方はいかがでしょうか。
 どうぞ、池田委員。

○池田委員 先ほど、事業者側の視点で中村さんから冒頭に御説明がありまして、それと同じ件ですけれども、この制度を考えたスタート時点は、少額・多数の消費者被害を簡易迅速な方法で審議をするということが大きな趣旨だったと思います。それを新たな制度をつくる上での大きな目的として議論をしてきたと思いますので、そういう観点から言うと、新しい制度を実質的に機能させるようになっていかなければならない。そうすると、以前から申し上げておりますように、一段階目でかなりの部分が判断できる、審理が解決するような事案でスタートすべきであって、二段階目で、今、いろいろ御意見があるようなものを想定したものを、果たしてこういう制度の対象とすべきかどうかは、もう一度原点に戻って考える必要があるのではないかと思います。できるだけ最初のスタートというのは絞っていった方が、実質的にはプラスになって稼働していくのではないかと思っております。ですから、いろいろご意見がございましたが、それに関しては、冒頭に中村委員がご説明されたのと同じ意見を持っており、今までの議論には賛成しかねるものも多数含まれていると考えております。

○伊藤座長 では、三木委員、お願いします。

○三木浩一座長代理 ペーパーをじっくり改めて読んだり、あるいは委員の皆様の御議論に耳を傾けておりまして感じたのですけれども、ここのペーパーで使われている支配性という言葉がやや二義的な意味を持って使われているような気がして、どうも議論としてかみ合っていない部分とか、混乱している部分があるような気がします。アメリカのクラスアクションにおける支配性の要件と優越性の要件というのがありますが、このペーパーではどちらを意味しているのか。あるいは、その両方が混在しているような印象を受けます。
 例えば、一段階目である程度の事案解決ができるような紛争でなければならないとか、共通争点が中心でなければならないというのは、このペーパーの支配性という言葉を使えば、個別争点と共通争点との間における共通争点の支配性という意味ですね。他方で、因果関係とか損害について、個人個人の特殊性が大きいので、むしろ個別訴訟でやった方が効率的であるかもしれないというのは、集合訴訟と個別訴訟との間における、このペーパーの言葉を使えば集合訴訟の支配性ということになって、このペーパーで言う支配性というのが、共通争点の支配性なのか、それとも集合訴訟の個別訴訟との関係における支配性なのか。その辺を少し整理しておいた方が、生産性的な議論になるのではないかという気がいたしました。

○伊藤座長 今、三木委員の使われた言葉で言えば、ある紛争があって、それが多数の消費者の権利、利益にかかわっているわけですが、その共通争点が支配的であることがここで想定されていることかと思います。ただ、実際には、後半でおっしゃられたように、この制度を使った訴訟が個別訴訟で個々にそういう訴えが提起されるより、紛争の解決にとって優れているということにつながっていますから、別々のことではないとは思いますけれども、考え方としては前者だと私は理解をしています。
 どうぞ、山口委員お願いします。

○山口委員 各委員の御発言で、誤解がなければ私はこういうふうに整理したいと思うのですが、対象事案を条文上、明示する。それが限定列挙だという条文立てになるとするならば、3ページの、共通争点の支配性を独立した要件として規律すべきかという点については、規律する必要はないし、規律すべきではないということになるかと思います。
 繰り返し言っておりますが、例えば敷引契約が無効か有効かという事案におきましても、仮に限定列挙でこれは当たるとなっても、支配性の要件などが別途条文化されてしまいますと、恐らく事業者側は、これは支配性がないのではないかと。つまり、敷引契約が仮に無効だとしても、それぞれの賃借人の退去の事情によっては返金するべき金額の算定は多様性があるではないかとか、さまざまな抗弁、反論を出して、事業者側としては、この制度の枠組みを適用すべきではない事案であるということで、この種の制度に該当するかどうかという入り口論争がいたずらに延々と続くことになりかねないと思います。
 その意味では、限定列挙にするのか、例示列挙にするのかということで考えますと、私は例示列挙の方がいいのではないかと思うのですが、仮に限定列挙だとすると、独立の支配性を条文として明示する必要はないと思います。ただ、例示列挙で、先ほど窪田先生がおっしゃったような、その他これに準ずる事案と。どういう例示列挙の仕方がその点で適当なのか今の段階では明示できませんが、もしそういう条文立てをするならば、例えば共通争点が相当程度重要な要素を占めるとか、そういう場合にはこの制度を使うこともあるということになるかと思います。その意味では限定列挙を前提にするならば、この支配性の要件をどう議論するかというのは余りメリットはないのではないか。しかも、独自の条文立てとしては必要ないというふうに思います。

○伊藤座長 山本和彦委員、お願いします。

○山本委員 まず、共通争点の支配性が必要かどうかというところですけれども、一般的には私は必要だろうというふうに思っています。それは、この制度をつくる根拠というか、先ほど池田委員が言われたことと重なりますけれども、これまでずっと出てきていますように、被告の利益の保護とか、民事訴訟の基本的な原則とか、いろいろなところと比べてかなり異例な制度であることは否定できないわけで、私も何度も言いましたが、本邦初の部分が多いわけです。しかし、それをなぜつくろうとしているかというと、やはりこういう制度をつくらないとこの対象になるような消費者が救済できない。逆に、この制度をつくれば、そういう対象の消費者が救済できるということがあるからなのかなというふうに思っています。
 そういう意味からすると一段階目一定の争点を確認してみても、二段階目でなお、かなりの個別の争点が残ってしまって、実際上、個別の争点を審理していくためにはかなり長い時間がかかる、コストがかかる。そういうことを考えると、一段階目で確認してきても二段階目で消費者は余り参加してこない。そういう事案がいっぱい出てくると、一体何のためにこういう制度をつくったんですかというふう話になりかねないという気はしております。せっかくつくるのだから、できるだけ範囲を広げて、これも救済できる部分がある、これも救済できる部分があると言われるのは、まことにもっともだとは思いますけれども、制度を最初につくる段階では、この制度創設の本来的なコアの部分について、間違いなく救済を図れるという制度に持っていくのが大事ではないかと思っております。そういう意味では共通争点の支配性というものはあっていいと思っております。
 次に、それをどこで考慮するか。個別の事案で考慮するか、対象事案の類型化のところで考慮するかということですけれども、事務局のペーパーにありますように、今の山口委員の御意見で、もし、対象事案の限定列挙にするから個々の共通争点の支配性は要らないということになると、結局、対象事案の類型で常に共通争点の支配性があるものだけを選んでいかなければならなくなる。これは御意見があるところですけれども、個人情報の流出ということを考えても、私は多くの事案においては共通争点の支配性はあると思っていますが、支配性がない事案が全くないかと言われれば、それはあり得る。それが漏れたことによってかなりの多くの被害者に実質的な被害が発生して、損害を定型的に把握できない事案が全くないとは言い切れないような感じがします。そうすると、個別の事案でそういうのは共通争点の支配性がないから対象にしないという選択肢が排除されてしまいますと、結局、それは類型として落とさざるを得ないことになるのかなと思います。そうすると、対象がどんどん狭まっていくという事務局の懸念は私も共有するところです。したがって私自身は、類型のところというよりは、基本的にこの問題は個々の事件との関係で判断していくことが相当ではないかと思っています。
 先ほど来言っていますが、マル1とマル2、確かに考え方としては違うわけですけれども、実際の手続、実際にそれを当てはめていく中で、これがどこまで違ってくるのかなという感覚もなくはありません。最終的には裁判所の運用の中で、個々の消費者ごとに相当程度の審理が必要となるかどうかという判断の部分で、実質的にはそれほど大きな差異が出てこない可能性もあるのではないかという認識も持っています。
 そういうふうに考えていますので、私は沖野委員が最後に言われたことには基本的に賛成で、この共通争点の支配性の問題というのは事案類型のところではそんなに考慮する必要はなくて、基本的には個々の事件のところで要件として判断をしていけばいい。私自身は、事案類型のところで結論を分ける問題は係争利益の把握の問題だと思っておりまして、共通争点の支配性はそこでは余り考える必要はないと思っていますけれども、個々の事件との関係では、独立した要件として掲げるべきではないかというふうに思っています。

○伊藤座長 なかなか難しい問題で、御意見が対立しているところですが、専門調査会が消費者委員会に報告するに当たって、どうしても意見の一致を見ない場合には、ありのままを報告するより仕方がないとは思います。しかし、できることであれば、少なくともこの部分に関しては共通の認識がある、その先に関してはまだ意見の一致しないところがあることは留保するとしても、そういう形での報告が、消費者委員会にとっても、恐らく今後の検討作業をする上でありがたいと感じられるのではないかと思います。後でもう一度、ただいまの点に即して私からも発言をさせていただきたいと思いますが、対象事案の類型の方に関しても、かなり立ち入った審議をお願いしないといけないかと思いますので、その辺りを御配慮の上、御意見をちょうだいできればと思います。
 朝倉さん、お願いします。

○朝倉課長 今議論をしているのは、一つは事案について限定列挙とするときの類型のとらえ方と、もう一つは、その際に支配性を欠くものについて何らかの形で除外することの規定を置くかどうかというところであると考えると、皆さんがおっしゃっていたことをよく聞いていると、余りずれていないような気がいたします。事案類型を例示列挙とすると、該当するかどうかで非常に大きな問題になって、先ほど山口委員がおっしゃったように、責任を逃れようとする事業者は、悪質であれば悪質であるほどそこで争うことになるでしょうから、迅速な解決という観点からすると、限定列挙にしておくのがいいのではないかと思われます。ここで知恵を出し合って、この制度に一番向くと思われるものについて、池田委員のおっしゃったような制度趣旨から考えて列挙しておくのがいいのではないかと思うところであります。
 その際には支配性の要件というのは、支配性の中身、具体的にどのぐらい重要と言うのか、十分なと言うのかは別にして、よく考えざるを得ないのはそのとおりであります。そうすると、それを念頭に置いて個々の類型について議論をしていくのだろうと思います。ただその際に、事務局がおっしゃっているように、そして今、山本先生がおっしゃっているように、支配性の要件を少しでも欠くものがあったらその類型は全部除外するということになると、これは制度の目的にかなわなくなると思いますので、その意味では、類型的に支配性のあることが多い類型については、列挙しておくことが考えられると思います。
 ただ、先ほど大高委員や沖野委員もおっしゃったと思いますが、類型に当たれば基本的には対象となるけれども、個別具体的な事案に応じて支配性がないということが明らかになれば、主張・立証責任の問題が絡むのかも知れませんが、それは対象事案から外す、という仕組みにしておけば、皆さん方の懸念というのは、どこかのところで落ち着きどころが見えてくるのではないかと思うところであります。そうすれば、先ほど山口委員がおっしゃったように、入口で引っ張るような悪質な事業者の場合であっても、その事業者がちゃんとしたことを言ってこなければ実質判断に入ります、入口のところではこれ以上はやりません、という審理運営は可能になってくるのではないかと思うところであります。

○伊藤座長 三木委員お願いします。

○三木浩一座長代理 何人かの委員がおっしゃったように、考え方は見た目ほど大きく対立していないのかもしれないという気がいたしますので、何らかの形で座長がおっしゃるように集約が図れればという気がいたします。その意味で、このペーパーの作りにしても、先ほどの御説明にしても、繰り返しになりますけれども、アメリカのクラスアクションで言う支配性と優越性が混在していますので、少なくとも先ほど来のやり取りで明らかになりましたように、ここで言う支配性というのは、共通争点と個別争点との関係で共通争点が優越しているという意味だと。そうすると、今後の説明としても、先ほど事務局の御説明にあった、これを欠くと、かえって集合訴訟にしたことによって審理が非効率になる云々というのは別な話ですので、そういう話は避けていただいた方がいいという気がいたします。
 結論的に私個人も、これを支配性と呼ぶか、優越性と呼ぶか、単純に言葉の問題で、用語はいずれでも結構ですので、将来、御検討いただければと思いますけれども、支配性という言葉がどぎついので、仮に優越性という言葉を使いますと、そういった意味での優越性の要件はやはりなければいけないだろうと思います。この後、類型は限定列挙であることを前提に議論されると思いますが、限定列挙であっても、特に番号の大きい方の類型を入れていけばいくほど優越性がない事案もあり得るという類型が含まれてきますので、それを落とすためにはやはり必要だろうと思います。その意味では朝倉さんが、主張責任、証明責任の問題もかかわるとおっしゃいましたけれども、この要件を入れるとした場合には、それは積極要件ではなくて消極要件。すなわち、一応類型を満たした事件ですから、原則は優越性があるのだろうということで、しかし、優越性がないことが明らかになればそれは対象から落ちるという形で仕組めば、さほど大きな問題はないですが、そのことによって限定列挙であってもかなりの類型が広く拾えるということでいかがか、という気がいたします。

○伊藤座長 いろいろな御意見を承りましたが、2ページの上のマル1、マル2という形で事務局には整理をしていただきましたが、こういうふうに截然と分けてしまうのがいいのかどうかという問題があり、その点はもう少し検討していただく必要があるかと思いますが、ただ、ここで構想されている制度の特質を考えますと、少なくとも理念としては、第一段階の手続において紛争の中心的部分が解決され、第二段階の手続の成り行きも見通せるという意味で、支配性のようなものは頭に置いておかなければいけないだろうということ。
 それから、限定列挙か例示列挙かという話がございましたが、制度として当初から安定した出発を少なくともするためには、対象事案の類型を明らかにして出発する。それが合理的かどうか、その範囲をどこで区切るかは、この次に議論していただきますが、その後の運用等を見て、更にそれをどういう形で広げていくかなどについては、また検討する機会があるだろうかと思います。
 さらに、独立の要件として支配性を立てるかどうかに関しましては、これもいろいろ御議論がございましたが、二、三の方からも御発言がございましたように、紛争類型を限定して定める以上、法で定められた紛争類型に属することを前提として、なおかつ当該訴訟の具体的事情として、共通争点を第一段階で判断しても、第二段階での解決の行方が見定められないという意味での支配性に欠けることは、例外的ではあろうと思います。ただ、訴えを提起する側からは、支配性の具体的内容を一応明らかにすることが望まれるでしょうし、被告である事業者の側からそれを争うのであれば、合理的な理由を示さなければいけないことについては、委員の間にそれほど御意見の対立がないのかという気もいたします。勿論、ただいまは、私が口頭で申し上げているに止めますが、最終的な取りまとめはしかるべき文章の形で示させていただいて、御審議をお願いできればと思いますが、今の段階では、この程度でいかがでしょうか。
 どうぞ、野々山さん。

○野々山理事長 整理としては座長の整理でよろしいと思いますが、一点、支配性という理念という御発言でしたが、この支配性という言葉がひとり歩きすると、三木座長代理がおっしゃったように、かなり強い意味があります。三木座長代理がおっしゃられたような優越性等、言葉を少し工夫していただきたいと思っております。

○伊藤座長 その点、御発言を踏まえてなお検討したいと思います。
 どうぞ、後藤委員。

○後藤委員 先ほど中村委員から資料説明があった時点で、発言をさせていただければ良かったのですが、実際にこの法律では、少額、しかも多数の救済を迅速に行うのが前提になっていると思います。我々中小企業の立場としては、裁判になると費用面でもいろいろな面で負担が大きく、裁判に至ることなく解決したいというのが現状です。この制度の中では、悪意の経営者がいわゆる故意で行った問題についても、善良という表現が適切かはわかりませんが、過失で結果として同じような被害を出してしまった場合も対象となります。後者の場合であれば、先ほどの経団連の意見の2ページ目の下から8行目にあるように、企業を継続させるという前提で、どうやって解決するかという意識で一生懸命この問題に取り組むわけです。中小企業の立場でも消費者に迷惑をかけてしまったということであれば、その責任の範囲内で努力をして解決しようとするわけです。いわゆる善良な経営者であればそういう観点で解決を図ろうとします。そのような場合、裁判を行うより、事業者と、被害者の間で交渉を実施し、速やかに解決するのが一般的だと理解しています。
 そうした場合、既にADRのような調停を行う制度もあり、裁判によらない解決策をもっと有効活用することをこの制度内に盛り込むことはできないのか。裁判に行くまでに速やかに双方が解決する場の利用を推進していただいた方が実態に合って合理的な話だと我々は思っています。中小企業の立場では、非常に悪質な経営者から消費者を救済するというのと、今、申し上げたようないわゆる善良な経営者がたまたま過失で起こしてしまった事案の救済と、同一にこの法律の中で議論を行うことには非常に違和感があります。産業界代表の委員の方は皆さんそのような考えをお持ちであると個人的には思っています。
 ですから、全て裁判を前提とするのではなく、ADRなど事前の手続をうまく活用して問題の解決を図る。そのような仕組みを、この制度の中に何らかの形で規定できないか検討していただきたいと思います。

○伊藤座長 冒頭の中村委員と磯辺委員の御意見にもありましたように、この制度が現実にできた段階で、それが、消費者あるいは適格消費者団体と事業者との間の自主的交渉を妨げるものであるということになるのは想定し難いところでございます。また、場合によっては、裁判外の手続でございますADRとの連携なども考えられますので、そういった辺りについては、報告書の中で何らかの形で言及することもあり得ることかもしれません。
 そうしましたら、予定の審議事項が済んでおりませんけれども、10分ぐらい、ここで休憩いたしましょうか。

(休憩)

○伊藤座長 それでは、審議を再開したいと存じます。
 先ほど加納さんからの説明にありました後半部分、つまり、対象とすべき事案の類型についての御意見をお願いしたいと思います。従来からも、あるいは本日の冒頭の中村委員の報告にもありましたように、具体的に言うと、4ページにおけるマル8番の個人情報流出、マル9番の有価証券報告書等の虚偽記載、マル10番の製品事故・食中毒、この辺りが御意見が分かれているところかと思います。
 では、先に大河内委員からどうぞ。

○大河内委員 製品事故・食中毒が取り除かれていることについて、意見を申し上げたいと思います。というのは、製品事故や食中毒こそ被害を受けたことがはっきりわかっていて、しかも、泣き寝入りをしてきたところだと私たちは思っています。裁判があるではないかと思っている方もいらっしゃるかと思いますけれども、それはほんの一部でありまして、大抵の方は泣き寝入りをしてきたというふうに感じております。自分が被害を受けたということがはっきりわかるところですので、こういう制度が入ったときに手を挙げやすいものにもなると思います。ここには取り除かれている理由がいろいろ書いてありまして、法的には難しいということなのかもしれませんけれども、私たちにとってはわかりやすいところなので、先ほどもおっしゃっていた、この制度を機能させるということを考えますと、是非、入れるようにお考えいただきたいと思います。

○伊藤座長 窪田委員、お願いします。

○窪田委員 個別の話ではなくて、おまえ総論的な話ばかりやっているなということで怒られてしまいそうですが、少し気になる点がありますので確認をさせていただけたらと思います。その上で、場合によっては類型の整理が必要なのではないかという感じが少ししています。というのは、ここにはマル1からマル10、いろいろなパターンで挙げていただいて、できるだけ考えられるものを想定していただいたということだろうと思いますが、同じレベルものが挙がっているのかなというのが気になっております。ある部分では虚偽または誇大な広告・表示というように、前提となる事実に焦点を当てた類型が示されています。しかし、他方で、契約条項の無効とか、契約そのものの無効・違法といった点に焦点を当てた類型が示されています。マル7番で言うと、瑕疵担保を理由とする解除が挙げられているわけですが、ここでは、解除という法律効果を含めた類型となっているわけです。ある部分では法律効果の方に着目して類型が立てられていて、ある部分では法律効果の前提となる事実あるいは事件についての類型が立てられているものですから、それが全体として、うまく平仄が合うような形で設定されているのかなというのがちょっと気になります。
 例えば虚偽または誇大な広告・表示に対応するとしたら、目的物の欠陥というのがあるのかもしれません。目的物の欠陥というのは、法律効果という点では、瑕疵担保を理由とする解除に結びつくということなのかもしれませんし、あるいは、まさしく損害賠償に結びつくということなのかもしれません。勿論、そうした類型を同じレベルで統一する必要はないんだということも考えられるのかもしれませんが、少し整理の必要があるのではないかなというふうに感じましたので、その点だけ、まず最初に申し上げさせていただけたらと思いました。

○伊藤座長 ただいまの窪田委員の御発言にあった類型化の基準の整理に関しては、勿論、これが最終的なもの、確定的なものではございませんので、場合によっては、また御意見を伺いながら事務局で再整理ということになるかと思いますが、加納さん、どうぞお願いします。

○加納企画官 今の窪田先生の御指摘のところですが、座長におっしゃっていただいたように、これが唯一の取りまとめというか、整理の仕方というふうには私どもも考えておりませんで、どうしてこういうふうに書いたかということでありますけれども、共通争点の確認をする。その共通争点として、事業者の特定の行為の法的評価あるいは事実の確認という形で今までとらえてきていたものですから、例えば虚偽誇大というところで言いますと、当該広告・表示が虚偽であるか、民法の96条の欺もうに当たるとか当たらないとか、あるいは不法行為まで含めようとしますと、そこで言う違法に当たるかどうかというようなバリエーションがありますので、そういう形で少し幅のある書き方になってしまっているというところです。契約条項の無効というのも、消費者契約法上に照らして有効か無効かという形で今まで議論を進めてまいりましたので、そういうことで契約条項は無効という形で、いうなれば特出しされたような形になっていると。
 瑕疵担保のところにつきましても、例えば目的物の瑕疵ということで何らかの統一的な法律評価で、例えばPL法の欠陥と、不法行為の要件である過失と、債務不履行の言うところの不履行といいますか、債務の本旨に従った履行でないといいますか、そういうのをひっくるめたような共通概念でうまく書けるのであれば、こういうふうに書いてもよかったのかもしれませんけれども、ここでお示ししているのは、どういう事案かという観点でイメージしやすいように書いてみたつもりでございまして、できればこの専門調査会においてはこういう事案を想定してやりましょうと。恐らくそれは、限定列挙というふうに実際に制度化するときにはなると思いますので、実際にそれを条文にどう書き下ろすかということは、今後の法制化の作業の中で、一番わかりやすく、かつ明確な内容のものに工夫していきたいと思っております。

○伊藤座長 どうぞ、窪田委員。

○窪田委員 御趣旨は大変よくわかりました。その上で、少し希望ということ、あるいは意見ということになるのかもしれませんが、限定列挙という形にした上で、支配性なのか、重要性なのか、優越性なのか、そういった絞りをかけていくということであるとすると、ある程度広く拾えるような類型にしておくことが必要なのかなという気がいたします。その意味では余り細かく法律効果まで含めた上で類型を挙げて議論すると、そうすればするほど落ちやすくなってくるだろうと思いますが、そこの部分の間口はやや広げておく必要があるのではないかなというふうに私自身は考えております。

○伊藤座長 ありがとうございました。それでは、その点は窪田委員の御発言を踏まえて事務局で検討していただくことにして、先ほど大河内委員から、製品事故に関しては、従来の紛争の実情などを考えてもこの制度の対象として取り込むべきであるという積極的な御意見がございましたが、この辺りに関してはどなたか御発言はございますか。
 下谷内委員お願いします。

○下谷内委員 最初の段階のところからきちんと言っておけばよかったのですが、私は今回の提案されたものに関しては、何人かの委員がおっしゃられましたように、少額・多数被害が迅速に救済される、特に高齢者や弱者の方々が迅速に救済されるためには、どうあるべきかということが基本であるだろうと思っています。ですから、最初の支配性のところにおきましても、マル1でやっていきたいというふうに考えます。そういたしますと、今回挙げられました類型につきましては、現場の相談をしているものにとってはこれがある程度使いやすいのではないかなというふうに感じております。ただ、製品事故のところにつきましては、二段階目になったときもそうですが、生命・身体にかかわる、火災があって死亡してしまったとか、いろいろな事案が個別に非常に難しくなってくると思います。そういたしますと、簡易迅速にというところから離れて長期になってしまいます。ですから、この制度の趣旨を踏まえると、この製品事故については私は外すことが可能ではないかと思っています。
 その上のマル9番ですが、高齢者や弱者の方が、社債だとか、抵当証券だとか、いろんな問題がございました。そのとき、表示と開示が勧誘の説明等におきまして非常に問題が多くありましたので、できればここのところについては検討いただきたいなというふうに考えております。
 以上です。

○伊藤座長 製品事故・食中毒と有価証券報告書等の虚偽記載に関するもののうち、前者については、消極であり、後者の方は積極ということで承りましたけれども、他の委員の方、お願いします。
 では、大高委員お願いします。

○大高委員 全体的な話を含めて話をさせていただきます。これまでの議論の整理ということで、前半で、限定列挙で類型化をしていくことについては私ども賛成をしたいと思っております。その上で類型化の基準についてですが、ここでは、係争利益の把握の可能性というものが一つのメルクマールとして出てきております。私も抽象論として、把握ができた方がいいということについて異議を唱えるものでありませんけれども、このペーパーの整理を見てみますと、係争利益の把握が、3ページのマル2で書かれているようなメルクマールで本当に仕切れるのかどうか。ここでは、契約関係にあるとか、一定の関与があるとか、積極的に接触しているとか、そういったメルクマールを出してはいただいておりますけれども、なぜ、こういう場合に係争利益の把握ができる事案というふうに基準として出てくるかが、もうひとつわかりませんし、実際問題、当てはめの場面になっても、事務局からの説明でも既にありましたように、製品事故や食中毒等については契約関係にあっても係争利益の把握ができないということで、そもそも一旦立てられたメルクマールも十分貫徹ができていないということであります。こういうのは、本来考慮するのは難しい事項をあえて考慮している。二段階型であれば本来考慮しなくてもいい、もしくは、要件として特に検討する必要のないものをあえて考慮しているという、無理が来ているのではないかというふうに思う次第でして、要件として明記することの必要性については疑問を感じるところです。
 個別の論点に関してですが、今、議論に挙がっておりました有価証券と製品事故について。まず有価証券関係については、純粋なオプトアウト方式を採用しているアメリカ合衆国のクラスアクション訴訟においても、こういった有価証券等の問題はクラスアクションに最もなじむ事案の一つと言われていると理解しておりますし、今、検討している集合訴訟の枠組みにおいても適用度は極めて高いのではないかと思います。また、下谷内委員もおっしゃったように、株式や社債等の有価証券にかかわる被害というのは昔から重要な消費者被害の一つととらえてきたところですし、その被害発生の仕組みからしても集団的な救済が必要な類型と思いますので、積極的に取り込んでいくべきであろうというふうに思います。
 製品事故・食中毒については、さまざまな理由で否定的な理由がペーパーの方では書かれておりますが、いずれも私としては説得的な理由とは思えません。係争利益の把握が困難な事案が仮にあるとしても、それは一般化できるものかどうか疑問でありますし、ペーパーで書かれている理屈ではなく、先に結論があってそれに無理やり理屈を当てはめているというふうに思います。
 支配性の要件についても、基本的には前半で御議論ありましたように、ほとんどの事案類型では大きな問題にならないのでしょうけれども、こと製品事故・食中毒については、支配性の要件をどう理解するかがかなり影響するのではないかと個人的には思っております。私としては、製品事故・食中毒については共通争点の支配性に欠けるところはないと思いますし、係争利益の把握の論点についても、それほど大きく考える必要はないのではないかと思っているところです。
 もう一点だけつけ加えさせてください。情報漏えいについても、先ほど中村委員から御紹介があった事業者側からの御意見で、個別性があるのではないかという御意見がありましたけれども、確かに情報漏えいによって具体的な被害が生じているというのはあり得るだろうと思いますが、そういったものは被害者のグループ分けを適切にすることによって、十分に適切に訴訟運営ができるのではないかと思っておりますので、情報漏えいについてもやはり集団的救済を認めるべき必要性は高いと思っております。
 以上です。

○伊藤座長 黒沼委員、お願いします。

○黒沼委員 有価証券報告書等の虚偽記載事案については、これまでこの調査会ではほとんど議論がされてこなかったと思います。ここでは、共通性、支配性、係争利益の把握可能性という観点から対象事案になじむという分析が事務局からされていまして、その点については全く賛成であります。それ以外の理由を少しつけ加えさせていただきたいと思います。
 有価証券報告書等の虚偽記載というのは、他の類型に挙がっている虚偽または誇大な広告・表示の一類型でありまして、虚偽または誇大な広告・表示を集合訴訟の対象とするのであれば、有価証券報告書等の虚偽記載を除外する理由は性質上は考えられないだろうと思います。それから、投資家と消費者は違うのではないかという議論もあるところですけれども、個人投資家は投資の額は少額であることが多いですし、事業者、発行者との間で情報の格差も大きいですから、むしろ消費者に近い立場にあると考えられます。機関投資家をどうするか。これは、参加消費者を個人に限るということになると、法人とか機関投資家は入ってこないことになりますけれども、今でも個人投資家は機関投資家とは別個に訴訟を起こしていることが多いようでありまして、個人に参加資格を限ることにも意味があると思います。
 確かに現在でも虚偽記載にかかわる損害賠償請求というのは、被害者を募って集団訴訟の形で行われることがありますけれども、実はそのような訴訟は著名なケースに限られています。小さな上場企業といいますか、株式の流動性が乏しいために当初から多くの投資者、被害者を糾合することができない事案とか、虚偽記載の規模が比較的小さくて一人当たりの損害額が小さいケースでは、仮に課徴金が課されていて虚偽記載であることが明らかであっても、訴訟が提起されない事例が多いように思われます。そういう意味からは集合訴訟制度があれば、これまで救済されなかった被害者が救済される蓋然性が高いように思います。
 ただ、ここに書いていないことで、一つ難しい問題が残っていると思っております。それは、発行者以外の関係者の責任について、これを訴訟の対象にできるかどうかという点です。事業者の役員を被告に含めることができるかという論点が、後で議論されると思いますが、虚偽記載事例では、発行者の役員のほか、監査法人、公認会計士、元引受金融商品取引業者(証券会社)が被告として明文で規定されていまして、これまでの集合訴訟では、これらの者も被告として提訴が行われることが多いようです。発行者の役員の一部は率先して虚偽記載を行ったというものでしょうけれども、他の者は監視義務を怠ったことを理由にして責任が追及される可能性があり、監査法人、公認会計士、証券会社は虚偽記載が行われないようにチェックする立場にあって、やはり監視監督義務を怠ったということを理由に責任が追及されるものです。このように、これらの者は発行者と別の主体なので、例えば証券会社や監査法人のみを被告として集合訴訟を提起できるかどうかということが問題になるとともに、発行者に対する集合訴訟を提起したときにこれらの者も共に被告とできるかということも、これから議論していかなければならない難しい点ではないかと考えています。
 以上です。

○伊藤座長 御発言の最後の部分ですが、これは、金融商品取引法に造詣の深い黒沼委員からの問題の所在の御指摘と承りました。この点は、仮にマル9の類型を取り込むことになる場合であっても、更に検討しなければいけない点かと思います。
 どうぞ、山口委員、お願いします。

○山口委員 マル8、マル9、マル10の問題について意見を述べさせていただきたいと思いますが、その前提として、少額被害の救済を図るべきという必要性は勿論あるのですが、例えば消費者庁及び消費者委員会設置法の附則の6項でも、「加害者の財産隠匿または散逸の防止に関する制度を含め、多数の消費者に被害を生じさせたものの不当な収益を剥奪し、被害者を救済するための制度について検討を加え、必要な措置を講ずる」ということであります。これは、多数の被害者の救済を図ることがこの審議の前提になっておりまして、必ずしも少額を前提としているものではないことは確認させていただきたいと思います。
 ただ、マル8番の個人情報流出事案につきましてはまさに少額の被害でありまして、前に裁判例が幾つか配られたかと思いますが、実際にこれで損害賠償請求訴訟を延々と数年間やって、地裁、高裁の判決が出た事案で認められた損害賠償額は3,000円とか1万円です。たしか一番多いので1万円だったと思います。その種の問題で、今後、個人情報流出事案を防ぐ意味でも、事業者に御注意いただく上でも、是非これを枠組みとして入れて救済を図る。それによって事業者の注意を喚起していただくことは、重要ではないかと私は思います。
 マル9番目については、まさに黒沼先生がおっしゃったところではありますが、実は今年の7月5日に西武鉄道の例の株主被害の訴訟の口頭弁論がございました。9月に判決がある予定です。事案が発覚してなんと7年かかっておりまして、その間、地裁、高裁の段階で一部和解をされた例もありますが、最高裁まで頑張っている方はかなり人数が少なくなっています。つまり端的に言いますと、このような何年もかかる訴訟をあえて当事者としてやっていく人は非常に少ないという実情がございます。
 これは、前にも意見を申し上げましたが、「エフオーアイ」という小さな上場会社の上場における虚偽記載があったということで問題になった事案ですが、さんざん弁護士同士で検討した上、実損被害の回復がなかなか難しいだろうということを考えながら、原告になる人の説明会をやったところ、100万円以下の被害者がほとんどなものですから、それほどの人数が集まらなかった。しかし、やはりこういうものは放っておけない。上場時に虚偽表示をやることについては許されない、やり得は許されないと。上場によって虚偽表示をした主体は、創業者利益ということで相当利得しております。これがそのままやり得になっているわけです。この制度がなければ、恐らくやり得がこのまま繰り返されることになるかと思いますので、その意味では被害の救済を図る必要性は非常に高いと思います。
 食中毒事案については、私自身、弁護士として事業者側の代理人をやったこともありますし、食中毒にかかったノロウイルスの被害者の代理人をやったこともありますが、例えば結婚式場で100人ほど集まって食事をした。それで1週間程度の食中毒に多くの参列者がかかったというような事案ですと、先ほどの係争利益の把握という観点から言うと可能なんですね。ただ、これは事業者としては、当然、このような不名誉は直ちに解決しなければいけないということで、結婚式の新郎新婦の家族などに名簿を出していただいて、それぞれにお詫びをして、ホテルの信用、レストランの信用の問題がございますので、とことん訴訟にならないように誠意を尽くして解決を図ります。しかも、こういう問題が起こった翌日、翌々日、1週間後に結婚式場の式が予定されておりましても、これはお詫びを申し上げて別のホテルの会場代まで出して、同じような問題が起こらないように対処いたします。
 先ほど事業者側からのお話もありましたが、事業者としては、訴訟にならないようにとことん問題解決のために、あるいは信用維持のために努力するのが普通であります。問題は、そういうことをやらない、逃げを図る事業者に対して、これを放っておいていいのかということがございます。その意味で言いますと、食中毒、その他で係争利益の把握が可能な事案については、やはりこの類型の中で解決を図るということがあってもいいのではないかと思います。
 繰り返し申し上げますが、個人情報流出の事案でも、誠意ある通常の事業者であれば、過失があろうがなかろうが、情報漏えいされた個別消費者に謝罪のお手紙を出して、場合によってはテレホンカードを配る、その他適切な処置を講じて、信用の保持を図るというのは事業者が通常なさっていることでありまして、それが妥当であることは間違いないのです。問題は、そういうことをやらない不誠実な事業者の場合に、消費者が泣き寝入りせざるを得ない。そういう事態を何とかこの制度で克服するということから言いますと、マル8、マル9、マル10についても一定の枠組みのもとでこの類型に入れることが必要であると私は思います。

○伊藤座長 三木澄子委員、お願いします。

○三木澄子委員 私も山口委員がおっしゃったことに賛同です。やはり現場から考えますと、今回の消費者庁のこのペーパーの内容に関しては概ね賛成ですが、最後のマル10番目の製品事故・食中毒を外すことに関しては、やはり係争利益に関してある程度把握できるものも中にはあるのではないか。拡大損害に関しても把握できるようなものを本来は入れてほしいなというふうに思っております。勿論、因果関係があることが前提ですけれども、ただ、個別性とか、統一的な基準も難しいということであれば、今回、もし外されるとしましても、附則的な形で今後の検討には入れていただきたいと現場としては思っております。

○伊藤座長 では、沖野委員からお願いします。

○沖野委員 2点、製品事故・食中毒等というケースと、マル6、マル7、特にマル7について申し上げたいと思います。
 まず、製品事故・食中毒等につきましては、これを除外するという理由として支配性の話と係争利益の把握という点が挙げられておりますけれども、私は係争利益の把握というのは非常に重要な点だと考えております。支配性も勿論重要ですけれども、支配性の点から言いますと、支配性の要件を欠くことが多いと記されていますけれども、支配性のとらえ方によりますけれども、果たしてこの事案類型についてそう言い切れるのかということ自体についても疑問を持っておりまして、この記述が当てはまるのかというのは疑問に思うところです。
 もう一つ、係争利益の把握というのは、確かに製造物責任などで拡大損害が生じている場合で、しかも、人損でいろいろなケースがあることを典型例に念頭に置きますと、かなり難しいということは理解できるわけですけれども、他方、山口委員や三木委員がおっしゃったように、そうでない事例というのもそれなりに考えられるということで、ある程度定型的、均一的な被害になるものが想定されて、それが放置されることがいいのかという問題意識は、やはり重要ではないかと思うところです。
 そういたしますと、係争利益を把握することが困難ではないという事業者の利益についても、それなりの配慮ができるということをどこで保障するのか、その受け皿がどこかに用意されている必要があると思います。その一つは、対象消費者の特定の仕方、請求権の内容の特定の仕方ということで、その点において係争利益の把握という事業者の利益への配慮という要請がそれなりに受けられるのであれば、そちらで配慮するということで、対象事案の方では落とさないということも考えられるのではないかと思うところです。
 2点目がマル7についてです。これは窪田委員が御指摘になった類型化の在り方にかかわることですけれども、「債務不履行・瑕疵担保を理由とする解除による請求」ということが書かれております。ここで取り上げられた本筋は、製造物責任や食中毒事案等との関係で取り上げられているものですので、それに端的に結びつく事項ではないのですけれども、私には、なぜこれが解除による請求に限られているのかということがわかりません。解除の有無にかかわらず損害賠償を請求することはあり得るわけですし、損害賠償における損害額の算定として売買代金相当額ということはあり得ると思います。また、逆に解除せずに、修理費用の相当額ですとか、その間の代替費用ですとか、それなりに定型的な損害というのは考えられるわけです。そうしますと、何ゆえ解除に限定するのかという疑問があります。窪田委員の御指摘になった法律構成等、どの段階で類型化するかということを改めて考えるときに、今のような点も考慮して再度、資料に反映させていただければと思います。

○伊藤座長 沖野委員の御発言の後半部分は誠にごもっともかと思いますので、この点は事務局で検討していただければと思います。
 それでは、磯辺委員、お願いします。

○磯辺委員 個人情報保護の問題、有価証券報告書の問題、いずれも事務局の提案に趣旨を含め賛成したいと思います。製品事故・食中毒ですけれども、特に食中毒事案等で言いますと、先ほど来お話がありますように係争利益の把握が比較的容易であったり、支配性の要件が欠くとまで言えないものはやはりあると思います。例えば、昨今の牛生肉の食中毒事件などは、問題が起きた店舗やその地域が特定できますし、原因になる細菌も特殊なものでございます。そういったことで言いますと、一定の診断書等があれば因果関係は一律に立証は可能ということにもなるかと思いますし、被害の重篤さの程度によって幾つか集団を分けて金額を確定していけば、個別の争点での争いがそう重大になるというものでもないのではないかと考えられますので、一律、製品事故・食中毒だからということで除外するというのは、いかがなものかなというふうに感じている次第です。
 それと、これはちょっとよくわからないので教えていただきたいのですが、6ページのエのところで、債務不履行・瑕疵担保による損害賠償請求については、三段落目で、「そこで、製品事故や食中毒等の事案は除くとしても、契約の目的について生じた損害に限るなど、債務不履行、瑕疵担保による損害賠償請求について、上記ウの事案と明確な形で切り分けることが可能であれば、本制度の対象として規定する方向で検討してはどうか」と記述されています。上記ウというのは製品事故・食中毒事故の拡大損害の部分をおっしゃっているのではないかと思いますが、これは、製品事故・食中毒というものでも、債務不履行や瑕疵担保による損害賠償請求の範囲であれば認めるという趣旨なのでしょうか。
 そうだとすると、マル7に関する記述を踏まえて、6ページの最終段落で「以上を踏まえ、製品事故及び食中毒以外の債務不履行、瑕疵担保の事案については、本制度の対象として規定する方向で検討してはどうか」という記述との整合がとれないように思います。ちょっと私の読み方が不十分なのかもしれないので、質問という形で教えていただければと思います。

○伊藤座長 加納さん、お願いします。

○加納企画官 エのマル6、マル7のところは、先ほど沖野先生からも記述のわかりやすさの観点で御指摘がございましたので、その点も含めて申し上げます。
 マル6、マル7は冒頭の窪田先生からの御指摘のとおりでありまして、こういう事案が検討の価値があるのではないかということでお示ししているということであります。マル7の解除に限ってはなぜかということですが、債務不履行に基づく損害賠償請求も当然あり得るわけで、それはマル7で書いているつもりでありまして、マル6、マル7と合わせて、磯辺委員がおっしゃったような拡大損害がない欠陥といいますか、品質不良といいますか、そういうものは検討の余地があるのではないかという趣旨であります。
 磯辺委員がおっしゃった、「そこで」の辺りの書き方ですが、これは、債務不履行、瑕疵担保による損害賠償責任というふうに、例えば製品事故・食中毒なども法律構成としてはあり得るところですけれども、それは除くということを前提として、マル6、マル7を検討する余地があるのではないかという趣旨であります。

○伊藤座長 よろしいでしょうか。そろそろ残された事項に移らなければいけない時間ですけれども、池田委員、お願いします。

○池田委員 先ほど山口さんからも意見がありましたし、これまで何回も私は言っておりますけれども、事業者という場合に、言葉をきちんと把握した上で議論してほしいと思います。先ほど後藤さんからもありましたけれども、「善良」といいますか、「真っ当」といいますか、そういう事業者と悪徳な事業者を、同じ事業者という言葉でこのような具体的事例の議論の際に話をされると、非常に誤解を招くと思います。ですから、そういうことをまず明確に区別した上で、その上で類型化をするなら類型化して限定列挙するということをきちんと確認して進めてほしいと思います。
 それから、後ほど議論があると思いますけれども、役員を被告にするという問題についても同じことだと思います。普通の善良な事業者であるならば法人が責任をとるべきであって、法人の役員まで責任をとるというのは、別な話だと私は思います。個人を被告にしようというのは、悪徳事業者というイメージから、その点が議論になっていると考えますので、そこもきちんと区別して是非議論をお願いしたいと思います。
 以上であります。

○伊藤座長 中村委員、お願いします。

○中村委員 概ね先ほど述べたとおりですので、補足だけ申し上げます。
 1つ目は、今、マル8、マル9、マル10が議論のところだということでお話が進んでおります。先ほど申し上げましたとおり、虚偽または誇大な広告・表示ということで、虚偽または誇大ということであればいいのかもしれませんけれども、一般的に広告・表示の誤りについて、広くこの事案を適用することに関しては、事業者としては少し行き過ぎではないかと考えているところでございます。
 それから、製品の事故に関して、人身損害ということに関しましては、これがA案という形でなければあり得るのかもしれませんけれども、今回は基本的には、背後にあるすべての方がどういう方かわからないという状態でその結論を出すことが前提の制度ですので、そういうことからすると、この制度の仕組みからは係争利益の把握が難しい内容なのではないかと考えるところでございます。

○伊藤座長 窪田委員、お願いします。

○窪田委員 時間がないところを申し訳ございません。結論としては特に議論にはなっていなかったと思いますが、個人情報流出について確認させていただきたいと思います。
 個人情報流出に関して言いますと、最初、中村委員から御指摘があったように、個人情報の中にも個別性が高いものは十分にあり得るだろうと思います。ただ、事件類型としては両方ともあるとすると、類型から外さないということで構わないだろうと思いますし、一般的な要件の中で支配性なり優越性なりで処理をしていくということになるのだろうと思います。
 ただ、少し気になりますのは、恐らく均一の損害賠償という形でいくと個別性はないが、人格権侵害なんだからということで個別にやっていくと個別性が出る。つまり、実は損害賠償というふうに言っただけでは結論は出なくて、どっちの構成にするかということによって変わってくるのだろうと思います。その部分で、朝倉課長から御発言があった、主張・立証責任がこの場面で当てはめるのかどうかよくわからないのですが、支配性なり優越性なりについて、一体何を立証しなければいけないのかという点が多分問題になってくるだろうと思いますので、確認をさせていただきたいと思います。
 それと、今、事業者の方たちから、善良なる事業者はそんなことはしないんだということがありました。最初に磯辺委員から御発言があったことを確認させていただきたいと思いますけれども、多くの善良な事業者が適切な形で自主的に解決をしていくというのは、そのとおりだろうと思いますが、そのことと、ここで制度をつくるということは別に抵触するわけではないだろうと思います。むしろこういう制度をつくった上で、それを前提としつつ適切に対処していただくというのは十分に考えられるわけですし、問題解決へのインセンティブを与えるという意味で、問題解決を促進するということは十分に考えられると思いますので、その点は確認をさせていただきたいと思います。

○伊藤座長 ただいまの御議論を伺っておりますと、マル8番ないしマル10番に関しては御意見の対立があるところではございますが、個人情報流出、有価証券報告書等の虚偽記載に関しては、この場の多くの御意見としては、それらをこの制度の対象として取り込むことを検討をすべきだということのように承りました。
 また、製品事故・食中毒に関しても積極の御意見が多かったように思います。ただ、これに関しては、係争利益の把握の可能性を類型的に判断できるのかということかと思いますが、消極の御意見もあり、最終的な取りまとめ、は次回以降にお諮りさせていただきますが、場合によっては、先ほど三木澄子委員から御発言がございましたように、今後の検討の課題にするという形での取りまとめもあり得るかと思います。本日はこの程度にしまして、取りまとめの段階でもう一度御審議をお願いできればと思います。
 どうぞ、後藤委員。

○後藤委員 個人情報漏えいの件に関して、一般的に、情報を流出させてしまった事業者は被害者の名簿を持っており、直接、被害者に謝罪をしながら金券をお渡しするなどして、一回で解決をはかっているのが現状です。ところが、この制度に加えた場合にどうなるかといえば、被害者が請求や証明を求められるなど手続がむしろ煩雑になることが起こりえると思います。しかも、個人情報漏えいの場合は、一回の事案における被害者の数が膨大になることが多いので、事務的にも経費的にも双方の負担が非常に大きくなります。だから、ほかの類型と同一視はできないと思います。
 もう1点、個人情報漏えいについては精神的な被害である慰謝料を前提としており、ほかの類型については主に金銭的な被害があることを前提としており、全体としての整合性という部分では少し疑問が残ると個人的には感じております。

○伊藤座長 わかりました。取りまとめに際しましては、ただいまの後藤委員からの御指摘も踏まえて、どのような形で表現するかを事務局で更に検討してもらいたいと思います。
 それでは、第2の「被告について」の説明を、加納さんからお願いします。

○加納企画官 資料1の9ページをごらんいただきたいと思います。まず、1ポツのところですけれども、今回、消費者と事業者の間の紛争ということで考えておりますが、現在の民事訴訟で裁判がどういうふうにされているかというのを見ますと、事業者以外に、以下のマル1、マル2、マル3という形で、会社の役員が第三者に対して責任を負う場合の規定を根拠とする責任追及であるとか、マル2番、当該事業者の構成員などが責任を負う。合名会社の無限責任社員であるとか、社員が無限責任を負う場合もございます。マル3番は、いわゆる法人格否認の法理が適用され、背景にいる個人をその事業者とみなして責任を追及することもあるということだろうと思います。
 こうした事案があるということで、今回の被害者の救済制度において、責任追及についてどういうふうに取り入れるべきかということについても検討する必要があると思っておりまして、特にマル1、マル2の場合についてどう考えるかということでペーパーをつくっております。
 2ポツで、検討の必要性ということです。一段落目に書いてありますように特に想定されますのが、当該事業者自体に資力がない場合でありますけれども、被害救済の実効性を図る観点からは、役員等の責任を追及せざるを得ないというのは、実務上、多くあるのではないかと思います。とりわけ悪質商法と言われる事案でありまして、不当勧誘などが問題となっている事案において多いのではないかと思われるところであります。
 役員等につきましては、違法行為により報酬などの形で利益を得ているのが多いのではないか。そういうのが、責任追及の実質的な理由になるのではないかというふうに思います。
 3ポツで、では、役員などを対象にできるのかということについては更に検討すべきではないかと思うわけで、(1)、(2)に2点ほどお示ししております。まず、(1)に書いているところですが、本質的には消費者と事業者との間の紛争で、構造的格差などにかんがみて特別の訴訟制度を設ける、そういう議論であります。そうしますと、あくまでも当該事業者と消費者というふうに限るべきではないか、こういう考え方もあるのではないかと思われるところです。
 ただ、先ほど申し上げましたように、現在の実際の裁判実務におきましては、事業者の責任追及が功を奏しない場合には役員等について責任追及をされておりますので、そういう場合を被害者救済の観点から外すというのは、実効性を欠くことになるのではないかという問題意識もあるのではないかと思います。
 (2)番ですけれども、当該事業者そのものと役員等につきましては、責任の所在といいますか、責任の根拠が異なり得るのではないかということであります。例えば役員の責任ですと、任務の懈怠というところが責任の大きな原因となるのではないかと思われるわけで、これは事業者ではなく、当該役員についての固有の争点になると思います。そうしますと、そういった論点が別途出てくる、そこをどう考えるかということ。
 それから、個人責任の追及になるのではないかと、先ほど池田委員からその趣旨の御発言があったかと思います。濫用的な訴えも懸念される、そういうおそれもないわけではないのですが、その点は、例えば適格団体に主体を限っているところである程度防止されるというふうにも思われるところで、そういった観点をどう考えるかということで(2)で書いてございます。
 被告については、以上でございます。

○伊藤座長 この点も従来から審議をいただいて、意見が対立といいますか、異なる立場からの意見が表明されているところでございますが、改めて御審議をお願いしたいと存じます。
 山口委員、お願いします。

○山口委員 私もこれで賛成ですが、先ほど来、あるいは前々回も池田委員や中村委員から御指摘がございましたが、例えば被告となった事業者の支払能力に問題がない場合には、個人の責任をこの制度の対象から外すという形で、何でもかんでも被告にできるということではなく、事業者に支払能力に問題がないと明らかに認められる場合には被告としない。あるいは被告から外すことが認められるというような、除外規定を設けるのはどうかなというふうに思っております。

○伊藤座長 どういう形で制度化するかは別にして、行為の主体である事業者に損害賠償義務を果たすだけの資力がない場合に限って、役員等をこの制度における被告とすることを認める。そういう形にするのが合理的ではないかという御意見ですが、いかがでしょうか。
 沖野委員、お願いします。

○沖野委員 役員等を被告とすることについてですが、何をねらいとしているかが必ずしもはっきりしないように思われます。考えられるものに、そこに二通りあるのではないかと思っております。
 一つはいわゆる悪質商法で、例えば詐欺的なペーパー商法のような場合に、そうやって得た利益はほとんどが一定の者に還流されていて会社には残っていない。会社に責任追及をしても実質的な被害者救済にはならない。更に言うと、法人格をいいように使っているという意味では法人格否認ということも考えられるけれども、そこまで実態がないとも言いにくいというものについて、実質はこの人たちではないかというところに責任追及をしていくというタイプのものが考えられると思います。これは必要性は非常に高いのですけれども、そういう目でここで提案されている内容を見ますと、そういった事案の場合には必ずしも役員に限らないということがありますし、根拠条文も、会社法の第三者責任ではなくて、民法709条、更には719条の共同不法行為でいくというものですから、そういうものを事例として考えているのだとすると、このまとめ方が余り合っていないのではないかと考えられます。また、そのような場合ですと、現在、同時に検討されております利益剥奪の制度との役割分担も、どう考えていったらいいのかという点は考慮要素になろうと思います。
 もう一つの可能性は、先ほど黒沼委員が出された例などがあり得るかと思うところですけれども、被害を生じさせた事業活動について、当該地位に基づき一定の責任を負う。その責任を果たさなかった者に対して併せて責任追及をしていくというタイプのものでして、それはまさにここに書かれているような例に当てはまるのですが、しかし、これはかなり広くて、それを一般的に責任追及するというのは非常に問題が多いのではないかと思うところです。確かに事業者に資力がない場合についてという限定をかけるのは、一つはあり得るのでしょう。確かに責任ある地位についている者が責任を果たさなかったというのはそのとおりなのですけれども、最初の例に比べまして、そういう事業活動によって違法の収益を自ら個人として得ているということもない場合に、やや広すぎないか。むしろマイナスの効果が大きいのではないかというのを懸念するところです。

○伊藤座長 山本委員、お願いします。

○山本委員 基本的には今の沖野委員の御発言にほぼ全面的に賛成です。私は繰り返し申し上げましたが、この制度というのは、被告の立場に立ってみれば片面的な既判力の拡張的なものを認めるものであって、一度被告側が勝訴しても個別の消費者から再度訴えを提起されるおそれがあることは否定できないという意味で、やはり被告の立場を保護する、被告にとってそういう意味では酷な制度であるということが前提だろうと思います。そういう意味では、通常の民事訴訟ではだれでも被告にできるのだからというのはやや乱暴で、原告の利益を救済するために必要最小限度の範囲に、この制度における被告は限定されるべきものではないかと思っております。原則としては事業者、要するに自ら事業の主体としてその対象となる行為を行った者がこの制度にのせられるのは、やむを得ないところがあると思いますが、そうでない者を被告とすることについてはかなり慎重である必要があると思います。そういう意味では原則としては、ここに掲げられている役員等の者をこの制度の被告とすることは避けるべきではないかと思っているところです。
 ただ、ペーパーにもありますように、あるいは皆さんの議論にありますように、実質的に見れば、自己の事業と同様の、要するに法人格が一種の隠れみの的になっているような事業者、しかも消費者の救済の観点からすれば、本来の事業者に十分な資力がない場合に、確かにそれを救済する必要性はある場合があるだろうというふうに思います。
 問題は、それをうまく切れるかどうかというところで、先ほどの山口委員の、事業者自身について十分な資力がない場合というのは確かに理解できるところはあります。ただ、沖野委員が言われた第二の類型のように、例えば情報漏えいで情報担当の取締役が十分な管理体制をしいていなかったことで責任を負うという場合、仮にその事業者がそのあと破綻したからといって、その情報担当の取締役をこの制度にのせるかというと、やはりそれは酷なのではないかというふうに思います。役員だからサラリーマンではありませんが、自分自身の仕事としてやっていて、十分な注意義務は尽くさなかったということはあるのかもしれないですけれども、多数の消費者から集団的な形で訴えられて、しかも、そこで勝ったとしてもまた個別には訴えられるかもしれませんという制度の対象にすることについては、私自身は必ずしも望ましいことではないのではないかという気はしております。
 他方で、沖野委員が言われた第一類型のような悪質商法というのは確かに認める必要性はあり得て、また、認めることで問題はなさそうに思いますが、そこをうまく切れるか。個別の事件の中で裁判所が、その人が実質としてその事業を主体としていて、法人格は隠れみのにすぎないということを、一々被告適格を認める前提として事実認定していかなければいけないということになると、それは、一種の本案の審理を当事者適格を判断するところでしていかなければいけないことを意味することになりますので、制度的にそれはなかなか難しいような気はします。
 あり得るとすれば、個々の事件類型で、一定のものについてはそういうことが定型的に認められると。こういう事件類型であれば役員等を、沖野委員のあれからすれば役員等に限られないのかもしれませんけれども、実質的な事業主体と認められるような自然人についても対象とできるというものがうまくくくり出せれば、それは一つの方向性としてはあり得るかなと思いますが、ただ、そもそも悪質商法というのは、我々が検討している対象においては必ずしも主たるターゲットではない。主たるターゲットとしてはまた別の制度を用意していこうということになっていると思いますので、そこを考えると、どこまでこれが今のような努力ができるかという問題かもしれませんけれども、私は原則的にはなかなか難しいかなという印象を持っているということです。

○伊藤座長 先に小林さんからお願いします。

○小林参事官 役員個人まで被告に含めると、これらの者にとって酷ではないかという指摘は、重要な点を含んでいると認識しております。
 1点目としては、被告とされる役員個人の応訴の負担というのは軽視できないだろうということ。山口委員から御提案のあったような、「法人の支払能力に問題がないときは除く」といった規律を設けたとしても、被告とされた役員個人はいったん受けて立ち、訴訟の中で、当該法人には支払能力があるのだということを立証していかなければなりませんので、応訴の負担は残ると考えます。
 次に2点目ですが、原告が適格消費者団体に限られるとすれば、誰の目にも明らかなような濫訴はないのでしょうが、役員個人も被告にすることが可能だとしますと、有利な和解を期待して、そのために役員をも提訴するという動きは生じ得るのではないか、そのような懸念をしているところです。仮にそのようなことがありますと、新しく発足するこの制度の安定的な運用や信頼にとってマイナスにならないかとも懸念しているところです。
 したがって、役員を被告に含めることについては慎重な検討が必要だと考えます。

○大高委員 私としては、趣旨はちょっと違いますけれども、結論としては、沖野委員もしくは山本委員が述べられたように、一定の事案においては会社の役員等も対象とすることを十分検討していっていいのではないかと思っています。理由については、このペーパーに書かれているとおりですので繰り返し述べませんが、会社自体に責任追及をしても意味がない場合において、会社の役員に一定の責任が、しかも、任務懈怠という一定ハードルを上げた責任が認められる場合において、役員等において責任を追及することは必要ではないかと思います。
 ただ、問題はどういった場合に限るか。これは確かに難しい問題で、山口委員がおっしゃったように、法人に資力がないという場合も確かに基準になり得ると思いますが、この切り分けは確かに難しいところではあると思います。私も定見があるわけではありませんけれども、山本委員がおっしゃったように、一定の請求権など、役員の責任が認められて一定の類型を何とか切り分けて、そういったものについて対象とすることも考えていくことは検討されていいと思います。
 濫訴の危険というのは一般的に常に言われるところでありますけれども、抽象的な危険にとどまるものか、具体的な危険としてあるのかどうかというのは、制度を考えるに当たっては十分考慮すべきで、あくまで抽象的な危険にとどまるものであれば何らかの形で担保するべきではありますけれども、それをもって制度すべてについて否定的になる必要はないのではないかと思います。

○伊藤座長 下谷内委員、お願いします。

○下谷内委員 被告につきましては、私どもがいろいろな事案を考えますと、やはり役員が被告になることについては賛成です。ただし、資力云々ということで、その規定が当然どこかに入ってくるかと思いますが、是非そこのところは考えていただきたい。マル3番に名板貸人というところがありますけれども、よく消費者問題で、高齢者の方が会社を退職しまして、あなたを役員にしてあげるから退職金を出しなさいと言われて、結局、社長さんという名目にはなるのですが、多少の給料で、あとはほとんど隠れている役員のようなところに行ってしまうというのが非常に多うございます。新聞広告までして、皆さんひっかかって、というのは語弊がありますが、そちらにお金を払ったというのがあります。そういう場合、名板貸人にまで請求するというのは酷ではないかなという気がしますので、この辺のところの名板貸人等につきましてもある程度の線引きが必要なのではないかというふうに感じております。

○伊藤座長 ほかにいかがでしょうか。
 三木委員、お願いします。

○三木浩一座長代理 非常に大きく対象となる相手方を分けると、やや乱暴な置き方ですけれども、悪質な事業者と、悪質とは言えないというか、比較的普通の事業者のように分けられると思います。まず前者については、何人かの委員がおっしゃったように、この制度の主たるターゲットではないのではないかという面もありますし、悪質な事業者の場合は、役員責任追及という規定をつくっても、役員資格を持たない形で事業をコントロールする。現在、既にそういう形で行われる場合もあるようですけれども、更にそれが進んでいくだけであって、いずれにしても役員で切り分けるということは、悪質な事業者に関しては余り意味がないように思います。反対に、普通の事業者との関係では、細かくは申しませんが、何人かの委員から御指摘があったように、その責任追及がされるべきだという事案も勿論あるでしょうけれども、他方で、かなり酷な場合も出てくるだろうと思います。その切り分けは難しいように思います。
 追加でこれは確認も兼ねるのですが、どういう法律をつくって、どういう規定ぶりにしていくのかということとも関係するのではないかと思いますけれども、ここで言う事業者というのが何を含むのかという事業者概念です。あるいは事業者という言葉を使うのか、事業者を使うにしても、法制用語ではないですが、それに類するところまで概念を広げるのかということにもかかわりますが、一つは、冒頭に中村委員が御紹介されたペーパーにもありましたが、私の理解では、少なくともこの制度が想定している事業者は、国とか地方公共団体のような公法人等を排除するものではないという理解ですが、それでいいのか。これは確認です。
 それから、現在、議論されている問題との関係では、事業者概念ですべてを拾えるとは思っていませんが、事業者、あるいは、先ほど言いましたように法制的な表現ぶりはちょっと難しい面がありますけれども、事業者に類する者とか、実質的な事業者というところまで、法規定か事業者概念の解釈かわかりませんが、広げていけると、事実上、事業をコントロールしている者は事業者として扱えるのかもしれません。ただ、雇われ役員とかが典型的ですが、純粋なサラリーマンはその概念では勿論含まれないし、むしろ私は含むべきではないというふうに思っております。

○伊藤座長 加納さん、三木委員からの確認部分について、何か御説明があればお願いします。

○加納企画官 国、地方公共団体などが入るのかということについては、入るという前提で考えてございます。消費者契約法、消費者安全法の事業者の書き方を参考にしながら、具体的な書きぶりについては検討していきたいと思っておりますけれども、国、地方公共団体も民事責任を消費者に対して何らかの形で負うというときには、訴訟の主体として責任追及されることを前提に検討していくというふうに考えております。以上でよろしいでしょうか。

○伊藤座長 この点も、従来の経緯から予想されたことではありますけれども、御意見が対立しています。いわゆる悪徳事業者をどのように定義するのか、ここで正確に申し上げることはできませんけれども、事業活動が公序良俗違反あるいは違法行為と評価をされるものであって、そこから収益を上げている事業者をいうとすれば、その事業者に限らず、実質的な意味での事業の運営をしている者に対して損害賠償責任等を問う必要に関しては、認識の違いはないように思いますが、ただ、悪徳事業者の役員等のみを対象とする制度の設計ができるのかという問題があるように思います。
 沖野委員の御発言にありましたように、共同不法行為としてとらえられる場合、それはいいと思いますし、法人格否認の法理で、実質的な経営主体たる個人が責任を負うべきものであるととらえる場合もいいと思いますが、そういう一般的な法理を超えて、事業者の役員であるとか、実質的な経営の責任がある者に対して、その任務懈怠を根拠として、この手続の中の被告として加えることを認めるかどうかということになると、幾つか要件に関する御提案もありましたが、必ずしも容易でないように思います。そこで、本日の段階では必ずしもどちらかの方向に取りまとめることは致しませんで、取りまとめの案をお諮りする際に、再度審議いただくことでいかがでしょうか。
 それでよろしければ、最後になりますけれども、適格消費者団体の報酬及び費用に関して、説明をお願いいたします。

○加納企画官 資料1の11ページをごらんください。1ポツの「基本的な考え方」に書いているところですが、今回、新たな訴訟制度について適格団体を手続追行主体として想定するとした場合に、遂行すべき業務につきましては、ここに書いてございますように、かなり増大することが想定されるところであります。そういった業務を遂行する上で大きいのは人件費ではないかと思いますが、一定の支出が生じるのが避けられないと思われるわけで、制度の持続性の観点からは、合理的な範囲内でこれを回収することができる手当が必要ではないかというふうに思います。
 費用の回収ということで、2ポツ、3ポツで、いわゆる費用と報酬、ここは分けて検討した方がよいのではないかと思われますので、そういう観点からペーパーをつくっております。2ポツの費用というところですが、適格団体と二段階目で授権をした対象消費者との関係は、基本的には委任類似の関係にあると思われます。そうしますと、委任契約上の前払請求や費用償還請求、そこに含まれる範囲内では、委任者である対象消費者から取れるということになるのではないかと思われるところです。
 具体的にどんなものが考えられるかということですが、典型的には裁判所に納める訴訟費用等だと思いますけれども、適格団体が訴訟代理人として弁護士さんにお願いをしたという場合、弁護士さんにお支払いする費用、報酬というのは、対象消費者と適格団体の関係では費用というふうになるのではないかと考えてございます。それらにつきましては、前払請求ないし費用償還請求の範囲内では請求できるのではないかと思われます。
 問題は、それを超えたいわゆる報酬。適格団体の事務に対して対価として支払う報酬というものまで認めるかどうかということでありまして、これについては、(2)の弁護士法72条との関係が特に問題になるのではないかと思います。11ページから12ページにかけて書いてありますように、適格団体の一連の業務は弁護士法72条で言うところの法律事務に該当すると思われますので、対価を得て業務を行うということになりますと、形式的に弁護士法72条に抵触すると思われます。
 72条の趣旨につきましては、12ページに書いてありますように、いわゆる三百代言の弊害というところで、一般国民が不利益を被ることを防止することであろうと思われますので、そういう弊害を防止するための規律を設けることによって例外を認めることは、検討の余地があるのではないかと思われるわけであります。「そこで」というところで、適格団体、現行の規律として、マル1からマル7、それからマル8番としまして、更に付加的な規律を付加されることを前提に検討いたしますと、現行の適格消費者団体でも、それなりに厳格な認定要件及び監督の規制に服することになっておりますので、72条の規定で趣旨の潜脱はないとも考えられるところであります。特にマル2番の弁護士の関与につきまして、弁護士が必置とまではなっていないことを踏まえますと、弁護士を例えば理事のような形で必置とするなどのような形で弁護士の実質的な関与を強めて、弁護士法の趣旨を損なわないように手当をすることによって、報酬の支払いを受けられるようにすることが考えられるのではないか、というふうに書かせていただいてございます。
 この点につきましては、別紙ということで横長のものをおつけしておりまして、現行の参考になるものとして、いわゆるサービサー法の規律とADR法の規律を掲げてございます。認定基準、有効期間、監督、説明・情報公開などの比較という形で書いておりますが、特に弁護士の関与につきましては、例えばサービサー法では、許可の基準第5条の第4号というところで、常務に従事する取締役として一定の弁護士がない場合には、サービサーの許可を受けられないという要件になっておりまして、役員に弁護士が入っていることという規定がございます。
 11条では、一定の手続については、弁護士に追行させなければならないという趣旨の規定もございます。
 ADRの方は、認証の基準の6条の5号というところですけれども、ADR手続の実施者が弁護士でない場合には、弁護士の助言を受けるようにそれなりの措置を定めていることという要件で、弁護士の関与をこういう形で規定している。こういった類例が参考になるのではないかと思われます。
 資料1の本文に戻らせていただきまして、そもそも弁護士法72条との関係をどう考えるかという論点があるということです。更に、弁護士の関与を強めるということで弁護士法の問題をクリアーしたとしましても、それだけでよいのかというのは別途検討する必要があると思われまして、13ページの4ポツで、更に規律を設けるということで書いてございます。(1)は、報酬につきましては、委任契約上の有償としての報酬ということになると思いますので、基本的には当事者の合意により決められていることだと思いますが、そうしますと、不相当に高額な報酬の請求がされることもなくはないということで、結果的に対象消費者の回収分が圧迫されることも起こり得る。そうした場合、何のための制度かというそもそも論で問題があるわけで、対象消費者の回収が圧迫されないような規律を併せて設ける必要があるのではないかと思われます。
 (2)として、では具体的にどうするのかということですが、報酬や費用の取り方について一定の規制をかけることが必要ではないかというふうに思われるわけです。二段落目、「具体的には」というふうに書いておりますが、一つは、新たな認定の要件として報酬・費用に関する基準を定めて、それが不相当でないものにしなければならない。これは、先ほど御紹介しましたADRにおきまして似たような規律がございます。そういったものを参考にそういった規律を設ける。
 更にはマル2番で、適格団体は、報酬や費用について消費者にどういう請求ができるかという基準を公表し、それに沿ってしなければならない。恣意的な取り方は認めない、監督の対象にする。
 マル3番ですが、対象消費者に対しての十分な説明義務を尽くす。説明をしなければならないような義務づけをするという形で、適格団体に対して一定の規制を設けることを前提に、報酬を認めることもあり得るのではないかということで書いてございます。
 以上です。

○伊藤座長 この点も、手続追行主体である適格消費者団体が、安定した基盤の上で提訴および訴訟遂行ができるかどうかという点で大変重要な問題であります。他方、権利の帰属主体であります消費者の利益が不当に損なわれないように配慮するのも当然のことですが、重要な問題でございますので、是非、御意見をお願いできればと思います。
 窪田委員、どうぞ。

○窪田委員 結論から言うと、こうした形での報酬は認める必要があると思いますし、それが制度を支えるという点でも積極的な意味を有していると理解していますが、理論的に気になっている部分がありますので、その点について御説明していただけたらと思います。基本的には、ご説明にあったように、適格消費者団体と対象消費者との関係は、委任または準委任契約で説明するというのも合理的だろうと思いますし、業務の対価、報酬をその上で認めていくことも考えられると思います。ただ、厳密に言うと委任契約が成立するのは第二段階の段階で、第二段階の手続に加入した消費者が授権したときではないかという気がします。そうなった場合、第一段階の業務についての報酬を本当に取ることができるのだろうかという点が、少し気になっています。
 厳密に言えば、委任契約の中の報酬についての規定は、請け負った事務についての報酬という形になると思いますので、それ以前の段階のものについて報酬を取ることが理論的にできるのかどうか。極端なことを言うと、それを取るとなった場合、消費者契約法上問題が生じないのかという、非常にトラウマになりそうな話なんですが、それについては、新しい制度を組み立てるので何らかの説明の方法はあるのかなという気もしつつ、やはりきちんと説明できないといけないだろうと思います、現時点での議論では、むしろ、第一段階の段階が全体のプロセスの中では相対的に大きな位置を占めることになるだろうと思いますし、そこでの作業が一番大変だということになると思います。その部分について報酬が取れる仕組みを用意するためには、うまく説明をするか、制度をきちんと組み立てないといけないと思いますので、少し御説明をいただけたらと思います。

○伊藤座長 大変重要な御指摘だと思います。加納さん、お願いします。

○加納企画官 基本的には第二段階で生じた事務が対価になるのだろうとは思いますけれども、ただ、この制度の特殊性をどう見るかというところはまだ検討の余地はあると思っておりまして、要するに一段階目の手続が前提となって二段階目になっている。そうしますと、適格団体の業務としましては、一段階目で共通争点を確認して消費者に有利な判決を得るということで、それなりに事務負担をして作業をしており、そういう事務の延長線上で第二段階に入ってくるということになっております。あとは、むしろ委任契約の解釈とか、そういうところになってくるのではないかと思いますが、合理的な範囲内で、一段階目の費用相当分についても費用ないし報酬として取ることはあり得るのではないかと思っております。

○伊藤座長 この点も、更に検討していただきたいと思います。
 予定の終了時刻が近づいておりますけれども、若干延長をお認めいただきたいと思います。
 では、沖野委員、お願いします。

○沖野委員 今の点と、もう一つ、これも念のため確認させていただきたい点があります。
 理論的に難しい面がある、既に終わっている第一段階についての費用負担をどう正当化するかということですが、その点も含めて、委任ないし準委任契約の合意の範囲だということが一つは考えられるかと思います。
 もう一つは、これが全く別の2つの活動ではなく、一体的な、第二段階目まで行って初めて第一段階に意味があるというものですので、例えば時効の中断などのところでも、「潜在的に行使している」といった説明があったかと思います。勿論、潜在的に行使しているということになると、第二段階に入ってきていない人との関係でもどうなのかという問題を更に抱え込むのですけれども、ただ、それを同意に係らしめてその部分も負担するというのはあり得ることでしょうし、そもそも第一段階の権利行使は、原告たる消費者団体の固有の権利行使ではないということで整理がされておりますので、言ってみれば他人の事務を処理している、民法的に言えば事務管理的な性格だと思いますが、そういう費用を正当化することは可能であろうと思います。
 それはそれとして、一方で、消費者にとっての透明性ですとか、利益保護の点はありますので、ここに指摘されているような各種の方策は必要であり、第一段階の部分も含めて、それが幾らであるのかといった点についての十分な情報提供は必要であろうと思います。
 もう1点、これは確認ですけれども、費用等を、報酬の形であれ費用という形式であれ、原告活動をする者が回収できるということがこういう活動を支えていくために必要であるというのは十分理解できるところですが、その回収のイメージです。第二段階において、それなりに奏功して一定の金銭の支払いがある中から、その一部なり相当部分を回収に充てる。それを見込んで前払いを考えるというものにとどめるのか、それとも、結果がどうあれ、本人のために活動をしているのだから費用等は取れるということにするのか。どちらのイメージで行くかで、これは机上の空論かもしれませんけれども、場合によっては消費者にとって持ち出しということがあり得るのかということです。これは、どういうような思想で費用の回収を図るのかという点に絡んでくると思いますので、確認しておく必要があるのではないかと思います。

○伊藤座長 沖野委員の持ち出しというのは、具体的にはどういう場面ですか。

○沖野委員 第二段階において一定の金銭の支払いがありますけれども、しかし、実は費用がそれ以上にかかっているという場合もありますし、逆に第二段階で、結局は消費者にとってはうまくいかなかったということもあります。授権の段階で一定の費用を払うとすると、結局はそれを回収できなかったという可能性もあるわけです。しかし、活動としてやっている以上はその分も取れる。ただ、そういうリスクもあることは重々承知した上で授権してくださいということになるのか。それとも、この制度に乗る限りは、申し訳ないですけれども、その分は原告となる主体・消費者団体の活動の費用として持っていただく。ただ、一定の回収金が来るような場合は、そこから相当額はもらえるという形で活動を支えるということなのか。いずれの発想で行くのかということです。

○伊藤座長 わかりました。加納さん、お願いします。

○加納企画官 具体的なイメージを私どもの方でも完全に詰め切れておりませんので、そこはまた御相談させていただければと思いますけれども、適格団体が授権を受ける際には、適格団体が一段階目で既に一定の支出をしている、二段階目でも更に支出を伴うことになる。一段階目と二段階目のどっちが重いかというのはケース・バイ・ケースだと思いますけれども、二段階目も重いことが十分想定されます。その際に、弁護士費用で言うといわゆる着手金みたいな形になると思いますけれども、例えば裁判所に納める費用を、授権の際に対象消費者から適格団体が取るのはある意味当然のことだと思いますけれども、それを超えた部分を取ることもあるのではないかというような印象で私の方としては考えておりました。

○伊藤座長 この辺りは、こういう方向でということが固まりましたら、詰めて検討いただきたいと思います。
 大高委員、お願いします。

○大高委員 時間が超過しているところに大変恐縮ですが、弁護士法72条の関係が議論に挙がっておりますので。私はもとより弁護士会の意見を代表する立場にはないわけですけれども、今後の議論の参考にということで、思うところを何点か申し上げたいと思います。少し長くなるかもしれませんが、お許しください。
 まず、基本的な考え方として、ペーパーの1ポツにありますとおり、本制度における主体となる適格消費者団体については、現行の差し止めと比べて格段に事務作業量及び責任が増大することは確かであります。そのことからしますと、新たな制度の円滑な運営もしくは適格消費者団体の健全な運営を図る観点から、適格消費者団体が集合訴訟の追行のために要した弁護士報酬は勿論ですし、弁護士報酬以外にも、訴訟追行のための団体の人件費等の一般管理費を含む運営諸経費を賄うための金銭について、合理的な範囲で支払いを受ける仕組みを設けること。こういった金銭の償還を、実費もしくはそれに類するものの償還と呼ぶか、直截に報酬と呼ぶべきかについては議論の余地はあると思いますし、十分慎重に御検討いただければと思います。いずれにせよ、こういった費用の償還を受け得る制度を設けることについては必要性はありますし、そういったことによって団体のインセンティブにもつながって、制度の安定的な発展を期待することになるものだろうと思っております。
 一方で、ペーパーにもあるとおり、こういった対象になる消費者の保護の観点から、償還されるべき金銭の決め方及び金額については適正なものである必要があります。また、実質的に見ればその金銭の償還については、訴訟追行という法律事務に関する金銭の支払いとなる側面はございますので、資料の3ポツの(2)にありますとおり、弁護士法72条の趣旨を没却しないかどうかについての慎重な検討は要するものと考えております。
 弁護士法72条の趣旨につきましては、最近は、弁護士の権益を守るための規定だというふうに批判される声も一部にはございますけれども、参考2に御紹介いただいている、昭和46年の最高裁判決にもありますとおり、基本的には当事者もしくはその関係者の利益を守るための公益的な規定というふうに理解できるのではないかと思っております。したがいまして、こういった例外的な規定をつくるという観点からしますと、資料1の別紙にもございますが、同じように弁護士法72条の例外として規定されているサービサー法と同程度の規定は、少なくとも必要なのではないだろうかとは思っているところです。
 具体的には、ペーパーにまとめられておりますように、実費と金銭の額の支払いの適正さを担保するため、このうち弁護士報酬については、もともと弁護士職務基本規定において「過大な報酬の制限」がございますので、それは別段としまして、それ以外のものについても消費者庁等による一定の監督は必要だろうと思いますし、適格消費者団体の理事またはそれに準じる役職に弁護士を置くことは必要だろうと思います。これに加えて、サービサー法に準じる形になりますが、具体的に申し上げますと、サービサー法の弁護士の関与のところに書いてありますが、11条の「受託債権の管理または回収の権限等」の規定に準じて、本制度に基づく訴訟については弁護士に追行させなければならないという要件を加えることについても、検討が必要ではないかと思います。こういったことによって、単に弁護士法72条の関係というよりも、より制度の信頼性を高めるという観点からも必要ではないかと思うところであります。
 なお、1点つけ加えさせていただきたいのですが、沖野委員の述べられた問題意識とも共通するところですが、このペーパーでは、実費の償還については基本的には対象消費者が負担することを前提にされているようにも思えます。場合によっては、事業者においてこれを負担することを許容する仕組みも、制度上、運用の工夫として検討されてよいのではないかというふうに思うところですので、この点も併せて述べさせていただきます。長くなりまして、恐縮です。

○伊藤座長 磯辺委員、お願いします。

○磯辺委員 適格消費者団体が、今、差止請求関係の業務をやっているわけですけれども、既に何度かお話ししていますように、会費・寄附金等で基本的に支えられているという実態でございます。それと、弁護士、消費生活相談員の方々、消費者団体関係者のボランティア活動で書面等の作成も行われているということがございます。いずれの適格消費者団体も、差止請求関係業務を適正に遂行するために精いっぱいの活動状況ということがございます。そういう意味ではこういう新しい集合訴訟制度を活用する。しかも安定的にきちんと活用していく。期待を裏切らずに公益的な活動としてやっていくためには、やはり一定の人件費を含めた報酬に当たるものが必要だと思いますので、制度の安定的な運営をきちんと行っていくという観点からも、是非、事務局の提案の方向で進めていただければというふうに思います。

○伊藤座長 三木委員、お願いします。

○三木浩一座長代理 時間がないところを恐縮です。このペーパーは費用と報酬を分けて書かかれていて、適切だと思います。費用に関しては、結論から申しますと、個人であろうとどういう形であろうと一定の費用は権利実現のためにかかるわけですから、それを回収できるというのは適切だろうと思います。適格消費者団体の立場からも、そうしてほしいということは当然だろうと思います。ただ、沖野委員がおっしゃられたように、実際に実費がかかったとしても、被告から取れなかった分まで含めて実費を払わせるのか、それが場合によっては足が出ることもあるのかというのは、そこはやはり考えるべきで、費用といえどもどうするかということは検討すべきだと思います。
 もう一つは、費用を取るべきですけれども、費用の中には弁護士報酬とか、若干裁量性のあるものも入っています。勿論、適格消費者団体はおかしなことはなさらないでしょうけれども、仕組みとしてその辺が適切に行われるような仕切りは必要だと思います。
 報酬の方ですけれども、ある程度報酬も取りたいという、実際活動しておられる適格消費者団体側の御要望は勿論理解しているつもりですが、少なくとも費用と比べると慎重な検討が必要だろうと思います。ほかの国のことを言って恐縮ですし、私がほかの国のことを適切に理解していない可能性もありますが、イタリアの集合訴訟制度をつくるときは、当初、国会で成立した案では、現在、日本が検討しているように、適格ではなかったと思いますけれども、消費者団体に主体を認めたような案でした。結局、それが施行されずに廃止されて、現在は民事訴訟法上の一般制度としてだれでも起こせるという制度になっています。
 そこの変更があったときに、これは背後に政権交代もあってかなり政治的な問題も絡んでいるので、今からお話しする話だけではないと思いますが、一つには、消費者のための制度をつくるのか、それとも消費者団体の健全な運営というか、消費者団体のための制度をつくるのかみたいな議論が背後にあったと聞いております。実際に消費者にどのぐらいお金があたるのかという問題とともに、新しい制度ですから、この制度の持つイメージにも関係してくるところはありますので、報酬に関しては慎重な御検討が必要だと思います。
 その関係で、これは、かつて大議論になった弁護士報酬の敗訴者負担的な問題と絡められては困るのですが、絡む余地はありまして、この制度に限ってということで、やれるのかやれないのか難しいハードルもあろうと思いますけれども、仮に報酬というものを入れるとすれば、それは敗訴した被告、事業者から取れる。つまり、被害者が実際に被った実損に対する賠償から更に差し引くというのは、この制度の本質からして消費者に酷な気もいたしますので、相手方から取れると。これは費用の方も含めての話かもしれませんが、特に報酬では、実際につくるのは難しい面もあろうとは思いますが、その点は制度として考える必要はあろうかと思います。
 最後になりますが、仮に報酬を取れるということにした場合、法律なのか運用上の指針なのかわかりませんけれども、これは少額・多数の事件も対象になっているわけですので、報酬を取ったらほとんど残らないというのでは、結局は消費者のための訴訟ではないというイメージになってしまいます。例えばですが、個々の被害者のあたるものの何%以内とか、そういう数字で置くことが妥当かどうかという問題はありますが、そのキャップは設ける必要があろうというのが一点。
 もう一つは、適格消費者団体が弁護士を雇ってやった場合、消費者の側から見ると、弁護士に払う報酬と消費者団体に払う報酬は、弁護士に払う報酬の方が費用扱いになります。それと別に消費者団体の報酬となると、二重報酬というイメージになりますので、先ほど言ったキャップを設けるのであれば、ちょっと細かい話ですけれども、両者を合算したものについてのキャップという発想が必要かと思いました。

○伊藤座長 それでは、手続追行主体である団体が、報酬及び費用の支払いを受けることができるようにすることに関しては、積極の御意見で一致しているように思います。ただし、それが弁護士法の規定の潜脱にならないようにするための担保の措置をどのように考えるのかについては、一部は原案にも出ておりますし、また、大高委員からの御発言にもあったとおりです。更に、そのことを前提としても、団体による安定的な手続追行を可能にし、かつ、消費者の利益を不当に侵害することがないように、費用・報酬を受けることができる範囲についてどのような規律を設けるかに関しては、本日の御意見を踏まえて検討をお願いしたいと思います。
 他に特段の御発言がございませんようでしたら、本日の専門調査会はこの辺りにさせていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか。

≪3.閉会≫

○伊藤座長 それでは、事務局から、次回の日程についての連絡をお願いいたします。

○原事務局長 どうも長時間にわたり、ありがとうございました。
 次回ですけれども、8月4日(木曜日)の10時からを予定しておりまして、議題は、「取りまとめ」の第一回目を予定しております。会場は、本日と同じ、こちらを考えております。
 事務局からは以上です。

○伊藤座長 本日はこれで閉会にさせていただきます。お忙しいところをどうもありがとうございました。

(以上)