分権クローズアップ[地方分権改革の旗手] 第4回 飯田市 その2

分権クローズアップ[地方分権改革の旗手コーナー]では、各地方の「地方分権改革の旗手」の方から、それぞれの地域における地方分権改革の取組や成果について紹介をしていただきます。第4回は、長野県飯田市総合政策部企画課の清水秀敏課長補佐から寄稿いただいた記事を2回に分けて掲載します。今回は、その2となります。

3.事例紹介Ⅱ 千代しゃくなげの会

次に、地域の住民が自ら社会福祉法人を設立して保育園を運営し、さらに地域福祉を充実する活動に発展させている全国的にも珍しい取組を紹介します。

飯田市の千代地区は飯田市を流れる天竜川に一部を接する中山間地域にある世帯数約600戸、人口約1800人の地域です。近年、高齢化率も40%を超え、人口減少も進むこの地区において、地区内の2つある保育園のうち、一つの保育園の園児数が2年連続して10人未満となったことで閉園という新たな課題が生まれました。

そのような地区に対して、一般的な地方自治体ではどのような対応を考えるのでしょうか。

飯田市では、閉園あるいは、民営化による2園の存続という複数の選択肢を地域住民に提示し、一緒になって検討を進めました。そして、幾度にわたる説明や地区住民の議論を経て、最終的に「千代地区の子どもは千代地区のみんなで育てよう」と、地区民が力を合わせて民営化して2園を維持するとの結論に至ります。飯田市は、その意志を尊重し民営化により保育園を存続する道を選びました。

これを受け、地域住民はまず社会福祉法人設立に必要な1000万円を自ら調達し、社会福祉法人「千代しゃくなげの会」を設立します。この地区の将来のための事業として地区内の合意形成を図りながら、千代地区の全戸から1万円を集め、残りは篤志による寄付で賄うことができました。

民営化したことにより、人件費や食材費などの運営費用は市内の市立保育園と同様に、保育料で運営することとなります。施設は市からの無償貸与で大規模な改修は市が行うこととされました。この状況だけを見れば従前の状況と差がなく見えますが、民営化により、いつくかの良い変化がもたらされています。具体的には、公立では限界のあった0歳児からの未満児保育や19時までの長時間保育の開始、親子の集いの広場「くまさんのおうち」の運営、長期休暇中の学童保育の実施など地区の子育て支援を充実させたことで、地区外の保育園に通わせていた園児が地区内に戻るなど、少しずつですが成果をあげてきています。

さらに、地域の子は地域が育てるという実践を通して地区の自信がついたことにより、社会福祉法人設立当初に計画したとおり、高齢者施設の経営に事業を拡大することができました。実は、保育園経営を始めるにあたり、あえて地域が社会福祉法人の設立を選択したのは、この地域が抱えるもう一つの課題である高齢化への対応を視野に入れたものでした。

この社会福祉法人が指定管理者となり、新たにこの地域にデイサービスセンターが開設されたことで、地区内の高齢者は身近な施設に通所できることになり、移動時間の短縮や顔見知りと共に過ごすことができることなど、本人の負担が軽減されました。さらに介護サービスを受けやすくなったことで、家族の負担も軽減されています。

地方分権あるいは規制緩和の視点では、社会福祉法人の設立に必要とされた出損金額1000万円の緩和など、ハードルを下げるという方法もありますが、この事例においてはそのこと以上に、地域の住民自らが自立し、協力して地域課題の解決に向けて頑張る覚悟ができたことが重要と考えます。

実はこの地域は、その財産ともいえる自然の豊かさや人の温かさを活かして、飯田市で取り組まれている体験教育旅行の受入の中核的な地域となるような「地域の課題に地域自らが主体的に取り組む力」を潜在的に持っていました。こうした自立への力は、一方で地方分権の受け皿としての基礎自治体の力の源泉のひとつであり、大切な要素と考えます。

4.おわりに

飯田市の牧野市長は、就任当初から、地域の暮らしに息づく歴史や文化こそが人を惹きつける独自のアイデンティティであり、これこそ大切にすべきものと訴えてきました。そのうえで、人、モノ、カネが地域で循環する裏打ちのある自立、経済自立度の高い地域づくりに取り組んできました。

日本全体が右肩上がりの高度成長の時代からバブルの時代には、時代の流れに乗ってさえいれば地域の課題は解決しました。しかし、その後の「失われた20年」の中で、従来は効率的だと考えられていた方法では、まったくうまくいかないことが明らかになってきました。例えば、縦の指揮系統が強い行政、公平性を重視した政策、財源を確保したうえで政策を実施する姿勢、迅速に苦情に対応する対症療法的行政など、こうした既成概念にとらわれていたら壁にぶちあたるだけとなります。

上村地区の例でもわかるように、行政は既成概念を超えていく事業構想力、つまりデザイン思考を駆使することが大事となります。住民の参画や協働による住民自治の充実が重要ですが、それを実現するには、地域の課題に地域の事業者、市民、内外の専門家などが関わる仕組みが必要となります。

飯田市では地域の身近な課題については公民館、産業関係については産業センターが地域住民や事業者、各分野の専門家も含めた「共創の場」を形成しており、大きく寄与しています。

地方分権の視点では、国の権限をそのまま引き受ければうまくいくという図式ではなく、国の制度を住民参加あるいは、企業のイノベーションを起こすような形にアレンジして事業を進めることが大事になります。

千代しゃくなげの会の事例は、まさに地域力の再認識にあたります。基礎自治体における様々なサービスについては、ともすると住民は受け手の存在であり、人口減少、地方の民間企業の体力低下などの状況に直面する中小規模の自治体にとっては、今後、縮小均衡を余儀なくされる状況です。そうしたなか、住民や企業も含む地域力を掘り起し、力を集めて対応することが鍵となると考えます。

もちろん地方分権の流れの一方で、国には国の役割もあり、地域が活性化するような環境整備はこれからも考えていただきたいと思いますが、今後はむしろ、地域が力を発揮し、アレンジしながら実行できることがより大切になります。

今後の地方分権の推進においては、身近な地域は地域住民自らがつくる、それでもできないことは市町村、あるいは県、そして国というように考える「補完原則」が重要になると考えています。

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