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分権クローズアップ[有識者へのインタビュー] 第6回 礒崎初仁氏インタビュー(その1)

分権クローズアップコーナーでは、地方分権改革に関する様々な記事を掲載してまいります。第6回は、中央大学法学部 礒崎初仁教授にお伺いした地方分権改革の成果と課題についての記事を3回に分けて掲載します。今回はその1となります。

礒崎教授は、神奈川県庁で長年御勤務され、その間土地利用の許認可や介護保険の施行準備などを御担当されました。現在は中央大学で地方自治、政策法務等々の研究に従事されています。

(注)なお、本記事は、平成25年10月11日に開催された第6回地方分権改革有識者会議におけるヒアリングを基に、インタビュー形式に再編集したものです。

中央大学法学部 礒崎初仁教授 

 

いそざき・はつひと/1984年東京大学法学部卒、1993年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。1985年から神奈川県に勤務し、農政部、土木部、企画部、福祉部等に配属。2002年から中央大学法学部教授、2005年から同大学院公共政策研究科教授を兼任。政策研究大学院大学客員教授、神奈川県参与等を歴任。主要著書に『分権時代の政策法務』(北海道町村会、1999年)、『自治体政策法務講義』(第一法規、2012年)がある。

―――まず、第1次分権改革の意義と限界についてお聞かせください。

礒崎:この間の分権改革では、主として法的な側面、法制度的な改革が大きなポイントになっていると考えます。この側面では、改革は相当に進んだといえますが、まだまだ課題も大きいと思います。
まず、2000年に施行された第1次分権改革ですが、この改革によって自治体の法的な地位は大きく変わりました。具体的にいうと、まず法令解釈権については、従来の機関委任事務については国が包括的な指揮監督権を持っており、これに基づいて通達を出して自治体の解釈運用を拘束する仕組みでしたが、機関委任事務制度が廃止され、通達についても法的拘束力がなくなったため、自治体の権限と責任で法令を解釈運用できることになりました。これは大きな変化だったと思います。
また、条例制定権ですが、機関委任事務は法的には国の事務でした。条例は自治体の事務について定めるものですので、国の事務である機関委任事務については制定できませんでした。いわば門前払いだったのですが、その機関委任事務がなくなり、自治体が実際に担当している事務は法的にも自治体の事務になりましたので、法令に抵触しない限り条例をつくれることになりました。これも大きな変化です。

ただ、この改革には大きな限界があったと考えます。1つ目は、個別法が変わっていないということです。一般法である地方自治法は大きく変わり、国と地方の役割分担を踏まえたものでなければならないといった原則が明確にされました。しかし、実務を仕切っているのは都市計画法や介護保険法などの個別法ですが、これらが変わっていない。本来は、分権改革に合わせて個別法まで見直すことが必要だったのですが、ほとんど改正されていません。言ってみれば、ウィンドウズなどのOSは変わったのに、OSの上で動かすアプリケーションソフトは古いバージョンをそのまま使っている状況です。分権バージョンの地方自治法の上でも、昔ながらの集権バージョンの都市計画法ソフトや農地法ソフトを動かしているという状況です。
一例を挙げると、土地利用については都市計画法、農地法、森林法など様々な法律が分立しています。首長制を採る自治体は、もともと総合行政が可能な仕組みなのですが、業務の根っこにある法律が縦割りですので、現場まで縦割りの仕組み・発想が浸透していて、それぞれの手続が必要だし、総合的な判断ができなくなっています。
また住民参加の余地が限られていることも問題です。個別法には開発許可などの許認可をする際にも住民参加を行うという規定が乏しく、一方で許認可には標準処理期間が定められていて、例えば申請が出たら20日以内に許可しなさいという制限があるため、自治体の現場では、住民の意見を聴いて調整する必要があってもできない状態になっています。
2つ目の限界は、個別法における規律密度です。分権改革で使われた表現で言いますと「枠付け」ということになりますが、この規律密度が変わっていません。私はより広く「法令の過剰・過密」が問題だと言っています。「過剰」というのは、地域の課題に対しても国の法令がたくさんつくられていて、自治体が独自の制度をつくる余地が限られているということです。「過密」というのは、その法令で細かいことまで決められていて、自治体に裁量の余地がないということです。これが日本の法制度の大きな問題点ではないかと考えております。
例えば農地法では、実は2000年以前は農地転用の許可基準を通達で定めていました。そこで、通達に法的拘束力がなくなり、許可基準が自治体の裁量に委ねられれば、「これは革命のような話になる」と期待したのですが、農林水産省は98年の農地法改正の際に、今まで通達で書いていたことをほぼそのまま法律と政令と省令に規定し直しましたので、規律密度はむしろ強化されてしまいました。
2000年に分権一括法と同時に施行された介護保険法も、地方分権に対応した法律だとうたわれていましたが、規律密度が高く、中身は分権的になっていません。例えば、この法律では政省令や大臣告示への委任事項が約300あるのに対し、条例への委任事項はわずか20項目です。この後に触れる第2期分権改革で、事業者指定の基準など介護保険法にもある程度メスが入りましたが、全体的な発想は変わっていないと思います。
3つ目の限界は、国や都道府県の関与です。特に計画策定などの重要な決定について、国や都道府県の「同意」を要するという関与が残されたことが問題だと思います。例えば、千葉県我孫子市が農業振興地域内の農用地区域の除外をしたいということで、千葉県に協議しました。協議だけならいいのですが、県の同意が必要であり、その同意が得られず農用地の除外ができませんでした。県によると、市の判断は除外できる事項を定めた法律と省令の解釈を誤っているというのです。そこで市は自治紛争処理委員に審査の申し立てをしました。これに対し処理委員は、最終的に県の判断が正しいという決定をしましたが(平成23年10月21日決定)、私はこれに違和感を感じています。もともと農用地の計画策定は市の自治事務なのに、県がその解釈に細かく立ち入って「おまえの解釈は間違っている」と言えるのだろうか、県の広域的な政策に支障がなければ同意するというのがこの協議制度の趣旨ではないかと思っています(拙稿「都道府県・市町村関係と自治紛争処理」自治研究87巻11号・12号)。いずれにしても、こういう集権的な拘束が残っているために紛争になっているということです。
次に、自治体の法的地位は変わったと言いましたが、それでは自治体側がこの権限を活用しているかと言うと、不十分だと言わざるを得ません。
その理由ですが、何と言っても個別法が変わっておりません。繰り返しになりますが、集権バージョンのまま運用されているので、解釈運用、工夫の余地が少ない。土地利用を例にとると、森林法については若干運用の余地がありますので、千葉県のように法律の運用や横出し手続きを条例で定めたという事例(林地開発行為等の適正化に関する条例、2010年制定)もありますが、その他の法律はかなり窮屈な仕組みになっているため、工夫できる余地がほとんどないのが現状です。
もう一つの理由は、分権改革以降、自治体には余裕がなかったということです。特に、市町村は合併問題を抱えたため、強化された権限をうまく行使し、地域づくりに生かしていくというような発想には至らなかったし、そういう余裕がなかったために、まだ使いこなしていないということだと思います。

 

中央大学法学部 礒崎初仁教授 

 

しかし、明るい側面も出てきています。分権改革の直接的な効果とは言いにくいのですが、分権改革の「理念・潮流」を踏まえて進んだのが、独自条例の制定です。これを政策条例あるいは分権条例とも言いますが、90年代から自治体が地域の実情に合ったまちづくり条例や生活環境条例、自治のルールを明確にする自治基本条例や議会基本条例などをどんどん制定するようになりました。こうした条例は、以前なら法律とバッティングするかもしれないということであきらめていたのですが、分権の時代だから思い切ってやっていこうということで制定し、それが全国に波及するといった現象も見られます。地方分権の流れ・理念が良い効果として現れているわけです。そして、これからは法務を通じて自治体の政策を実現するという「政策法務」への関心が高まり、全国的に政策法務研修が増えていますし、法制審査を担当する課について、以前は文書課などと呼んでいたものを政策法務課に切り替える動きもあります。「看板が変わっただけじゃないか」という指摘もありえますが、政策的な条例づくりや法解釈を行うという意識が生まれていることは大きな変化だと思います。(こうした変化については、拙著『自治体政策法務講義』第一法規、2012年、第2章、第3章を参照していただければ幸いです)

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