分権クローズアップ[有識者へのインタビュー] 第1回 西尾勝氏インタビュー(その3)

分権クローズアップコーナーでは、地方分権改革に関する様々な記事を掲載してまいります。第1回は、公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所 西尾勝理事長にお伺いした、地方分権改革の総括と展望についての記事を3回に分けて掲載します。今回は、その3となります。

西尾理事長は、地方分権推進委員会委員、地方分権改革推進委員会委員長代理、平成6年以降に設置された累次の地方制度調査会委員、第30次地方制度調査会会長をお務めになられました。
西尾理事長の地方分権改革に関するお考えについては、西尾理事長の著書である『未完の分権改革』『地方分権改革』あるいは一番新しい『自治・分権再考』などに詳しく述べられていますので、詳しくはこれらを御参照ください。

(注)なお、本記事は、平成25年9月30日に開催された第5回地方分権改革有識者会議におけるヒアリングを基に、インタビュー形式に再編集したものです。

 

 

 

 にしお・まさる/東京都生まれ。1957年東京都立新宿高等学校卒業。1961年東京大学法学部卒業。東京大学法学部助手、助教授を経て、1974年東京大学法学部教授。退官後国際基督教大学教養学部教授、大学院教授を経て、現在、財団法人東京市政調査会理事長、地方分権改革推進委員会委員。第27次地方制度調査会副会長。第30次地方制度調査会会長。2007年日本学士院会員。

―――今後の展望に関するお話の中で、「市町村における土地利用に関する計画の策定」についてのお話がありましたが、現状で強い規制があると思います。改革を進めるために、地方側はどのようなアプローチを行うべきでしょうか。
また、「新たな統一的な都市農村計画法」というお話がありましたが、具体的にどのようなことをお考えでしょうか。

西尾:都市計画法と農地法、農振法等がちょうど裏表のような関係にあり、例えば都市計画上の市街化調整区域で何らかの開発行為をするというときは、まず農振法の適用から外してもらうことが必要です。それが済んだ上で、今度は建設省関係の法令である都市計画法に基づく開発許可の申請をしてその許可をもらう、この両方がそろわなければできないわけです。これは裏表の関係があり、従来なら建設省と農林水産省の所管になっていますが、お互いに競い合って、相手が譲らないものはどちらも譲らないという形でやっていました。今回、20年の歴史の中で、旧建設省関係ではかなり大幅に権限が下りてきました。しかし残念ながら、それに見合って農林水産省関係の規制権限が下りませんので、これを突破するためには、農林水産省を説得するということが大きな課題です。
しかし、これはおっしゃるとおり岩盤規制のようなものですから、乗り越えようと思うと、例えば農林水産省の当該権限を所管している部局と、旧建設省、現在の国土交通省の関係部局の統合のようなことから進めないと、なかなかうまくいかないと考えます。ただ、これは国側の問題だけではなくて、実は市町村側もそれほど強い意欲を持っていないという問題があります。なぜならば、こういう規制権限というものは住民に規制をするわけですから、規制を受ける住民は絶対反対するという性質の行政なのです。それを断固やりたいと市町村が強く望んでいるかというと、なるべくは避けておきたいというのが正直なところではないでしょうか。私は、これを乗り越えない限り、本物の基礎自治体にはならないのではないかと考えていますので、市町村の意向に反してでもやるべきではないかと考えているわけです。

新たな統一的な都市農村計画法についてですが、都市計画法では、都市計画区域について規制し、基本的に、その中が市街化区域と市街化調整区域に分かれている市街地あるいは市街地予備軍の区域を対象にしており、純然たる農地、山地、林地等は対象にしておりません。
農林水産省の農地法や山林法になると、今度は農地を対象にして、優良農用地といって断固残さなければならないと考えている土地と、そうでないところの区分けをしています。
山林、林野はその中で保安林として手をつけてはいけないところと植林をしてどんどん変えていくという区分ができています。このように、法律によって所管が分かれてしまっているわけです。それを一元化して、市街地であれ、農地であれ、山地であれ、統一的に土地利用の計画を基礎自治体が定めるということが極めて重要だと考えています。その権限を新しい法律で与えようとすると、既存の法律では都市計画法の全面改正、農地法、農振法の全面改正、森林法の全面改正ということにならざるを得ない。これまではそこまで手を広げずに、個々の法律の何条何項の権限を下ろすという手法を積み重ねてきたわけですが、そろそろ抜本的なことを考えるべきではないかと考えている次第です。この都市農村計画法といったような手法は、世界の中ではイギリスの法制が一番近いです。

―――地方公共団体ごとに意欲などが異なる場合があると思います。その場合、希望する地方公共団体に権限移譲を行う制度にするという考えもあると思いますが、どのようにお考えでしょうか。

西尾: 過去、分権改革の中で新たに政令指定都市のほかに中核市というカテゴリーを設け、さらには20万以上の特例市というカテゴリーを設けました。おっしゃるように、一律に全市町村に権限を下ろすということは無理なもの、市であっても無理かもしれないと考えられるものについて、指定都市には下ろす、中核市には下ろす、特例市には下ろす、一般市に下ろす、全市町村に下ろすものというような段階ができたわけです。しかし、中核市にしろ、特例市にしろ、なりたいところが申請して初めて中核市、特例市として認めるということが行われているわけで、やりたくないところに無理強いする制度ではありません。
そういう意味では、おっしゃるように意欲のあるところに権限を下ろしていくという方法を複雑にしてきたのが過去の歴史ですが、そろそろ市全体に下ろすということを考えるべきではないかと考えています。
指定都市、中核市、特例市、一般市と、市の中に4段階もできたということが、権限を下ろすことを推進した一つの要素ですが、すべての市が1格ずつ格上げを求めるような意識を持ってしまっているのではないか。指定都市だというと特別な大都市だと自負し、中核市はそれに準ずるもの、特例市はその次という、ランク意識が生まれているのではないか。それは非常に大きな弊害ではないかと考えておりまして、もう少しこの点は見直さなければいけないのではないかという気がしています。

 

 

―――「法務職員の養成プログラムの強化」というご指摘がありましたが、具体的なイメージをお聞かせください。

西尾:2つの問題がありまして、機関委任事務制度の全面廃止による個々の地方公共団体への効果ということですと、条例制定権の範囲が拡大したということと、自治事務に関する限りですが、通達通知に忠実に従う必要はなくなったという2点が大きな成果だと考えています。
どういう点で法務職員、あるいは弁護士が必要になるかといえば、その両面あるわけですが、条例を制定するに当たって、その原案を立案していくという過程でも法務職員や弁護士の知恵が必要ですが、私が非常に重視しているのは、通達通知に忠実に従わなくていいという面についてです。通達通知に忠実に従う必要はないのですが、大元にある法令に違反することはできないという大きな枠があります。通達通知を所管している個々の事務職員には、法令に違反するかしないかということを判断するのは大変難しいことです。全ての事務職員が法学部卒ではなく、なかなか自信は持てないのだろうと考えます。
しかし、通達通知の内容とは違う方法があり得る、その方が効果はある、住民のサービスになる、コスト削減になる、時間の短縮になる等という方法があったとしても、そのことを考えつくのは担当職員しかあり得ません。ほかの職員は、よく読んでおらず、勉強もしていないため、分からない。担当職員自身がそういう問題意識を持つことがまず出発点です。ところが、問題意識を持ったときに自分では判断できないため、そこに根拠法令、通達通知を読んで、自分が考えている方法は法令に違反しないと自信を持って言えるかどうかという相談に乗ってくれる法務職員や弁護士が必要となります。その人に大丈夫だと言われたら自信を持って実行することができます。まず、そのために法務職員や弁護士が必要だと思っています。
そこで、個々の地方公共団体の中だけでは知恵に限界がありますが、他の地方公共団体でそれを突破してみたというところがどこかにあるかという、水平的に情報を検索して学ぶということが重要となります。一番困るのは、市町村が府県の担当課に聞くことです。そのときは、必ず府県の担当者は本省に聞きます。そして、大体やめておけという結論になる、ということを繰り返しており、そこを突破しようとしたら、自分で一生懸命大胆に考えてみるか、他の地方公共団体の知恵を借りるということが必要だという意味で、法務職員と弁護士が必要だということを言っています。


―――地方分権改革の総括に関するお話の中で、事務・権限の移譲について、市町村の事務を都道府県に、都道府県の事務を国に返上するといったものも含まれるというご見解がありましたが、どのようなものがあるのでしょうか。

西尾:全てを列挙するのは大変なので列挙はしませんが、第一に上げるべきことは、既に議論になっている、国民健康保険、いわゆる国保です。これは市町村を保険者にしているのはもはや無理であると前から考えていまして、理想としては国に一元化すべきだと考えますが、国に一元化できないのであれば、せめて都道府県に上げるべきであると考え、主張してきました。
また、それよりは微妙な問題ですが、同じような意味では介護保険の保険者も市町村になっており、これも市町村を保険者にしているのはもはや無理なのではないでしょうか。この区分けは非常に重要なことですが、保険者という機能と介護サービスをするという機能とは別です。ですから、保険者をもう少し広域化すべきではないかと考えます。
保険という行政はリスク分散が基本ですが、例えば一番小さな村ですと、人口が200人を切っている197人などというところもあり、197人の中でリスク分散が可能かといったら不可能です。1人、非常に高額医療費のかかる老人が現れただけで、とてもではないですが負担し切れなくなりますので、そういう原理原則から言っても市町村は無理ではないかという例です。
都道府県から国へ返上する権限はいろいろありますが、麻薬の取り締まり等々、あるいは家畜も含めて外から入ってくる感染症のようなものは水際で阻止しなければいけないということが最も基本になりますので、国が責任を持つべきなのではないでしょうか。一部都道府県に下りてきており、それを今まではあまり疑問なくやっていましたが、極めて不完全なことしかできないのではないだろうか、国が全責任を持つべき領域というものもあるのではないかと考えています。


―――本日は、大変御示唆に富む御意見を頂戴いたしまして、重く受けとめ、咀嚼しながら今後の議論を進めてまいりたいと思います。どうもありがとうございました。

西尾:どうもありがとうございました。 

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